居酒屋「和民」などを展開するワタミフードサービスは、「iPhone」のGPS(全地球測位システム)機能を活用して顧客を店舗に誘導。利益率を下げることなく、1カ月に2000組の集客増を実現した。良品計画は、優良顧客のスマートフォンと携帯電話にクーポンを配り、「無印良品」西武池袋店の売り上げを5日間で200万円以上伸ばした。日本マクドナルドは、2000万人超のモバイル会員組織を活用。嗜好に見合ったクーポンで会員をマクドナルド店舗に吸い寄せ、増収につなげている。
これら先進3社の最新の取り組みを通じて、モバイルマーケティングの威力を見ていこう。
【ワタミフードサービス】 iPhoneアプリで、近くの顧客を勧誘
iPhoneで専用アプリケーションを起動すると地図が現れ、周囲2キロメートル以内にある和民系列店舗の位置が表示される。最寄り店のアイコンをタップすると、「19時までに入店の方は全品10%オフ」など、今すぐ使えるクーポン券が現れる。クーポンを得たら、地図を見ながら店舗に向かう---。これが、ワタミフードサービスのiPhoneアプリ「ワタミアプリ」の利用イメージだ。
ワタミアプリは公開4カ月後の2010年12月時点で、6万ダウンロードを超す人気ソフトだ。ワタミフードサービスはこのアプリを通じて、クーポン施策の対象店舗で月間2000組の集客効果を上げている。一組当たりの客単価を1万円とみると2000万円の増収である。
この数字は、1カ月の全店売上高の1%にも満たない。だが、「店がすいている時間帯の顧客数を増やすことに成功した点が大きい」と、経営企画本部マーケティング部の亀本伸彦課長は語る。店舗や従業員の稼働率を上げることができたわけだ。
紙のクーポンが抱える三つの課題を解決
ワタミアプリは、ワタミフードサービスが抱えていた紙のクーポン施策における課題を一挙に解決した(図1)。紙のクーポンを使った施策には、解決が困難な課題が三つあった。一つめは、店舗の近くで居酒屋を探している潜在顧客に対して、タイムリーにクーポンを届けられなかったこと。アルバイト店員を使って、店舗の前を通りかかる人を勧誘するしかなかった。来店したい人に渡すことができなければ、クーポン施策は意味をなさない。