上場企業に内部統制評価を課す「日本版SOX法」の施行まであと1年を切った。ようやく策定された実務ガイドライン(実施基準)は、全体に企業の「経営者」による主体的判断の必要性が強調されている。その1つに、委託業務(アウトソーシング)の評価がある。情報システム以外の、物流や総務などの外部委託にも留意すべきだ。

 東京・霞が関の金融庁で1月31日、第16回の企業会計審議会内部統制部会が開かれた。2005年2月の第1回部会から2年をへて、日本版SOX法(金融商品取引法)が上場企業に課す「内部統制」に関する議論が終結した。この日の部会では、昨年11月に公表された内部統制の「実施基準」に関する説明と意見交換が行われた。公表後のパブリックコメントには190件の意見が寄せられた。これに沿って実施基準は微修正されたが、大枠は変わらないまま、内容が確定。今年2月15日の審議会総会で正式に承認された。

 部会の委員からは「実施基準の公表が遅れ、施行日まで時間がない。企業も会計士も大変だ」といった懸念も表明されたが、金融庁側は「施行日は法律に明記されており、それに沿って行政として適切な支援をする」と述べるにとどまった。

 確定した実施基準について、専門家の間では、米国SOX法に比べて企業の負担は軽減されているものの、「意外と大変だ」という見方が多い。

 「対象となる勘定科目が売上高、売掛金、棚卸資産に限定されたことで、対象業務プロセスをかなり絞り込める」(KPMGビジネスアシュアランス=東京・新宿=の小見門(こみかど)恵・執行役員)。その一方で、内部統制の評価のために取引伝票などをチェックする「サンプリング」の負担は大きい。実施基準は1つの「統制上の要点」ごとに少なくとも25件のサンプリングを求めている。「全社で1万~2万件のチェックが必要になる。社員が伝票を自分の引き出しなどに保管している場合は集めるだけでも大変だ」(アビーム コンサルティング=東京・千代田=の永井孝一郎プリンシパル)

 意外と盲点になりそうなのが、委託業務(アウトソーシング)に関する規定だ。青山学院大学大学院の八田進二教授(金融庁の内部統制部会長)は、「委託業務まで含めた広い範囲の内部統制について明記したのは、今回の実施基準の大きな特徴だ」と話す。

 実施基準では、委託業務について「経営者は、当該業務を提供している外部の受託会社の業務に関し、その内部統制の有効性を評価しなければならない」と書いてある。「丸投げ」は許されないというわけだ。情報システムのアウトソーシングについてはよく話題になるが、それ以外の製造、物流、総務、人事などの業務でも、「財務報告」にかかわるものは対象に含まれる。

 アビームの永井プリンシパルは、この規定があるために、日本版SOX法対応作業が必要な企業は、上場企業約4000社やその子会社・関連会社だけではなく、業務を受託する企業数万社も含まれると指摘する。「実施基準の内容は、中小の業者にとってかなり厳しい。従来も規制強化に関連して委託先に『ISO』や『プライバシーマーク』などの取得を求める動きはあったが、今回は上場維持がかかっているため、委託元企業の本気度が違う」(永井プリンシパル)

●「日本版SOX法」制定の経緯
●「日本版SOX法」制定の経緯

委託先の倉庫業務を見直し

 「監査部からは、委託先の中の業務についても整理するよう言われている。特に数量の管理は財務報告に直結するので重要だ」。東京ガスの小林史明・資材部物流改革プロジェクトグループ課長はこう話す。東京ガスは、ガス管やメーター、ガス器具などを売買している。これらの物流業務は、東京ガスとは資本関係がない倉庫会社2社に委託している。

 伝票出力やピッキング、積み込みなどの委託内容について、もともと数十ページの手順書があるが、記述が古くなっていた。これを更新するとともに、日本版 SOX法に対応した業務フロー図を作るなど作業を進めている。委託先の情報システムと東京ガス側のシステムで残数の食い違いを防止するための統制活動など、細かな手直しもある。委託先の倉庫内には東京ガスの在庫(棚卸資産)だけではなく、仕入れ先のメーカーの在庫もあるため、この整理も必要だという。

 例えば受注数が8個なのに、委託先の作業ミスで実際には6個しか出荷されないリスクもある。この場合は、「顧客(工務店など)からクレームが来るので、クレーム率などを分析している」(小林課長)という。

 ベリングポイント(東京・千代田)の山本浩二ディレクターは、「一般に、まず社内で重要な委託業務を特定する必要がある。そのうえで、委託先に定期的な業務報告を求めたり、実際に行って確かめることを検討すべきだ」と指摘する。日本版SOX法は、アウトソーシングを見直す1つのきっかけになりそうだ。