日本の国土の7割は森林。さらにその4割は、伐採、利用、再造林を前提とする人工林が占める。この人工林という森林の循環利用をどのように維持すればいいのか、維持するために木材利用の適材適所をどのように進めていけばいいのか―。
長野氏 まず森林のいまの姿を伝える。森林蓄積は毎年増え続け、近年、成長量は年間約6000万㎥に達する。一方、国産材の使用量は年間約3000万㎥。成長量の半分程度で、木材利用の可能性はまだ見込める。使用すべきは人工林だ。利用期を迎えた50年生を超えた人工林の面積は6割を占める(図1)。ここを伐採し木材を利用する一方、きちんと再造林していくことで、森林循環を成立させることが大事。伐採は環境に悪いという人がいるが、人工林は伐採・利用を前提にし、先人がつないでくれたもの。天然林とは分けて考える必要がある。
ディスカッションに入る。テーマの1つは、木材利用の適材適所。私からまず話題提供する。
いまこそ、街で木を長く利用することで街を第2の森林と位置付け、炭素固定を進めていく必要がある。しかも、持続可能性を考えると、計画的な利用が欠かせない。ではどのような建築物に可能性が見込めるか。木造率を見ると、非住宅の建築物や住宅でも中高層のもので低いことがわかる(図2)。非住宅・中高層でウッド・チェンジを進めたい。
安達氏 ただ使い方を間違えると、劣化によって木材の魅力は損なわれる。要点は雨水対策だ。木材を使えない場所はそうないが、使い方には気を配りたい。
長野氏 メンテナンスも考える必要がある。木材のメンテは手間か。
安達氏 むしろ手間という維持保全・管理や設計の監理は重要なポイントだ。
長野氏 羽鳥さん、計画的な節度ある木材利用をどう考えればいいのか。
羽鳥氏 適切な利用か否かは、後日評価が決まる。そこを見越して設計するのが仕事だ。CO₂の観点からいえば、再造林率が低い状態でかつ副産材の利用も進んでいない中で、盲目的に木造を推進するのは本当に良いのか。中高層での木材利用は伐採地から認定工場までの輸送もかかり、鉄骨やRCと同じ強度を得ようとすれば輸送を要する物量は増えるはず、こうした未計量の部分も多いので評価は今後も変化するだろう。また地方創生につながる木の流通や山の生態系の維持回復など、他の構法にはない確実に貢献できることを組み込みつつ、木材利用を常に評価、確認しながら進める、誠実さや節度を保とうとする努力が必要。
長野氏 賦存量と使用量のバランスはどうか。街なかに多い中層ビルに木材利用の可能性はあるが、木材を使いすぎるという問題はないか。
安達氏 地域で調達できる木材を利用し、その地域の工場で製材・加工するようにしている。特別な加工を施すために遠方まで丸太を運搬するのはいただけない。地域にいまあるインフラを最大限活用するにはどうすればいいかという視点で考えたい。
長野氏 日建設計が地域のプレイヤーと組むこともあるか。
羽鳥氏 木材コーディネーターの資格者である設計者は、地域のネットワークに入り込む。どことどこをつなぐと地域の山にお金が戻るようになるか、問題意識も持つ。
長野氏 森林の循環利用にテーマを移す。再び話題提供する。資源循環には再造林が欠かせない。しかし、再造林率は3割と低い(図3)。その理由には、原木価格の安さや将来を描けないことによるモチベーションの低下が考えられる。ただ最近は、大分県の森林再生基金や宮崎県の再造林推進条例など再造林の支援策も見られる。
安達氏 国内平均の再造林率は非常に低い。炭素排出固定の計算は再造林を前提にしているだけに、このままでは日本の木造・木質化は評価されなくなる。
長野氏 再造林を山側の努力だけで進めるのも限界がある。山村地域の人口はごくわずか。人もお金も足りない。関係者みんなで支えたい。
羽鳥氏 複数の問題が複雑に絡み合った問題だ。1つの問題を抜き出し、解決手段を考えても意味がない。複雑なまま解かないといけない。
安達氏 再造林を促す取り組みで気になるのは、林業・建設業の関係者しか関与していない点だ。岩手県が戦後、造林宝くじを発行した例がある。一般の人も振り向かせたい。
長野氏 再造林率の低さは、木材サプライチェーンの関係者だけでは解けない。水や国土保全といった森の恩恵はどんな企業も受けているので、森の持続性に関わりをもってほしい。関わり方はいくらでもあるので、「一社一山」として自分事化してほしい。
羽鳥氏 森林価値の見える化が必要だ。例えば河川氾濫や土砂崩れなどの災害を未然に防ぐ価値。それもある程度は試算可能だろう。森林維持に貢献することが納税と同様の価値を持つなどと社会的に認められるようになれば、参加の輪は広がるはず。
長野氏 林野庁では森林の多面的機能を貨幣評価できるものだけでも年間70兆円と見積もっている。技術も進んでおり見える化は可能だ。
羽鳥氏 経済指標であるGDP(国内総生産)は自然資本への負荷を無視した前時代のものだ。森林価値を織り込んだ新しい指標を考える必要がある。
長野氏 本日のシンポジウムの大枠である「建設未来」という観点から指摘はあるか。
羽鳥氏 木材利用を考えることで、サプライチェーンの川下に立つ建築の人間が川上の森林にまで目を配る機会を得られた。建築という行為は社会とつながる中で初めて実現できることである、と改めて実感できた。それは本来、コンクリートや鉄骨の利用でも同じこと。同じ角度から議論することで、コンクリートや鉄骨のイノベーションにもつなげていけるのではないか、と感じる。
長野氏 木はそういう意味でも、「日本の再生」をひらいている、と。
安達氏 私がすごいと思うのは、公共建築物木材利用推進法の制定から十数年。このわずかな期間で、今回のような企画が開催されるまでになった点だ。森林のことを日建設計の方と話す機会を持てるとは、十数年前は考えられなかった。忘れてはいけないのは、いまのこうした状況を一過性に終わらせないようにすることだ。
長野氏 ブームで終わっては困る。
羽鳥氏 当たり前のことにするには、木材利用はこうでないと、と決めつけないことが必要だ。価値観は時代とともに変わる。自由さがほしい。
長野氏 最後に皆さんに伝えたいことはないか。
安達氏 木造建築がごく自然に増えていくことが望まれる。そこでは、利用者や地域住民に愛されるという点を大事にしたい。歴史的に見て、愛される建物は永く存在し続ける。そういう木造建築づくりに携わっていきたい。
羽鳥氏 過去を振り返ると、難題に挑戦した企業ほど生き残っている。そうした認識の下、設計業界全体で人手不足や木材利用のハードルなどの課題を解消していくことで、当たり前のように木材利用に取り組めるようになるといい。
長野氏 木材利用は、人のつながりを生み、森林への愛を生む。今後も、その仲間が増えるといい。
※所属・肩書は2024年11月1日時点のものです。