ソマリアは出来るだけ早急にソマリランドと「尊厳を保った離婚」交渉をすべきだ(抄訳)
アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024/01/01にエチオピアとソマリランドが交わした覚書にソマリアは怒っているが、ソマリアがどう足掻いたとしてもこの展開は引っ繰り返せない。エジプトとエリトリアはエチオピア封じ込めの為にソマリアに代理戦争を始めさせようとするかも知れないが、ソマリアとってはこうした唆しには耳を貸さず、現実を受け入れてソマリランドとの「尊厳を保った離婚」交渉を行うのが望ましい。
Somalia Should Negotiate A “Dignified Divorce” With Somaliland As Soon As Possible
エチオピアとソマリランドの覚書にソマリアは激怒
2024/01/01、内陸国故のリスクを抱えて紅海に面する港湾を探していたエチオピアは、ソマリアからの分離独立を掲げるソマリランドと港湾リースについての覚書を交わした。エチオピアはソマリランドにエチオピア空港の株を渡し、その引き換えにソマリランドは港湾の権利をエチオピアに与えることになる。
これに対しソマリア内閣は、この行為はソマリアに対する主権侵害であると非難したが、実のところソマリアは過去30年以上に亘ってソマリランドには何も影響力も持って来なかった為、現実問題としてソマリアに出来ることは殆ど無い。
ソマリランドは、一部の同民族との31年に及ぶ統一プロジェクトが失敗に終わった後、1991年に独立を回復した。但しこれは国際的には(台湾を除いては)承認されておらず、この覚書によってエチオピアが世界で初めてソマリランドの独立を承認した国となった。
1991年以降、ソマリランドは自らが主権国家のあらゆる特徴を備えていることを証明して来た。社会経済的発展を通じて人々の生活を改善し、自国の軍隊の管理に成功した。
エチオピアはソマリランドとの関係を深めて来たにも関わらず、この現実を正式に認めて地政学的な現状を変えることには消極的だった。だが、今回の覚書によって、そのリスクは引き受ける価値が有ると判断を変えたのだろう。
エチオピアのアビィ・アハメド首相は他の沿岸諸国にも湾岸リース協定の話を打診していたので、そのどれかが彼の申し出に応じていたら、こんなことはしなかっただろう。
だが特にエリトリア(恐らくは諜報機関)が、エチオピアは武力に訴えて沿岸諸国を併合するつもりかも知れないと恐怖を煽った為、この提案は平和と繁栄への約束ではなく寧ろ脅威として認識されることになった。この情報戦キャンペーンはエチオピアの封じ込めを狙ったものだったのだが、これにより選択肢の無くなったエチオピアは止む無くソマリランドと交渉することになった為、結果的に裏目に出たことになる。
この展開はソマリアを激怒させることになったが、その責任はアビィの提案を断ったソマリアや他の沿岸諸国に在る。そしてソマリアは、そもそもソマリランドが分離する条件を作り出し、その後現在まで紛争を解決出来ていないと云う点で、他の誰よりも大きな責任を負っている。
ソマリランド独立は既成事実
現在、ソマリアはテロ組織アル=シャバーブから自国を守り、時として連邦政府と対立する幾つかの高度な自治州に対する権限を回復しようと奮闘中だ。従ってソマリランドに対する主権を取り戻せる様な状態ではない。
この現実を変えようとしても無駄に終わるのは確実だ。従ってこれ以上の財政的・軍事的資源を浪費することを避ける為にも、現実を受け入れることがソマリアの利益になる。
軍事的側面に関して言えば、UAEはソマリランドのベルベラ港に多額の投資を行っているので、必要が有ればUAEは武力でここを守るだろう。
またソマリランドにエチオピアとUAEの軍事的利益が集中することによって、隣のソマリアのプントランド自治州(アフリカの角の最突端)に拠点を置く海賊に対する抑止力が生まれることになるが、これは地域全体の安全確保に貢献する。海賊は最早以前程の脅威ではなくなっているが、それでも12月には4隻の漁船を乗っ取っているので、依然として警戒は必要だ。ソマリア連邦政府には彼等を止める力は無かったし、恐らく近い将来も同様に無力な儘だろう。現状で対処が可能なのはエチオピアとUAEだ。
独立を目指す南イエメンが正式に地政学的地図に復帰すれば、例えば、南イエメンの同盟国であるUAEが先ずこれを認め、その後エチオピアがそれに追随することで、南イエメン-UAE-エチオピア-ソマリランドによる4ヵ国安全保障同盟が形成される可能性も考えられる。
但しイエメン戦争は続いており、イエメンを巡ってUAE(南イエメンを支援)とサウジアラビア(イエメン東部を支援)が非公式に対立している為、南イエメンの独立宣言はまだ先になりそうだ。
何れにせよ、覚書に腹を立てたソマリアが戦争を起こしたとしても、ソマリランド・エチオピア・UAEの3ヵ国には勝てる筈は無い。
エチオピアを封じ込めたいエジプトとエリトリアはソマリアに代理戦争をさせたがるかも知れないが、ソマリアはそうした圧力を掛けられても無視するのが賢明だろう。両国にとってのソマリアは、米国にとってのウクライナと同じ、代理戦争の捨て駒に過ぎないからだ。
ソマリアが取るべき行動
ソマリアにとって最善の行動は、新たな軍事外交上の現実を受け入れ、尊厳を保つ方法で、ソマリランドとの離婚交渉を行うことだ。2023/12/30にジブチでソマリアとソマリランドの交渉が再開されたことは、若しソマリア側にその気が有るなら、この役に立つだろう。
次善のシナリオは、12/18の会談でヴェネズエラとガイアナが示した例に倣って、ソマリアが純粋に平和的な手段で意見の相違を解決しようと努力することだ。
エチオピアとUAEはBRICSに加盟したばかりなので、BIRICSまたはその加盟国のどれか(例えば関係3ヵ国に信頼されているロシア)が調停を申し出るかも知れない。
「尊厳を保った離婚」が実現するにせよ、「冷たい平和」が続くにせよ、最も重要なことは、明るい未来を前にしたソマリアがエジプトとエリトリアに惑わされて負け戦を始めないようにすることだ。
Somalia Should Negotiate A “Dignified Divorce” With Somaliland As Soon As Possible
エチオピアとソマリランドの覚書にソマリアは激怒
2024/01/01、内陸国故のリスクを抱えて紅海に面する港湾を探していたエチオピアは、ソマリアからの分離独立を掲げるソマリランドと港湾リースについての覚書を交わした。エチオピアはソマリランドにエチオピア空港の株を渡し、その引き換えにソマリランドは港湾の権利をエチオピアに与えることになる。
これに対しソマリア内閣は、この行為はソマリアに対する主権侵害であると非難したが、実のところソマリアは過去30年以上に亘ってソマリランドには何も影響力も持って来なかった為、現実問題としてソマリアに出来ることは殆ど無い。
ソマリランドは、一部の同民族との31年に及ぶ統一プロジェクトが失敗に終わった後、1991年に独立を回復した。但しこれは国際的には(台湾を除いては)承認されておらず、この覚書によってエチオピアが世界で初めてソマリランドの独立を承認した国となった。
1991年以降、ソマリランドは自らが主権国家のあらゆる特徴を備えていることを証明して来た。社会経済的発展を通じて人々の生活を改善し、自国の軍隊の管理に成功した。
エチオピアはソマリランドとの関係を深めて来たにも関わらず、この現実を正式に認めて地政学的な現状を変えることには消極的だった。だが、今回の覚書によって、そのリスクは引き受ける価値が有ると判断を変えたのだろう。
エチオピアのアビィ・アハメド首相は他の沿岸諸国にも湾岸リース協定の話を打診していたので、そのどれかが彼の申し出に応じていたら、こんなことはしなかっただろう。
だが特にエリトリア(恐らくは諜報機関)が、エチオピアは武力に訴えて沿岸諸国を併合するつもりかも知れないと恐怖を煽った為、この提案は平和と繁栄への約束ではなく寧ろ脅威として認識されることになった。この情報戦キャンペーンはエチオピアの封じ込めを狙ったものだったのだが、これにより選択肢の無くなったエチオピアは止む無くソマリランドと交渉することになった為、結果的に裏目に出たことになる。
この展開はソマリアを激怒させることになったが、その責任はアビィの提案を断ったソマリアや他の沿岸諸国に在る。そしてソマリアは、そもそもソマリランドが分離する条件を作り出し、その後現在まで紛争を解決出来ていないと云う点で、他の誰よりも大きな責任を負っている。
ソマリランド独立は既成事実
現在、ソマリアはテロ組織アル=シャバーブから自国を守り、時として連邦政府と対立する幾つかの高度な自治州に対する権限を回復しようと奮闘中だ。従ってソマリランドに対する主権を取り戻せる様な状態ではない。
この現実を変えようとしても無駄に終わるのは確実だ。従ってこれ以上の財政的・軍事的資源を浪費することを避ける為にも、現実を受け入れることがソマリアの利益になる。
軍事的側面に関して言えば、UAEはソマリランドのベルベラ港に多額の投資を行っているので、必要が有ればUAEは武力でここを守るだろう。
またソマリランドにエチオピアとUAEの軍事的利益が集中することによって、隣のソマリアのプントランド自治州(アフリカの角の最突端)に拠点を置く海賊に対する抑止力が生まれることになるが、これは地域全体の安全確保に貢献する。海賊は最早以前程の脅威ではなくなっているが、それでも12月には4隻の漁船を乗っ取っているので、依然として警戒は必要だ。ソマリア連邦政府には彼等を止める力は無かったし、恐らく近い将来も同様に無力な儘だろう。現状で対処が可能なのはエチオピアとUAEだ。
独立を目指す南イエメンが正式に地政学的地図に復帰すれば、例えば、南イエメンの同盟国であるUAEが先ずこれを認め、その後エチオピアがそれに追随することで、南イエメン-UAE-エチオピア-ソマリランドによる4ヵ国安全保障同盟が形成される可能性も考えられる。
但しイエメン戦争は続いており、イエメンを巡ってUAE(南イエメンを支援)とサウジアラビア(イエメン東部を支援)が非公式に対立している為、南イエメンの独立宣言はまだ先になりそうだ。
何れにせよ、覚書に腹を立てたソマリアが戦争を起こしたとしても、ソマリランド・エチオピア・UAEの3ヵ国には勝てる筈は無い。
エチオピアを封じ込めたいエジプトとエリトリアはソマリアに代理戦争をさせたがるかも知れないが、ソマリアはそうした圧力を掛けられても無視するのが賢明だろう。両国にとってのソマリアは、米国にとってのウクライナと同じ、代理戦争の捨て駒に過ぎないからだ。
ソマリアが取るべき行動
ソマリアにとって最善の行動は、新たな軍事外交上の現実を受け入れ、尊厳を保つ方法で、ソマリランドとの離婚交渉を行うことだ。2023/12/30にジブチでソマリアとソマリランドの交渉が再開されたことは、若しソマリア側にその気が有るなら、この役に立つだろう。
次善のシナリオは、12/18の会談でヴェネズエラとガイアナが示した例に倣って、ソマリアが純粋に平和的な手段で意見の相違を解決しようと努力することだ。
エチオピアとUAEはBRICSに加盟したばかりなので、BIRICSまたはその加盟国のどれか(例えば関係3ヵ国に信頼されているロシア)が調停を申し出るかも知れない。
「尊厳を保った離婚」が実現するにせよ、「冷たい平和」が続くにせよ、最も重要なことは、明るい未来を前にしたソマリアがエジプトとエリトリアに惑わされて負け戦を始めないようにすることだ。
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