2024年4月、中期経営計画 「ISUZU Transformation - Growth to 2030(IX)」を策定したいすゞ自動車。「運ぶ」に関わる社会課題を解決すべく、グローバル市場における「商用モビリティソリューションカンパニー」への変革を宣言した。その変革を実現する柱として「自動運転ソリューション」「コネクテッドサービス」「カーボンニュートラルソリューション」の3領域を掲げ、新たな事業創出を目指す。イノベーションを起こすための鍵は「協創」の強化だ。10月に開催された「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」でも未来社会に向けたロードマップを示しながら協創パートナー拡大を図った。いすゞグループが見据える未来と、新事業へのチャレンジに迫る。
2030年に向け、いすゞ自動車が大胆に生まれ変わろうとしている。同社が長年主力とし業界を牽引してきたトラック・バスなどの商用車も、乗用車同様に「100年に1度の大変革期」にあることは言うまでもない。そして社会を下支えするモビリティインフラだけに、いち早く時代の流れを汲み取った技術を反映する必要に迫られている。こうした背景からいすゞ自動車は「安心×斬新」を標榜し、全従業員が同じ価値観を共有しながら社会課題の解決に取り組む。
2024年4月に策定した中期経営計画「ISUZU Transformation - Growth to 2030(IX)」では、新事業への飽くなき挑戦を明言した。総額1兆円にもおよぶイノベーション投資を行ない、2030年代には売上高1兆円規模の事業創出を目指す。
「ISUZU Transformation - Growth to 2030(IX)」の概念図
IXで掲げたビジョンは「商用モビリティソリューションカンパニー」への変革である。具体的には従来の商品軸からソリューションビジネスへと価値提供の枠を拡大し、車両事業とのシナジーによってビジネスモデルを変革していくものだ。注目すべき新事業では同社のパーパスでもある「『運ぶ』を創造する」をテーマに据えた。これをもとに、「自動運転ソリューション」「コネクテッドサービス」「カーボンニュートラルソリューション」と3つの注力領域を設定し、事業化を加速させる。
「商用モビリティソリューションカンパニー」への変革のため、いすゞ自動車が掲げた3つの注力新事業
1つ目の自動運転ソリューションでは、2027年度にトラック・バス事業において自動運転レベル4の事業を順次開始する。2024年3月には自動運転システムを開発するティアフォー、続く2024年5月には自動運転物流事業をリードする米Gatikとの資本業務提携や米Applied Intuitionを戦略的提携契約を結ぶなど技術力を強化。すでに福岡県北九州市、神奈川県平塚市で大型路線バスにおけるレベル2の実証実験を開始しており、2024年秋から経済産業省・国土交通省のRoAD to the L4マルチブランド協調実証実験に自社開発の自動運転トラックで参画している。2026年からはバス事業者や運送事業者などパートナーとの協働によるモニター実証を行ない、3年後のソリューション提供へとつなげる。
2つ目のコネクテッドサービスは、運送事業者、荷主の輸配送効率を高める新サービスを予定している。データインフラとして連携するのが、富士通、トランストロンと共同開発した商用車情報基盤「GATEX(ゲーテックス)」だ。また、2028年までにEV向けの稼働サポートサービス「PREISM(プレイズム)」、商用BEVの導入をサポートする総合ソリューション「EVision」を海外主要地域に展開する計画を立てた。
3つ目のカーボンニュートラルソリューションは、「いすゞ環境長期ビジョン2050」に基づいた「マルチパスウェイ(全方位)」戦略が中心となる。LCV(Light Commercial Vehicle)、小型車、中型車、バス、大型車とすべてのカテゴリーでBEVやFCVなどのカーボンニュートラル車両をラインアップに加えていく。さらにバッテリー交換式ソリューション「EVision Cycle Concept」を筆頭とする周辺事業にも力を入れ、車両での活用を超えた電力供給アセットとして拡大していく見込みだ。
2024年10月15日~18日にかけて開催された「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」(以下JMS2024)では、IXで示した新事業の方向性を大々的に訴求した。2024年は「CEATEC 2024」との共同開催となり、IT・エレクトロニクス業界のプロフェッショナルも多数参加。CASEが進行中の自動車業界にとって、次のビジネスチャンスを探る絶好の舞台となった。
大盛況となった「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」の様子
日本自動車工業会の会長として初日の挨拶に立ったいすゞ自動車 代表取締役会長CEOの片山正則氏は「JMS2024が次世代を担うスタートアップ企業やこれまで接点がなかったさまざまな産業の皆様とともに、未来に向けた事業協創の重要性とその可能性について共有する現場となり、新たな発想があちらこちらに生み出されるきっかけになることを願っております」とコメント。その言葉通り、 200社以上の事業会社、スタートアップが参加した会場は活気に溢れ、いすゞ自動車のブースにも来場者がひっきりなしに訪れた。
新事業のマッチングを担当した経営業務部門 事業推進部 新事業創出グループ グループリーダーの藤田貴史氏は、「スタートアップや他業界の人たちが一堂に会するこのような機会は非常に貴重」としたうえで、イベントの手応えについてこのように語った。
「これまで想定していなかったようなスタートアップからもオファーがあり、数多くの面談の機会をいただけたのは大きな収穫です。課題が多い領域だけに、皆さんビジネスチャンスがあると感じているようです。とりわけデータ、コネクテッド関係は今後もどんどん進化していきますから、協業につながることを期待しています」(藤田氏)
自動運転に関してはすでにスタートアップとの協業を開始しているが、それ以外の部署はあまり接点がない。そのため新事業創出グループが組織横断的に各部署をつなぐハブとなり、JMS2024でも社内と社外の橋渡し役として奔走した。
「AI時代だけあって、AIを活用して、いすゞ自動車の抱える課題をどのように進化・発展させていくか、そうした商談が多かった印象です。それぞれの強みを活かして、何かを実現したいという熱意が伝わってきました。JMS2024で掲げた『あなたの革命にISUZUを使え。』のテーマ通り、今回のビジネスマッチングを機により門戸を広げて協創を推進していきたいと考えています」(藤田氏)
いすゞグループが創造していく未来の姿を「ISUZUの未来社会マップ」として展示し、それを囲むようにして3領域のソリューションをアピールした。
ブース中央にも展示されていた「ISUZUの未来社会マップ」
いすゞ自動車株式会社
商品技術戦略部門
商用モビリティ推進部
AD企画グループ
武田 拓也 氏
自動運転ソリューションを担当した商品技術戦略部門の武田拓也氏は北九州市、平塚市での実証実験について触れ、「大型路線バスでここまで継続的な実証を行い、いすゞ自動車に知見が蓄積されています。2024年秋からはトラックによる高速道路拠点間輸送の自動運転実証も始まりました。この点は間違いなくいすゞならではの強み。我々が掲げる早期の事業化に直結するはずです」と語った。
いすゞ自動車株式会社
商品技術戦略部門
商用モビリティ推進部
AD企画グループ
武田 拓也 氏
ビジネスイベントだけあって一歩踏み込んだ質問も多く、「自動運転に関して多くの人が興味を持っていること、いすゞのソリューションへの期待が高いことを実感しました」と武田氏は言う。戦略パートナーとして組んだティアフォーらとの技術力の融合、そして社会実装を後押しするアライアンスパートナーとの連携により、2028年3月期に「自動運転レべル4技術」を活用したトラック・バス事業化が実現する可能性は高そうだ。
コネクテッドサービスは、すでに提供済みのGATEXが核となる。GATEXは約65万台の車両情報、故障情報、運行情報などを蓄積した商用車の情報基盤で、稼働サポートサービスのPREISM、EVマネジメントサービスのEVision、さらには運行管理サービスの「MIMAMORI」と強固に連携している。この特性を拡張し、今後は業界を超えた情報プラットフォームや多様なデータと結びつくことで、運送事業者、荷主の輸配送効率を高める新サービスの提供を進めていく。
いすゞ自動車株式会社
商品技術戦略部門
商用モビリティ推進部
CASE戦略グループ
久野 光平 氏
コネクテッドサービスを担当した商品技術戦略部門の久野光平氏はその理由について、「2024年問題を受けて、荷主も物流の実態を把握し中長期計画の作成や定期報告、また物流効率化のための取り組むべき措置に対応する必要が出てきたからです。1つの契機は2025年度中に施行される予定の改正物流法。そこまでには具体的なサービスをスタートさせたい」と意欲を見せる。
いすゞ自動車株式会社
商品技術戦略部門
商用モビリティ推進部
CASE戦略グループ
久野 光平 氏
「それ以上に驚いたのが、今回のイベントはジャパンモビリティショービズウィークということで、いすゞブースに来ていただいた方の業界の幅が広がっていることです。CEATEC2024との共同開催ということもありますが、たくさんのIT系、通信系、商社の方が来場し、GATEXのデータと自社が保有するアセットを組み合わせて何かできないかとの提案を数多くいただきました。そうした業界の人たちは、いすゞのコネクテッドの取り組みに価値を見出し、いすゞと共に物流の課題解決に貢献できるチャンスがあると考えているのだと思います」(久野氏)
カーボンニュートラルソリューションでは、各国・地域での商用車の使われ方あるいはエネルギー動向に適したマルチパスウェイによる技術・商品開発を推進する。カーボンニュートラル戦略部門 CN事業企画部 企画グループの泉屋幸輝氏は、マルチパスウェイの全体像についてこのように説明する。
いすゞ自動車株式会社
カーボンニュートラル戦略部門 CN事業企画部
企画グループ
泉屋 幸輝 氏
「例えば1日当たりの航続距離100km以下が半数を占める小型車ではBEV、大型車のうち航続距離400km程度まではBEV、400〜600km程度ではFCVが適していると想定しています。いすゞ自動車はグローバルに拠点があるので、それぞれのユースケースの情報を世界各地から収集できるのがアドバンテージ。それらのデータをもとに、実態に合わせた商品開発ができるのです」(泉屋氏)
いすゞ自動車株式会社
カーボンニュートラル戦略部門 CN事業企画部
企画グループ
泉屋 幸輝 氏
もう1つのポイントは、バッテリー交換式ソリューションだ。充電済みバッテリーを交換することで、待機時間の短縮による効率的な稼働を可能にする。それに加え、車両とバッテリーの分離運用により、バッテリーシェアによる資源の有効活用、再生可能エネルギーへの活用も期待できる。
「将来的には社会を支えるアセットとして活用を拡大していきたい。例えば、バッテリー交換ステーションを定置型蓄電池として併用することで、地域の再生可能エネルギーの導入拡大や、地域の非常用電源としての活用に繋げていくことも見据えています。また、国内だけでなくいすゞ自動車のタイ拠点で2025年度から実証を始める予定です。今回、こうした新たな取り組みに対して、さまざまな業界の方から高い関心が寄せられ、業界を問わずにコラボレーションして、新しいイノベーションを起こしていく流れが社会的にも進んでいることを肌で感じることができました」(泉屋氏)
ISUZUの未来社会マップでは、各方面のスタートアップ企業に対して「missing pieceを一緒に探しましょう」と呼びかけた。担当者の談話を聞いてもわかる通り反響は上々で、IXが切り開こうとする“未来の姿”に共感する人たちが数多いことを改めて証明した。
いすゞ自動車株式会社
経営業務部門 広報部
ブランド戦略企画グループ グループリーダー
木浦 一樹 氏
経営業務部門 広報部 ブランド戦略企画グループ グループリーダーの木浦一樹氏は「未来に向けていすゞグループの行動がどのように社会に価値を与え、作用していくか。そこに向けた第一歩を体感していただくことができました。これからもIXを基点に、生活者をより良い方向に導いていくチャレンジを続けていきます」と結んだ。
いすゞ自動車株式会社
経営業務部門 広報部
ブランド戦略企画グループ グループリーダー
木浦 一樹 氏
「自動運転レべル4技術」を活用したバスやトラック、スマート社会を支える商用車の緻密なデータ活用、脱炭素を体現するBEV/FCVトラック――そのどれもがわずか数年後には当たり前のものになる。歴史を振り返ったとき、いすゞ自動車の掲げたIXはエポックメイキングな出来事として語られるに違いない。そして2030年代のいすゞグループは、きっと今とは違う姿に変貌していることだろう。