野村総合研究所(NRI)が発表した国内企業の「IT投資中期動向予測」によれば、2005年から08年までIT投資の年平均伸び率が4.6%増だったのに対し、08年~10年は一転して同6.0%減、10年~12年は同4.5%減になる。12年までIT投資が減少し続け、IT業界はトンネルを抜けられないという予測だ。

 IT投資規模では、10年は05年の水準に近い29兆円、12年は03年同様の26兆5000億円を見込む。03年は前回のITバブル崩壊をまともに食らってIT業界が低迷していた時期。05年は痛手から立ち直り回復しかけた年だ。12年は08年と比較し、何と6兆4000億円もIT投資が縮小する。富士通と日本IBMの全売上高を合算した“ITマーケット”の消失は目前である。

 予測した事態になるなら、IT業界では生き残りをかけM&A(企業の合併・買収)や業界再編、とう汰は避けられない。NRIコンサルティング事業本部の桑津浩太郎 情報・通信コンサルティング部長は、「IT技術は成熟しコモデティとなった。サービス化やグローバル化にもある程度の企業規模を必要とする。大手でないと生き残りは難しく、再編やとう汰は必至。特徴のない中堅ベンダーはこの先厳しい」と観測する。

 暦とは裏腹に冬に向かう業界荒れ模様の原因は、経済環境の悪化だけではない。根底には、営々として築いてきた既存のIT業界のビジネスモデルが、ユーザー企業のIT観やニーズの変化で変革期を迎えたという事情がある。

 受注するだけの製品販売や顧客の言うがままに作るSI(システムインテグレーション)、委託されるだけのアウトソーシング、報告書を作成するだけのコンサルティング─。IT業界に染みついた「受託体質」は、ビジネスモデルの転換期を迎えているユーザー企業のシステム構築・維持にとって、むしろ足かせになっているのかもしれない。

 ユーザー企業は何のためにITを使うのか。IT業界は自問自答してみたらいい。IT業界はこれまで、さまざまな局面での「削減」目的にかなう道具としてITを売り込んできた。10年前のTCO(所有総コスト)は言うに及ばず、今のクラウドコンピューティングも「ITコスト削減」がうたい文句である。

 だが、ユーザー企業の経営者や事業部門のトップがITにかける第一の期待は、IT業界が考えるのと同様にコスト削減だろうか。それよりユーザー企業の経営者は、ビジネスイノベーション(事業創造)を欲しているのではないか。

 ある流通業の幹部は「請負体質のIT業界と話していてもらちがあかない」と明言する。“御用聞き”の人たちと事業開発はできないということである。

 ユーザー企業のビジネスイノベーションにIT業界が「ビジネスパートナー」として貢献するということは、リスクを分担する覚悟がなければできない。SI案件を経営会議で吟味し、儲かりそうなSIだけを選択しているようでは、ユーザー企業がIT業界を相手にしなくなる日が来るのは目に見えている。

 大手流通の米ウォルマート・ストアーズは3月中旬、電子カルテ市場への参入を発表した。オバマ政権が景気刺激策で190億ドル(1ドル=100円換算で約1兆9000億円)を投資し、電子カルテの採用を一気に進めようとしていることが背景にある。米デルのほかドラッグストア大手、電子カルテのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)ベンダーと組み、操作訓練込みのターンキーソリューションを競合の半値で仕掛ける。デルなどは新規事業のリスクを共有する覚悟である。

 業種を超えた新規事業は、日本でも続々登場する。NRIは都銀や流通、運輸・自動車など大手21社が11年までに計画している新規事業に費やされるIT投資は、1兆1300億円に上ると弾いた。

 この数字だけ聞くと大規模な市場に思えるが、問題はIT業界が主役ではないことだ。商社やネット事業者が中核になる可能性が高いのである。最近は商社が「ITサービス事業開発」の組織を設置する例が続いている。商社がコンサルティング会社やSIを傘下に置く時代が来る。