NSRI(USA) 林 光一郎

 今回は,修士論文の作成には欠かせない,ニューヨーク大学(NYU)の図書館を紹介したいと思います。私はNYUに通い始めて3年目ですが,これまで1回も大学図書館を使ったことがありませんでした。必要な資料の多くはWebから取得できます。Webでは取得できない参考書や資料は,古本屋などですべて購入していたからです。さらに白状すると日本での学生時代も含め,大学図書館をちゃんと使うのは今回が初めてのことでした。なので,これから紹介する内容には日本の大学図書館でも当たり前のものが含まれているかもしれません。でも,本当,感動するくらい便利なんです。

大学図書館の迫力に圧倒

 NYUで大学図書館を使ったことがないとはいえ,もちろん,何度も前を通ったことはありました。そしてそのアカデミックな雰囲気にちょっとした憧れも抱いていたのです。しかし社会人学生にとって,掲示板への書き込みやレポートの作成などの課題に取り組む際に,図書館に行って調べものする,という時間をなかなかつくることかできなかったのです。

 ですが,修士論文を書き始めると,そのようなことを言っていられなくなりました。修士論文では先行する研究・調査を踏まえて執筆を行なう必要があります。そこで目を通したり,引用したりする文献は,Amazonで購入したりWebで検索してダウンロードしたりだけでは無理なのです。

 また私は,数ページ程度の短い論文は実際に読んだことはありますが,修士論文を実際に目にしたことはありませんでした。座学の「修士論文の執筆支援コース」も受講しましたが,それだけでは修士論文とはどういうものか,というイメージがつかなかったのです。そこで実際に修士論文をいくつも読んでみたいと思うようになりました。

 そんなこんなの理由で,やっと重い腰を上げ,大学図書館に出向くことにしました。事前に調べた文献の中で,インターネットや自分,会社の蔵書の中で見つけられなかったもののリストを作り,参考になりそうな資料を持って,晴れた土曜日の朝にアパートを出ました。NYUの図書館はワシントンスクエアの南側,大学のビル群の真ん中にあります。地上10階地下2階建ての建物は,地上部分は中が吹き抜けになっており,見上げてみると迫力に圧倒されそうになりました。


NYUの大学図書館のロビー。真ん中は吹き抜け,ゴージャスなつくりとなっています。
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 入り口には来館者をチェックするゲートが設置されていました。「初めてだから、会員証を作るなど面倒な手続きがあるのかな」と思っていたのですが,手続きは特になし。ただ,学生証(磁気ストライプ付なんです)をゲートでスライドさせるだけで中に入ることができました。

司書に相談し,あっという間に資料収集完了

 まずは文献の相談をしようと,司書がいるカウンターを探すため,案内板の前に行きました。そこで驚きの発見がありました。なんとこの図書館は「24時間開いている」のです。日本の大学の図書館もずいぶん遅くまで開いていた記憶がありますが,それでも実験で遅くなると閉まっていたものです。ニューヨークは宵っ張りの街で,レストランなども日付が変わるまで開いているのが普通ですが,図書館はさすがにそれとは趣旨が異なります。米国の学生は熱心に勉強するとは聞いていましたが,まさか図書館で徹夜するほどとは思っていませんでした。

 案内板でようやく,私が調べたい分野の司書がいる場所が分かりました。司書にメモを見せ,このような資料を探したいというと,私の説明が足りない部分も先回りして手際よく資料の所在を教えてくれました。私の論文のテーマはメジャーなものではありませんし,NYUでは特に取り上げている研究室などもないはずなのですが,さすがにプロですね。司書の仕事ぶりに感動しました。

 あまりにもあっさりと資料が見つかったので,図書館の中でいくらか論文を書くことにしました。閲覧室にはどこにも充分な数の机が用意してあり,いくつかの机にはLANのケーブルとコンセントが設置されていました。また,無線LANも敷設されており,NYUの学生はVPNクライアントを導入することで,館内ならどこでも自由にインターネット接続できるんです。

 私が論文を書く場所に選んだのは,閲覧室の外にあるラウンジのようなスペース。辞書のようなあまり専門性の高くない書籍と共に,ゆったりした間隔で並べられている机や椅子はなかなかしっかりとしたもので,長居しても快適そうだったからです。また,図書館内は食べ物の持込は不可ですが,飲み物はカップにカバーがついていればOK。そこがニューヨークらしくて,嬉しいところです。椅子に座り,古本の匂いに包まれながらキーボードを叩いていると,なんだか学者にでもなったような気がしました。


書架から離れたところにあるラウンジスペース。館内はどこでも無線LANが使えるので,論文を書くのもはかどります。
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 ひとしきり作業を終えると,お腹が空いていることに気づきました。「これだけ巨大な図書館なら,きっと学生食堂もすごいんだろうなぁ」と思い,地下のフードスペースに行ってみました。すると,そこにあったのはサンドイッチとスナック,ドリンクの自動販売機のみ……。確かに図書館のあるエリアはニューヨークでも有数の文化エリアです。おいしくて手ごろなレストランにも,深夜までやっているカフェにも困りません。でも,フードスペースのラインナップにはがっかり。とりあえず,図書館を引き上げることにしました。

強力な図書館サイトの検索機能

 この日以来,図書館には何度も出かけるようになりました。ですが実際に図書館に足を運ばなければ調べものができない,というわけでもありません。学会誌に投稿されたものではなく修士論文や博士論文のような各種論文は,書誌を調査してオンラインデータベースから取得するからです。

 このような場合に活用するのが,大学図書館の強力な図書館サイトです。このサイトはNYUの図書館自身の蔵書だけではなく,各種の論文データベースや雑誌データベースにアクセスができます。僕はこの図書館サイトから参考になりそうな修士論文を何件か見つけ,それを読み込むことで,修士論文がどのようなものか理解できました。普通の大学院生のように,指導教官や先輩の学生との交流の中で基本となる文献を見つけていく,という過程を踏んでいない私にとっては,図書館の司書と図書館サイトだけが頼りです。

 NYUの図書館サイトは,ログインしなくても(つまりNYUの学生でなくても),ある程度の機能を利用することができます。興味のある方は,下記の画像をクリックして図書館サイトにアクセスしてみてください。米国の大学生・大学院生の生活の一端が垣間見られるかもしれません。


NYUの図書館サイト
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 次回は,修士論文の執筆の現状についてご報告したいと思います。現在のところ,かなり苦戦中です。あと次回までにどれだけ進んでいるか,こうご期待を。


 林 光一郎(はやし こういちろう)
NSRI(USA)

1991年,京都大学農学部卒業後,日本郵船に入社。関連IT企業のNYKシステム総研への出向を経て現職。現在はニューヨークにあるNSRI(日本郵船グループ)社内のアプリケーション開発プロジェクトに従事しながら,ニューヨーク大学大学院Management and Systems学科に在学。情報処理技術者試験に関する複数の著書のほか,「情報処理技術者用語辞典」(日経BP社)のデータベース項目の執筆を担当。日本システムアナリスト協会・中小企業診断協会会員

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