[写真]記者会見にのぞむ、岡田克也副総理、2012年5月22日、宮崎信行撮影。
子どもは、社会の希望、未来をつくる力であり、安心して子供を産み育てることのできる社会の実現は、社会全体で取り組まなければならない最重要課題の一つです。
児童福祉法第24条は「市町村は、(略)、それらの児童を保育所において保育しなければならない」と定めています。
衆院社会保障と税の一体改革特別委員会(中野寛成委員長)が審査している「子ども子育て新システム(幼保一元化・幼保一体化)関連法案」の一つ、「子ども子育て新システムのため56本の法律を改正・整備する法案(180閣法77号)」が成立すると次のような趣旨に書き換わります。
「市町村は、保育の供給が不足したり、不足するおそれがある場合には、保育施設や家庭的保育事業などの利用を調整し、施設の設置者または家庭的保育事業者に要請する」。
つまり、市町村は「保育の最終責任者」から脱することができるので、市町村の首長部局では、財政負担軽減への期待があるようです。
これについて、保育族であり、総合こども園など子ども子育て新システム関連法案に反対の姿勢を崩さない、自民党竹下派の田村憲久さんが2012年5月17日(木)の一体改革特の午後11時半ごろ、次のような趣旨の質問をしました。
「現在の法律では、公立保育園で事故があった場合は、市町村に対して国家賠償請求をかけることができるはずです。今回審議している法案が成立した場合は、市町村は実施主体、責任者ではなく、あくまでも保育を監督をする、指導する立場になります。そうなった場合、一般論として考えても、設置主体の方が当然委託をして事業所に保育をさせているわけですから、そこで重大な過失や事故があって、お子さんに何かがあったときには、現行法では責任を自治体に追及し、国家賠償請求(国賠)ができると思うんですが、この法案が成立すると、できなくなるのではないでしょうか」。
田村さんは内閣法制局長官に「現行法と子ども子育て新システム法案では、どちらの場合が(市町村の)責任はより重いか」と、児童福祉法第24条の書き換えについて、答弁を求めました。
これに対して、山本庸幸・内閣法制局長官はおおむね次のように答弁しました。
「市町村の責任についてのおたずねでございますが、改正の前と後で、どちらが(責任が)重いかということは一概に比較することはできないわけでございますが、おっしゃいました、保育施設において、万が一にもお子さんに事故が起きた場合には、その施設を市町村が直接運営している場合には、国家賠償責任。そうでない場合は、民法のフツーの709条による責任追及ということになると思います」。
ここで、自民党席から「ねーそうですよね!」という声が飛びます。田村さんは早口で言葉を続けます。
「ということは、今の制度ならば、仮に事業主が何らかの状況で、賠償請求されて、お金が払えなくなった場合、破綻した場合は、それで(損害賠償金を)もらえないんですよ。ところが、(子ども子育て新システム法案では)自治体が設置主体(で不足があるので民間に委託したの)ですから、そこからもらえるということになる」
この「田村解釈」からすると、子ども子育て新システム法案が成立すると、何か重大な穴があくように私は感じました。田村さんが早口でまくし立てるさいちゅうに、自民党側から法制局長官に向かって、「ダメだよ、委員長が指名してから答弁しなくちゃ」と答弁を制する声が聞こえました。山本・内閣法制局長官は再答弁を求めて挙手をしていたようですが、質問者がしゃべっている以上は答弁はできません。
この後、小宮山洋子・少子化担当大臣(厚労相兼務)は「さきほどから、一方的に論を進めている」と批判しました。
これについて、副総理で一体改革担当大臣の岡田克也さんは散会後の午後5時半からの定例記者会見で次のように述べました。
「政府の中で確認をしなければなりませんが、私も気になって昼休みに法制局長官に確認しました。法制局長官の答弁は法律の保育所について答弁した、と。公設(保育所)において、事故があって、国賠法の対象になるというのはいわば当たり前の話であって、現行法の下でもそうではない(自治体が民間委託した)保育所について国賠法の対象になるというのは、何か(保育所に)公務員が(出向いて)過失があったりする場合を除けば、一般的には(市町村ではなく)事業所が最終的な責任を負うというのはフツーの考え方ではないか、と」とし、法制局長官の答弁は誤解を招きやすい表現だったとしてきました。
そして、「今もそうですから、それが変わるというわけではないですね」と語りました。
つまり、現在でも、新法でも、市町村が委託した民間の保育所・保育施設は国賠の対象になっていないということです。田村元厚労副大臣が現行法の解釈を間違っていたことになります。そうやって子ども子育て新システム法案を廃案に追い込んで、保育所利権を幼稚園にとられないようにしているのだと、推測されます。そして、法制局長官は、解釈が違うといって、入りいることができなかった。小宮山内閣府少子化担当大臣も「一方的だ」と苦言を呈するなかで、記者会見で、一体改革担当大臣として全体を見ている、岡田さんの「岡田修正」が入ったことになります。あすも午前9時からNHK入りですから、何らかの格好で、法制局長官が発言して議事録に残すよう、理事会協議や委員長采配があってほしいところです。
【追記 2015年2月9日 午前11時】
このエントリーは初投稿から3年近く経っても、多くの方にご覧いただいています。上記の記者会見でのやりとりについて、首相官邸ウェブサイト内から引用します。
[首相官邸ウェブサイトから引用はじめ]
平成24年5月22日
岡田副総理記者会見要旨
(中略)
(記者)
それから、今日の自民党の田村さんの質問でありましたけれども、児童福祉法の24条の改正、これは今まで保育の最終的な責任というのは市町村にあったわけですけれども、これを改正するということで、実は、これはこの内閣府での政策形成過程、プロセスがかなり透明化されていましたので、市町村議員の間では、これはもう非常に今、話題が持ちきり、非常に有名な話ですね、この児童福祉法24条に関しては。なのですけれども、田村さんの質問では、内閣法制局長官の答弁を受ける形で、これによって、保育で市町村に最終責任が行かなくなるので、保育所あるいは総合こども園も含めてという意味でしょうけれども、市町村に対して国家賠償請求ができなくなることによって、事業主が倒産すれば、何か事故があった場合、保護者の方が、賠償先がなくなってしまうというふうな指摘がありました。これは結構、重要な指摘なのではないかなと思いますけれども、この保育の最終責任、例えば総合こども園も含めて、そういったところの最終責任はどこにあるとお考えになりますか。
(岡田副総理)
これは、もう一度、政府の中で確認しなければいけませんが、私も気になって、法制局長官にその後、確認をいたしましたが、昼休みのときにですね。法制局長官の答弁は、公立の保育所について答弁したと、こういうことでありますので、それは公立公設の保育所側について、最後、国賠法の対象になるというのは、これはいわば当たり前の話であって、現行法の下でも、そうではない保育所について国賠法の対象になるというのは、それは公務員が何か関与して過失があったり、そういう場合は別にすれば、一般的にはそれは事業所が最終的な責任を負うというのが普通の考え方ではないかというふうに思います。そういう意味で、やや誤解を招きやすい法制局長官の答弁だったのかなというふうに私は思っております。
なお、詳細は、よく政府の中で確認をする必要があるというふうに思っております。ですから、今もそうですから、それが変わるわけではないということですね。
(記者)
では、また改めてということにいたします。
(岡田副総理)
ですから、今日の委員会の結果として皆さんが報道されるとすると、それは、長官は公設のものについて国賠法の対象になっていると、今ですね。そういう答弁をしたというふうに理解をしていただければと思います。
(後略)
[引用おわり]
【追記おわり】
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