反共主義の嘘と迷妄をざっくり暴く快著
Michael Parenti著、Blackshirts and Reds: Rational Fascism and the Overthrow of Communism のレビュー。
スターリンとヒトラーを同列に並べるのが最近また流行りだ。ポーランド辺りでは独ソ不可侵条約(モロトフ・リッベントロップ条約)を持ち出して来て、スターリンがヒトラーと同盟を組んでいたとか、第二次大戦開始の責任をスターリンに負わせようなどと云う動きが有る様だ。これはヒトラーを真剣に押さえ込もうとした国家指導者がスターリン唯一人であり、実際にナチスドイツの脅威を叩き潰したのがソ連赤軍であると云う否定し様の無い歴史的事実を顧みると、余りに強引な言い掛かりだろうと思うが、これは自分達がファシズムに加担した側であり、ナチスに協力した過去を隠したい連中が、煙幕の為にやっているのだろう。何しろナチの残党は戦後も西側諸国内で陰に陽に活躍しており、ファシズムの清算は過去の話ではないのだ。おまけに冷戦後、共産主義の圧力が無くなった資本主義は新自由主義と云う新たなイデオロギーを活性化させ、戦前まで持っていた暴力的側面を自国民に対してさえ剥き出しにして来た訳だが、その結果2020年代の様相は益々1930年代に似て来ている。ファシズムとは一体何だったのか、ヒトラーやムッソリーニの台頭とは何だったのか、第二次大戦とは一体何だったのかを大衆に理解して貰いたくないファシストやその支援者連中は、資本主義社会に於ける階級闘争の現実を歪曲し隠蔽するのに必死だ。大量の嘘を交えた反共プロパガンダは、冷戦が終わって沈静化するどころか、寧ろ新冷戦体制の下で激化している様に見える。
本書は反骨の人パレンティが、ファシズムと共産主義の決定的な違いを解り易く解き明かしたものであり、それによって私達が今置かれている階級闘争の現実に読者の注意を促そうとする警告の書だ。
西側市民の共産主義や共産主義国に対する無知と偏見は、資本主義国家に対する無知と偏見の裏表だ。ウォーラーステインの近代システム論を借りれば、資本主義システムは一国で完結することは無く、周辺諸国と中核諸国の二極に分かれるのだが、戦後の高度経済成長期に中核諸国で育った人々の多くは、全体として見た場合の資本主義システムがどれだけ残酷で人々を搾取し傷付けているかが解っていない。戦前は資本主義諸国でも革命を求める民衆の声の高まりが見られたのだが、それを打ち砕いたのがファシズムだ。戦後は搾取先は主にグローバルサウスに集中した所為か、資本主義の恩恵を受ける側だった先進諸国では、貧しい外国と富める自国の現実が一繋がりであると云う現実から目を逸らす傾向が当たり前になった。その結果人々は資本主義がどれだけ非情であり得るかを屢々忘れ、資本主義の良い面ばかりを見させられる状況に順応してしまった。
「共産主義システムとは人々を等しく貧しくする体制である」などと云う冷戦期のプロパガンダをカビの生えた鸚鵡返しにする人が今だに居るが、これ程現実から懸け離れた偏見は無い。そう云う人は、共産主義諸国の人々が共産主義システムを樹立する前、資本主義システムによってどれだけ痛め付けられ搾取されていたかを知らない。そしてまた、冷戦後に再度資本主義(新自由主義)の洗礼を受けたそれらの国の人々が、どんな辛酸を嘗めることになったかも。共産主義は貧しい大多数の人々の生活を実際に大きく改善したシステムであり、雇用、教育、医療等の各分野に於て目覚ましい成果を上げ、人々を様々な恐怖から解放したシステムだ。パレンティはこれらの誤解と偏見をざっくりぶった切ることによって、国際社会についての見方を変えることを読者に迫って来る。
但し本書は一方的な共産主義賛美の書ではない。共産主義には数々の欠点が有ることもパレンティは指摘している。例えば誰もが雇用を保障され、頑張っても怠けても同じ給料が支払われる仕組みの下では、緊張感が無くなって労働者は怠け、不効率と腐敗が蔓延る様になる、なんてことは当たり前のこととして認めている。共産主義諸国の住民の主な不満は何もかもが管理されていることではなく、寧ろ管理が行き届いていないことだった、とか、一旦権利が保障されてしまうと人々はそれを当たり前のものとして享受し、有難がらなくなってしまう、などと云う指摘は興味深く読んだ。ソ連で生まれチェコで育ったジャーナリストの故アンドレ・ヴルチェク氏が、自分達が若い頃如何に「西側の」プロパガンダに洗脳されていたかを述懐しているが、彼が西側へ移り住んで、東は駄目だが西側には希望が有る、などと云うイメージが嘘に支えられた夢物語に過ぎず、祖国には尊敬すべき所が沢山有ったことを理解した時には、祖国は既に失われていた。現実を適切に理解することの難しさを物語る事例だが、大事なのは、デマや偏見に踊らされて相手の脅威を過大視したり、理解も対話も不能な他者であると悪魔化したりせず、同じ人間として、長所も有れば短所も有る普通の対等な相手として共産主義国の人々を見ることだ。相手を悪魔化することに慣れてしまうと、人はその相手に対して平気で残酷なことが出来る様になる。戦争プロパガンダとは正にそうした効果を狙ったものだ。
共産主義諸国に関しては今まで数々の残虐行為のデマが流されて来た。本書で扱っているのはソ連のグラーグだけだが、西側で喧伝されているのが大きく誇張されたイメージであることが論証されている。スレブレニツァの虐殺、天安門広場の虐殺、ウイグルのジェノサイド等々、今まで西側諜報部が捏造したり歪曲したりして来た事件は数多いが、それらについても多くのジャーナリストや研究者による地道な調査によって嘘が暴かれて来た。全てがそうだと云う訳ではないが、反共プロパガンダに於て事件の捏造や歪曲は日常茶飯事なので、日々のニュースを読む際には注意が必要だ。逆に、注意していなければ西側の大手メディアが如何に大政翼賛化しているかは理解出来ないし、そうなると国際情勢を全く誤って理解してしまうことになる。西側左派の反共主義の問題は昔からだが、今では反共プロパガンダの実態を理解しない不勉強な反共左派は、平気で(無自覚に)帝国主義的スローガンを口にする様になってしまった。この愚かな過ちを繰り返さない為にも、未来の左派はもっとメディアリテラシーを高めなければならないだろう。
反共洗脳を解くことの重要さは、特にパンデミック詐欺を利用した資本主義再起動計画、世界経済フォーラムの「グレート・リセット」が進行中の現在に於ては強調し過ぎることは無い。何の運命の悪戯なのか、パンデミック詐欺を見破っている者には右派や保守派等が多く、彼等は当然ながら反共プロパガンダを鵜呑みにしている。なのでGRを推進しているのが後期資本主義社会に君臨するグローバル・パワーエリート達であると理解していながら、「連中は世界を共産主義化しようとしている」などと云う推測を平気で口にしたりする。その殆どの者は「同じ独裁者なんだからヒトラーもスターリンも一緒だろう」「世間で全体主義と名の付くものは何でもかんでも同じだろう」と云う実に雑なイメージで語っている様だが、本書を読めば解る様に、それは短絡的に過ぎる。GRは資本主義再起動の試みであって、資本主義を克服しようとした共産主義とは目指すものが根本的に異なる。GRはファシズム・クーデター2.0ではあっても共産主義革命2.0ではない。それは人々の福祉を気に掛けたりはしない。その様な振りはするかも知れないが、最終目的は金融権力による世界の支配だ。
ファシズム2.0に於ける中国の役割はややこしく、政治的には立派に見えるが科学的には全く正当化不能なコロナ「対策」を続けている以上、全くのシロではあり得ない。何等かの理由で嘘を吐いているのは確かだろう。だがそれはどんな種類の、どんな目的の嘘なのか、現時点では私もさっぱり答えは出せない(願わくはその答えが最悪の形で明らかになったりしませんように!)。考察を進める為にも、嘘や偏見による余計な雑音は予め取り除いておきたいと思う。世界をバランス良く見ることが出来る様になる為にも、反共プロパガンダの迷妄は出来る限り打ち破っておかねばならない。先ずは嘘の存在に気が付いて、その規模や深度を見極めるのが最重要課題だ。最近は類書も多く出て来ているが、本書はその中でも解り易く総括的な見方を提供してくれると云う点で非常にお薦めだ。
スターリンとヒトラーを同列に並べるのが最近また流行りだ。ポーランド辺りでは独ソ不可侵条約(モロトフ・リッベントロップ条約)を持ち出して来て、スターリンがヒトラーと同盟を組んでいたとか、第二次大戦開始の責任をスターリンに負わせようなどと云う動きが有る様だ。これはヒトラーを真剣に押さえ込もうとした国家指導者がスターリン唯一人であり、実際にナチスドイツの脅威を叩き潰したのがソ連赤軍であると云う否定し様の無い歴史的事実を顧みると、余りに強引な言い掛かりだろうと思うが、これは自分達がファシズムに加担した側であり、ナチスに協力した過去を隠したい連中が、煙幕の為にやっているのだろう。何しろナチの残党は戦後も西側諸国内で陰に陽に活躍しており、ファシズムの清算は過去の話ではないのだ。おまけに冷戦後、共産主義の圧力が無くなった資本主義は新自由主義と云う新たなイデオロギーを活性化させ、戦前まで持っていた暴力的側面を自国民に対してさえ剥き出しにして来た訳だが、その結果2020年代の様相は益々1930年代に似て来ている。ファシズムとは一体何だったのか、ヒトラーやムッソリーニの台頭とは何だったのか、第二次大戦とは一体何だったのかを大衆に理解して貰いたくないファシストやその支援者連中は、資本主義社会に於ける階級闘争の現実を歪曲し隠蔽するのに必死だ。大量の嘘を交えた反共プロパガンダは、冷戦が終わって沈静化するどころか、寧ろ新冷戦体制の下で激化している様に見える。
本書は反骨の人パレンティが、ファシズムと共産主義の決定的な違いを解り易く解き明かしたものであり、それによって私達が今置かれている階級闘争の現実に読者の注意を促そうとする警告の書だ。
西側市民の共産主義や共産主義国に対する無知と偏見は、資本主義国家に対する無知と偏見の裏表だ。ウォーラーステインの近代システム論を借りれば、資本主義システムは一国で完結することは無く、周辺諸国と中核諸国の二極に分かれるのだが、戦後の高度経済成長期に中核諸国で育った人々の多くは、全体として見た場合の資本主義システムがどれだけ残酷で人々を搾取し傷付けているかが解っていない。戦前は資本主義諸国でも革命を求める民衆の声の高まりが見られたのだが、それを打ち砕いたのがファシズムだ。戦後は搾取先は主にグローバルサウスに集中した所為か、資本主義の恩恵を受ける側だった先進諸国では、貧しい外国と富める自国の現実が一繋がりであると云う現実から目を逸らす傾向が当たり前になった。その結果人々は資本主義がどれだけ非情であり得るかを屢々忘れ、資本主義の良い面ばかりを見させられる状況に順応してしまった。
「共産主義システムとは人々を等しく貧しくする体制である」などと云う冷戦期のプロパガンダをカビの生えた鸚鵡返しにする人が今だに居るが、これ程現実から懸け離れた偏見は無い。そう云う人は、共産主義諸国の人々が共産主義システムを樹立する前、資本主義システムによってどれだけ痛め付けられ搾取されていたかを知らない。そしてまた、冷戦後に再度資本主義(新自由主義)の洗礼を受けたそれらの国の人々が、どんな辛酸を嘗めることになったかも。共産主義は貧しい大多数の人々の生活を実際に大きく改善したシステムであり、雇用、教育、医療等の各分野に於て目覚ましい成果を上げ、人々を様々な恐怖から解放したシステムだ。パレンティはこれらの誤解と偏見をざっくりぶった切ることによって、国際社会についての見方を変えることを読者に迫って来る。
但し本書は一方的な共産主義賛美の書ではない。共産主義には数々の欠点が有ることもパレンティは指摘している。例えば誰もが雇用を保障され、頑張っても怠けても同じ給料が支払われる仕組みの下では、緊張感が無くなって労働者は怠け、不効率と腐敗が蔓延る様になる、なんてことは当たり前のこととして認めている。共産主義諸国の住民の主な不満は何もかもが管理されていることではなく、寧ろ管理が行き届いていないことだった、とか、一旦権利が保障されてしまうと人々はそれを当たり前のものとして享受し、有難がらなくなってしまう、などと云う指摘は興味深く読んだ。ソ連で生まれチェコで育ったジャーナリストの故アンドレ・ヴルチェク氏が、自分達が若い頃如何に「西側の」プロパガンダに洗脳されていたかを述懐しているが、彼が西側へ移り住んで、東は駄目だが西側には希望が有る、などと云うイメージが嘘に支えられた夢物語に過ぎず、祖国には尊敬すべき所が沢山有ったことを理解した時には、祖国は既に失われていた。現実を適切に理解することの難しさを物語る事例だが、大事なのは、デマや偏見に踊らされて相手の脅威を過大視したり、理解も対話も不能な他者であると悪魔化したりせず、同じ人間として、長所も有れば短所も有る普通の対等な相手として共産主義国の人々を見ることだ。相手を悪魔化することに慣れてしまうと、人はその相手に対して平気で残酷なことが出来る様になる。戦争プロパガンダとは正にそうした効果を狙ったものだ。
共産主義諸国に関しては今まで数々の残虐行為のデマが流されて来た。本書で扱っているのはソ連のグラーグだけだが、西側で喧伝されているのが大きく誇張されたイメージであることが論証されている。スレブレニツァの虐殺、天安門広場の虐殺、ウイグルのジェノサイド等々、今まで西側諜報部が捏造したり歪曲したりして来た事件は数多いが、それらについても多くのジャーナリストや研究者による地道な調査によって嘘が暴かれて来た。全てがそうだと云う訳ではないが、反共プロパガンダに於て事件の捏造や歪曲は日常茶飯事なので、日々のニュースを読む際には注意が必要だ。逆に、注意していなければ西側の大手メディアが如何に大政翼賛化しているかは理解出来ないし、そうなると国際情勢を全く誤って理解してしまうことになる。西側左派の反共主義の問題は昔からだが、今では反共プロパガンダの実態を理解しない不勉強な反共左派は、平気で(無自覚に)帝国主義的スローガンを口にする様になってしまった。この愚かな過ちを繰り返さない為にも、未来の左派はもっとメディアリテラシーを高めなければならないだろう。
反共洗脳を解くことの重要さは、特にパンデミック詐欺を利用した資本主義再起動計画、世界経済フォーラムの「グレート・リセット」が進行中の現在に於ては強調し過ぎることは無い。何の運命の悪戯なのか、パンデミック詐欺を見破っている者には右派や保守派等が多く、彼等は当然ながら反共プロパガンダを鵜呑みにしている。なのでGRを推進しているのが後期資本主義社会に君臨するグローバル・パワーエリート達であると理解していながら、「連中は世界を共産主義化しようとしている」などと云う推測を平気で口にしたりする。その殆どの者は「同じ独裁者なんだからヒトラーもスターリンも一緒だろう」「世間で全体主義と名の付くものは何でもかんでも同じだろう」と云う実に雑なイメージで語っている様だが、本書を読めば解る様に、それは短絡的に過ぎる。GRは資本主義再起動の試みであって、資本主義を克服しようとした共産主義とは目指すものが根本的に異なる。GRはファシズム・クーデター2.0ではあっても共産主義革命2.0ではない。それは人々の福祉を気に掛けたりはしない。その様な振りはするかも知れないが、最終目的は金融権力による世界の支配だ。
ファシズム2.0に於ける中国の役割はややこしく、政治的には立派に見えるが科学的には全く正当化不能なコロナ「対策」を続けている以上、全くのシロではあり得ない。何等かの理由で嘘を吐いているのは確かだろう。だがそれはどんな種類の、どんな目的の嘘なのか、現時点では私もさっぱり答えは出せない(願わくはその答えが最悪の形で明らかになったりしませんように!)。考察を進める為にも、嘘や偏見による余計な雑音は予め取り除いておきたいと思う。世界をバランス良く見ることが出来る様になる為にも、反共プロパガンダの迷妄は出来る限り打ち破っておかねばならない。先ずは嘘の存在に気が付いて、その規模や深度を見極めるのが最重要課題だ。最近は類書も多く出て来ているが、本書はその中でも解り易く総括的な見方を提供してくれると云う点で非常にお薦めだ。