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ドイツのリトアニア戦車旅団計画は「軍事シェンゲン」への第一歩(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/12/18、ドイツがリトアニアに戦車旅団を配備する協定が締結されたが、これはドイツとポーランドとの覇権競争の文脈で起こったことだ。ドイツの支援を受けたトゥスク元首相が返り咲いたことでポーランドがドイツの属国化することは決定している。
Germany’s Planned Tank Brigade In Lithuania Is The First Step Towards A “Military Schengen”
Germany’s Planned Tank Brigade In Lithuania



ドイツの軍事拡大計画が加速

 2023/12/18、ドイツのボリス・ピストリウス国防相はリトアニアに戦車旅団を配備する協定に署名した。これはリトアニアのロシア・ベラルーシ連合国の国境近くの基地に4,800の軍人と200の民間人を配備すると云うもので、2027年までに完全配備される予定だ。

 これに先立つ11/10、彼は「我々の安全と自由を守る為に、我々は自らを防衛し、戦争を遂行することの出来るドイツ連邦軍が必要である」と宣言しているが、この時発表されたドイツの新たな軍事戦略ドクトリンは、2022/12/05にオラフ・ショルツ首相が発表した覇権宣言に基付いている。

 この後11/23にはNATO兵站責任者のアレクサンダー・ソルフランク中将が、(欧州圏内であればビザ無しで通行出来ることを定めた「シェンゲン協定」の軍事版で)EU全域での部隊や装備の迅速な移動を可能にする、所謂「軍事シェンゲン」の創設を提案した。

 12/18に締結されたドイツとリトアニアとの戦車旅団協定は、6月には既に議論されていたので驚く様な展開ではなかったものの、これらの計画を加速する口実となった。



「軍事シェンゲン」の背後に覇権競争

 「軍事シェンゲン」の背景には、ドイツとポーランドの覇権競争が有る。両国は中東欧(特にウクライナ)に対する影響力を巡って争って来たが、10/15のポーランドの総選挙で現与党「法と正義(PiS)」が敗北し、ドイツの支援を受けたトゥスク元首相(PiS党首ヤロスワフ・カチンスキーは彼のことを「ドイツの工作員」と呼んだ)が権力の座に返り咲いたことで、ポーランド側の敗北に終わった。

 「軍事シェンゲン」はドイツが「ロシアの侵略に対する抑止力」と云う口実の下に、ポーランドに対して軍事的影響力を拡大する為の企みである可能性が高い。

 ドイツとリトアニアの戦車旅団協定は、トゥスクが12/11に首相に復帰するまでは署名されなかったことに注意しておくべきだろう。恐らく10/15の選挙前にこれを締結してしまうと、その時点でのPiSに勢いを与えてしまう可能性が有った。ドイツがリトアニアに軍を配備するにはポーランドを経由せねばならないので、ドイツが選挙前にこれを発表していたら、PiSはドイツに対する世論の警戒心を高めることが出来ただろうからだ。

 ドイツは既に交渉を進めていたにも関わらず、ポーランドの選挙が済んでトゥスクが権力を掌握するまで計画を延期した。彼が負けていた場合には、交渉をやり直す可能性すら有ったかも知れない。だが全て計画通りに進んだ為、トゥスクの政権復帰がはっきりしてから1ヵ月後(11/23)、ソルフランク中将(因みにドイツ人)は「軍事シェンゲン」を提案した。戦略的にタイミングを合わせたのだろう。そしてドイツの軍事戦略ドクトリンが発表されたのが11/10。これらをポーランドの選挙前に発表していたら、カチンスキーがトゥスクを攻撃する材料が増えていたことだろう。

 だが、トゥスクの復帰によってポーランドが最早ドイツのいいなりになることが保証された為、ドイツは最早軍事的な覇権主義的意図を持っていることを隠す必要が無くなった。ドイツの軍事戦略ドクトリン、軍事シェンゲンの提案、そしてリトアニアとの戦車協定がそれを証明している。



ドイツの属国化を巡るポーランド国内の争い
 
 繰り返すが、ドイツがリトアニアに戦車旅団を派遣するには、ポーランドを経由しなければならない。だから「軍事シェンゲン」が必要なのだ。ドイツの武器、装備品、弾薬がリトアニアに向かう途中でポーランドを通過する、などと言われたら、多くの保守的でナショナリスト的なポーランド人は受け入れ難いと感じるだろう。だがこれこそが、ドイツが新たにポーランドを従属させた、何よりも力強い象徴なのだ。

 恐らくこうした懸念と、同様に予想されるEUの新たな移民割当て協定に対する抵抗を念頭に置いてのことだろうが、トゥスクは、長年に亘って保守ナショナリスト達が支配して来た国営メディアの支配権を掌握しようとしている。「軍事シェンゲン」と不法移民問題(極めて均質なポーランド社会に異なる文明に属する大量の個人が流入すること)に対する政府の新たな姿勢を国民に納得させる為に、トゥスク政権はメディアを使って新たな物語を作らなければいけないのだ。

 トゥスク首相はリベラル・グローバリストだが、彼と対立するPiSのアンジェイ・ドゥダ大統領は保守ナショナリストであり、2025年春の次の大統領選挙まではその座に留まるだろうが、その頃にはPiSはメガフォンを奪われていることだろう。ドゥダとトゥスクは国営メディアを清算するしないで対立しているが、ドゥダがトゥスクに支配権を譲り渡さなければ、メディアは結局解散するしか無くなるからだ。


 また、トゥスクがPiSから国営メディアを奪ったスキャンダルは、上述の2つの新たな政策から国民の目を逸らすと云う意味でも重要な展開だった。

 何か予想外の事態が起こらない限り、 ポーランドに対するドイツのイデオロギー的・軍事的支配は強化されることが予想される。それは正にカチンスキーが警告した通り、ポーランドの主権を犠牲にすることになるだろう。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
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