最高人民会議第13期代議員選挙が3月9日に行われた。北朝鮮の選挙の様子を「朝鮮中央TV」で報道される映像を通じて見たり、『労働新聞』や「朝鮮中央通信」の記事を通じて見るのは初めてだったので、とても興味深かった。
3月10日の『労働新聞』には「敬愛する最高司令官金正恩同志が金日成政治大学を訪問され人民軍将兵らと共に最高人民会議代議委員選挙に参加された」という記事を彼が投票する写真とともに紹介している。
Source: 『労働新聞』、「경애하는 최고사령관 김정은동지께서 김일성정치대학을 방문하시고 인민군장병들과
함께 최고인민회의 대의원선거에 참가하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_06_01&iPageType=2
投票には崔龍海も同行しているので、コメントでも話題にした「足の不調」の治療は終わったのかもしれない。いずれ、投票の様子を伝える「朝鮮記録映画」が公開されるであろうから、それを見れば彼がどのような歩き方をしているのか確認できるであろう。既に、金正恩の1月・2月の軍部隊視察を伝える映像の中で崔龍海は何回も登場していたので、失脚説は間違いであることが分かっていたが、今回、金正恩に同行していることで、健康問題(足の不調)も克服し、活動を再開したとみて間違いなかろう。
また「党中央委員会責任幹部」として金ヨジョンが同行したとも伝えている。妹の金ヨジョンであれば、「党中央責任幹部」と紹介されたこともさることながら、名前が公開されたのも初めてではないだろうか。
<追記>
uriminzokkiriに静止画付きの報道が掲載されていた。その中には金正恩一行と共に金日成政治大学キャンパスを歩く金ヨジョンが写っている。
Source: KCTV, 2014/03/09放送
<追記2>
10日に放送された「録画報道」では、さらに写真が追加されており、金ヨジョンが投票する場面も含まれていた。しかし投票シーンは3枚目の静止画として出されている。1枚目と2枚目の写真で誰が投票しているのかは分からないが、軍服を着て投票をしているのは崔龍海ではないようだ。
1枚目の写真
Source: KCTV, 2014/03/10放送
2枚目の写真
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票をする金ヨジョン
Source: KCTV, 2014/03/10放送
『労働新聞』の記事では同行者として金慶玉(労働党組織指導部第1副部長)、黄炳瑞(副部長)も挙げられているので、写真に出ているのは彼らなのかもしれない。
<追記3>
10日、金正恩一行が金日成政治大学で投票をし、同大学にある「史跡館」を視察する様子を伝える「朝鮮記録映画」を「朝鮮中央TV」が放送した。注目されるのは、同行した崔龍海の足の様子であるが、下の写真にもあるように足をかばう様子もなく普通に歩いている。1ヶ月あまりの静養後、足の不調は回復したように見える。
階段を降りる崔龍海(左隅)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
また、同「記録映画」の中でも金ヨジョンが投票する姿を紹介している。静止画ではあるが、上で紹介した写真とは撮影しているカメラの位置が異なっている。
Source: KCTV, 2014/03/10放送
しかし、金正恩一行がキャンパスを歩く様子を伝える場面でも彼女の顔はほとんど見えない。視察に入ると他の同行者は残るものの、彼女は登場しなくなる。
Source: KCTV, 2014/03/10放送
『労働新聞』の同記事によると金正恩は「最高人民会議代議員選挙のための第105号区第43号分区選挙場で選挙に参加され」、「代議員候補者である朝鮮人民軍第855軍部隊部隊長金クァンヒョクさんに投票された」と書かれている。北朝鮮の有権者の選挙区がどのように分割されているのか分からないが、もし日本のように住所を基に分割されているのであれば、この選挙区内に形式的には彼は居住しているのであろう。
しかし、同日に「朝鮮中央TV」で放送された「不滅の史跡物が伝える話:自ら投票して下さった投票紙と投票箱」というお爺さんやお父さんの投票の様子を伝える番組では、金日成と金正日が1986年11月2日、ピョンウォン郡ソンボン里「選挙場」に最高人民会議第8期代議員選挙の投票にやって来たという話を伝えている。「代議員(XX)候補」に選出されたウォンハ協同農場の管理委員長に投票するためにやってきたということであるが、お爺さん(金日成)はこの農場でこの委員長にかつて郡人民委員会代議員選挙の際に投票を行ったということである。最高指導者の逸話だし、彼らには法を超越する権利が与えられているのだろうから細かいことを言っても仕方がないが、金日成や金正日の「選挙場」が何とか里というような田舎にあること自体不思議である。その点、金正恩は平壌市内で投票をしておりこちらは住所地説から行けば理にかなっている。上の「代議員(XX)候補」の部分は、2011年7月に制作された番組の音声を消してある。制度が変わったからなのか、何か不都合な言葉が入っていたからなのかは分からない。
金日成と金正日の投票用紙
Source: KCTV, 2014/03/10放送
金日成と金正日が投票した投票箱
Source: KCTV, 2014/03/10放送
代議員候補者と握手をする金正日
Source: KCTV, 2014/03/10放送
「後から到着した」金日成に委員長(候補者)を紹介する金正日
Source: KCTV, 2014/03/10放送
選挙関連の報道を見ていたら、ウォンファ里(ウォンファ里文化会館)の「選挙場」の様子が紹介されていた。金日成・金正日は「名誉農場員」だったということなので、その関係でこの「選挙場」で投票をしたのかもしれない。
Source: KCTV, 2014/03/10放送
「20時報道」では、労働党幹部が投票する様子を伝えている。いずれの「投票場」もそうであるが、人民の舞踏会が開催されている。
金永南が投票した第373号ソンリム選挙区第8号分区の「選挙場」前
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票する金永南(最高人民会議常任委員会委員長)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
選挙場には候補者を紹介する掲示がある。候補者は各選挙区1人のみで、候補者に賛成するのか反対するのかという投票を行っている。
掲示の例:「お知らせ、朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議代議員選挙のための第373号選挙区に登録された代議員候補者」(一部推測判読)と書かれている。
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票する朴奉珠(内閣総理)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票用紙を受け取る金己男(労働党中央委員会政治局員)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票する崔泰福(最高人民会議議長)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票用紙を受け取る朴道春(国防委員会委員)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票用紙を受け取る姜錫柱(副首相)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票をする金英逸(労働党国際部長)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票する金平海(労働党政治局候補委員)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票する郭範基(労働党中央委員会候補委員)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票する盧斗哲(副首相)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票用紙を受け取る趙延俊(労働党組織指導部第一副部長)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
投票用紙を受け取る金ヨンデ(朝鮮社会民主党委員長)
Source: KCTV, 2014/03/10放送
上記は「20時報道」紹介された順序どおりである。現在の北朝鮮序列を反映させた紹介順序であったはずだが、崔龍海は含まれていなかった。金正恩の投票に同行した面々は紹介されていないので、もしかすると金正恩と共に投票したのかもしれない。
代議員選挙の選挙票、この用紙の裏に賛成・反対を書くのであろうか。
Source: KCTV, 2014/03/10放送
<追記>
「第111号白頭山選挙区」関連の報道を見ていたら、投票用紙の両面が出てきた。表面は上と同じだが、裏面には候補者の名前が印刷されているようだ。この選挙区の候補は金正恩なので「敬愛する最高司令官金正恩同志」と赤い文字で印刷されている。どうやら、投票をすること自体が「賛成の意」を示す選挙行動であり、投票に来なければ「反対」と解されるのであろう。したがって、「棄権」というのはないのかもしれない。
Source: KCTV, 2014/03/10放送
選挙当日(9日)夕方出された「中央選挙管理委員会報道」でも「9日18時現在、最高人民会議第13期代議員選挙のための全ての選挙区で外国に行っていたり、遠洋で仕事をしている選挙者を除き、選挙者名簿に登録された全ての選挙者が投票に参加した」と言っている。「投票に参加した」ということは、「賛成票を投じた」ということであろうから、100%の投票率で、100%の賛成率ということになるのであろう。過去記事で「賛成票を投じよう」というスローガンについて書いたが、投票すれば自動的に賛成票となる訳なので、そのスローガンの筋は通っている。また、同報道では「高齢であったり病気のために選挙場にい消えない選挙者は、移動投票箱に投票した」とも述べている。さらに、「海外公民」であっても、北朝鮮に滞在中であれば選挙権が与えられるようだ。この場合、どこの選挙区に割り当てられるのであろうか。しかし、外国にある北朝鮮公館での在外投票や事前に投票する不在者投票という制度はないようだ。大切な選挙の日に「不在」などという人もいないからではあろうが。
投票用紙を持ってカーテンの向こうに入る朝鮮人民。投票用紙に記入する場所であろうか。過去記事にも書いたとおり、選挙人番号を書いて登録するのであれば、秘密投票とはならないのでこのような配慮もいらないはずだが、もしかすると形式的には秘密投票になっているのかもしれない。
<追記>上の追記との関係で、このカーテンの向こうには投票箱が置いてあるだけであり、記入する場所はないということなのであろう。
Source: KCTV, 2014/03/10放送
<追記>
今、「朝鮮中央TV」を見ていたら「中央選挙管理委員会報道」として「第111号白頭山選挙区」で「100%の投票で金正恩同志が最高人民会議代議員に推戴された」と報じていた。
<追記4>
11日昼、「朝鮮中央TV」が代議員選挙当選者を報道している。
金正恩が候補となった第111白頭山選挙区はリストから抜かれている。特別扱いなのだろう。
Source: KCTV, 2014/03/11放送
「第285テピョン選挙区」の当選者としてキム・ギョンヒを挙げていた。金正日の妹の金敬姫(キム・ギョンヒ)かどうかは不明である。
Source: KCTV, 2014/03/11放送
総計687名の当選者に金ヨジョンは含まれていなかった。
<追記5>米国の反応
3月10日の米国務省定例記者会見では、北朝鮮の選挙結果について短いやりとりがあった。ウクライナ問題が定例記者会見では長時間取り上げられ、北朝鮮選挙については以下のような冗談半分のやりとりとなっている。
Department of State, Daily Press Briefing, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2014/03/223197.htm#NORTHKOREA
記者:北朝鮮の「選挙」について何かコメントはありますか。「選挙」というのは緩い表現ではあるのですが。
サキ報道官:簡単に言って、あれは世界の民主主義のモデルではありません。
記者:つまり、一人の候補者が100%の得票を得るというのは悪いということですか(笑い)。もし、それが自由かつ公正に実施されたとすればどうですか。
サキ報道官:それは、歴史的な結果と言えますね(笑い)。
記者:しかし、もし候補者が彼一人しかいなかったとしたらどうですか。
サキ報道官:このことについてのこれ以上の分析はできません。とても面白い(fun)ということだけです(笑い)。
米国務省の報道官は「一心団結」の国の選挙に対する理解がないようだ(笑い)。