巨額ゆうちょマネー消失のからくり
●日本郵政グループが豪州の物流会社 トール・ホールディングスを六二〇〇 億円で買収して子会社にしていたが、 業績が悪化して約四〇〇〇億円の損失 を計上するに至ったことが公表された。 筆者は昨年の逓信記念日(郵政記念日、 四月二〇日)に、金融経済学者の菊池 英博氏との共著で『ゆうちょマネーは どこへ消えたか』 ( 彩流社)を出版し、 巨額損失の可能性について既に警告を 発した。その中で、日本郵政の社長へ の進言を呈した(二五三頁) 。 買収した豪州の大手物流会社の売却 が過大であり、その中に三〇〇〇億円 規模ののれん代がある。その償却だけ で「日本郵便」は赤字が継続する懸念 がある。早期に売却すべきではないか。 さらに、上場前の不可解なやりくり と不明朗な買収額について、共著で次 のように警告していた(一〇四頁) 。 親会社である日本郵政が保有してい る「ゆうちょ銀行」の株式を、 「ゆう ちょ銀行」自身が買い上げる(自社株 買)ことによって、ゆうちょ銀行の内 部留保 ( 一兆三〇〇〇億)を吸い上げ たのである。上場後であればとても不 可能な 「 離れ業 」 であった。この操作で 日本郵政には六千億円の資金が残り、 この資金で豪州の大手物流会社である
トール社を約六二〇〇億円で買収した。 この買収は実態価格から考えると、二 〇〇〇億円ほども高い買収であり、日 本会計上この二〇〇〇億円は 「 のれん 処理」をしなければならない ( 宮尾攻 氏『文藝春秋二〇一五年一一月号) 。 さらにトール社には三〇〇〇億円規模 ののれん代が内包されている。 ●巨額損失が表面化した時点で、菊池 氏と筆者とはこの国損とも言える巨額 損失の発生に対応して何ができるかを 相談した。それで、長門日本郵政社長 宛に辞任勧告書と題する書面を提出す ることとなり、原案を菊池氏が作成、 筆者がそれに同意して菊池氏が配達証 明で発送し、その際に写しを麻生財務 大臣に送付することにした。その一枚 の書面は以下の通りである。 今般、日本郵政の二○一七年三月期 連結最終損益は四百億円の赤字になる と報ぜられたことは極めて遺憾である。 ( 中略)トール社の損失処理に使う原 資は長年にわたり蓄積された国家の財 産であり、国民資産である。それを無 視して、貴殿は役員報酬をわずかに減 額しただけで責任を取ったふりをする 態度は国民として断固として許しがた く即刻辞任すべきである。
●菊池英博氏と筆者のこの動きに関し
て、まず週刊現代五月二七日号が四頁 にわたる記事を載せた。週刊現代は、 電車の中に吊広告として記事の内容を 大々的に宣伝する。中身を読む前に、 電車の吊広告で、 「スクープ!、日本 郵便元副会長稲村公望氏が実名で告発 する」と黄色の活字が踊ったのである。 それを読んだ霞ヶ関OBの友人からも 激励の電話をいくつか頂戴した。 「 西室氏を推薦した安倍晋三首相、菅 義偉官房長官にも任命責任がある」と のくだりは、記者の聞き書きの筆が滑 った可能性もあるが、西室氏は、戦後 七〇年問題懇談会の座長でもあり、日 支関係のフォーラムの座長をも務めて 官邸との関係は密接だと言われてきた から、修正する理由はなかった。 「 病 気療養中というが、代理人を通じて責 任についてコメントを発表することぐ らいはできるはずです」との思いは今 もあり、しかもウエスティングハウス の買収の当事者であるから、東芝とい う日本を代表する電機会社を崩壊に至 らしめた責任者の一人であることを勘 案すれば、自らの意見を具申開陳する こともなく事態を放置することは、日 本郵政の関係者として、また『ゆうち ょマネーはどこへ消えたか』を江湖に 問うた共著者として、却って無責任に なるのではないかと考えたのである。
●五月一七日から米国ワシントンとボ ストンに行く用務があり、羽田空港の日本航空の待合室で、当日出版された 週刊文春五月二五日号を入手して関連 記事を読もうとしたが、間に合わなか った。週刊文春の記事を読んだのは、 二三日のシカゴ発の日本航空の帰国便 の畿内だった。週刊現代の方はさすが にヌード写真を売物にしているところ もあり、日本航空は搭載していなかっ た。週刊文春の記事は見開きの二頁で、 麻生財務大臣に届いた日本郵政社長 「 辞任勧告状」 と見出しをつけた。内容はバランスが とれ、筆者ばかりでなく共著者の菊池 氏のコメントも多く引用して説得力を 高めたように思われた。野村不動産を M&Aするなどとの噂話が浮上するさ なかで、筆者の次のコメントも載せた。 JPエクスプレス事業の失敗、トー ル社買収による損失と言ったことを顧 みることなく新たにM&Aに走るとは 信じられません。本業に戻るべきでし ょう。民営化路線を継承する長門社長 の暴走を許せば、ゆうちょマネーは地 方経済へ還流することなく海外へ流出 し、日本の貧富、都会と田舎の格差は 広がるばかりです。 さらには、週刊朝日がコラムで採り 上げ、週刊金曜日六月九日号が筆者の インタビューを載せ、テーミス六月号 は、「給与カット」も甘い、西室は 「責任逃れ」と書いている。 (つづく)
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