パソコンをネットワークにつなぐための入り口となるのがLANスイッチである。今,このLANスイッチにちょっとした異変が起こっている。あえてLANスイッチの便利な機能を使えないようにした旧型のLANスイッチが売れているというのだ。理由は,LANをダウンさせるトラブルを防止するためである。
「ブロードキャスト・ストーム」が急増
LANスイッチの便利な機能とは,LANケーブルをつなぐと自動で通信できるようにする「オートMDI/MDI-X」のことだ。この機能を使うと,LANケーブルをつなぐ際に,ケーブルやLANポートの種類を考えなくても通信できる。どのLANスイッチも当たり前に搭載している機能である。
ところが,この便利な機能がトラブルの温床となる危険性がある。ケーブルをループ状に接続することで,「ブロードキャスト・ストーム」を引き起こすのだ。
ブロードキャスト・ストームとは,LAN上に送り出されたデータがループ部分をぐるぐる回って増え続け,最終的にLANの帯域を埋め尽くす現象のこと。こうなると,LAN上の端末は正常な通信ができなくなり,LAN全体がダウンしてしまう。
よくあるのが,机の上に放置されていたケーブルを見て,誰かが気を利かせてそのケーブルを最寄りのLANスイッチに挿すケース。ケーブルの接続元と接続先が同一のLANスイッチの場合,ループ接続になってブロードキャスト・ストームが発生する。ブロードキャスト・ストームは,「はまるところに,はまっていないと気分が悪い」という人間の心理を突いたトラブルとも言える。
ディップ・スイッチ付きLANスイッチが再注目
では,オートMDI/MDI-X機能がない一昔前の運用はどうだったか。
LANケーブルとLANポートには,それぞれ2種類ずつある。LANケーブルには「ストレート・ケーブル」と「クロス・ケーブル」があり,LANポートには「MDIポート」と「MDI-Xポート」がある。これらの組み合わせによって,通信できる組み合わせと通信できない組み合わせがある。LANを構成するときは,こうした組み合わせを考えてケーブルを接続していく必要があった。
そこでオートMDI/MDI-Xが普及する前は,LANスイッチの前面パネルにディップ・スイッチを用意し,そのスイッチを操作することでLANポートのMDIとMDI-Xを切り替えられる製品が多かった。オートMDI/MDI-X機能が普及するにつれて,こうしたディップ・スイッチ付きのLANスイッチは姿を消しつつあった。ところが,「ここ最近,ループ防止のためにわざわざディップ・スイッチ付きのLANスイッチを探して購入するユーザーが増えてきた」(アライドテレシスや日立電線の担当者)というのだ。
確かに,LANスイッチのポートを固定的にMDIポートまたはMDI-Xポートに統一しておけば,現在一般的に使われているストレート・ケーブルで同一のLANスイッチにあるポート同士をうっかりつないでしてしまっても,通信はできない。そのためブロードキャスト・ストームも発生しない。一昔前の運用方法に戻すことが,ブロードキャスト・ストーム対策になるのである。
奇数回クロスさせる
オートMDI/MDI-X機能を使わない一昔前の運用をするときにネックになるのは,通信できる組み合わせと通信できない組み合わせを考えたようとすると,頭が混乱してしまうことだろう。通信できる組み合わせを考えるときのポイントは,「奇数回クロスさせる」こと。例えば,MDIポートとMDI-Xポートをストレート・ケーブルでつなぐケースでは,MDIポート(ストレート),MDI-Xポート(クロス),ストレート・ケーブル(ストレート),と考えてみる。クロスは奇数個(1個)なので,この組み合わせは通信できるわけだ。
もちろん,ブロードキャスト・ストーム対策として,LANスイッチのさまざまな機能を使う手もある。ただし,こうした機能を使うには,LANスイッチにログインして設定コマンドを入力しなければならないケースが多い。手軽な運用でループ防止を実現したいなら,オートMDI/MDI-X機能を使わない一昔前の運用を考えてみてはいかがだろうか。