「スタートアップとNTTグループの新たな出会いを生み出し、共創のきっかけを創り出す」ことを目的としたNTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)の祭典「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2024」が、今年は東京・京橋の会場で開催された。9回目となる今年は、ドコモグループ発の新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」とNDVが合同で開催。「Develop our next まだ見ぬ景色を、共に創ろう」をテーマに、さらに進化したイベントとして魅力的なプログラムや展示ブースなどが披露された。
メインステージでは、まず基調講演の前半として日本電信電話(以下、NTT) 代表取締役社長の島田明氏が登壇。NTTが進めている取り組みの概要や今後の連携に向けた思いを語った。
NTTは、2023年に発表した中期経営戦略で「新たな価値創造と地球のサステナビリティのために挑戦を続ける」ことを表明。成長分野に対して2023~2027年の5年間で「約8兆円の投資を行なう予定」だ。さらに、成長分野のテーマとしては「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)による新たな価値創造」「データ・ドリブンによる新たな価値創造」「循環型社会の実現」の3つを掲げ、スタートアップとの連携も推進している。
また2024年からは、海外でのスタートアップ協業推進プログラム「NTT Startup Challenge」をNTTグループ10社共同でスタート。スタートアップとNTTグループのアセットを掛け合わせることで、「今後もグローバルでの社会課題の発見と迅速な解決に取り組んでいく」との考えを示した。
基調講演の後半は、NDV 代表取締役社長の安元淳氏が登壇。NDVの今後の取り組みや直近のアップデートなどについて説明した。
NDVは2023年10月に公表した投資方針で「より戦略リターンを追求するCVCへの進化」を掲げ、「協業コミットの仕組み化」や「柔軟なファイナンスの対応」を推進。直近1年では24件、約80億円の投資を決めたが、安元氏はこの24件すべてで「そのポテンシャルを感じ取ってもらえるはず」と自信を見せる。
さらに、共創についても直近1年で25件を創出。投資案件と同様に幅広いステージのスタートアップに対応しており、売上貢献として「年間約40億円の実績を目指している」と語った。さらに、NDV全体の投資件数の40%強が海外案件であることを踏まえ、「米国における著名VCとのディール強化」「NTT Startup Challengeへの参画」「ベンチャークライアントモデルの強化」の3つを“新たな取り組み”として進めているという。
今後について安元氏は、リターンを見据えた従来型の数%レベルの投資ではなく「戦略的にもっと踏み込んだ投資を行なう」ことを示唆。これを踏まえ、M&A でNTTグループに迎え入れられるようなスタートアップを「CVCの立場で生み出していく」という課題を自身に課した。
スペシャルトークではNTTドコモ(以下、ドコモ) 代表取締役社長の前田義晃氏が登場。ドコモグループが注力する事業領域やスタートアップ、パートナーとの共創などについて語った。
ドコモの成長戦略について、前田氏がコンシューマ事業の重点領域として挙げたのは「金融」「マーケティング」「エンタメ」の3つ。これらの領域で多彩な戦略を展開することで「顧客基盤の強化や収益の拡大を実現していく」と語った。また法人ソリューション事業では、「デジタルBPO」や「生成AI&データ活用」などの8つを重点領域とした。
また、さまざまな領域におけるパートナーとの共創として、業務提携、出資・M&Aなどを積極的に活用し、初期フェーズにおいてはNDVによるスタートアップへの投資、「docomo STARTUP」を通じたVC・事業会社との共創など、ドコモのオープンイノベーションの具体的な取り組みを紹介した。
前田氏は「パートナーシップこそがイノベーションの原動力であり、ドコモの成長のカギになる」と力説。さらに、スタートアップや投資家、パートナー企業とともに“つなぐ”ことを通じて価値を創造し、「世界を変えていくドコモにしていきたい」と訴えた。
次のトークイベントでは、米国の著名VCであるAndreessen Horowitz(a16z)でGeneral Partnerを務めるJonathan Lai氏と、音声生成AIツールを展開するEleven Labs でVP Revenueを務めるCarles Reina氏が登場。NDVのManaging DirectorであるNeil Sadaranganey氏がモデレーターとして参加し、生成AIの登場がデジタルエンターテインメント産業にもたらした変革について、グローバルな視点で語り合った。
まず、Sadaranganey氏が聞いたのは「生成AIによって可能になる新しい体験」について。Lai氏は、生成AIがストーリだけでなくキャラクターや背景、音楽までも自動生成してくれるアプリ「Sekai」を事例の1つとして紹介。IPと連携することで「もしアニメやゲームの終わり方が気に入らなければ、自分が理想とする違った終わり方を作ることができる」と説明する。
Reina氏も、自社の音声生成AIツール「Eleven Labs」を例に「これを使えば、例えば外国人YouTuberの動画を本人がしゃべっているかのように多言語変換できる」と紹介。これにより、日本語のコンテンツを世界中に展開できるほか、逆に日本人が世界中のコンテンツを吹き替え版のように日本語で楽しめるようになる。
では、生成AIがもたらすデメリットはどうか。Sadaranganey氏がその疑問を投げかけると、Lai氏は「生成AIによってなくなる仕事や作業は当然ある。ただ、それらにまつわる別の仕事や作業が新たに生まれてくる。自分の子ども世代が生成AIの最大の恩恵を受けるのではないか」と予測。生成AIが「身近な親友としてさまざまなサポートをしてくれる」という未来像を示した。
さらにトークセッションでは、縦型ショートドラマプラットフォーム「FANY :D」の共創に取り組むNTTドコモ・スタジオ&ライブ 取締役の志村一隆氏、吉本興業ホールディングスグループでFANY 代表取締役の梁弘一氏、Minto 代表取締役の水野和寛氏が登場。NDV Managing Directorの三好大介氏がモデレーターを務め、3氏に事業開発の背景や狙い、今回の共創にかける想いを聞いた。
2024年12月3日からスタートした「FANY :D」は、縦型ショートドラマに特化したアプリ。1話1〜3分程度で、既存の漫画アプリのように1話ごと課金して視聴するという特徴を持つ。
トークセッションではまず、三好氏が「取り組みのきっかけ」を聞いた。水野氏によれば、Mintoは2023年末から縦型ショートドラマの制作を手掛けるようになったという。そういったなかで「映像コンテンツのさらなる制作とともに、プラットフォームの構築にもチャレンジしたい」という思いが募り、Mintoを支援していたNDVの三好氏に相談。そこから、NTTドコモ・スタジオ&ライブや志村氏につながったそうだ。
NTTドコモ・スタジオ&ライブとしても「ちょうどそのタイミングで縦型ショートドラマに高い関心を示していた」(志村氏)ことから、MintoとのIP制作を快諾。一方で、「コンテンツを購入してくれるプラットフォームの獲得」を課題と考え、その解決策として「FANYも含めた3社共同に至った」と志村氏は補足した。
梁氏としても、水野氏とは以前に仕事をした経験もあったことから、「水野氏であれば」と参画を決断。三好氏は、コンテンツビジネスが「1社では完結しない」という点を指摘し、さまざまなプレーヤーを巻き込む意味で「やはり人の縁は大事だ」と結論付けた。
では、なぜ「FANY×Minto×NTTドコモ・スタジオ&ライブなのか?」。三好氏のそんな問いに対し、梁氏は「新たなトレンドである“縦型ショートドラマ”を日本から盛り上げていくうえで、この3社がベストと感じた」と答えた。また水野氏は、既存の映像コンテンツでは「1話ごとに課金する」という習慣が基本的にないことから、縦型ショートドラマでその習慣を変えるためには「資金とともに、コンテンツ作りのノウハウなども必要になる」と指摘し、その意味で「3社が組んでいる」と説明した。
最後に三好氏は、「今後の抱負」を聞いた。志村氏が挙げたのは「AIの活用」である。イメージとしては、例えばAIを使って「実写映像をアニメ化する」「テキストを実写映像やアニメにする」というもので、これまでとは違ったコンテンツ作りも見据える。また制作面においても、AIによる「コスト削減」「作業の効率化」「多言語対応」などを挙げ、関連技術を持つ企業への協業を呼び掛けた。
これまでとは違う多角的なアプローチにも挑戦し、さらなるイノベーションをスタートアップとともに取り組んでいるNDV。AIの進化による新たな展開なども期待されるなか、さらに踏み込んだチャレンジやこれまで以上の共創にも期待したい。