ACROSEED お客様インタビュー「外国人社員の定着のためのポイント」 日産スプリング株式会社 代表取締役社長 藤咲 保男氏 / 総務部長 遠藤 正彦氏 に聞く
●キーワード:『“設備”と“人材”だけではない、“技術”が必要』
●日本企業の海外進出のカギ:『人材育成には“終身雇用”』
日産スプリング株式会社は、昭和22年千葉県野田市で創業し、昭和26年12月に現在の法人名称「日産スプリング株式会社」として組織を改め、資本金を増資し、平成4年秋田日産スプリング株式会社、平成17年にNISSAN SPRING(THAILAND)CO.,LTD.設立。同社は、総合スプリングメーカーとして時代のニーズに確実に応えてきた。
スプリングの持つ最大の特徴は、エネルギーの吸収、または蓄える機能を効率よく、しかも安価に確実に果たせる部品である。そのため、産業界のあらゆる場面でスプリングは使われ続けている。日産スプリング株式会社は、これからもスプリングと共に産業の未来の構築に貢献していく。
現在、秋田日産スプリング株式会社で生産している主なスプリングは、ディーゼルエンジン用燃料噴射ポンプに使用されているノズルスプリング、プランジャースプリングなどの圧縮コイルスプリングである。このうちノズルスプリングは極めて高度な製造技術が求められ、日本国内においても数社しか製造できない。また、世界的に見ても供給できるスプリングメーカーは数えるほどであり、同社はその供給責任の高さと同時に顧客からは大変厚く信頼されている。このほか、産業界で求められる多種多様なスプリングを製造することができる。これらは、同社が長年にわたり培ってきたスプリングに関する実績と技術の賜物である。
2012年、日産スプリング株式会社では初めてとなる3名の技能実習生を受け入れるために東京入国管理局へ「在留資格認定証明書」の交付申請を行った。ACROSEEDでは、本交付申請の取次業務を行った。
■Answer/総務部長 遠藤 正彦氏
Question
「貴社で製造しているスプリングは、どのような製品に使われていますか?」Answer/総務部長
「弊社のスプリングは、自動車用の製品が主体で7割程を占めています。自動車用のスプリングというと、自動車の足回りなどのサスペンションをイメージすると思いますが、エンジンまわりの精密部品がメインです。取引先からの品質の要望が高く、高度な技術を要求されます。」
Question
「今回の技能実習生の招へいは、生産拠点をタイ国へ比重を移すことが理由のようですね。」Answer/総務部長
「ええ、そうです。大手の取引先、ドイツ系企業なのですが、その外資系企業の営業方針が変更になり、製品の部品を現地調達したいとの要請がありました。当社でも主要な取引先ですのでそうした要望に対応せざるを得ない状況になりました。もちろん、日本国内生産と比べて品質は落とすわけにはいきません。」
Question
「そうした取引先の事情でこの度の技能実習生の招へいに至ったわけですね。」Answer/総務部長
「日本人を現地に派遣する方法もあったのですが、タイ工場で製造している製品は日本国内生産と比べると、まだそれほど高度な技術を要する製品ではありません。そのため、タイ工場の主力となっているメンバーに日本で技術を修得してもらうことにしました。時間的にも日本人を現地へ派遣するよりも効率がいいということもありました。」
Question
「現在はタイ子会社のほうへは、何名程の日本人従業員が出向されていますか?」Answer/総務部長
「工場長が1名、製造の技術者が3名、その他にも現地採用者が1名おりますので合計で5名の日本人が現地で働いています。」
Question
「現地で働いている日本人従業員は、何年くらいの予定で出向されているのですか?」Answer/総務部長
「3年程を予定しています。ただ、現地の日本人従業員は3年ではとうてい帰国することはできないなぁ…と言っているようですが…。」
Question
「タイの人々の働きぶりはどうですか?けっこうまじめだと聞きますが。」Answer/総務部長
「そうですね、けっこうまじめに働いてくれています。ただ、現地では交代勤務の体制をとっていますが、日本人従業員が働いている目の届くところではまじめに働きますが、日本人従業員がいない時間帯になると仕事の効率が下がってしまうことがあります。
あとはやはり日本人とは文化的な違いもあると思いますが根本的な考え方が違うようで、仕事への責任感が日本人に比べて低いように思います。例えば、日本人であれば納期を守るために社員が一丸となって働きますが、タイの従業員はそういった危機感はあまり感じないようで、納期を守るために社員が一丸となって…というようなことはないですね。
Question
「生産拠点をタイ国へ比重を移すことによって、日本国内の工場の雇用維持など、国内の変化はありますか?」Answer/総務部長
「タイ工場ではまだまだ日本と同品質の製品は作れません。なぜなら当社の製品は“設備と人材が整えばできるものではなく、そこには高い技術力が必要”だからです。日本の従業員は高い技術を持っていますので、すぐに大きな変化はありません。ただ、今後、現在よりも多くの日本人の従業員がタイ工場へ出向するようなことも考えていかなければならないかもしれません。」
Question
「今回の認定証明書が交付された技能実習生の在留期間は1年間ですが、当初の希望された期間よりも短いですが?」Answer/総務部長
「当社の技術を修得するためには本来2年、3年間くらいは必要です。ただ、日本人従業員が現地で技術を教えるよりも、実際に日本に来て、日本の高い技術力を目の当たりにしながら技術を修得することに大きな意義があります。今後の彼らの技術力向上に大きな差がでるはずです。」
■代表取締役社長 藤咲 保男氏
Question
「先日、無事に東京入管から認定証明書が交付されました。その後、申請人らは無事に日本に入国されましたか?」Answer/代表取締役社長
「タイ側でのビザ手続きは終了してますが、タイ子会社の事情により日本への入国の予定が若干遅れてます。タイ子会社では現在、工場の国内移転を進めていて、移転が完了した後に取引先にスプリング製品のサンプルを提出して、品質のサンプルチェックを受ける必要がある。今回の申請人らは、タイ子会社で主力のメンバーなので、工場の移転途中で彼らが抜けてしまうと大きな影響がでてしまう。ただ、認定証明書の有効期限がありますので、遅くてもその期限内には入国してもらう予定でいる。」
Question
「さきほどは遠藤部長から、主要な取引先からの強い要望に応えるためなど、今回の技能実習生の受入れの経緯などを伺いました。」Answer/代表取締役社長
「タイ工場で製造している製品の品質はまだまだこれから段階で、今回招へいする人たちは現地では主力メンバーだが、日本人従業員と比べたら、働き始めて2,3年のレベル。それほど日本側とタイ側とでは従業員の技術力に差がある。
今回の技能実習期間は1年だが、日本の技術力を身に着けてもらうためには最低でも3年は必要だ。ただ、現状の制度によって日本に受入れることができる期間は1年しかない。私たち中小企業が求める“技能実習制度”と現在の制度との間にはギャップがあると感じている。
Question
「海外進出を果たしている中小企業の問題点のひとつに、現地での人事や労務管理が挙げられていますが、タイ工場の人事上や労務管理においてなにか現状の問題はありますか?」Answer
「現地に出向している日本人の従業員は、現地の従業員に遠慮してタイ人のやり方に合わせてしまうところがある。例えば、日本の工具ひとつにしても、日本語でそのまま読み方を覚えてもらえばいいところ、英語とタイ語でも教えているので効率も悪く、表記もたくさん記されている状態だ。
日本企業なんだから日本語で統一するよう指示をしているが、もちろんすべての業務のやり方を日本語にしろと言っているわけではない。たった20や30の日本語を覚えてもらうだけで作業効率が改善できる。コミュニケーションをとる意味においても日本人の従業員が現地の言葉を覚えなければいけない。100の単語を覚えれば会話はできる。もちろん難しいビジネス会話とまではいかないが…。
こちらから現地の言葉を覚えることで、現地の人たちとの信頼関係が築くことができる。一方的に日本語を覚えさせようとしても駄目ですね。まずはこちらから歩み寄る姿勢が大事なんです。
もうひとつは、現地の最低賃金の上昇が我々のような中小企業には重くのしかかる。現在はタクシン元首相の妹の政権で最低賃金を300バーツに引き上げる公約もしている。たしかにタイでは物価の上昇に対して賃金の上昇が追い付いていない現状もあり、毎年1回多いときは2回最低賃金が改定される。
我々は現地から見れば外資系企業なので法律を遵守しないわけにはいかない。法律を犯せば社長のほか、経理担当や税理士も逮捕されて現地での活動ができなくなる。現地のローカル企業すべてが最低賃金の法律を守っているわけではないのが実情だと思うが、我々のような外資系企業にとっては、節税対策も脱税工作にとられかねない。そのため現地の法律に素直に従うしかない。
また、これは当社でも整備されていないところではあるが、現地の従業員の昇進や昇格などの人事などは整っていない。だから、キャリア形成をイメージできずに、ほかで条件がいいところがあればすぐにそちらにいってしまう。
日本のような終身雇用の制度を整えて、彼らが安心して働くことができる環境が必要だとわたしは考えている。我々のような中小企業が現地で雇用できる従業員は、それほど高等教育を受けていない人たちなので、隣の工場の方が時給が100円高いということになれば、彼らはそっちにいってしまう。中には仕事がきついと言って戻ってくる者もいますけどね…。」
Question
「先ほど、遠藤部長のお話しにも“設備と人材をそろえても技術がなければ貴社の製品はつくれない”と伺いました。そうした意味でも現地従業員を教育していくために終身雇用の制度が必要ということですね。」Answer
「そのとおりです。我々の製品は設備と人材があっても作れない。従業員を教育して技術を修得してもらう必要がある。技術を修得するために日本人でも10年かかるところ、彼らの場合は20年はかかるだろう。我々中小企業は大手企業のように給与の処遇や福利厚生などで手厚く対応することはできない。だから終身雇用の制度で多少は処遇が劣っても働き続けられる環境が必要なんです。日本でも戦後の経済成長を遂げた実績がある。」
[中央:代表取締役社長 藤咲 保男氏 / 右側:総務部長 遠藤 正彦氏 / 左側:ACROSEED秋山 周二]
貴重なお話を本当にありがとうございました。
社会保険労務士法人 代表社員 秋山 周二