『人生の春』:朝鮮人医師と結婚した日本女性「みちこ」の運命 (2015年11月2日 「朝鮮中央TV」)
11月2日、「朝鮮中央TV」で『人生の春』という「朝鮮芸術映画」が放送された。韓国・統一部のデータベースでは、過去に放送されたデータは出てこないので、初放送の可能性がある。制作年は不明であるが、画質からして新しい映画ではないようだ。
<追記>
コメントで、1990年制作と教えて頂いた。金丸訪朝で日朝関係が動きかけた時期の制作だとすると、(『光州は呼ぶ』に出てくるような)朝鮮人をたたき切るような極悪な日本人が出てこないことも理解できる。最悪のレベルでも、警察署長「さとうさん」の手術を優先させた「むらいいんちょう」ぐらいだ。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
ストーリーは、「日帝時代」に朝鮮人医師と結婚した日本人女性、「やまもとみちこ」が「指導者先生様(金正日)」に感謝の手紙を書きながら、自分の過去を回想する形で進行する。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
ソウルの「うえむら外科医院」で主人公の「みちこ」は看護師として働いていた(左の女性)。右が、夫となる外科医の羅ヨンウン。中央は「うえむら」院長。朝鮮人の子供の治療など後回しにして、警察署長「さぶろうさん」の手術を先にしろと命じている。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
いうことを聞かず、朝鮮人の子供の治療を羅医師と共にして、「うえむら院長」に叱られる「みちこ」。この映画では、日本語をバックで流しておき、その上に朝鮮語をかぶせている。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」は羅医師と共に、外科医院を開業するために平壌に向かう。平壌の元中華料理屋を改築して外科医院にするための準備をする「みちこ」と羅医師。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
後を追ってきた「みちこ」の兄(右)と姉(中)に羅医師(朝鮮人を「半島人」と訳している)との結婚を反対される。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
しかし、「みちこ」は羅医師との結婚を決意する。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
そして朝鮮は解放を迎える。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
羅医師は、自分の病院を国家に献上することを決意しているが、保安隊員がやってきて「病院は没取された。あなたたち家族は軟禁する」と告げる。理由は、羅医師が「親日派」だから。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
羅医師と「みちこ」の子供たちも、「お前達、チョッパリ(日本人の蔑称)だろ」と朝鮮人の子に虐められる。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」は、「日本人居留民後援会」に呼び出される。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「日本居留民後援会」では、「朝鮮に残っている日本人を全員帰国させる。帰国に際して、身辺の安全は我々(朝鮮当局)が責任を持つ」と朝鮮人係官に通報され、大方の日本人は喜ぶ。しかし、「みちこ」は夫や子供がいることを告げて帰国を拒むが、係官は「ご主人と話し合って、子供たちを連れ帰ってもかまいません」と答える。その場には、他にも朝鮮人と結婚した日本女性がおり、自分たちも朝鮮に残ることを望むが、「上部の指示なので、全員帰国しなければならない」と係官は告げる。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」も羅医師も帰国問題で苦悩する。そんな羅医師のもとに党幹部がやってきて、羅医師を車でどこかに連れて行く。善人そうな党幹部、しかも車で来た時点でどこに行くのかは想像が付くが。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
看護師は「どうしましょう。どこに連れて行かれるのかしら」と話しているが、友好的日本人民ですら、どこに行くのかは想像できるのに、不要な演出。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
連行された話を聞き、「みちこ」は大同江に飛び込み自殺を図る。しかし、飛び込もうとした瞬間に子供たちの声が聞こえて気を失ってしまう。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
家に連れ戻された「みちこ」は、羅医師が「将軍様(金日成)」と会った話を聞く。「将軍様」は、「一部の変節者が、病院を没収した上、軟禁までした」が、羅医師に「保安幹部訓練大隊部直属病院の院長を」命じた。また、「将軍様」は、「既に朝鮮人と家庭を持った日本女性の問題を一律的に処理したことについて、きちんと対応するよう措置を取った」とし、「朝鮮人は昔から単一民族なので、日本女性と家庭を持ったのは例外的であるが、高尚な人格に魅了されて愛し合ったのであれば、それはとても美しい感情であり、そのような美しい愛を認めないのであれば、人間について語ることはできない」と述べ、「何の心配もなく温かい家庭で幸せに暮らしなさい」と述べ、「みちこ」にチマチョゴリを与えた。下は、チマチョゴリを受け取り感涙にむせぶ「みちこ」。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
上の「将軍様」の発言から、朝鮮人と外国人の結婚が原則的には禁止されていることが確認できる。
「みちこ」は、羅医師と相談して朝鮮名を付ける。名字は夫の姓から羅、名前は「将軍様への義理を守るために純情(スンジョン)」。「将軍様」のために一生懸命「新国家建設」をする「みちこ」。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
しかし、「米帝」が朝鮮侵略を始める。「みちこ」は、軍医として服務する羅医師と別れ別れになってしまう。「米帝」の砲火の中、羅医師を探して彷徨う「みちこ」と子供たち。羅医師は、「米帝」の爆撃で大怪我をしながらも、野戦病院で手術の指導をしている。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
Source: KCTV, 2015/11/02放送
羅医師は還暦を超えるまで、陸軍の大きな病院の院長として勤務して死亡。「愛国烈士陵」に安置された。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」の兄と妹が万景峰号らしき船に乗って朝鮮にやってくる(下の写真)。「親愛なる指導者同志(金正日)が、お母さん(「みちこ」)が兄弟に会いたいだろうと、早く会えるよう、措置をして下さった」と党幹部が「みちこ」に伝える。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
そして、「高麗ホテル」で、「みちこ」と兄、姉は再会を果たす。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」家族のことが『労働新聞』の記事になる。「ある医師の愛国的良心を貴重に思われ」
Source: KCTV, 2015/11/02放送
羅医師は「指導者先生(金正日)」から死後、「英雄称号」を授与される。兄は、「みちこ」の幸せそうな暮らしぶりと、自分たちを「みちこ」と再会させてくれた「指導者先生」の恩を忘れることができないという。そして、羅医師の墓参りに行く。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
そして、兄は決め言葉を言う。「人間は、自分がどのように生きるのかも重要であるが、お前のように偉大な懐に抱かれてこそ、正しい人生を花咲かせることができる」。「みちこ」は、「お兄さんがそんなことを言うまで、50年もの時が流れたのね」と応じる。
そして、「みちこ」が「親愛なる指導者先生」に送った手紙が『労働新聞』に掲載される。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
この映画のポイントは、「みちこ」という朝鮮人の夫を愛し、朝鮮のために生きた日本女性、彼女を受け入れた「将軍様(金日成)の偉大な懐」、そして、夫を失った「みちこ」に恩情を与え、兄や妹と再開までさせた「指導者先生(金正日)」というところであろう。「みちこ」は、「指導者同志」ではなく、「指導者先生」と金正日を呼んでいる。「みちこ」の国籍が最終的にどうなったのかは分からないが、「同志」と呼ばさせてもらっていないことからすると、ずっと日本だったのかもしれない。
上にも書いたように、韓国・統一部のデータでは、この映画のテレビ放映は初めてということになっている。この時期に放映されたのが、『労働新聞』に記事が掲載された時期と重なっているのかどうかは、記事の掲載期日が分からないので何とも言えない。しかし、もしそれとは関係ないとすると、日朝関係改善へのシグナル、あるいは朴槿恵・安倍会談への牽制の可能性もある。
『私が見た朝鮮』など、日本人が主人公となる映画は見たことがあるが、朝鮮人と結婚した日本女性の運命を取り扱った映画は初めてだったのでおもしろかった。
<追記>
コメントで、1990年制作と教えて頂いた。金丸訪朝で日朝関係が動きかけた時期の制作だとすると、(『光州は呼ぶ』に出てくるような)朝鮮人をたたき切るような極悪な日本人が出てこないことも理解できる。最悪のレベルでも、警察署長「さとうさん」の手術を優先させた「むらいいんちょう」ぐらいだ。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
ストーリーは、「日帝時代」に朝鮮人医師と結婚した日本人女性、「やまもとみちこ」が「指導者先生様(金正日)」に感謝の手紙を書きながら、自分の過去を回想する形で進行する。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
ソウルの「うえむら外科医院」で主人公の「みちこ」は看護師として働いていた(左の女性)。右が、夫となる外科医の羅ヨンウン。中央は「うえむら」院長。朝鮮人の子供の治療など後回しにして、警察署長「さぶろうさん」の手術を先にしろと命じている。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
いうことを聞かず、朝鮮人の子供の治療を羅医師と共にして、「うえむら院長」に叱られる「みちこ」。この映画では、日本語をバックで流しておき、その上に朝鮮語をかぶせている。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」は羅医師と共に、外科医院を開業するために平壌に向かう。平壌の元中華料理屋を改築して外科医院にするための準備をする「みちこ」と羅医師。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
後を追ってきた「みちこ」の兄(右)と姉(中)に羅医師(朝鮮人を「半島人」と訳している)との結婚を反対される。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
しかし、「みちこ」は羅医師との結婚を決意する。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
そして朝鮮は解放を迎える。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
羅医師は、自分の病院を国家に献上することを決意しているが、保安隊員がやってきて「病院は没取された。あなたたち家族は軟禁する」と告げる。理由は、羅医師が「親日派」だから。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
羅医師と「みちこ」の子供たちも、「お前達、チョッパリ(日本人の蔑称)だろ」と朝鮮人の子に虐められる。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」は、「日本人居留民後援会」に呼び出される。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「日本居留民後援会」では、「朝鮮に残っている日本人を全員帰国させる。帰国に際して、身辺の安全は我々(朝鮮当局)が責任を持つ」と朝鮮人係官に通報され、大方の日本人は喜ぶ。しかし、「みちこ」は夫や子供がいることを告げて帰国を拒むが、係官は「ご主人と話し合って、子供たちを連れ帰ってもかまいません」と答える。その場には、他にも朝鮮人と結婚した日本女性がおり、自分たちも朝鮮に残ることを望むが、「上部の指示なので、全員帰国しなければならない」と係官は告げる。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」も羅医師も帰国問題で苦悩する。そんな羅医師のもとに党幹部がやってきて、羅医師を車でどこかに連れて行く。善人そうな党幹部、しかも車で来た時点でどこに行くのかは想像が付くが。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
看護師は「どうしましょう。どこに連れて行かれるのかしら」と話しているが、友好的日本人民ですら、どこに行くのかは想像できるのに、不要な演出。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
連行された話を聞き、「みちこ」は大同江に飛び込み自殺を図る。しかし、飛び込もうとした瞬間に子供たちの声が聞こえて気を失ってしまう。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
家に連れ戻された「みちこ」は、羅医師が「将軍様(金日成)」と会った話を聞く。「将軍様」は、「一部の変節者が、病院を没収した上、軟禁までした」が、羅医師に「保安幹部訓練大隊部直属病院の院長を」命じた。また、「将軍様」は、「既に朝鮮人と家庭を持った日本女性の問題を一律的に処理したことについて、きちんと対応するよう措置を取った」とし、「朝鮮人は昔から単一民族なので、日本女性と家庭を持ったのは例外的であるが、高尚な人格に魅了されて愛し合ったのであれば、それはとても美しい感情であり、そのような美しい愛を認めないのであれば、人間について語ることはできない」と述べ、「何の心配もなく温かい家庭で幸せに暮らしなさい」と述べ、「みちこ」にチマチョゴリを与えた。下は、チマチョゴリを受け取り感涙にむせぶ「みちこ」。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
上の「将軍様」の発言から、朝鮮人と外国人の結婚が原則的には禁止されていることが確認できる。
「みちこ」は、羅医師と相談して朝鮮名を付ける。名字は夫の姓から羅、名前は「将軍様への義理を守るために純情(スンジョン)」。「将軍様」のために一生懸命「新国家建設」をする「みちこ」。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
しかし、「米帝」が朝鮮侵略を始める。「みちこ」は、軍医として服務する羅医師と別れ別れになってしまう。「米帝」の砲火の中、羅医師を探して彷徨う「みちこ」と子供たち。羅医師は、「米帝」の爆撃で大怪我をしながらも、野戦病院で手術の指導をしている。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
Source: KCTV, 2015/11/02放送
羅医師は還暦を超えるまで、陸軍の大きな病院の院長として勤務して死亡。「愛国烈士陵」に安置された。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」の兄と妹が万景峰号らしき船に乗って朝鮮にやってくる(下の写真)。「親愛なる指導者同志(金正日)が、お母さん(「みちこ」)が兄弟に会いたいだろうと、早く会えるよう、措置をして下さった」と党幹部が「みちこ」に伝える。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
そして、「高麗ホテル」で、「みちこ」と兄、姉は再会を果たす。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
「みちこ」家族のことが『労働新聞』の記事になる。「ある医師の愛国的良心を貴重に思われ」
Source: KCTV, 2015/11/02放送
羅医師は「指導者先生(金正日)」から死後、「英雄称号」を授与される。兄は、「みちこ」の幸せそうな暮らしぶりと、自分たちを「みちこ」と再会させてくれた「指導者先生」の恩を忘れることができないという。そして、羅医師の墓参りに行く。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
そして、兄は決め言葉を言う。「人間は、自分がどのように生きるのかも重要であるが、お前のように偉大な懐に抱かれてこそ、正しい人生を花咲かせることができる」。「みちこ」は、「お兄さんがそんなことを言うまで、50年もの時が流れたのね」と応じる。
そして、「みちこ」が「親愛なる指導者先生」に送った手紙が『労働新聞』に掲載される。
Source: KCTV, 2015/11/02放送
この映画のポイントは、「みちこ」という朝鮮人の夫を愛し、朝鮮のために生きた日本女性、彼女を受け入れた「将軍様(金日成)の偉大な懐」、そして、夫を失った「みちこ」に恩情を与え、兄や妹と再開までさせた「指導者先生(金正日)」というところであろう。「みちこ」は、「指導者同志」ではなく、「指導者先生」と金正日を呼んでいる。「みちこ」の国籍が最終的にどうなったのかは分からないが、「同志」と呼ばさせてもらっていないことからすると、ずっと日本だったのかもしれない。
上にも書いたように、韓国・統一部のデータでは、この映画のテレビ放映は初めてということになっている。この時期に放映されたのが、『労働新聞』に記事が掲載された時期と重なっているのかどうかは、記事の掲載期日が分からないので何とも言えない。しかし、もしそれとは関係ないとすると、日朝関係改善へのシグナル、あるいは朴槿恵・安倍会談への牽制の可能性もある。
『私が見た朝鮮』など、日本人が主人公となる映画は見たことがあるが、朝鮮人と結婚した日本女性の運命を取り扱った映画は初めてだったのでおもしろかった。