少し前にメーラー(メールのクライアントソフト)の設定をする機会があった。設定で従来と大きく変えたのはメールの受信に利用するプロトコル。それまではメールの受信にPOP(Post Office Protocol)を使っていたのだが、IMAP(Internet Message Access Protocol)に切り替えた。

 POPとIMAPの一番の違いは、「メールをどこで管理するか」にある。POPはメールをクライアント側で管理し、IMAPはサーバー側で管理する。POPは基本的に全メールをクライアント側にダウンロードするので、ほかの端末では同じメールを見られなくなる。IMAPはメールをサーバー側に置いておくので、どの端末からでも同じようにメールを見ることができる。

 IMAPの存在は前から知ってはいたが、特に必要性を感じなかったので使っていなかった。おそらく周囲にも使っている人はそんなにいなかったのではないかと思う。ところがこのIMAP、最近利用者が増えているというのだ。そこで、メールサーバーソフトのベンダーやメーラーの開発者、プロバイダーのエンジニアに取材をしたところ、IMAPの意外な姿が見えてきた。

 IMAPは意外と古いプロトコルだ。1986年に米スタンフォード大学で考案され、現在利用されているのはバージョン4(IMAP4rev1)に当たる。IMAP4rev1の仕様はRFC2060として1996年に公開され、ここからIMAPの本格利用が始まった(その後、仕様の追加・修正が行われ2003年にRFC3501が公開されている)。

 POPより利便性が高いと思われたIMAPだったが、大学や企業で利用されることはあっても、一般ユーザー向けのサービスはなかなか始まらなかった。普及の壁となったのは、ストレージのコストやメールの管理責任といった問題だった。どちらもサーバーを管理するサービス提供者側の負担が大きい。

 さらにIMAPには、プロトコル自体にも難があった。複数のエンジニアが「IMAPのプロトコルとしての出来は決して良いとはいえない」と口をそろえる。いろんな機能を盛り込みすぎたため、使いづらいプロトコルになってしまったのだ。確かに、メールの取得の仕方を細かく制御できたり、複数のクライアントから同時接続ができたりするが、コマンドは多いし、排他制御の仕組みも必要だしと非常に複雑だ。

 1997年にメーラー「Winbiff」(2010年3月サポート終了)をIMAPに対応させた経験があるオレンジソフト 代表取締役の日比野 洋克氏は「文法がわかりづらいなど、プロトコル自体の作りが難しいうえに拡張も多い。同じRFCをベースに作っても、メーラーによって挙動が違うことがある」と話す。

 このように、プロトコル自体にも課題を抱えていたIMAPだが、周辺技術の進化やスマートデバイスの登場によって息を吹き返した。

 ストレージの価格低下に加え、GmailやYahoo!メールといったWebメールが流行り、メールをサーバー側で管理するという利用スタイルがユーザーに受け入れられるようになった。さらにスマートフォンやタブレット端末が流行りだすと、一人で複数台の端末を持ち歩くことが多くなった。すると、いろんな端末でメールを見たいというニーズが出てくる。これに合致したのがIMAPだったのだ。

 いろいろなことをやろうと詰め込みすぎて、結局は使い勝手が悪くなってしまうというのはよくある話。でも、IMAPはそれで終わらなかったちょっと変わったプロトコルなのだ。