2014/08/25
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【水内茂幸の外交コンフィデンシャル】日中に楽観は禁物 首脳会談実現は「習政権の基盤次第」
中国の対日姿勢は本当に軟化したのかー。先月、中国の習近平国家主席が福田康夫元首相との会談に応じたことで、日本政府内では11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での日中首脳会談の実現に期待感が高まっている。ただ忘れてならないのは、日中の距離感は、習氏の権力の掌握具合と関係が深いということ。習氏は対日批判を国民の不満のはけ口として使ってきたからだが、安倍晋三首相と握手できるだけの政治基盤を身につけたのだろうか。
福田氏は7月27~29日に北京を訪問。習氏との会談は、外務省など正規のルートを介さずに調整されたという。
関係者によると、習氏は福田氏との会談で、安倍首相が集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定に踏み切ったことについて「行使できるようにして何がしたいのか」と批判。「安倍首相は中国とどういう付き合いをしたいのかが見えてこない」などと不信感も示した。
とはいえ、習氏がAPECを数カ月先に控えたこの時期に福田氏との会談を受け入れたのは「極めて重要な意味を持つ」(外務省幹部)とされる。首相による昨年12月の靖国神社参拝以降、習氏は日本の要人との接触を断ってきたからだ。
中国は最近、日本側との対話に柔軟な姿勢をみせている。王毅外相は9日夜(日本時間10日未明)、ミャンマーの首都ネピドーで岸田文雄外相と会談。日中の外相会談は約2年ぶりで、第2次安倍政権発足後初めてのことだ。外務省幹部によると、日中事務レベルの非公式な接触も6月頃から増えているという。
中国から日本を訪れる観光客も、昨年の急減から一転、今年春頃から増え始めている。厳冬期の日中関係に、日差しが差し始めたのだろうか。
「まず習氏が権力を確立しない限り、日中関係は駄目だろうな。確立したからといって良くなるかは分からないが、確立しない限りはスタートラインにすら立てないのだから」
中国に太いパイプを持つ自民党幹部は、都内の小さな居酒屋で、ビールをあおりながらため息をついた。
この幹部は昨年来、何度も訪中し「チャイナ・セブン」と呼ばれる中国共産党政治局常務委員と会談を重ねてきた。「懸案があるからこそ日中には対話が必要だ」という首相のメッセージの伝達役を務め、そのたびに中国側から手厳しい言葉も浴びてきた。
「今の中国では、江沢民元国家出席ですら必死だと思う。みずから逮捕されるような事態になるかは別にして、名誉を守れるかどうか、人生をかけたギリギリの状況だと思うよ」
この幹部が注目しているのは、習氏による共産党幹部への粛清だ。習政権は7月、中国共産党の前政治局常務委員、周永康氏の取り調べを発表。弊社の矢板明夫北京支局長の報告では、これまでに周氏の歴代6人の秘書のうち、すでに5人が失脚しており、弟夫婦や、息子の妻の家族からも複数の逮捕者が出ているという。捜査のため、周氏周辺で拘束されたのは、実に約350人にのぼるとされる。
習氏は「腐敗撲滅」を権力掌握のための重要政策に掲げ、「トラもたたく」と大物政治家への摘発も躊(ちゅう)躇(ちょ)なく手がけてきた。ただ政敵本人だけでなく、一族郎党を根こそぎ摘発する手法や、対象が胡錦濤前国家主席が率いる共産主義青年団派や、江沢民元国家主席の上海閥に偏っていることも国内で批判を浴びている。
今回の周氏摘発にあたり、習政権は江氏の事前了解を得たといわれる。ただ江氏は、同じ上海閥の周氏が血祭りに上げられていることに、内心穏やかではないはずだ。習氏を中心とした「太子党グループ」と江氏の上海閥による権力争いはまだ続いているのが実情といえる。
「冷静に振り返れば、中国は首相が靖国参拝した後で、日本に対する態度を硬化した形跡はありません。もともと参拝前でも、日中韓首脳会談の開催を拒否し続けていましたし…。対日批判というのは、中国政府が政権基盤の強化策にずっと使い続けてきたのですから。日中を見続けてきた立場からいえば、首相の靖国参拝の影響はゼロではありませんが、要は首脳会談ができる中国国内の環境が整うかかが最も大切です」
中国問題に精通する外務省幹部はこう解説する。幹部氏は、APECでの日中首脳会談の可能性について「難しい」と指摘する。
「今月の日中外相会談でも、王毅氏は岸田氏にかなり厳しい言葉をぶつけたと聞きました。元駐日大使の王氏でさえ、日本に対しまだ生やさしい態度を示すわけにいかないのでしょう。裏返すと、習政権がいまだ国内で権力掌握の過程にあるということですよ」
今年のAPECでホストを務める習氏は、訪中した各国首脳を差別するような言動はできないのでないかー。一部の日本政府関係者は、日中首脳会談の実現に淡い期待を込める。ただし、自民党幹部氏は、やわらかいヒレカツにソースをかけながら、こうした甘い見方を戒める。
「ホストだからこそ、日本を仲間はずれにできる日程も組めるのでないか。首脳会談は『望みなきにしもあらず』という程度だ」
日本政府内には別の冷めた見方もある。長期政権が見込まれる安倍政権の地の利を生かし、関係改善を急ぐなという声だ。首相周辺は、会談実現のため、日本側からカードを切る可能性を否定する。
「日本にとって、急いで日中関係を改善しなければならない案件っていうのは正直少ないんだよね。APECで総理をばかにするのならしたらいい。世界がどう評価するか。長期的にみたら、そちらの方が日本にとって利益になるかもね」(
産経より抜粋)
【水内茂幸の外交コンフィデンシャル】「プーチン来日」ついに白旗?
今秋予定していたロシアのプーチン大統領の来日は実現性が低くなった。ウクライナ東部でマレーシア航空機が墜落し、欧米各国はロシアの軍事支援を受けた親露派によるミサイル誤射との見方を強めている。日本政府は、ロシアが3月にクリミア半島の編入を宣言した後もプーチン氏訪日の可能性を探ってきたが、ロシア側が言い訳できない事態を前に、訪日には事実上赤信号がともった形だ。
「プーチン来日は当面凍結ですよ。2年前からコツコツ準備してきたんですけどね…」
外務省欧州局の関係者は19日、電話口で大きなため息をついた。
事件をめぐり、親露派による誤射説は日増しに強くなるばかりだ。米国防総省のカービー報道官は18日、同機を撃墜した地対空ミサイルがロシア製「BUK(SA11)」だったことを示す「非常に強力な証拠がある」と強調。これを受け、オバマ米大統領は「事件はロシアの支援により起きたことだ」と断じた。
米メディアによると、米軍事衛星の解析では、ミサイルの発射場所は親露派が拠点とするウクライナ東部のドネツクとルガンスクの間。ロシアはウクライナ政府が先月、親露派との停戦を破棄したことを受け、大量のミサイルを供与していたという。
親露派は戦闘に軍用機を使っておらず、ウクライナ政府軍が地対空ミサイルを用意する必要はないとみられる。ウクライナ政府の犯人説を唱える親露派の主張は苦しくなるばかりだ。
欧州局氏は「国連の調査もあるだろうが、客観情勢は『ロシアが黒』。ロシアが武器供与したミサイルが犯行に使われたのはほぼ間違いなく、欧米からの制裁強化要求はこれまでの比でなくなるだろう」と分析する。犠牲者はオランダの192人を筆頭に、オーストラリア27人、英国10人などと欧米系が多いことも、制裁圧力を高める一因となっている。
日本にとって一層の打撃となったのが、今回の撃墜でドイツ人が4人亡くなったことだ。
これまでメルケル独首相は、ロシアからのエネルギー供給も念頭に、対露政策で圧力一辺倒より「対話」を重視。6月の先進(G7)7カ国首脳会議では、厳しい制裁を求める米英とドイツがせめぎ合う場面もあった。ロシアと領土交渉を抱え、微妙な立ち位置の安倍晋三首相にとっても、心強い援軍だったはずだ。
しかしメルケル氏は18日今回ドイツ人の犠牲者が生まれたことを受け、「事件を相当深刻に受け止めている」と言及。「ウクライナの和平プロセスを迅速に進展させる責任はロシアにある」とも述べ、強い口調でロシアを批判するようになった。
欧米内で温度差があった対露制裁は、厳格化の方向で足並みがそろいつつある。ここで日本政府だけがプーチン氏来日の準備を進めれば、国際的な孤立を招く可能性を否定できない。
受話器から聞こえた欧州局氏の声色は、6月中旬に都内のビアガーデンで密会したときとはまるで違っていた。1カ月前、氏はまだプーチン来日を諦めていなかった。
「ウクライナ問題だけがロシアとの二国間関係じゃありません。北方領土交渉もあれば極東の経済交流もある。外交交渉は多面的であるべきで、1つが駄目といって対話の窓口をすべて閉ざす必要はない」
当時はウクライナ政府と親露派との停戦協議がまとまりつつあり、氏は明るい表情で中ジョッキをあおっていた。「秋に大統領が訪日するためには、露払いの日露外相会談が不可欠」とも語り、岸田文雄外相が夏中に訪露に踏み切るタイミングを探っているとも打ち明けた。
安倍首相にとって、領土交渉は外交の最重要課題。昨年4月の日露首脳会談で、プーチン氏から「(領土交渉を)ハジメ」という言質を引き出して以来、両氏はこの1年間に5回も会談してきた。今年2月にウクライナ情勢が緊迫化した後も、日本政府は米国より一段緩い対露制裁に限定。ロシアとのパイプ維持に腐心してきたといえる。
「首相はプーチン氏と本当に馬が合う。岸田さんもこわもてのラブロフ露外相と本音で語り合える関係を築けた。他国の外相をみても、ここまで個人的関係を作ったのは珍しい。日露両政府の政権基盤が安定していることも加味すれば、領土交渉で約15年ぶりに具体的進展が期待できるとも思うのです」
氏はビールをハイボールに切り替えまくしたてた。
「英仏独の各首脳は6月のノルマンディー上陸作戦70年記念式典直後に、プーチン氏と会談しています。問題が起こった時には、むしろ相手と会って懸念を伝えるという道もある」
氏は枝豆を次々と口に放り込みながら、強気の姿勢を崩さなかった。
首相官邸も、最近まで外秋のプーチン氏来日を諦めていなかったようだ。今月の外務省幹部人事では、首相とプーチン氏との交渉を支えてきた上月豊久欧州局長が官房長に昇格。外務省内では「領土交渉への態勢を強化したシフト」という評が飛び交った。北朝鮮による日本人拉致被害者の再調査と合わせ、ロシアとの領土交渉でも成果を急ぎ、「今年を外交史に残る1年にできる」(別の外務省幹部)という思いも首相の脳裏をかすめたに違いない。
ただし、今回の撃墜事件は首相らの淡い期待を砕いたといえそうだ。
欧州局氏は電話口の向こうで「欧米とロシアが対峙する『新たな冷戦構造』すら見え始めているなか、日本だけが単独行動するわけにはいかない」とぽつり。今回の事件がロシアが供与した武器によって引き起こされたと断定されれば、「欧米による対露制裁に今度こそ同調せざるを得ない」とボソボソと語った。安倍首相は外遊のたびごとに、中国を念頭に「力による現状変更は認められない」と説いており、今回のロシアの行動を簡単に許すわけにはいかないのだ。
「足かけ2年の努力が水泡に帰すのでは…。ウクライナ情勢が悪化の一途をたどるので夏休みを取る環境にないが、『日露交渉』はいつまで続くか分からない夏休みに入ったといえますよ」
寂しそうに笑う欧州局氏。ウクライナの草原に広がる惨状を前にしたら、簡単に2学期を始める国際環境でないことは明らかだ。(
産経より抜粋)
日韓関係、新たな50年を “みそぎ”終えた朴大統領 黒田勝弘
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が8月15日の「光復節記念演説」で日韓関係について初めて未来志向的な話をした。来年が日本との国交正常化50周年になるため、それに向け日本との関係を改善し「新しい50年」をめざそうというわけだ。
それには「日本の政治指導者の知恵と決断を期待する」といういつもの日本への注文はついていたが、それでもどこかホッとさせられた。大統領就任から1年半、個人的には期待が大きかったこともあって「彼女が反日であるはずはない、ここにきてやっと心がほぐれたか…」との思いだ。
朴大統領は国内ではいろいろな場面で国政のあり方として「非正常の正常化」を国民に約束し、訴えてきた。大統領就任後、これほど長期間、日本の首脳と会談しないというのは異例中の異例の「非正常」だ。一日も早く正常化してほしい。
1965年の日韓国交正常化は父・朴正煕(チョンヒ)大統領が心血を注ぎ、政治生命をかけて決断した。実現に際しては国民の強い反対を戒厳令で押さえている。過去の恨みは棚上げしたのだ。朴正煕は当時の心情を自著『民族の底力』(日本語版、1973年、サンケイ新聞社刊)でこう書いている。
「われわれとしては簡単には反日感情をぬぐい去ることができなかったし、解放以来ずっと反日教育および反日思想が強調されてきただけに、親日外交に対し一般国民、有識者、学生から強い反対がでてくることは十分にありうることであった。(略)そのようななかでもわれわれは、ただ遠い将来に目を向けて、国家の永遠の発展のためだとの信念の下に、日本との国交回復を進めていった」
余談だが、この本が出た当時、日本の多くのメディアは朴正煕政権に対し「暗黒の軍事独裁政権」として否定的だった。産経新聞がほぼ唯一、その経済発展と近代化を高く評価していた。朴正煕の著書など見向きもされない時代に、産経新聞社から出版されたのはそのせいである。筆者は他社(共同通信)の記者だったので当時の雰囲気をよく覚えている。
あれから40年、日本ではまた韓国に対する否定的見方が広がっている。今回は日本との関係悪化からだ。産経新聞も韓国の過剰かつ執拗(しつよう)な反日には批判的だ。しかし歴史認識の違いというすぐには解けない難題はしばし棚上げし、反日が目的ではない女性の人権、人道問題としての慰安婦問題ということなら、日本は韓国と手を握り、肩を組めると思う。
今回、韓国側で「日韓国交正常化50周年」の話が公式に出されたのは初めてだ。「日本との協力」という父の決断は、その後の韓国50年の発展の基礎になった。娘・朴槿恵大統領もまた、父のように将来を見つめた決断で、新たな韓国および日韓関係発展の50年を切り開くチャンスである。
朴槿恵大統領は中国での抗日義士・安重根記念館実現などで愛国者としての“みそぎ”は終わったと思う。父が受けたような「親日外交」という誤解の矢が飛んでくる恐れはもうない。躊躇(ちゅうちょ)せず一歩踏み出してほしい。(
産経より抜粋)
岡崎久彦氏「日韓関係の悪化、韓国が損する」
安倍晋三首相の外交分野の「家庭教師」と呼ばれる岡崎久彦・元駐タイ大使(84)は「日本の集団的自衛権行使容認は、中国に対するけん制が目的だ。中国は向こう10年間が非常に危険だ」と主張する。岡崎氏は集団的自衛権の行使容認についての理論を形成した安倍首相の諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の中心的なメンバーだ。2004年、自民党の幹事長だった安倍首相と共に『この国を守る決意』という本も出版した。
―アジアでは緊張が高まっているが。
「緊張が高まっているのは日中関係だけだ。日本はむしろ、オーストラリアやインド、東南アジア諸国と前例がないほど良好な関係を維持している。中国が日本を孤立させる政策を展開しているが、ほかの国々は日本と手を組んで中国をけん制している。孤立しているのは中国の方だ」
―北東アジアでは中国と北朝鮮のどちらがより脅威か。
「中国だ。北朝鮮は国力が強くないため、戦争を仕掛ければ自滅につながる。だが中国は過去30年にわたって軍備を増強してきており、その結果がこれから表れることになる」
―集団的自衛権の行使容認も中国のためなのか。
「そうだ。軍隊の保有を禁止している憲法を改正しようというのも、中国をけん制するためだ」
―日本の右傾化が北東アジアの緊張を高めているのではないか。
「右傾化ではなく正常化だ。尖閣諸島(中国名:釣魚島)に対する中国の挑発がきっかけになった。安倍首相も私も、侵略に立ち向かって戦うことができる国家を目標にしている」
―安倍首相が(A級戦犯が合祀〈ごうし〉された)靖国神社を今後も参拝すると思うか。
「安倍首相は1年に1回は靖国神社を参拝すると思う。外交面で利益にならないことは安倍首相も分かっているが、靖国神社への参拝を、先祖の墓参りと同じように考えている。第1次政権(2006-07年)当時に参拝しなかったことに対する罪悪感も抱いているようだ」
―旧日本軍の慰安婦問題を解決する可能性は。
「韓国は慰安婦問題をめぐって法的な賠償を求めているが、安倍首相がそれを受け入れるのは容易ではないと思う。だが、安倍首相が(慰安婦の強制動員を認め謝罪した)河野談話を見直すことはないだろう」
―植民地支配や侵略戦争について謝罪した「村山談話」を見直す可能性はあると思うか。
「来年は第2次世界大戦の終戦から70周年を迎えるだけに、安倍首相が新たな談話を発表する可能性もある。安倍首相は戦前の歴史について「栄光に満ちた歴史」「輝かしかった時代」という信念を持っているようだ。そのような内容が盛り込まれる可能性がある。「東京裁判(極東国際軍事裁判)史観を否定するかもしれない。当時は帝国主義の時代であり、日本はその中で生き残るために植民地支配をした」
―安倍首相の歴史認識が変わる可能性はないのか。
「いくら韓国が圧力を掛けようと、安倍首相の歴史認識は変わらないだろう。(歴史認識を変えれば)むしろ日本の世論が反発しかねない。日韓関係が悪化すれば、韓国が損するかもしれない。日本と安全保障面で協力を強化することが、韓国の国益にもなる」(
朝鮮日報より抜粋)
中東秩序否定する異次元の危機 □フジテレビ特任顧問・明治大学特任教授 山内昌之
現代中東の政治構図の複雑さと混沌は、これまでの世界史でも類を見ないほどである。
最も顕著なのは性格の異なる3つの戦争が同時進行していることだ。「第3次ガザ戦争」は、パレスチナ人の自決権とイスラエルの安全保障をめぐる対立が高じた衝突であるが、シリアの内戦はアラブの春に起因する反アサド政権の運動が発展したものだ。しかも、スンニ派中心の運動内部でも内戦が生じ、最も極端な組織「イラクとレバントのイスラム国」(ISIL)はイラクの領土にまたがる作戦を展開した。内戦の中に内戦が入れ子になっている二重戦争の複雑さの中で、今回の湯川遥菜氏の拘束事件が起きたのである。
◆「文明内衝突」の構図浮上
ISILはシーア派のマリキ氏からアバディ氏へのイラク首相承継の混乱に乗じ、両国を横断する形でイスラム法に基づく「国家」を樹立し、シーア派政権と正面戦争に入った。現在の中東をはじめとする国際秩序の基本原理と、第一次世界大戦の戦後処理に由来する国境を大胆に否定している。
地名を外し「イスラム国」(IS)と称するのは、もともと7世紀に政教一致の教団国家として成立したイスラム共同体の正統的な継承者たることを誇示したいからであろう。実際、最高指導者は預言者ムハンマドの代理人を意味するカリフの称号を僭している。
ISの論理に従えば、国民国家の主権回復に拘(こだわ)るパレスチナや、自らと対立するイラン・イスラム共和国のナショナリズムも、既存の国境に拘る限りで問題が多いのである。IS創設で鮮明になったのは、中東というイスラム世界の中心で頻発する暴力やテロや内戦が、ハンチントンの言う文明間の衝突でなく文明内の衝突の原因と結果になっているという構図だ。
しかも、その衝突は多元的な要素が複雑に絡み、今後の中東情勢の混沌をますます深めるだろう。
問題は、神の啓示やムハンマドの言を誰でも政治的立場を正当化する根拠として利用する限り、争いは延々と続くという点にある。
◆紛争のルール複雑に変えた
例えば、イスラムの伝承集成には預言者の一教友による次の言葉が紹介されている。「もはや(シリアへの)移住はなく聖戦あるのみだ。シリアへ行って、そこに何かあるならば命をかけて戦え。さもなければ帰りなさい」(牧野信也訳『ハディース』中巻)。ISに限らず、シリアの二重戦争に参加したアラブ人などイスラム教徒には、この伝承を頼りにする者も多いだろう。だが、失業と出生率の高さが若者を死への旅路に導く現実はあるにしても、日本人男性の拘禁や非イスラム教徒女性の性的拉致は断じて許されない。
スンニ派の純化した原理主義集団のISは、聖地メッカの守護者ながら米国に庇護(ひご)されたサウジアラビアを許せず、アラウィ派のアサド政権を支援するシーア派国家イランに寛容ではいられない。ISからすれば、王制国家であれ共和制国家であれ、西欧の国際法と帝国主義の分割原理を前提にした中東の枠組みを認められない。
結局、現下の中東情勢の構造的特徴は、紛争のルールが複雑に変わった点にある。国家と国民の在り方に根本的な変改をもたらすISの主張は、パレスチナの民族自決権をめぐるガザ地区のハマスとイスラエル政府の対立とは別次元のものだ。レバノンからイラクにまで及ぶISの国家否定の論理は、サウジとイランとのイデオロギーや湾岸安全保障をめぐる伝統的対立とも異質な性格を持つ。
◆イスラム国の台頭は米失策
いずれにせよ、ISがシリアとイラクで予想外の力をつけ、遂(つい)に米軍のイラク再関与を余儀なくさせたのは、オバマ米大統領の外交失策に他ならない。遅すぎて少なすぎる反アサド勢力への援助決定や、イラクのキリスト教徒やヤズィード教徒を棄郷や孤立に追い込んだ優柔不断さは、ガザのパレスチナ人児童や弱者の悲劇無視と並んで、オバマ政権に潜む一国主義外交の冷淡さ、ヒューマニティーの希薄さと無縁ではない。ISがイラクで政治の真空に乗じられたのは、米国政府が選挙など民主化の形式整備に執着するあまり現地住民の間で権威と信頼を持つ勢力の育成に失敗したからである。
ただし、この限界はイランとても同じことだ。両国とも、ISの支配に帰した北東シリアや北西イラクの問題処理を、遠いテヘランやワシントンの政治力学と利益を計算して考えすぎる。違いは、ISの脅威をいち早く認識したイランが迅速に動いてアサド政権を蘇生(そせい)させたのに、オバマ氏の動きがあまりにも緩慢すぎたことだ。
米国やアラブの言う穏健派とは現地で正統性と信頼感を持つ責任主体と同じではない。ISのような組織の根絶には、市民生活の破壊やカオスを許さない、権威ある現地の人士や健全な正統性を帯びた組織の育成が必要なのだ。しかし、ひとたび内戦や戦争が起きれば、歴史と時間をかけて維持してきた穏健な知恵も経験も消え去ってしまう。これこそ、現在起きている中東の悲劇の本質である。(
産経より抜粋)
“サムライの帰還” 日本の右傾化を豪公共放送が報道 更新日:2014年8月25日
第2次安倍政権誕生以来、日本の右傾化とナショナリズムに関するニュースが頻繁に見られるようになった。海外メディアから日本はどのように見えているのだろうか。
【新ナショナリズムの出現】
アメリカのロヨラ大学客員教授で、東アジア経済の専門家、デニス・マコーナック氏は、ウェブ紙『ディプロマット』に寄せた記事で、日本の変化を説明する。
同氏は、第二次大戦中、アジア各国で多くの人々が日本軍の犠牲となったことは、今も忘れられてはいないと述べ、戦後の日本は、平和主義を貫いている国と考えられているが、日本のナショナリズムを感じさせる行いは、常に非難されてきたと指摘する。
ところが、北朝鮮の核の脅威や、中国の経済的、軍事的台頭で、多くの日本の団体は、自衛隊の役割の限界を問題にし始めた。これが、今までの「札束外交」から脱却する動きの前兆になりえる新しいナショナリズムを育て、日本の外交政策の選択肢についての、激しい議論に繋がったと同氏は分析する。
【やはり右傾化?】
オーストラリアのABCの番組『Foreign Correspondent(外国特派員)』は、日本の右傾化をテーマに番組を制作。番組の内容をまとめた、「サムライの帰還:中国の脅威を前に平和憲法を手放す日本」と題する記事を掲載している。
番組は、航空自衛隊の施設を取材し、中国機への緊急発進等による現場の緊張感の高まりを報じつつ、安倍政権下で防衛費が増額されたこと、近年防衛大学校の志願者が増加したことなども伝えている。
また、日本国内での右翼グループの台頭や、侵略戦争を認めない田母神俊雄氏が、都知事選に出馬し、若い世代から多くの票を得たことも紹介し、ナショナリズムの高まりを示唆している。
【過去を受け入れたうえで】
マコーナック氏は、ジョージ・オーウェルの『ナショナリスト覚書』の「ナショナリストは、自身の側によって犯した残虐行為を非としないだけでなく、それを聞きさえしないという驚くべき能力を持っている」という言葉を引用し、近隣諸国が、日本の変化を認めない理由は、「長い植民地支配の間、間違いを犯したと日本人が認めない」からだと指摘する。
同氏は、日本の新ナショナリズムは、過去の出来事を良いことも悪いことも認識して受け入れ、未来における国際社会でのあり方にフォーカスすべきだとする。戦後の経済的成功や、他国との平和的共存など、日本には誇るべきことがたくさんある。これを続けることで、日本は地域と国際社会で尊敬されるリーダーになることができると、同氏は述べている(『ディプロマット』)。(
ニュースフィアより抜粋)
カシミールで印パが銃撃戦、4人死亡 双方が非難合戦
(CNN) インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方の国境地帯で23日未明、両国の治安部隊が軍事衝突し、民間人ら少なくとも2人の死者がそれぞれ出たと発表した。
国境警備に当たるインドの民兵組織はパキスタン軍が国境地帯で銃を発砲し、迫撃砲を撃ち込んだと主張。この攻撃で父と8歳の息子が死亡、4人が負傷したと述べた。インド側が挑発行為を仕掛けたとの事実はないとも付け加えた。
今回の衝突で、国境地帯の住民1000人以上が避難したという。
一方、パキスタン軍は両国間で断続的な銃撃戦が起きたことを認め、インド側の一方的な攻撃が原因と非難した。発砲はシアルコット近くの停戦ライン近くで発生し、民間人の女性と60歳男性が殺害されたと述べた。
カシミール紛争は、共に核保有国である両国間の最大の外交懸案で、過去には複数の戦争勃発の原因ともなった。2003年11月には停戦協議で合意したが、分離主義勢力などが絡む国境周辺での衝突はその後も絶えなかった。
関係改善に向けた外交努力も試みられたが、テロ事件の発生などで頓挫している。最近ではパキスタンの駐インド大使がインドのカシミール分離独立派指導者を意見交換の場に招いたことがわかり、今月25日に予定されていた両国の協議が延期となった。(
CNNより抜粋)
インド・モディ首相、日本滞在を延長か “中国へのシグナル”と現地紙報道 更新日:2014年8月25日
15日、外務省はインドのモディ首相が今月31日〜9月3日の日程で来日し、9月1日に安倍首相と会談を行うと発表した。
海外メディアは日印首脳会談において、日本からインドに対する、民間レベルでの原発輸出や、海上自衛隊の救助飛行艇「US2」の輸出問題が取り上げられるだろうと述べるほか、以下のような点に注目している。
【訪日は30日?】
インドの日刊紙ザ・タイムズ・オブ・インディアは、モディ首相のインド出発はインド政府の発表と異なり30日で、日本滞在が1日延びることになった、と報じている。
モディ首相は「東京から離れたもう1つの都市」も訪れるだろう、と25日付の同紙は報じ、「訪日延長は中国に対する明確なシグナルの可能性がある」と述べる。
というのも同紙によれば、前任のマンモハン・シン首相も2013年の訪日直前に滞在期間を延ばす決定を行ったのだが、インド政府が公式には関連性に言及しなかったものの、それは中国軍がラダクに侵入した時期だったという。
【外務・防衛協議を格上げ】
インド紙エコノミック・タイムズは、日印両国政府がそれぞれ、外務・防衛当局による次官級対話を格上げし、閣僚級協議を創設する方向で調整に入ったと報じている。
日本が外務・防衛閣僚級協議を行っているのは、アメリカ、ロシアほか数か国のみであり、これが実現すれば、モディ首相訪日のハイライトの1つになるだろう、と同紙は述べる。
【防衛協力協定も】
英デイリーメール紙は、モディ首相の来日中に日印両国は、「防衛協力協定」を締結するだろうと報じている。
覚書(MoU)の性格を帯びる本協定によって日印両国は、防衛装備品の購入や生産に関する協力の枠組みを整えることになり、やがては合同演習も可能になるだろうという。
同紙は、中国のせいで東アジアの治安が悪化していると主張する日本政府は、集団的自衛権の行使を可能とするような平和憲法の解釈変更を行い、様々な国々との間で、アメリカを含めた三国対談を確立している、と述べる。
一方、インドにとっての課題は、自国の利益となるようなバランスを保つことである、と同紙は見る。
海外メディアはいずれも、訪日の数週間後にモディ首相が、中国の習国家主席を招くことになっている、と報じている。(
ニュースフィアより抜粋)