システム構築プロジェクトと要求定義に関連した,身近な事件についての2回目である。
昨年来,かかわっているもう一つの案件。受注販売を中核とした基幹系業務システムの再構築プロジェクトである。同業他社に納期順守,在庫の正確さに差を付けられているために顧客対応力が低いイメージができてしまっている。なんとしてでも払拭したい,ということからプロジェクトが発足した。
お金の匂いがするのか,昨年秋くらいからプロジェクトの周辺がにわかにざわついてきた。本業務にはほとんど関係のない役員からも「このベンダーにお願いしてみてはどうか」などという横槍まで入る始末。「提案依頼には是非当社も…」という声が増えて,結局候補は10社を超えた。
一方で,要求定義プロセスには特に念を入れて,利用ユーザーの範囲から現実的な利用時間帯まで明確にしたので,運用規模やライセンスに関するあいまいさはかなり退治できた。適用業務範囲については,どこまで含むかだけでなく,何は含まないかについてもできるだけ具体的に記述するようにした。こんな親切なRFPはちょっとないよなあ,というくらいまで仕上げたつもりである。
ところが,本提案依頼段階になって意外な展開になってきた。
提案辞退が続出したのである。
なんで?
発注側の体制もしっかりしていて結構おいしい案件なのに。
そういえば,2年くらい前から提案段階で辞退するベンダーが目立つようになってきた気がする。10年くらい前に比べると,貪欲に案件を取ろうとするベンダーはめっきり減ってきている。安請け合いしなくなったとか,リスクが高い案件には無闇に手を出さないくなったとか,そういう話もあるのだが最近の傾向はちょっと違う感じがする。
担当営業氏を呼んで「本当のところやりたいの?それともこれはおいしくない案件なの?」と率直に聞いてみたところ「そりゃあ,やりたいです」という返事。「じゃあ,数字出せる?」と聞くと「画面数と帳票数を決めていただければ…」と言う。
一方で「なんとしてでもやり遂げるので,是非やらせてほしい」と果敢に取り組もうとするベンダーが2社現れた。その2社の概算見積もりを見ると非常に詳細に積み上げがなされているのが特徴的だった。画面数,帳票数,バッチ本数が具体的に推定され,データベース規模も彼らなりの一定の根拠で算出されている。
「我々はこういう条件を設定し,その条件において見積もりはこうなります」「また,いろいろと考えましたが貴社の事業規模,企業体力から考えて本システムはこれくらいの投資金額で仕上げるのが適切であると考えます」というコメントも付いてきた。このコメントの内容は決して独り善がりでない的を射たものであった。
辞退組と提案組を分けたものは何なのだろうか?
辞退したベンダー各社にとって,我々がこれまでに行ったユーザー要求定義作業は何だったんだろうか?
我々が作成し提示したドキュメントは一体何だったのだろうか?