2014/03/28
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日本、北朝鮮との対話姿勢崩さず ミサイル「ノドン」発射には厳重抗議のみ 更新日:2014年3月27日
北朝鮮は26日未明、日本海に向けて、中距離弾道ミサイル「ノドン」2発を発射した。ノドンの発射は2009年以来5年ぶり。各国への事前通知も行っていなかった。
ミサイル発射のタイミングは、オランダ・ハーグの「核安全保障サミット」に伴って実施された、日米韓首脳会談の最中であった。首脳会談のテーマは、まさに北朝鮮核問題などへの対応であり、こうした動きへ北朝鮮が強く反発したとみられる。
【国連安保理で協議へ】
国連の安全保障理事会は、28日に緊急会合を開くことを決めた。安保理決議に違反した北朝鮮のミサイル発射に対し、非難声明などを協議するとみられる。
ただし、朝日新聞などによると、北朝鮮への追加制裁を明確に求めている理事国は現時点でないという。
【米韓の反応】
米国務省のハーフ副報道官は、ノドン発射に対し、「この挑発に対して適切な措置を取るため、国連安全保障理事会を含め、同盟国やパートナーと緊密に協議をしている」と声明。対抗措置の可能性を示唆した。
韓国国防省の報道官は、北朝鮮の行為を「明らかな国連決議違反だ」と非難し、「北朝鮮は挑発行為をただちにやめるべきだ」と主張した。
ノドンが発射された3月26日は、4年前に韓国海軍哨戒艦沈没事件が起きた日。魚雷によって46人が死亡したこの事件については、北朝鮮の攻撃が疑われている。
【注目される日朝協議】
日本の岸田外相は、北京の大使館ルートを通じて、北朝鮮に厳重抗議を行った。
ただ、30日から予定されている北朝鮮との局長級協議については、「北朝鮮側に強く働き掛けるための貴重な機会になる」との見方を示し、「日程の変更は考えていない」と語ったという。
ロイターによれば25日、北朝鮮の徐ジュネーブ国連大使は、日本が解決を求める拉致問題に対し、既に解決済みとの認識を示した。加えて、日本に対して、「植民地支配時代に840万人を拉致したこと」や慰安婦問題への補償と解決への努力を求めたという。
北朝鮮はノドンを発射する以前から数週間にわたり、数多くの短距離ミサイルを発射していた。大使は、米韓合同訓練に合わせたものかという質問に対し、「我々が何もしなければ一体どうなるだろう。だから訓練を行った。我々にとっては普通の訓練である」と答えたという。(
ニュースフィアより抜粋)
北の弾道ミサイル 毅然と局長級協議に臨め
日米韓首脳会談の開催に合わせ、北朝鮮が発射した弾道ミサイル「ノドン」は最大射程1300キロで日本のほぼ全域を射程に収める。わが国の安全を根底から脅かす暴挙を許してはならない。
国連安全保障理事会が北朝鮮にすべての弾道ミサイル開発計画や発射を禁じた決議違反として緊急会合を開き、非難声明を出す方向で調整に入ったことも事態の重大さを示している。国際社会として、改めて北朝鮮に自制を求める圧力を高めなければならない。
日本政府が外交ルートを通じて北朝鮮に厳重抗議したのは当然だが、30日からの日朝局長級協議での対応が極めて重要である。
協議を予定通り開催する理由について、菅義偉官房長官は「拉致、核、ミサイルの諸懸案を包括的に解決したいとの安倍晋三政権の思いがある」「協議の中で堂々と抗議する」などと語った。
今月中旬には、拉致被害者の横田めぐみさんの両親、滋さん、早紀江さん夫妻と、めぐみさんの娘、キム・ウンギョンさんの面会が実現し、対話の機運は高まっている。北朝鮮が「解決済み」としてきた拉致事件の進展への被害者家族の期待も大きい。
政府が対話の機運を逃したくないと考えるのは理解できる。しかし、ミサイル発射を協議の場で直接抗議しても、北朝鮮側が非を認め、謝罪するだろうか。そもそも拉致問題で北朝鮮が再調査を確約する保証などもない。
北朝鮮は、金正恩第1書記の側近だった張成沢元国防副委員長の処刑以降、中国との関係が悪化して孤立を深めているとみられる。日本との対話に積極性をみせる背景にもなっているのだろう。
だが、協議相手の方角にミサイルを撃つような国と、経済協力に関するまともな話し合いなどできない。その点を曖昧にして協議を進めてはならない。平成24年12月、北朝鮮が弾道ミサイル発射を予告した際には、当時の民主党政権は局長級協議を延期した。
交渉の主導権を握られることなく、北朝鮮の対応次第では協議の打ち切りも辞さない毅然(きぜん)とした姿勢で臨む必要がある。
今回のミサイル発射を自衛隊レーダーはとらえていたというが、政府から国民への説明は足りない。夜間の予告なしのミサイル発射にどう対応していくかという具体的な検討も不可欠だ。(
産経より抜粋)
日米韓首脳会談で寂しくなった?金正恩
このタイミングで中距離ミサイル発射に踏み切った金正恩の心理を読み解く
2014年3月27日(木)17時28分 ジェフリー・ケイン
北朝鮮の短距離ミサイル発射実験が時折ニュースになるのは、今に始まったことではない。だが2月下旬以降、その頻度が劇的に高まっている点は注目に値する。ロケット弾や短距離ミサイルがまるで打ち上げ花火のように相次いで発射され、3月22日には日本海に向けて短距離ミサイル30発が試験発射された。
北朝鮮の挑発的な行為は、ここにきてさらに加速している。3月26日、「ノドン」とみられる中距離弾道ミサイル2発が平壌の北から発射され、朝鮮半島を横断して日本海に落ちた。国連安保理は緊急会合を開き、国連安保理決議への違反を非難する声明を出す見込みだ。
北朝鮮はまだミサイルに搭載可能な小型核弾頭の開発に成功しておらず、ノドン発射は深刻な脅威にはならないというのが、大方の専門家の見方だ。とはいえノドンの射程は約1300キロあるため、理屈の上は日本のほぼ全域が射程圏内に入り、国内の米軍基地を狙うこともできる。
金正恩(キム・ジョンウン)はなぜ、このタイミングで中距離ミサイル発射に踏み切ったのか。正確な理由を外部から言い当てるのは不可能だが、北朝鮮にとって不都合な事態がいくつか進行していたタイミングと一致するのは確かだ。
1つは、朝鮮半島の有事に備えて毎年行われている米韓合同軍事演習が、今年も2月下旬に始まったこと。北朝鮮は北への侵略の準備だとして、演習の実施に激しく反発している。また3月26日は、韓国の海軍哨戒艦が北朝鮮の魚雷によって沈没させられたとされる日からちょうど4年の節目でもあった(北朝鮮は関与を否定)。
3月25日にオランダ・ハーグでバラク・オバマ米大統領と日本の安倍普三首相、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が会談したことが、北朝鮮を刺激した可能性もある。オバマは北朝鮮の核の脅威に対して、3国が「共同戦線」を取ると宣言した。
日韓関係はこの1年ほど急速に冷え込んでおり、日米韓の現在のトップが顔をそろえるのは初めてのこと。安倍が12年に首相に返り咲いて以来、韓国は日本の歴史認識をめぐって反発を強めているが、アメリカは日韓の溝が深まることで北朝鮮の脅威や中国の覇権に対抗できなくなる事態を恐れていた。
もう1つの可能性は、北朝鮮が国際社会の注目を取り戻したかったというものだ。ウクライナ情勢やマレーシア機行方不明事件に国際世論の関心が集中するなか、金政権は世界から「忘れ去られた」ような感覚をいだいたのかもしれないと、北朝鮮問題に詳しいオーストリア国立大学のレオニド・ペトロフは指摘している。(
ニューズウィークより抜粋)
安倍政権が核燃料をアメリカへ「返却」した理由 2014年03月27日(木)12時59分
オランダのハーグで行われていた核安全保障サミットに関しては、同時に実現した日米韓の3カ国首脳会談のことばかりが話題になっていましたが、「本論」であるべき「核」に関しても、日本に関わる動きがありました。
日本の安倍政権は、東海村の実験装置の高濃縮ウランとプルトニウムをアメリカにすべて返還することで合意したのです。その一方で、これとは別に日本が大量にプルトニウムを保有していることへの批判が、各国の記者からの質問という形で安倍首相に向けられたという一幕もあったようです。
まず、基本的な問題として、どうして日本がプルトニウムを保有していることが国際社会で問題になるのでしょうか? これは、いわゆる核兵器保有5大国(=国連の常任理事国)「以外」で、核兵器に転用可能な大量のプルトニウムや濃縮ウランを「正式に」保有しているのは日本だけだからです。
この「正式に」というのは、IAEA(国際原子力機関)とNPT(核不拡散条約)、そして2カ国同士の原子力協定という枠組みの中で承認された形で保有しているという意味です。勿論、イラン、北朝鮮、イスラエル、パキスタン、インドといった「核不拡散の枠組み」から逸脱した存在として、プルトニウムもしくは濃縮ウランを持っている国はあるわけですが、そうではない、つまり「正式に」大量に持っているのは5大国以外では日本だけです。
では、どうして日本の場合は認められてきたのかというと、それは日本が「核燃料サイクル」を政策として決定し、国際社会に対して宣言して承認してもらっているからです。この核燃料サイクルというのは使用済み核燃料を再処理して得られるプルトニウムを、2つの方法でエネルギー源として「再利用」するという構想です。
一つは、MOX燃料と言って、濃縮ウランにプルトニウムを混ぜて、通常の原子炉で燃やすというもので、和製英語では「プルサーマル」と言われて既に実用化しています。もう一つは、プルトニウムを使った高速増殖炉という技術の実用化を目指した動きです。
ですが、現在の日本では、プルサーマルを含めた原発の再稼働には世論が大変に慎重になっています。また、高速増殖炉の実験炉「もんじゅ」に関しては周辺技術の運用ミスが重なる中で多くの批判を浴びているのが現状です。本当は冷却材にナトリウムを使った「もんじゅ」が失敗だとしても、
冷却材をビスマスに変更して再設計(大型化は無理みたいだがいろいろ使えそう)することには十分に意義があるとは思うのですが、政治的には困難が伴うでしょう。
いずれにしても、日本の現状としてはプルトニウムを持っていても「使っていないじゃないか」ということになるわけです。そうなると、日本に対して批判をしたいと思えば「核兵器保有を企図している」という言い方が出来てしまうことになります。
では、今回の安倍政権の動きはどういう意味があるのかというと、とりあえずそうした海外の懸念を受け止めているというメッセージにはなったと思います。勿論、日本が核武装する懸念などというのは、根も葉もない話ですが、余計な批判を受けるような問題は抱えておかない方が良いわけです。
では、どうしてアメリカに処分を依頼するような形で「返却」したのでしょうか? また、その「返却」の申し出について、オバマ大統領はどうして大きく評価をしたのでしょうか? これだけのニュースを見ると「日本はアメリカの子分だから、危険なプルトニウムは親分のアメリカに返さなくてはならない」というニュアンスで受け止める向きも出てくるかもしれません。
ですが、それは違うと思います。
これは、アメリカのエネルギー政策の現状に沿った動きであり、日本がアメリカの子分であるから「プルトニウムを減らせ」とアメリカに言われているのでありません。なぜならば、アメリカ自身も保有しているプルトニウムを減らそうとしているのです。
例えば、先ほど申し上げた「MOX燃料」に関しては、アメリカは「プルサーマル機」の商用運転などの実用化はしていませんでした。ですが、長期的なエネルギー戦略の中で実用化を模索はしていたわけで、実際にサウスカロナイナ州で「MOX燃料工場」の建設プロジェクトがスタートしていたのですが、これを今年の3月に「中止」するという決定が出ています。
オバマ政権は、久々に原発の新設を認可して東芝=ウエスティングハウス社のAP1000という最新世代の原子炉によるジョージア州の発電所が着工されています。ですが、一方ではシェールオイルなどの産出が増える中で、一層のエネルギー自立、エネルギー多様化が進んでいます。そんな中、先進性はあっても当面の採算性の見通しのないMOXは断念するということになりました。
では、どうしてアメリカは日本にもエネルギー政策への同調を求めているのでしょうか? これは日米関係の中で、こうしたエネルギーや安全保障に関する重要な点では歩調を揃えたいということもありますが、もっと単純な話として「全世界のプルトニウム総量をとにかく減らしたい」という政策を推進しているからだと考えられます。
そんなわけで、少なくともアメリカは「親分だからいくらでもプルトニウムが持てる」一方で、日本は「子分だから不要なプルトニウムは手放さなくてはならない」というような非対称な話ではありません。
現在の国際社会では、核不拡散というのは大きなテーマであり、とりあえず中国もロシアも入った形で、IAEA=NPTの体制というものが機能しています。その一方で、北朝鮮やイランにおける核開発の動きがあり、また盗難によって核物質がテロリストの手に渡る危険性なども指摘されています。そのような危機意識の中で、今回の「核燃料の返却」という判断があったと理解できます。(
ニューズウィークより抜粋)
首相「力を背景に現状変更の試みが」 3月28日 4時24分
安倍総理大臣は27日夜の民放のラジオ番組で、ウクライナ情勢を巡って開かれたG7=主要7か国の首脳会合で、「アジアでは中国の存在が極めて大きく、東シナ海や南シナ海でも力を背景にした現状変更の試みが行われている」と発言したことを明らかにしました。
安倍総理大臣は、ウクライナ情勢を巡って、今週、オランダで開かれたG7=主要7か国の首脳会合に出席し、ロシアによるクリミアの編入は容認できないという考えを示し、G7として対話などを通じて外交的な解決を目指すことを確認しています。
安倍総理大臣は27日の夜に放送された民放のラジオ番組で、G7の首脳会合での発言について、「アジアでは台頭する中国という存在がある。中国の存在は極めて大きく、東シナ海においても南シナ海においても力を背景にした現状変更の試みが行われ、挑発行為が行われている。そのことをファクトとして紹介した」と述べました。そのうえで安倍総理大臣は、「国名は挙げないが、参加国の首脳から基本的に私と同じ認識が示された。まさに特定の国を挙げての認識の表明があった」と述べました。さらに、安倍総理大臣は首脳会合の場で、「ロシアが経済制裁に対し無責任な報復をするかもしれない。そうした形になっていくことで世界経済にどういう影響があるかも、よく議論しておく必要がある」と発言したことも明らかにしました。(
NHKより抜粋)
【宮家邦彦のWorld Watch】「併合」に煮え切らない中国の身勝手な理屈
おかげさまで最近は海外出張よりも国内出張の方が多くなった。外務省時代には考えられなかったことだ。日本には素晴らしい市町村がたくさんある。改めてすごい国なんだと実感した。
初めて訪れる街も少なくないが、佐世保(長崎県)は日米安保・地位協定を担当していた頃、何度もお邪魔した。ここには海上自衛隊と米海軍の基地があるが、日米同盟に対する市民の理解は日本一かもしれない。
先週ロシアはクリミア編入手続きを正式に完了し、欧州大陸の戦略環境は激変した。佐世保には17日に入ったが、その前日にはクリミアで住民投票があり、ロシア編入案が圧倒的多数で支持された。さらに、前々日の15日には国連安保理で住民投票を無効とする決議案がロシアの拒否権で否決された。従来ならロシアに同調する中国はなぜか今回棄権している。その理由を長崎でずっと考えていた。
筆者の見立ては、中国にとって苦渋の選択だったはず、ということだ。「全ての国の主権と領土的統一を尊重すべし」というのが中国の公式見解。されば決議案に賛成するはずだが、中国は賛成できない。賛成すれば、中国は「力による現状変更は認めない」との欧米の主張に同調することになるからだ。西と東、陸と海とで状況は異なるが、中国が南シナ海・東シナ海で試みているのはロシアと同じ「力による現状変更」に他ならない。決議案に賛成すれば論理矛盾に陥ることを中国自身が理解しているのだろう。
それではロシアと同様、拒否権を発動すればよいのかというと、必ずしもそうではない。ロシアに同調すれば中国はロシアが主張するクリミアのロシア系住民の「民族自決権」を認めることにもなるからだ。国内少数民族の民族自決権を根拠とする外国からの軍事干渉を容認すればウイグル、チベットなど中国国内の少数民族問題に及ぼす影響は甚大だ。中国側の主たる懸念はここにあったに違いない。
中国は欧米の「ダブルスタンダード」と「力の空白を利用した内政干渉」をも批判するが、中国に言われる筋合いはない。ベトナム戦争当時、中国はベトナムの民族自決を支持したではないか。ウイグルとチベットにおける力の空白を利用して両地域を編入したのは中国ではないか。ここでも中国の主張には根拠がない。今回は棄権して沈黙を守り、欧州情勢の行方を見極めたいということだろうか。
前回のコラムでは「クリミアは日本にとって対岸の火事どころか、欧州・中東・東アジアの将来を左右する戦略的問題」と書いた。改めてこのことを佐世保で考えると、この港町が東アジアでの「力による現状変更」という潜在的脅威の最前線の一つであることが見えてきた。その象徴が日米海軍基地であることは間違いない。だが、佐世保にはもう一つ重要な部隊がある。それが「セイフレン」だ。
正確には「西普連」、陸上自衛隊の「西部方面普通科連隊」である。西普連は今まで筆者が見たどの部隊とも異なる特徴を持っている。それは一種の突然変異、すなわち「陸上生物」が突然水陸両用の「両生類」となることを求められているからだ。主要任務は島嶼(とうしょ)防衛。両生類化が始まって既に12年、隊員に課される訓練は半端ではない。重装備のまま泳ぐことはもちろん、隠密裏の水路潜入など、これまでの陸上自衛隊とは全く別の技能を日夜磨いているらしい。
相浦(あいのうら)駐屯地内ですれ違った若い隊員たちの顔は、お世辞抜きで、どれも輝いていた。厳しい訓練を耐え抜いた自信と矜持(きょうじ)に満ちていた。これと同じ強者たちを米国バージニア州の海兵隊基地で見たことがある。関係者によれば、米国との違いは歴史と装備だけだそうだ。こんな精鋭部隊を拡充することも日本が「力による現状変更」を抑止する鍵の一つである。(
産経より抜粋)
アメリカで叫ばれ始めた「台湾放棄論」中国に統一されるのは避けられない流れ?
2014.03.27(木) 阿部 純一
中国の台頭に伴い、近年では米国内に「台湾放棄論」とも言える議論が散見されるようになってきた。
1979年の米中国交樹立以来、台湾問題は常に米中関係の「のどに刺さったトゲ」のようなものであった。端的に言えば、米国が「台湾関係法」に基づいて台湾の防衛に必要な兵器を売却するたびに米中関係がギクシャクしてきた。そうした状況が緩和されてきたのは、台湾で馬英九政権が誕生し、中台の関係が劇的に改善されてからである。
そこから、なぜ米国内での「台湾放棄論」が出てきたのか。1つには重要さを増す米中関係を良好な状態で維持する上で、米国にとって台湾の存在が邪魔になったとは言わないまでも、面倒くさくなったことが指摘できる。
さらに言えば、中台の改善が進展した先に、平和的な「統一」の可能性を感知し、米国が台湾から手を引くチャンスが来たということもあるだろう。
研究者、学者たちによる台湾放棄論
ポートランド州立大学のブルース・ギリ―は、「フォーリン・アフェアーズ」誌(2010年1~2月号)に寄稿し、台湾の「フィンランド化」、すなわち安全保障の後ろ盾を米国から中国に移行させることが米国の国益にかなうと論じた。
カーネギー国際平和財団のマイケル・スウェインは、米国が台湾への兵器供与を決めるたびに繰り返される不毛な米中対立の危険性から、米国が仲立ちして中台の信頼醸成を促し、台湾への兵器供与を控えるべきだと2011年に書いた論文で唱えている。
同じ年にジョージ・ワシントン大学のチャールズ・グレイサーなどは、もっと直接的に、台湾から手を引くことが米中関係改善に寄与すると論じていた。
確かに、中国の強大化に歯止めがかからないなかで、馬英九政権によって中台関係が改善し、中台の「平和的共存」が眼に見える形で実現しつつあるかに見える。そこに、中台の問題解決を平和的に進めるべきだと主張してきた米国が介入する余地は見当たらないことが指摘し得る。
米国の台湾擁護派の学者・ナンシー・タッカーは、早くも2002年の時点で「台湾が『統一』を選択した場合、米国にそれを妨げるオプションはほとんどない」と述べていた(「ワシントン・クォータリー」2002年秋季号)。
中台統一が合理的な選択と論じるミアシャイマー
今回、ここで論じる「台湾放棄論」は、これまでの議論と論点が異なる。議論の対象として取り上げるのは、シカゴ大学教授で、歴史研究をバックボーンに「攻撃的現実主義」の国際政治論を展開するジョン・ミアシャイマーが、「ナショナル・インタレスト」誌(2014年3~4月号)に寄稿した「台湾に別れを告げよう(Say Goodbye to Taiwan)」という論文である。
ミアシャイマーは、大国間政治の歴史に立脚した将来展望として台湾の運命を論じている。単なる政策論ではなく、将来の米中関係がどのようなものになるかという観点に立って台湾の選択肢を検討し、次のように結論づける。
台湾は、独自の核保有が米中の反対もあって不可能であり、自らの通常戦力による抑止力強化も、防衛の戦争が台湾領土で戦うことなどを考えれば損害が極めて大きい上に、最終的に勝ち目がない。よって、香港型の高度な自治権を確保した形で中国との統一を図ることが、台湾にとって合理的な選択となる、としているのである。
今後10年以上、中国の台頭は続く
論文の内容を適宜紹介し、特徴的な論点を分析してみることにする。
彼の考察の前提は、今後10年以上中国の台頭が続けば、台湾が現在享受している「事実上の独立国家」であるという「現状を維持すること」が困難になるだろうということである。
台湾住民の意思は、中国に「統一」されることを支持せず、基本的に「現状維持」を志向し、チャンス(つまり中国が台湾の「独立」を認める機会)があれば、「独立」を目指すというものである。しかし、中国がそれを認める可能性がない状況に加え、米国が中華人民共和国を唯一の正統政府であるという「1つの中国」政策にコミットメントしている事実に照らせば、台湾の「独立」はあり得ないことになる。
中国の「台湾統一」願望は、中国にとって台湾が常に「神聖な領土」であったとするナショナリズム的側面と、中国が台頭するなかで、アジアでどのように振る舞うかに関わる安全保障的側面から説明し得る。
ナショナリズムについては多言を要さないが、中国共産党の「統治の正統性」にも関わってくる問題である。安全保障的観点については、歴史的に見た大国間政治の理論に従って予見すれば、米国が19世紀にヨーロッパ列強を西半球から追い出したように、中国はアジアから米国を追い出し、地域覇権国家を目指すだろうと予見している。
米国が台湾を手放すべきではない理由
以下はミアシャイマーの観点である。
中国が台湾を統一することによって得られる戦略的利点は、第1に台湾の経済・軍事的資源を取り込むことで、アジアにおけるパワーバランスを、中国にとってさらに有利な方向に変化させることができることだ。
そして第2に、中国に隣接した台湾という「巨大空母」を手に入れることによって、西太平洋方面へのパワープロジェクション能力を強化することができる。
このように中国による「台湾統一」が中国に大きな利点を与えることになるとすれば、それを阻止することが米国の利点となるわけだが、台湾はその文脈において、いつまで米国に安全保障を頼ることができるかどうかが問題になる。
米ソ冷戦時代と同様に、米国は台頭する中国に対抗するため、中国からの脅威を共有する日本、ロシア、インド、韓国、ベトナムなどの国と提携し、中国とのバランスを取ろうとするだろう。米国は、台湾がこの提携に加わり重要な役割を果たすことを望むことになる。米国は台湾の戦略的資産を自分たちの側に置き、中国側に渡さないことで戦略的なバランスを取ろうとするのは間違いない。
同時に、米国の台湾に対する安全保障上のコミットメントは、アジア地域における米国に対する信任に大きく関わる。中台間で危機が起こった場合に、もし米国が台湾との軍事的な関係を断ったり、台湾の防衛に失敗したりすれば、アジアにおける米国の同盟国に対し、米国の保護に頼ることはできないという強力なシグナルを送ることになる。その意味からも、米国は台湾の擁護にこだわることになる。
米国が台湾を見放すことになる理由
しかしその一方で、中国に対抗し、バランスを取るための連携に台湾が持続的に参加することは難しい。今後10年以上先に、現在よりも格段に軍事力を強化した中国が台湾を攻撃した場合、米国が台湾の防衛を助けることができなくなっていることが考えられる。地理的に見ても、台湾は中国に非常に近く、米国からははるかに遠い。これは軍事力を投入する場合、中国に圧倒的な優位をもたらす。
しかも、米国は核戦争へのエスカレーションを恐れ、中台危機に際して中国に対し大規模攻撃を仕掛けるのに消極的になるだろう。これも中国を利する要素となる。
将来的に台湾の通常戦力による抑止力が中国に対し有効でなくなるのであれば、米国の「核の傘」を台湾に提供する選択もあるように思えるが、中国によって台湾が侵略されたからといって米国は戦争を核使用のレベルまでエスカレートさせようとはしない。全面的な熱核戦争のリスクを冒すほど台湾の価値は高くないからだ。台湾は日本、さらに韓国とは違うのである。だから、米国は台湾に拡大抑止を適用することはしないだろう。
もう1つ、米国が最終的に台湾を見放すことになる理由は、台湾が米国にとって利益にならない米中戦争を引き起こす危険なフラッシュポイントであることだ。
米ソ冷戦の時のベルリンはソ連の領土ではなかった。その意味でも台湾の戦略的価値はベルリンの比ではない。米中戦争のフラッシュポイントとしての台湾の危険性に加え、将来的に強大化した中国を前に、米国が最終的に台湾を防衛できなくなる事態を迎えるとするなら、米国にとって台湾を放棄し、中国が台湾に統一を強いることを許容することが、良い戦略的センスということになる。
いずれ日本も台湾と同じ立場に?
以上、ミアシャイマーの観点を大まかに紹介してみたが、米国の現実主義学派であるクリストファー・レインの言う「オフショア・バランシング」の議論と類似していることにまず注目したい。
レインによれば、「米国が中国の攻撃から台湾を守るという事実上のコミットメント(誓約)は冷戦の名残である。1950年6月に朝鮮戦争が勃発していなければ、米国は65年近く前に台湾から手を引いていたであろう。中国にとって再統一は最重要課題である。米国にとっては、それを防ぐことに切迫した利害はない。米国はオフショア・バランサーとして、台湾を守るために軍事力は行使しないという立場を明確にする。そうなれば、台湾の政策担当者は、中国との妥協を検討せざるを得なくなるだろう」(「パックス・アメリカーナの終焉後に来るべき世界像─米国のオフショア・バランシング戦略」、「外交」2014年1月号)ということになる。
ミアシャイマーの、台湾の戦略的価値を評価した上で、それでも中国との戦争を避けるために台湾を放棄しなければならないとする議論と比べると、レインの議論は身も蓋もない印象があるが、政策的結論は一致している。
その一方で、米国の戦略家であるエドワード・ルトワックによれば、「中国がその台頭する力を周辺国に対する領有権の主張という形で表現すると、それが敵対的な反応を発生させることになり、影響力(ソフト・パワー)を破壊することになって全体のパワーを減少させることになる」(『自滅する中国』)と論じている。
ミアシャイマーの議論が、中国の将来的な強大化を前提にしているのに対し、ルトワックは強大化し対外的に強硬な姿勢を取る中国に「自滅」の影を見ている。中国に対抗し中国とのバランスを取るための関係国による連携を予想する点では両者は共通するが、ルトワックは中国内部における民衆の不満や軍の発言力増大が政権への圧力となり、政権担当者が外部世界で中国がどう受け止められているかについて十分配慮できていない点を指摘している(実はミアシャイマーも、中国の成長減速や深刻な国内問題が地域覇権国家への道を妨げることになるとの指摘をしている)。
ミアシャイマーの議論は、中国がこのまま大国としてパワーを増大していけば、台湾が中国に統一されることは避けがたいという「大国間政治」の論理によるものである。そこで問題となるのは、台湾を日本に置き換えた時、やはり同様の論理で日本が見捨てられることにもなりかねないということだ。
日本の立場は台湾と基本的に違いがあるのか。米国の軍事力をアジアから排除しようと中国が考えるならば、日本こそがそのためのターゲットとなるのではないか。われわれにとって、東アジア情勢の目前の変化に目を奪われがちになるのは仕方がないにしても、長期トレンドをしっかり把握し戦略的に将来を見据えることもまた重要である。(
JBプレスより抜粋)