日経コンピュータ2010年9月15日号で記者は、OSS(オープンソースソフトウエア)の特集記事を執筆した。このOSS特集には、LinuxやPostgreSQL、JBoss、Tomcat、Asterisk、OpenOfficeなどの話題は、一切載っていない。この特集は「クラウド育ちのOSS」を取り上げたものだからだ。
クラウド育ちのOSSとは、クラウドコンピューティングの世界で磨かれた技術をベースにしたOSSのことである。本特集では具体例として、分散バッチ処理ソフトの「Hadoop」、キーバリュー型データストアの「Cassandra」、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)構築ソフトの「Eucalyptus」や「OpenStack」などを取り上げた。
米グーグルなど大手クラウド事業者は、数十テラ~数百ペタバイトというデータを安価に処理するために、システム基盤ソフトを自社開発している。「クラウド育ちのOSS」とは、そのようなシステム基盤ソフトがそのままOSSになったり、第三者がそのソフトを模倣してOSS化したりしたものだ。
特にHadoopやCassandraなどは、日本企業の導入事例も増え始めている。詳しくは日経コンピュータ9月15日号の特集「『クラウド育ち』のOSS、主役に」をご覧いただきたい。
先端技術の発信源はクラウド
本特集で記者が最も伝えたかったのは、「先端技術の発信源が変わった」ということだ。従来は、コンピュータメーカーやソフトウエアメーカーが開発する技術こそが先端であった。LinuxにせよPostgreSQLにせよ、これまで人気のあったOSSは、機能面で先行する商用ソフトを追いかけていた。
クラウド育ちのOSSは違う。クラウド事業者は「自社のために」「欲しい技術が外部には無い」から、基盤ソフトを自らの手で開発してきた。
こうした開発背景から、クラウド育ちのOSSは商用ソフトに無い機能や特徴を備えている。例えば、Hadoopを使えば数テラ~数ペタバイトのデータを高速・安価に処理できる。Cassandraを使えば、ハードウエア障害が起きてもダウンしないDBシステムを運用できたりする。
クラウド育ちのOSSを導入した企業は、商用ソフトの代わりにこれらのソフトを導入したのではない。クラウド育ちのOSSでなければできないことがあるから、導入したのだ。クラウド育ちのOSSの隆盛は、先端技術の発信源が従来のメーカーからクラウド事業者に移ったことを物語っている。
「メーカーからクラウド事業者へ」という動きは、日本も例外ではない。本特集では、日本企業が生み出したクラウド育ちのOSSとして、ミクシィの「Tokyo Cabinet」やグリーの「Flare」、楽天の「Roma」、えとらぼの「kumofs」、ジェミナイ・モバイル・テクノロジーズの「Hibari」、ディー・エヌ・エーの「MobaSif」と「HandlerSocket plugin for MySQL」などを取り上げた。
これらのネット企業はいずれも「無いから作る」必要に迫られていた。その結果、魅力的なOSSを次々と生み出している。
これまでの先端技術は、メーカーが開発して顧客に売るものだった。これからの先端技術は、クラウド事業者が開発して、ユーザー企業がそれをOSSとして導入する、というものに変わっていくであろう。このような視点で、本特集をご覧いただければ幸いだ。