「今マスコミをにぎわせている『アベノミクスは正しいかどうか』という議論は不思議に感じる。理論的には100%正しいからだ。問題は、正しいかどうかではなく、掲げた施策である3本の矢は本当にできるのかどうか。そこを議論することが重要だ」
こう語るのは、慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長の竹中 平蔵 氏だ。日経BP社が2013年7月3日から5日にかけて東京・品川プリンスホテルで開催中のイベント「IT Japan 2013」の基調講演に登壇。「グローバル経済と成長戦略」というテーマの講演で、こう見解を示した。
その詳細を竹中氏はアベノミクスの「3本の矢」それぞれについて述べた。最初の矢は、デフレ克服のために量的緩和を実施するという金融政策。竹中氏は「(この矢は)まともに飛んでいる」と評価した。
デフレは人口減少や需給ギャップが原因だとする説もある。しかし竹中氏は「人口が減ったからデフレになったというのは間違い。ロシアでは人口が減っているが、物価上昇率はプラス6%に達している。需給ギャップがあると物価下がるとも言われたが、需給ギャップがゼロでも物価は下がった事実がある」と指摘した。
「つまりデフレの原因は人口減少でも需給ギャップでもなく、マネーの量が少ないということ」と、大胆な金融政策こそがデフレ解消につながることを力説した。ただし「金融政策の効果が完全に現れるのに、1、2年はかかる。その間をしっかりつなぐ施策は必要だ」と触れた。
2つ目の「機動的な財政政策」も今のところは、うまくいっていると竹中氏は評価する。「若干ある需給ギャップを埋めるために、数カ月前に10兆円規模の補正予算を組んだ。その効果は現れていて、今年1~3月期のGDPはプラスの4.1%。目の前の経済は悪くない」。しかし「日本の国の借金はGDPの200%を超えているので、中期的には必ず財政再建しなければならない。2020年までに基礎的財政赤字をゼロにする策がまだ示されていないことが課題だ」と続けた。
最後の「成長戦略」については、「政府は、過去7年間に渡り毎年、成長戦略を作ってきたが、日本の成長率は下がっている。ということは、成長戦略という打ち出の小槌はないということだ」と指摘。「省庁が主導する政策で企業の成長は描けない。民間企業ができるだけ多くの自由を与えられて、競争の中で、切磋琢磨し、知恵を絞りながら少しずつ経済成長を高める。それしか手はない」と強調した。
ただし3本の矢に加わる今回の成長戦略については「今までのものと違う点があり評価できる」と竹中氏は話す。今回は、十数年かけてもなかなか変えることができていない“岩盤規制”の緩和は盛り込まれていないものの、「岩盤規制を崩すための仕組みが入っているとみている」。
それがアベノミクス戦略特区だ。これまでの特区は地方の提案を国が精査していたが、今回は総理主導で、国、地方、民間の3者で具体化していける。「うまく活用すれば様々なことができるので、注目していきたい」と竹中氏は期待を寄せる。このほか、空港や高速道路などの運営を、民間企業に任せる「コンセッション」が今回の成長戦略に組み込まれていることも高く評価した。
講演の最後、ITについて「経済において供給力を向上させるのに、ITがプラスの刺激を与える。薬の販売のようにネットの活用が広がれば競争力も高められる」と触れた。「IT普及をさせるには、ITが分からない社長や、ITを活用できない企業に退場してもらうことが有効なのではないか」と過激な持論も飛び出して、約1000人が集まった会場を沸かせた。