Privatization and Corruption
稲村公望先生インタビュー「アフラックに占拠された郵便局」
●アフラックに屈した安倍政権
── 2009年の民主党政権の誕生によって、郵政私物化の流れは一旦止まりましたが、2012年末に第二次安倍政権が発足すると、再び私物化の流れが強まっていきました。
稲村 安倍政権発足直前、日本郵政の斎藤次郎社長は坂篤郎副社長を後任社長に昇格させました。ところが、官房長官に内定していた菅義偉氏が「財務省出身者によるたらい回し人事だ」と批判しました。菅氏は、一貫して郵政民営化推進論者と目されてきました。2012年4月に郵政民営化法改正案が可決さ、持ち株会社の日本郵政による金融子会社2社の株式完全売却が、「義務」から「努力規定」に改められましたが、これに小泉進次郎氏、中川秀直とともに反対票を投じたのが菅氏でした。
結局、坂氏は2013年6月に退任させられ、後任の社長に就任したのが西室泰三氏です。西室氏は郵政民営化委員会の委員長も務めていたので、郵政持ち株会社の社長を務めるのは、明確な利益相反です。
東西冷戦時代の1987年に「東芝機械ココム違反事件」が起こりました。東芝は米国議会による制裁内容を和らげるための、空前の規模のロビー活動を展開したとされています。西室氏は1992年から東芝アメリカ社副会長を務めてきた人物で、ロビー活動を通じて米政財界中枢に人脈を築いたと言われています。
2013年7月、西室社長がぶち上げたのが、米アメリカンファミリー生命保険(アフラック)との、がん保険分野での提携でした。この提携によって、全国2万の郵便局と、かんぽ生命の79の直営店舗でアフラックのがん保険を販売することになりました。まさに、郵便局はアフラックに占拠されてしまったのです。アフラックの狙いは、がん保険市場の制覇にとどまらず、わが国が誇る国民皆保険の崩壊を待って、混合診療に関連する保険など様々な保険商品を、郵便局で独占的に販売することだと見られています。
そもそも、アメリカ企業は、ゆうちょ、かんぽの郵政マネーや不動産資産に狙いを定めていましたが、アフラックとの提携によって、郵便局のネットワークが外資に独占される道を開いてしまったのです。
アフラック日本代表を務めてきたのは、USTR(米通商代表部)日本部長、在日米国商工会議所会頭などを歴任してきたチャールズ・レイク氏です。彼は、まさに日本の市場開放を要求するアメリカ企業の先頭に立ってきた人物です。西室氏は日米財界人会議議長を務め、古くからレイク氏と関係を深めていました。
アフラックが警戒していたのは、かんぽ生命が独自のがん保険を開発し、市場を抑えることでした。こうしたアフラックの懸念に配慮するように、2013年4月、麻生太郎副総理兼経産相は、かんぽ生命について「当分の間、新しい保険商品は認可しない」と述べました。
しかも、TPP交渉への参加を急ぐ安倍政権は、2013年8月からアメリカとの並行協議を開始し、保険分野の非関税障壁について一方的な妥協を強いられていたのです。日米政府が交わした書簡の附属文書には、「日本国政府は…民間のサービス提供者よりも、かんぽ生命による保険サービスの提供について有利となるような競争条件を生じさせるいかなる措置(保険業法の改正も含む)も採用せず、又は維持しない」と書かれているのです。まさに、TPPを先取りする形で、安倍政権はアメリカの保険会社の要求に屈していたということです。
●舞い戻ってきた郵政私物化の張本人・横山邦男
── 西室社長は2016年3月に退任しました。
稲村 ところが同年6月28日、西川善文社長時代の郵政私物化の張本人である横山邦男氏が、日本郵便社長に就任しました。
横山氏は、三井住友銀行出身の西川腹心4人組のリーダー格で、2006年2月から2008年10月まで日本郵政専務執行役を務めていました。その間、郵政プロパーの意向を無視して、かんぽの宿売却未遂など郵政事業経営に対する背信行為を行いました。
民主党政権時代の2010年1月に総務省に設置された日本郵政ガバナンス検証委員会(委員長:郷原信郎)の「日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会報告書」には、横山氏の背信行為が細かく記録されています。
当時サブプライムローン問題で不動産市況は冷え込んでおり、専門家はかんぽの宿の処分の中止や延期を助言していました。ところが、横山氏らの執行部は、これらの助言を無視し、2008年12月に不当に低価でオリックス不動産との一括事業譲渡契約を締結してしまったのです。横山氏とともに、かんぽの宿処分で動いていたのは、オリックスが出資する不動産会社「ザイマックス社」から西川社長に引き抜かれた伊藤和博執行役だとされています。横山氏と伊藤氏は、民主党、社民党、国民新党の3党によって、特別背任未遂罪で東京地検に告発されました。
また、横山氏は日本郵便のゆうパックと日通ペリカン便との統合による大損失を発生など、経営に多大の損害をもたらした張本人です。さらに横山氏は「みなし公務員」の身分でありながら、三井住友銀行から住居の提供を受けていたとして国会で追及されました。
2009年10月に西川氏が日本郵政の社長を辞任すると、横山氏も追われるように郵政を去りました。それから7年、郵政グループから永久追放されるべきA級戦犯である横山氏が、日本郵便社長として舞い戻ってきたのです。この信じ難い人事を主導したのは、菅義偉官房長官だともささやかれています。
「日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会報告書」で指摘された数々の疑惑は、未だに放置されたままです。いまこそ、郵政私物化の闇を暴かなくてはいけない。
●豪物流会社トール社買収失敗の責任を取れ!
── 日本郵政は4月25日に、2017年3月期の連結純損益が400億円の赤字に転落する見通しだと発表しました。
稲村 2015年に日本郵便を通じて買収したオーストラリアの物流子会社トール・ホールディングスの業績が悪化したためです。買収価格6200億円と実際の資産価値の差額に当たる「のれん代」など4003億円の減損損失を一括で計上したのです。減損処理を主導したのは、横山邦男社長だとされています。
もともと、トールの買収は、当時の西室社長が強引に決めたものです。日本郵政は、上場に向けて、株価を上げるためにお化粧をする必要があったのです。また、西室氏は就任当初から国内外の物流企業の買収を検討していました。佐川急便、日立物流などの買収も検討しましたが、いずれも実現が困難だったため、トールに目をつけたのです。
しかし、トール買収には一部の社外取締役から反対意見もありました。高過ぎる買収額だけが理由ではなく、国内と海外の物流事業の相乗効果は薄いという意見もありました。そもそも、郵便事業は、軽くて、単価の安いものを大量に扱います。これに対して、物流は重くて一個当たりの単価の高いものを扱います。ビジネス・モデルが真逆なのです。物流のノウハウを持っていない郵便社員に経営できるはずがないのです。にもかかわらず、西室氏は強引に買収を進めた。
『フィナンシャルタイムズ』は、当時から、この買収が「49%のプレミアムをつけた大盤振る舞い」と批判していました。しかも、『エルネオス』によると、東芝はトールにシステムを納入していたという情報があります。それが事実なら、利益相反を疑われても仕方がありません。いずれにしても、西室氏の責任は重大です。
長門正貢社長をはじめとする現経営陣の責任も重いと言わざるを得ません。長門社長は、トール買収当時、日本郵政の役員に就任しており、トールの業態を十分知る立場にありました。しかも、2016年6月に日本郵政社長に就き、トールを直接指導すべき立場にあったのです。ところが、トール社に対して適切な経営指導をすることなく、4000億円の損失を一括償却するという乱暴な処理をしたのです。その原資は、長年にわたって蓄積されてきた国家の財産であり、国民の資産です。それを無視し、役員報酬をわずかに減額しただけで責任を取ったふりをする態度は、日本国民に対する背信行為であり、国民として断固として許しがたい。
私は、『「ゆうちょマネー」はどこへ消えたか』の共著者である菊池英博氏とともに、5月8日付で、いま述べた趣旨で、長門社長に対して辞任勧告書を提出しました。
いまこそ、郵政私物化の実態にメスを入れ、郵政の在り方について根本から見直すべきです。
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