9月13日の正午ごろ、ポルトガルのリスボン沖で、イルカウォッチングツアーを楽しんでいた一行が岸に戻ろうとしていたところ、大型のヨットが前後に不規則に揺れているのに気付いた。ツアーを率いていたメルセデス・ベンツ・オーシャニック・ラウンジのマネジャー、ベルナルド・ケイロス氏は、シャチたちの仕業ではないかと考えた。
実際、ヨットを撮影していたケイロス氏は、3頭のシャチがヨットの横を泳いでいるのに気づいた。ヨットは下から体当たりされ、船体に穴が開き、やがて沈没してしまった。
「ツアーをしていると、イルカは98%の確率で現れますが、シャチが現れることはめったにありません」と氏は言う。
ケイロス氏によると、ヨットの乗組員は速やかに救助され、けがなどはなかった。
こうしたシャチの行動は、計算された仕返しというよりも単なる遊びである可能性が高いと、専門家たちは言う。また、イベリア半島沖でシャチたちが船を海底に沈めてしまった事故は、今回が初めてではない。(参考記事:「シャチがまた船に衝突し舵を破壊 「遊びです」と科学者、対策は?」)
シャチは世界中の海に生息しているが、彼らが船に体当たりしたという報告が上げられるようになったのは比較的最近で、現場の大半はスペインとポルトガルの沿岸沖だ。初めて報告されたのは2020年、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸を隔てるジブラルタル海峡でのことだった。その後の報告も、主にこの海域から上がっている。
シャチたちが突然船を攻撃し始めた理由を解明しようとした論文が学術誌「Marine Mammal Science」の2022年10月号に発表されている。それによると、発端は「ホワイトグラディス」と名付けられた成熟したメスのシャチである可能性が高い。(参考記事:「シャチの船への集団攻撃が多発、沈没も、ケガの仕返し? 遊び?」)
ヨットを好んで沈めるホワイトグラディスは、SNSで富裕層への不満を象徴するアイコンとなっている。
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