「俺は朝鮮人だ-世界プロレスリング強者 力道山-」:北朝鮮版の力道山ストーリー (2013年10月20日 「朝鮮中央TV」)
一つ前に書いた記事の「祖国賛歌」の銀河水楽団クレジットがいつから消えたのかと過去の動画を眺めていたら、おもしろい番組があった。白黒系の番組は、大体が古い金日成ストーリーなので飛ばしてしまうのだが、このおもしろい力道山ストーリーもほとんどが古い日本のフィルムを使用している白黒番組のため、一緒に飛ばしてしまっていたようだ。
私も父親がプロレス番組を見ていたこともあり、特に高校時代にはプロレスは大好きだった。テレビのプロレス中継は欠かさず見て、翌日はプロレス愛好仲間とその話題で盛り上がり、さらに技の練習もやっていた。実際の試合は、一度しか見に行ったことがないが、タイガージェット・シンと上田馬の助のタッグが日本チームと戦う試合だった。
私がテレビを見出した頃は、既に力道山は亡くなっていたが、アントニオ猪木やジャイアント馬場など、力道山の弟子たちが大活躍している時代で、力道山の話は度々披露されていた。韓国・朝鮮系レスラーとしては、大木金太郎(金一)が活躍していた時代でもある。あとは、キムドクを名乗るレスラーもいたが、在日韓国人だったのだろうか。
「俺は朝鮮人だ-世界プロレスリング強者 力道山-」

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組は「(今日我々は)朝鮮民族、金日成民族の尊厳と自負心を全世界に高く誇っています」、「しかし、朝鮮人・力道山は、世界プロレスリング強者として体育人の名誉を世界中に轟かせ、裕福な生活を送っていましたが、今日、我々の体育人の誇り高いその言葉をなぜ、生命の最後の瞬間に残したのでしょうか」という問いかけをし、「国を失った受難の歳月、日本侵略者の悪辣で狡猾な策動の犠牲となり、不本意にも日本人となった彼の深刻な運命が語っている」と結論を先に述べるところから始まっている。
力道山の生家を訪ねるアントニオ猪木。猪木についての言及は番組中にはなく、「(力道山は)咸鏡南道洪原郡で生まれた朝鮮人・金信洛でした」と紹介している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
生家の庭には石碑のような物が建てられており、「力道山」と刻まれている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送

Source: KCTV, 2013/10/20放送
力道山の家族

Source: KCTV, 2013/10/20放送
右上にいる2人の男性が力道山の兄たちであるが、彼らも朝鮮相撲の力士として有名であったという。この兄たちが力道山の誕生日に白米を大盛りにして与えたら、力道山は大人が食べる量の4倍を食べてしまったという。力道山は15歳の時から相撲力士として名をはせ、多くの賞を得ていたという。
番組は、力道山が来日した理由を「日帝の朝鮮民族抹殺政策が絶頂に至った当時、金信洛(力道山)の驚くべき力と体格に目を付けた狡猾な日本人、百田イノスケに騙され、日本に連れて行かれることになりました」と説明している。写真は百田イノスケ

Source: KCTV, 2013/10/20放送
そして、力道山は「結婚したばかりの妻と離別し、1939年2月」に日本に渡ったと説明した上で、「日帝の朝鮮民族抹殺政策の犠牲となり、突然、不本意にも日本人にされた金信洛」と下の写真を紹介している。「名前:百田光浩、戸籍:百田イノスケ、本籍:長崎県大村」と書かれている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
そして、「狡猾な日本人は力道山という名前を付け、古代ローマの奴隷武士のように日本相撲力士に仕立て上げました」と説明して下の写真を見せる。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
その後、「偽日本人、力道山になっても日本の奴らを皆打ち破る復讐心に燃え、血と汗で日本相撲一流級にまで到達しました」と下の写真を紹介する。股間に微妙なぼかしが入っているところが何とも北朝鮮らしい。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
しかし、「力道山は、朝鮮人に対する民族的蔑視に耐えきれず、日本相撲の象徴である髷をばっさりと切り落として、プロレスリング界に入りました」と髷を切った力道山の写真を見せる。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
力道山はハワイに渡りプロレスのトレーニングを受ける。その中で彼の得意技である「空手チョップ」を生み出すわけであるが、その説明がなかなか面白い。「手刀打撃(北朝鮮では、空手チョップをこう訳している)、これは力道山が朝鮮虎の気質から見いだしたプロレスリングの新たな技法でした」

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組では力道山の最初の大きな試合として「全日本プロレスリング、ヘビー級強者、山口(利夫)」との試合を紹介している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
「素早い力道山のかわし技でリングアウトし、再びリングに登ってこられなかった山口」とナレーション。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
続いて番組は、力道山対木村政彦の試合、いわゆる「昭和の巌流島」を紹介する。ただし、これはシーケンスが逆で、インターネットで調べた限りでは、山口との対戦が1955年1月26日なのに対して、木村との対戦は1954年12月22日となっている。
木村との試合を説明するナレーションを聞いていて吹き出してしまった。ナレーションは「続いて力道山は、世界柔道の帝王と誇る木村の挑戦状を受け取りました。この挑戦状には、力道山に日本の服を着させ、日本の名前まで付けて日本人に仕立て上げたが、朝鮮人・力道山の気質を砕こうとする日本反動共の狡猾な陰謀が隠されていました」と言っているが、私が吹き出したのは「日本反動共の狡猾な陰謀」という部分である。ここで「日本反動」が登場するとは想像もしていなかったからである。
木村を投げる力道山

Source: KCTV, 2013/10/20放送
力道山と木村の「昭和の巌流島」対戦の契機となったのは、仲間割れして両人が組んでいたタッグが解消したことによるという説明がインターネットには書かれているが、番組ではこの部分も順序を逆転させ「(力道山は)、全日本レスリング強者(チャンピオン)の地位を堂々と占めました。すると日本反動共は、力道山を利用して、木村とタッグを組ませタッグマッチに出させて自らの体面を保とうと悪辣に策動しました」と説明している。
そして、力道山の目標が「アジアの最強者になること」であるとした上で、キングコングとの試合を紹介する。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
アジアヘビー級王座を獲得した力道山は、「太平洋沿岸選手権争奪戦」と「タッグマッチ選手権争奪戦」に挑む。ナレーションは力道山が「西洋第一の神話を打ち砕き始めました」、「虎のような力道山の前でブルブルと震える米国の選手たち。力道山の強力な打撃におののき、米国選手はプロレスリング強者の体面を失っていまいました」と説明している。実に、「朝鮮の虎」が「日本反動」のみならず、米国人を打ち破っていくという「痛快な」説明である。朝鮮人民には分からないだろうが、番組では日本のファンが「力道山!力道山!」と応援している声も流れている。友好的日本人民は、「日本反動」に力道山が日本人であると騙され、日本人・力道山を応援しているということなのであろうか。下は米国選手が勘弁してくれとばかり手を挙げている場面。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組は続けて、ロメリ(朝鮮語からの音訳)、ボボブラジル、ジャンクレー・サライ(音訳)、フレッド・ブラシ-等との試合を紹介し、力道山は「血を吸う吸血鬼や刀を振り回す殺人者と生死をかけた対決戦をしなければなりませんでした。このように、力道山の値が上がり、人気が高まると、日本反動共は力道山が朝鮮人ではなく、元々日本人であるという嘘の宣伝しつつ、彼が競技に出場する毎に大規模な歓迎事業を行い、その実況中継をテレビで行うなど、騒ぎ立てました。それに踊らされた日本人は試合を見ようと競技場に押しかけ、交通が遮断されたり、負傷者を出すなどの醜態を演じました」と説明し、再び「日本反動」が登場する。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
インターネット情報では、力道山は自らが朝鮮人であることを少なくともこの時期は隠したがっていたということになっている。しかし番組では「力道山は、高まる人気と名誉に陶酔し、自分が奴らの政治的な道具として使われていることに気付かなかっただけではなく、自分が朝鮮人であっても馬鹿にされることはないという満足感に酔っていました」と説明している。
続けて番組では、力道山が米国に渡りルーテーズと試合をし「アジア人としては初めて、世界プロレスリング重量級最高権威者(インターナショナル・ヘビー級王者)」になったことを紹介する。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
デストロイヤーとの試合の紹介では、「見ただけで人々の気持ちを不安にさせる悪魔と呼ばれる米国のデストロイヤーがインターナショナル・ヘビー級ベルトを狙って挑戦してきました。四の字固めにかかれば担架で運ばれると言われるデストロイヤーの特技に力道山はかかってしまいました」と解説している。ナレーションは真面目にやっているつもりなのだろうが、日本のプロレス中継でも使えそうな表現である。また、BGMも「米帝」が朝鮮を「侵略」する場面で使われる系のものを効果的に使っている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
インターネット情報によると、デストロイヤーとのこの試合は「両者試合続行不可能」とレフリーにより判断されたということであるが、番組では場外で力道山がデストロイヤーにバックドロップを食らわし、「不屈の人間力道山は、不死神のように立ち上がり最後の力強い攻撃を加えました」と説明した上で、レフリーが力道山の手を挙げている映像を見せている。「勝った」とは言っていないものの、実に「狡猾」である。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組には、力道山の活躍を解説する東京スポーツ新聞社・編集局長の桜井康雄さんも登場する。顔は覚えていないが、私がプロレスを見ていた頃、解説者としてしばしば登場してたこの名前はまだ記憶に残っている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組は、桜井さんの日本語の話の上に朝鮮語ナレーションをかぶせているので、桜井さんの声はほとんど聞き取ることができない。朝鮮語ナレーションを翻訳すると「1953年からのテレビ普及は凄かった。それは、力道山のプロレスが見たいということで急速に拡大した」となっている。桜井さんが何を語ったのかは別として、この点については事実である。力道山の試合が映っているテレビの広告。新横浜のラーメン博物館では、本物のこのようなテレビで力道山の試合の一部を流している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
しかし、それに続く解説がまたおもしろい。番組は、「古代ローマの武士奴隷のように生死を賭けた試合で獲得した力道山の名誉で『金(かね)のにわか雨』を迎えた日本反動共は、それにより敗戦国の経済を復活させ、転落した日本人の士気を高めようという政治的目的に狡猾に利用しました」と力道山を応援する日本人の姿を紹介する。番組制作者が意識しているのかどうかは分からないが、この時期に日本に「金のにわか雨」をもたらしたのは力道山ではなく、朝鮮戦争特需である。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
続けて番組では「日本反動共の狡猾な陰謀を知るはずもない力道山は、こうした血と命を賭けた生死を分ける戦いで勝利するたびに、自分が不本意にも日本人の名前を持つようになったが、朝鮮人であるということを世間がよく知っている以上、同胞が喜んでくれると信じました。しかしこれは、あまりにも間違った考えでした。力道山の勝利を祝福する手紙が日本各地からたくさん寄せられましたが、その中に同胞の名前は一つもなく、通りや飲食店で会う同胞さえも無視したり馬鹿にした視線を向け、友人たちも寄りつかなくなりました」と力道山の苦悩を紹介する。
このような苦悩を抱えた力道山は「人々が寝静まった深夜、東京から新潟まで乗用車で駆けつけ、夜が更けるのも忘れて帰国船を眺めながら苦悩の涙、男の涙を人知れず流しました」とナレーションは説明している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
そして、「1961年11月5日、力道山は会いたかった娘と異国の地で初めて会いました」と番組で紹介している。「異国の地」というのが北朝鮮を指しているのか日本を指しているのか、はたまた第三国を指しているのかは分からない。写真は「1995年に撮影された力道山の娘、金ヨンスク」

Source: KCTV, 2013/10/20放送
その時、力道山は「敬愛する金日成将軍が、父親が米国の選手に痛快に空手チョップを食らわせる競技場面を見て、過分の褒め言葉と信頼を下さったという娘の話を聞いて大変感激し、俺は金日成将軍様に最後まで従うことにした以上、怖い物はない」と語ったという。しかし、番組は力道山が娘と共に写っている写真は紹介していない。写真は力道山の娘が書いたという本より「愛の主役」という章。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
「こうして英明な民族の男として生まれ変わった力道山は、自分の意志を盛り込み、父なる首領様に挨拶文を差し上げた」

Source: KCTV, 2013/10/20放送
力道山が金日成に贈呈したというベンツとそれ(乗用車一台)が記された手紙

Source: KCTV, 2013/10/20放送

Source: KCTV, 2013/10/20放送
金日成はこれを受けて力道山を高く評価し、力道山はその後、北朝鮮との自由往来を求める在日朝鮮人の運動に協力したり、東京オリンピックに参加する北朝鮮選手に宿所や費用などを提供することを約束したと番組では説明している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
しかし、祖国を取り戻し活躍を続けた力道山も不慮の死に直面する。番組ではこの死について「卑怯な日本反動共はチンピラを使って、彼を殺害する卑劣で悪辣な蛮行を働いた」と説明している。インターネット情報では、力道山はナイトクラブで暴力団員とケンカになり、腹をナイフで刺された傷が原因で死亡したということになっている。番組では、その詳細こそ語らないが、酒瓶のような物を映し出している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
そして、「俺は、俺がなぜ死ぬのか知っている。俺が朝鮮人だからだ。そうだ、俺は朝鮮人だ。力道山ではなく、朝鮮人・金信洛だ。俺の人生は長くなかったが、偉大な首領金日成将軍様を頂いた朝鮮人として生きて、死んでいくということを光栄に思う・・・」という力道山の最後の言葉を紹介して番組を締めくくっている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
韓国・統一部北韓情報センターHPでこの番組について確認してみたところ、再放送とは書かれていなかった。白黒映像は総連関係者が北朝鮮に過去に持ち込んだ物を使ったのであろうが、なぜこのタイミングでこうした番組を作ったのかは分からない。「体育強国」建設と民族意識を結びつける目的があったのかも知れないが、それにしてもである。この記事を書く際に使った「インターネット情報」は、ほぼ全てwikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%9B%E9%81%93%E5%B1%B1)からである。残念ながら、それ以外のソースが明確な情報を見つけ出すことができなかったし、力道山関連の書籍もないし、購入する気もないからである。wikipediaには「北朝鮮では、『力道山は日本の憲兵に拉致されて日本の相撲界に入門、独力で逆境を乗り越えた民族の英雄』とするデマも伝えられているという」という記述がソースを記すことなく書かれているが、この番組はそのソースとして使えるような気がする。
私も父親がプロレス番組を見ていたこともあり、特に高校時代にはプロレスは大好きだった。テレビのプロレス中継は欠かさず見て、翌日はプロレス愛好仲間とその話題で盛り上がり、さらに技の練習もやっていた。実際の試合は、一度しか見に行ったことがないが、タイガージェット・シンと上田馬の助のタッグが日本チームと戦う試合だった。
私がテレビを見出した頃は、既に力道山は亡くなっていたが、アントニオ猪木やジャイアント馬場など、力道山の弟子たちが大活躍している時代で、力道山の話は度々披露されていた。韓国・朝鮮系レスラーとしては、大木金太郎(金一)が活躍していた時代でもある。あとは、キムドクを名乗るレスラーもいたが、在日韓国人だったのだろうか。
「俺は朝鮮人だ-世界プロレスリング強者 力道山-」

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組は「(今日我々は)朝鮮民族、金日成民族の尊厳と自負心を全世界に高く誇っています」、「しかし、朝鮮人・力道山は、世界プロレスリング強者として体育人の名誉を世界中に轟かせ、裕福な生活を送っていましたが、今日、我々の体育人の誇り高いその言葉をなぜ、生命の最後の瞬間に残したのでしょうか」という問いかけをし、「国を失った受難の歳月、日本侵略者の悪辣で狡猾な策動の犠牲となり、不本意にも日本人となった彼の深刻な運命が語っている」と結論を先に述べるところから始まっている。
力道山の生家を訪ねるアントニオ猪木。猪木についての言及は番組中にはなく、「(力道山は)咸鏡南道洪原郡で生まれた朝鮮人・金信洛でした」と紹介している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
生家の庭には石碑のような物が建てられており、「力道山」と刻まれている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送

Source: KCTV, 2013/10/20放送
力道山の家族

Source: KCTV, 2013/10/20放送
右上にいる2人の男性が力道山の兄たちであるが、彼らも朝鮮相撲の力士として有名であったという。この兄たちが力道山の誕生日に白米を大盛りにして与えたら、力道山は大人が食べる量の4倍を食べてしまったという。力道山は15歳の時から相撲力士として名をはせ、多くの賞を得ていたという。
番組は、力道山が来日した理由を「日帝の朝鮮民族抹殺政策が絶頂に至った当時、金信洛(力道山)の驚くべき力と体格に目を付けた狡猾な日本人、百田イノスケに騙され、日本に連れて行かれることになりました」と説明している。写真は百田イノスケ

Source: KCTV, 2013/10/20放送
そして、力道山は「結婚したばかりの妻と離別し、1939年2月」に日本に渡ったと説明した上で、「日帝の朝鮮民族抹殺政策の犠牲となり、突然、不本意にも日本人にされた金信洛」と下の写真を紹介している。「名前:百田光浩、戸籍:百田イノスケ、本籍:長崎県大村」と書かれている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
そして、「狡猾な日本人は力道山という名前を付け、古代ローマの奴隷武士のように日本相撲力士に仕立て上げました」と説明して下の写真を見せる。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
その後、「偽日本人、力道山になっても日本の奴らを皆打ち破る復讐心に燃え、血と汗で日本相撲一流級にまで到達しました」と下の写真を紹介する。股間に微妙なぼかしが入っているところが何とも北朝鮮らしい。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
しかし、「力道山は、朝鮮人に対する民族的蔑視に耐えきれず、日本相撲の象徴である髷をばっさりと切り落として、プロレスリング界に入りました」と髷を切った力道山の写真を見せる。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
力道山はハワイに渡りプロレスのトレーニングを受ける。その中で彼の得意技である「空手チョップ」を生み出すわけであるが、その説明がなかなか面白い。「手刀打撃(北朝鮮では、空手チョップをこう訳している)、これは力道山が朝鮮虎の気質から見いだしたプロレスリングの新たな技法でした」

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組では力道山の最初の大きな試合として「全日本プロレスリング、ヘビー級強者、山口(利夫)」との試合を紹介している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
「素早い力道山のかわし技でリングアウトし、再びリングに登ってこられなかった山口」とナレーション。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
続いて番組は、力道山対木村政彦の試合、いわゆる「昭和の巌流島」を紹介する。ただし、これはシーケンスが逆で、インターネットで調べた限りでは、山口との対戦が1955年1月26日なのに対して、木村との対戦は1954年12月22日となっている。
木村との試合を説明するナレーションを聞いていて吹き出してしまった。ナレーションは「続いて力道山は、世界柔道の帝王と誇る木村の挑戦状を受け取りました。この挑戦状には、力道山に日本の服を着させ、日本の名前まで付けて日本人に仕立て上げたが、朝鮮人・力道山の気質を砕こうとする日本反動共の狡猾な陰謀が隠されていました」と言っているが、私が吹き出したのは「日本反動共の狡猾な陰謀」という部分である。ここで「日本反動」が登場するとは想像もしていなかったからである。
木村を投げる力道山

Source: KCTV, 2013/10/20放送
力道山と木村の「昭和の巌流島」対戦の契機となったのは、仲間割れして両人が組んでいたタッグが解消したことによるという説明がインターネットには書かれているが、番組ではこの部分も順序を逆転させ「(力道山は)、全日本レスリング強者(チャンピオン)の地位を堂々と占めました。すると日本反動共は、力道山を利用して、木村とタッグを組ませタッグマッチに出させて自らの体面を保とうと悪辣に策動しました」と説明している。
そして、力道山の目標が「アジアの最強者になること」であるとした上で、キングコングとの試合を紹介する。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
アジアヘビー級王座を獲得した力道山は、「太平洋沿岸選手権争奪戦」と「タッグマッチ選手権争奪戦」に挑む。ナレーションは力道山が「西洋第一の神話を打ち砕き始めました」、「虎のような力道山の前でブルブルと震える米国の選手たち。力道山の強力な打撃におののき、米国選手はプロレスリング強者の体面を失っていまいました」と説明している。実に、「朝鮮の虎」が「日本反動」のみならず、米国人を打ち破っていくという「痛快な」説明である。朝鮮人民には分からないだろうが、番組では日本のファンが「力道山!力道山!」と応援している声も流れている。友好的日本人民は、「日本反動」に力道山が日本人であると騙され、日本人・力道山を応援しているということなのであろうか。下は米国選手が勘弁してくれとばかり手を挙げている場面。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組は続けて、ロメリ(朝鮮語からの音訳)、ボボブラジル、ジャンクレー・サライ(音訳)、フレッド・ブラシ-等との試合を紹介し、力道山は「血を吸う吸血鬼や刀を振り回す殺人者と生死をかけた対決戦をしなければなりませんでした。このように、力道山の値が上がり、人気が高まると、日本反動共は力道山が朝鮮人ではなく、元々日本人であるという嘘の宣伝しつつ、彼が競技に出場する毎に大規模な歓迎事業を行い、その実況中継をテレビで行うなど、騒ぎ立てました。それに踊らされた日本人は試合を見ようと競技場に押しかけ、交通が遮断されたり、負傷者を出すなどの醜態を演じました」と説明し、再び「日本反動」が登場する。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
インターネット情報では、力道山は自らが朝鮮人であることを少なくともこの時期は隠したがっていたということになっている。しかし番組では「力道山は、高まる人気と名誉に陶酔し、自分が奴らの政治的な道具として使われていることに気付かなかっただけではなく、自分が朝鮮人であっても馬鹿にされることはないという満足感に酔っていました」と説明している。
続けて番組では、力道山が米国に渡りルーテーズと試合をし「アジア人としては初めて、世界プロレスリング重量級最高権威者(インターナショナル・ヘビー級王者)」になったことを紹介する。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
デストロイヤーとの試合の紹介では、「見ただけで人々の気持ちを不安にさせる悪魔と呼ばれる米国のデストロイヤーがインターナショナル・ヘビー級ベルトを狙って挑戦してきました。四の字固めにかかれば担架で運ばれると言われるデストロイヤーの特技に力道山はかかってしまいました」と解説している。ナレーションは真面目にやっているつもりなのだろうが、日本のプロレス中継でも使えそうな表現である。また、BGMも「米帝」が朝鮮を「侵略」する場面で使われる系のものを効果的に使っている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
インターネット情報によると、デストロイヤーとのこの試合は「両者試合続行不可能」とレフリーにより判断されたということであるが、番組では場外で力道山がデストロイヤーにバックドロップを食らわし、「不屈の人間力道山は、不死神のように立ち上がり最後の力強い攻撃を加えました」と説明した上で、レフリーが力道山の手を挙げている映像を見せている。「勝った」とは言っていないものの、実に「狡猾」である。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組には、力道山の活躍を解説する東京スポーツ新聞社・編集局長の桜井康雄さんも登場する。顔は覚えていないが、私がプロレスを見ていた頃、解説者としてしばしば登場してたこの名前はまだ記憶に残っている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
番組は、桜井さんの日本語の話の上に朝鮮語ナレーションをかぶせているので、桜井さんの声はほとんど聞き取ることができない。朝鮮語ナレーションを翻訳すると「1953年からのテレビ普及は凄かった。それは、力道山のプロレスが見たいということで急速に拡大した」となっている。桜井さんが何を語ったのかは別として、この点については事実である。力道山の試合が映っているテレビの広告。新横浜のラーメン博物館では、本物のこのようなテレビで力道山の試合の一部を流している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
しかし、それに続く解説がまたおもしろい。番組は、「古代ローマの武士奴隷のように生死を賭けた試合で獲得した力道山の名誉で『金(かね)のにわか雨』を迎えた日本反動共は、それにより敗戦国の経済を復活させ、転落した日本人の士気を高めようという政治的目的に狡猾に利用しました」と力道山を応援する日本人の姿を紹介する。番組制作者が意識しているのかどうかは分からないが、この時期に日本に「金のにわか雨」をもたらしたのは力道山ではなく、朝鮮戦争特需である。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
続けて番組では「日本反動共の狡猾な陰謀を知るはずもない力道山は、こうした血と命を賭けた生死を分ける戦いで勝利するたびに、自分が不本意にも日本人の名前を持つようになったが、朝鮮人であるということを世間がよく知っている以上、同胞が喜んでくれると信じました。しかしこれは、あまりにも間違った考えでした。力道山の勝利を祝福する手紙が日本各地からたくさん寄せられましたが、その中に同胞の名前は一つもなく、通りや飲食店で会う同胞さえも無視したり馬鹿にした視線を向け、友人たちも寄りつかなくなりました」と力道山の苦悩を紹介する。
このような苦悩を抱えた力道山は「人々が寝静まった深夜、東京から新潟まで乗用車で駆けつけ、夜が更けるのも忘れて帰国船を眺めながら苦悩の涙、男の涙を人知れず流しました」とナレーションは説明している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
そして、「1961年11月5日、力道山は会いたかった娘と異国の地で初めて会いました」と番組で紹介している。「異国の地」というのが北朝鮮を指しているのか日本を指しているのか、はたまた第三国を指しているのかは分からない。写真は「1995年に撮影された力道山の娘、金ヨンスク」

Source: KCTV, 2013/10/20放送
その時、力道山は「敬愛する金日成将軍が、父親が米国の選手に痛快に空手チョップを食らわせる競技場面を見て、過分の褒め言葉と信頼を下さったという娘の話を聞いて大変感激し、俺は金日成将軍様に最後まで従うことにした以上、怖い物はない」と語ったという。しかし、番組は力道山が娘と共に写っている写真は紹介していない。写真は力道山の娘が書いたという本より「愛の主役」という章。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
「こうして英明な民族の男として生まれ変わった力道山は、自分の意志を盛り込み、父なる首領様に挨拶文を差し上げた」

Source: KCTV, 2013/10/20放送
力道山が金日成に贈呈したというベンツとそれ(乗用車一台)が記された手紙

Source: KCTV, 2013/10/20放送

Source: KCTV, 2013/10/20放送
金日成はこれを受けて力道山を高く評価し、力道山はその後、北朝鮮との自由往来を求める在日朝鮮人の運動に協力したり、東京オリンピックに参加する北朝鮮選手に宿所や費用などを提供することを約束したと番組では説明している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
しかし、祖国を取り戻し活躍を続けた力道山も不慮の死に直面する。番組ではこの死について「卑怯な日本反動共はチンピラを使って、彼を殺害する卑劣で悪辣な蛮行を働いた」と説明している。インターネット情報では、力道山はナイトクラブで暴力団員とケンカになり、腹をナイフで刺された傷が原因で死亡したということになっている。番組では、その詳細こそ語らないが、酒瓶のような物を映し出している。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
そして、「俺は、俺がなぜ死ぬのか知っている。俺が朝鮮人だからだ。そうだ、俺は朝鮮人だ。力道山ではなく、朝鮮人・金信洛だ。俺の人生は長くなかったが、偉大な首領金日成将軍様を頂いた朝鮮人として生きて、死んでいくということを光栄に思う・・・」という力道山の最後の言葉を紹介して番組を締めくくっている。

Source: KCTV, 2013/10/20放送
韓国・統一部北韓情報センターHPでこの番組について確認してみたところ、再放送とは書かれていなかった。白黒映像は総連関係者が北朝鮮に過去に持ち込んだ物を使ったのであろうが、なぜこのタイミングでこうした番組を作ったのかは分からない。「体育強国」建設と民族意識を結びつける目的があったのかも知れないが、それにしてもである。この記事を書く際に使った「インターネット情報」は、ほぼ全てwikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%9B%E9%81%93%E5%B1%B1)からである。残念ながら、それ以外のソースが明確な情報を見つけ出すことができなかったし、力道山関連の書籍もないし、購入する気もないからである。wikipediaには「北朝鮮では、『力道山は日本の憲兵に拉致されて日本の相撲界に入門、独力で逆境を乗り越えた民族の英雄』とするデマも伝えられているという」という記述がソースを記すことなく書かれているが、この番組はそのソースとして使えるような気がする。