アラビア半島北部のネフド砂漠で発掘調査を行っていた考古学者、マリア・グアニン氏のチームは、人間、ラクダ、野生のロバ、アイベックス、ガゼル、オーロックス(絶滅した野生のウシ)の岩絵を約130点発見した。なかには高さが2mを超えるものもあった。制作年代は1万2800年〜1万1400年前と推定され、グアニン氏らが2025年9月30日付けで学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に発表した論文によると、年代がわかっているものとしては、アラビア半島で最古の巨大な岩絵だという。
アラビア半島の大部分を占めるアラビア砂漠は、厳しい暑さと、乾いた強風と、水の乏しさで知られ、エアコンや安定した水の供給なしに人間が定住するのは非常に難しい場所だ。
しかし、新たに発見された岩絵には、ひざまずくラクダやガゼルなどの動物と人間の姿が砂岩の表面に実物大で彫られていて、かつてこの乾燥した土地に人々が定住し、岩絵を制作していたことを示唆している。約1万2000年前という年代は、考古学者が従来考えていた値よりも数千年早い。
「アラビア砂漠には、かつては降雨量が増えて草原や湖が広がる湿潤期が何度かあり、そうした時期には人類が集団で定住していたことがわかっています」と、論文の筆頭著者で、ドイツ、マックス・プランク地球人類学研究所のグアニン氏は言う。(参考記事:「サウジアラビアの広大な砂漠はかつて緑の楽園だった、最新研究」)
しかし、極端に乾燥していた約2万5000年〜1万年前に初期の人類がアラビア半島北部に住んでいたことを示す証拠はほとんどなく、この地域は放棄されたと考えられていた。
研究者たちは以前アラビア半島で、8万8000年前のヒトの指の骨の化石と約12万年前のヒトの足跡の化石を発見している。これらの化石は、アラビア半島に緑豊かで湿潤な時期があったことを示唆している。(参考記事:「アラビア半島で8.8万年前の人骨、定説より古い」、「11.5万年前の人類の足跡を発見、アラビア半島最古」)
以前の研究で、約1万1000年〜5500年前にも湿潤期があり、別の研究では、8800年前から7900年前にかけてアラビア半島北部が湿潤期だったことも示唆されている。
新たに見つかった約1万2000年前の岩絵は、「人類が最後の湿潤期の前にこの地域で暮らしていけたこと、そして、彼らが乾燥した過酷な環境でも生き延び、栄えられたこと」を示唆しているとグアニン氏は考える。また、人類の集団が約1万2000年前に再びアラビア半島に住むようになり、一時的に訪れただけでなく定住していた可能性が高いことも示していると言う。
「これは、乾燥期のアラビア半島で人間の集団が生き延びていたことを示す最古の証拠でもあります」とグアニン氏。