ITエンジニアの不足が過去最悪レベルで推移している。
システム構築需要にIT業界の就業人口の伸びが追いついていない。
IT業界外への転職も含め人材争奪戦の様相を呈してきた。
SIer(システムインテグレーター)を中心に人材不足が深刻化している。ここ1年間ほど過去最悪の状態が続いている状況だ。
最大の理由は新型コロナウイルス禍で顕在化したDX(デジタル変革)需要がいまだ旺盛なため。コロナの5類移行とともに大型システムの更改プロジェクトなども再開し、どのSIerも人材が足りない状態になっている。
しかも、IT業界の就業者数が急増することはなさそうだ。経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によれば、IT関連産業の従業者数は2018年の103万人から2030年には113万人へ拡大すると予測するが、DX需要の伸びに比べると追いついていない。
IT業界の人材不足は統計にも表れている。情報サービス産業協会(JISA)が会員企業を対象に実施した「JISA-DI調査(令和5年9月期)」によれば、従業員の充足感について「不足」と答えた割合から「過剰」と答えた割合を引いた「雇用判断DI」は71.7ポイントだった。2022年12月期に過去最悪の80.3ポイントを記録して以降、最悪期が継続しているといえる。
際立つITエンジニアの希少性、中途1人に10件の求人
IT業界における人材獲得の焦点は中途採用だ。実際、転職市場では他の業種と比べてもITエンジニアの希少性が際立っている。
パーソルキャリアの転職サービスdodaの「転職求人倍率レポート(2023年9月)」によれば、職種別の転職求人倍率で「エンジニア(IT・通信)」が10倍を超えた。これは求職者1人当たり、10件の求人がある計算になり、全職種で最も高い倍率だ。全体の倍率も直近の約3年間拡大傾向にあるが2.39倍にとどまる。「エンジニア(IT・通信)」の倍率がいかに突出しているかが分かる。
dodaの加々美祐介編集長は「『エンジニア(IT・通信)』の求人数は『営業』や『エンジニア(機械・電気)』とほぼ同じ。dodaの中では求人枠が多い職種だ。それでも『エンジニア(IT・通信)』の倍率が際立っているのは、求職者の人数が少ないことを意味する」と語る。
IT業界内での転職は、SIer間だけにとどまらない。EC(電子商取引)サイトなど消費者向けサービスを手がけるネット企業や、外資系のITコンサルティング企業など別業種の企業へ、SIerから転職する例は珍しくなくなってきた。
ある国内IT企業の幹部は「外資系コンサル企業が円安を背景に高賃金で日本のIT技術者を大量に中途採用している。その結果、日本のIT企業が人材不足に苦しんでいる」と嘆く。
実際、転職市場で提示されるITエンジニアの給与は年々上昇しているという。dodaの加々美編集長は「感覚的にはここ2〜3年の間で、同水準のスキルを持つITエンジニアに対して求人企業が提示する年収が、100万〜200万円程度増えている」という。そこまでしてもなかなか人材が集まらないのである。