今回は、4タイプの代表的なFMCの実現手段のうち、「アイデア型FMC」について詳しく見ていく。
アイデア型FMCは、スマートフォンの普及によって続々と登場している様々なアイデアを生かしたFMCの総称として名付けたもの。スマートフォンのアプリケーション開発の自由度の高さが、多様なFMCを可能にしている。携帯電話事業者が提供するサービスではなく、ベンダーやインテグレータが提供する製品を組み合わせて、ユーザー拠点に設置し運営する形が多い。
スマートフォンの自由度を生かす
ここではエス・アンド・アイ(東京都中央区)の「uniConnect」とアイソルート(東京都新宿区)の「smartFMC」という製品を、アイデア型FMCとして取り上げる。どちらも、スマートフォン用に作り込んだ発着信のためのダイヤラー・アプリケーションと、専用のPBX(内線電話システムを構成する交換機)機能を使って、社内外での固定番号による通話が可能になる(図1)。通話には、VoIP(Voice over IP)技術を使うのではなく、通信事業者の電話回線を利用する。そのため品質も安定している。
uniConnectとsmartFMCのどちらを導入しても、前回紹介した「内線ワンナンバー型FMC」とは違い、携帯電話事業者への追加の支払いが発生しない。このため、内線ワンナンバー型FMCではコスト的に採用しづらいという、中小規模のユーザーが抱く懸念を払拭(ふっしょく)しやすい。逆に、運用には特定のPBXが必要になるため、独自のPBX機能を使うケースが多い大規模ユーザーにとっては選びにくい。
コールバックで通話をすべて固定発に
uniConnectは、スマートフォンで利用できるダイヤラー・アプリと専用SIPサーバーを組み合わせた製品。このダイヤラー・アプリで発信する場合、すべての発信はまずユーザー拠点のSIPサーバーにつながる。そこで一度スマートフォンからの発呼は途切れ、逆にSIPサーバー側からスマートフォンにコールバックしてくる。同時にSIPサーバーが、当初ダイヤラーが指定した通話先に対して発信する。以上の手順から、SIPサーバーの中継によって、スマートフォンと通話先の通話が成立する。これがuniConnectの基本的な動作である(図2)。
SIPサーバーを起点とした発信となるため、割高な携帯発の通話を抑制でき、通話コスト削減につなげられる。さらに、通信事業者が提供する固定-携帯間の通話定額サービスに加入すれば、最初のダイヤラー・アプリからの発信コストも定額化の範囲に収められる。電話番号に関しては、SIPサーバーがスマートフォンの番号と固定電話番号をひも付けて管理するため、社外でも固定番号を使って受発信できる。
また、専用ダイヤラーを利用しなければ、携帯網からの発信になる。そのため、ダイヤラー・アプリ経由の固定番号発信を業務用途、携帯からの発信を私用として公私分計の運用もできる。
uniConnectは、単にSIPサーバーとしての機能だけではなく、メールやスケジューラー、さらにはスマートフォンのデータを遠隔で消去する「リモートワイプ」の機能も備えている。「実はスマートフォン向けのリモートワイプの機能が最もユーザーからの引き合いが多い」(同社の村田部長)。
同製品のリモートワイプにはユニークな機能がある。端末を落とした本人が所定の番号に電話をかけ、ガイダンスに沿った操作をすることで遠隔消去が始まるのだ。企業の管理者の対応が省けるということから人気であるという。なお、ソフトバンクBBがiPhoneの企業ユーザー向けに同様のリモートワイプサービスを提供しているが、これはuniConnectの仕組みがバックエンドで動いているという。
uniConnectと同様のコールバック方式のFMC として、日本アバイアが提供する「Avaya one-X Mobile」もある。こちらも専用のアプリケーションと専用PBXを使い、ほぼ同じ仕組みで動いている。ただし発信の際の手順が少し違う。電話回線を使ってPBXに接続するのではなく、ブラウザーからアドレス帳を参照し、電話をかけたい相手の番号をクリックすることによって専用PBXに発信要求ができる。最初のPBXへのコールの手順が必要なく、専用PBXがいきなりスマートフォンと相手先に電話をかけ、この二つの呼をつなぐため、より大きな通話料金削減のメリットを得やすい。
ただし、コールバック方式のFMCは仕組み上、通話が成立するまで若干待たされる弱点がある。またuniConnectに関しては、携帯上で利用できる内線機能がまだ少ない。このため、代表番号で受けた電話を保留して社員個々に転送するような電話の使い方をするオフィスよりも、スマートフォンに固定のダイヤルイン番号をひも付けておき、外線は個人が直接受けるような運用形態が向いている。