「国連委、日本の核廃絶決議を採択 中国など3カ国反対」:「黒人じいさんジョー」の解釈 (2015年11月3日 「日本経済新聞」)
3日、『日本経済新聞』(web版)が、「中国と北朝鮮、ロシアの3カ国は反対し」、「韓国や米英仏、イランなど17カ国は棄権」する中、「世界の指導者らに被爆地訪問を促すことを盛り込んだ」、「日本が提出した核兵器廃絶決議を賛成多数で採択」されたと伝えた。中国は「広島・長崎の悲劇は日本が始めた侵略戦争の必然的な結果だ」としているとのことである。
『日本経済新聞』、「国連委、日本の核廃絶決議を採択 中国など3カ国反対」、http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK03H1G_T01C15A1000000/
中国と北朝鮮は並べられているが、北朝鮮は、国連総会の場での北朝鮮国連大使発言は未確認ではあるものの、「広島・長崎の悲劇」は「米帝の横暴を抑えられなかった、核抑止力を持たない国の悲劇」であり、だからこそ北朝鮮は「自衛的核抑止力」を持つ必要があるのだと主張している。「朝鮮中央TV」でも「時事座談」番組などで、時々、広島・長崎への原爆投下が映像と共に扱われるが、私が見た限りでは、中国のような「侵略戦争の必然的な結果」という主張はしていない。もちろん、「米帝の残虐さ」を宣伝し、「自衛的核抑止力」の正当性を主張するために利用した方が有効であるという判断であろうが、「日帝」は「米帝」に破れたのではなく、「将軍様(金日成)の抗日パルチザン」に「殲滅された」という発想にも繋がっているのかもしれない。
それにしても日本は、「核なき世界」を提唱し、昨年は共同提案した米国に裏切られてしまった。採択された「オーストリアが提出した核兵器の禁止や廃絶に向けた法的枠組みへの努力を誓う決議」には、「被爆国だが米国の『核の傘下』にある日本は棄権に回った」とのことなので、「核なき世界」などご都合主義の世界では実現しそうもない。
そんなことを思いながらコメントへの返信を書いていたのだが、思い浮かんだのが「青峰楽団」が「南朝鮮」でも使われている訳詞をほぼそのまま使って歌った『黒人じいさんジョー(Old Black Joe)』である。朝鮮語に則した和訳はYouTubeの字幕に付けてあるので、本記事では「黒人じいさんジョー」が訴えていた「核なき世界」の虚しさを想起させる意訳をしておく。
'흑인령감 죠' 「黒人じいさんジョー」
그리운 날 옛날은 지나가고 (「核なき世界」を訴えていた)懐かしい過去は過ぎ去り
들에 놀던 동무 간곳 없으니 野原(ソウルでの核セキュリティ・サミット)で遊んでいた友達(米韓)もどこかに行ってしまい
이세상에 락원은 어디뇨 この世に楽園(「核なき世界」)はあるのだろうか
블랙죠 널 부르는 소리 슬퍼서 ブラック・ジョー(オバマ君)、君を呼ぶ声が虚しい
나 홀로 머리를 숙이고서 가노니 僕(日本)は、一人、頭を下げて歩む
블랙죠 널 부르는 소리 슬퍼서 ブラック・ジョー(オバマ君)、君を呼ぶ声が虚しい
한 없건만 내 마음을 거울러 (日本もオーストリア提案に棄権したのだから)恨みはないが、僕(日本)の気持ちは重い
그대 없는 설음에 한 주시네 あなた(オバマ君)がいない悲しみは、恨めしい
떠나간 옛 모습 어디 있느뇨 (「核なき世界」を叫びながら)去っていた昔の姿は、どこに行ってしまったのか
블랙죠 널 부르는 소리 슬퍼서 ブラック・ジョー(オバマ君)、君を呼ぶ声が虚しい
나 홀로 머리를 숙이고서 가노니 僕(日本)は、一人、頭を下げて歩む
블랙죠 널 부르는 소리 슬퍼서 ブラック・ジョー(オバマ君)、君を呼ぶ声が虚しい
<追記>
国連の関連資料を閲覧してみた。
問題となる資料は、「A/C.1/70/L.26*」「General and complete disarmament: united action towards the total elimination of nuclear weapons(総合的かつ完全な軍縮:完全な核廃絶に向けた共同行動)」である。
UNBISnet, http://daccess-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N15/327/01/PDF/N1532701.pdf?OpenElement
この「L.26」と呼ばれる文書には、「2015年は、広島・長崎に原爆が投下され、第二次世界大戦終結から70周年となることを想起する」と冒頭に記されており、文書末には「被爆者の証言を聞いたり、核爆弾の使用により破壊された都市を若者や国家の指導者が訪問するなどして、核兵器の使用が人類に与えるインパクトに対する認識のレベルを上げる努力をすることを勧告する」と記されている。
このドラフトに関する討議の様子は以下で参照することができる。
United Nations, "Meeting Coverages and Press Releases", http://www.un.org/press/en/2015/gadis3538.doc.htm
中国は、「第二次大戦中、日本の侵略により3500万人が犠牲となり、それは広島・長崎の犠牲者の数を下回るものではない」、「日本は南京大虐殺などの歴史的事実を認めることを拒んでおり、広島・長崎の犠牲だけを世界に記憶させ、南京大虐殺などの事実を認めないのは、あからさまな偽善であり、ダブルスタンダードである」、「日本は核の傘に守られており、必要以上の兵器級の核燃料を保有している」などと非難している。また中国は、「広島・長崎は歴史上の悲劇である」が、「人道主義を特定の国にだけ適用し、歴史を曖昧にしたり歪曲する道具とすべきではない」と主張している。「南京大虐殺」については議論の余地があるにしても、「広島・長崎」と結びつけるのは暴論である。
一方、北朝鮮も「L.26」に反対しているが、中国とは視点が異なる。そもそも、「L.26」には北朝鮮の核実験やロケット発射を非難する条項がたくさん含まれており、そんな文書を北朝鮮が受け入れるはずがない。日本関連では、中国ほどの暴論は吐いていない。北朝鮮は日本に対し「日本が核兵器の完全な廃絶を語るのは、その偽善と欺瞞のレベルからして信じ難い。日本はことある毎に、惨めな核兵器の犠牲者の役割を演じているが、日本が米国の核の傘の下にあることからすれば、それはパラドックス(一見正しいと思える矛盾)に過ぎない」と発言している。やはり、「米帝の核にやられたくせに、今は追従勢力となり米帝の核に守られている」と言いたいのであろう。
国連の文書、膨大な量なので読むのが大変であるが、よく読むと、色々なことが見えてくる。
『日本経済新聞』、「国連委、日本の核廃絶決議を採択 中国など3カ国反対」、http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK03H1G_T01C15A1000000/
中国と北朝鮮は並べられているが、北朝鮮は、国連総会の場での北朝鮮国連大使発言は未確認ではあるものの、「広島・長崎の悲劇」は「米帝の横暴を抑えられなかった、核抑止力を持たない国の悲劇」であり、だからこそ北朝鮮は「自衛的核抑止力」を持つ必要があるのだと主張している。「朝鮮中央TV」でも「時事座談」番組などで、時々、広島・長崎への原爆投下が映像と共に扱われるが、私が見た限りでは、中国のような「侵略戦争の必然的な結果」という主張はしていない。もちろん、「米帝の残虐さ」を宣伝し、「自衛的核抑止力」の正当性を主張するために利用した方が有効であるという判断であろうが、「日帝」は「米帝」に破れたのではなく、「将軍様(金日成)の抗日パルチザン」に「殲滅された」という発想にも繋がっているのかもしれない。
それにしても日本は、「核なき世界」を提唱し、昨年は共同提案した米国に裏切られてしまった。採択された「オーストリアが提出した核兵器の禁止や廃絶に向けた法的枠組みへの努力を誓う決議」には、「被爆国だが米国の『核の傘下』にある日本は棄権に回った」とのことなので、「核なき世界」などご都合主義の世界では実現しそうもない。
そんなことを思いながらコメントへの返信を書いていたのだが、思い浮かんだのが「青峰楽団」が「南朝鮮」でも使われている訳詞をほぼそのまま使って歌った『黒人じいさんジョー(Old Black Joe)』である。朝鮮語に則した和訳はYouTubeの字幕に付けてあるので、本記事では「黒人じいさんジョー」が訴えていた「核なき世界」の虚しさを想起させる意訳をしておく。
'흑인령감 죠' 「黒人じいさんジョー」
그리운 날 옛날은 지나가고 (「核なき世界」を訴えていた)懐かしい過去は過ぎ去り
들에 놀던 동무 간곳 없으니 野原(ソウルでの核セキュリティ・サミット)で遊んでいた友達(米韓)もどこかに行ってしまい
이세상에 락원은 어디뇨 この世に楽園(「核なき世界」)はあるのだろうか
블랙죠 널 부르는 소리 슬퍼서 ブラック・ジョー(オバマ君)、君を呼ぶ声が虚しい
나 홀로 머리를 숙이고서 가노니 僕(日本)は、一人、頭を下げて歩む
블랙죠 널 부르는 소리 슬퍼서 ブラック・ジョー(オバマ君)、君を呼ぶ声が虚しい
한 없건만 내 마음을 거울러 (日本もオーストリア提案に棄権したのだから)恨みはないが、僕(日本)の気持ちは重い
그대 없는 설음에 한 주시네 あなた(オバマ君)がいない悲しみは、恨めしい
떠나간 옛 모습 어디 있느뇨 (「核なき世界」を叫びながら)去っていた昔の姿は、どこに行ってしまったのか
블랙죠 널 부르는 소리 슬퍼서 ブラック・ジョー(オバマ君)、君を呼ぶ声が虚しい
나 홀로 머리를 숙이고서 가노니 僕(日本)は、一人、頭を下げて歩む
블랙죠 널 부르는 소리 슬퍼서 ブラック・ジョー(オバマ君)、君を呼ぶ声が虚しい
<追記>
国連の関連資料を閲覧してみた。
問題となる資料は、「A/C.1/70/L.26*」「General and complete disarmament: united action towards the total elimination of nuclear weapons(総合的かつ完全な軍縮:完全な核廃絶に向けた共同行動)」である。
UNBISnet, http://daccess-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N15/327/01/PDF/N1532701.pdf?OpenElement
この「L.26」と呼ばれる文書には、「2015年は、広島・長崎に原爆が投下され、第二次世界大戦終結から70周年となることを想起する」と冒頭に記されており、文書末には「被爆者の証言を聞いたり、核爆弾の使用により破壊された都市を若者や国家の指導者が訪問するなどして、核兵器の使用が人類に与えるインパクトに対する認識のレベルを上げる努力をすることを勧告する」と記されている。
このドラフトに関する討議の様子は以下で参照することができる。
United Nations, "Meeting Coverages and Press Releases", http://www.un.org/press/en/2015/gadis3538.doc.htm
中国は、「第二次大戦中、日本の侵略により3500万人が犠牲となり、それは広島・長崎の犠牲者の数を下回るものではない」、「日本は南京大虐殺などの歴史的事実を認めることを拒んでおり、広島・長崎の犠牲だけを世界に記憶させ、南京大虐殺などの事実を認めないのは、あからさまな偽善であり、ダブルスタンダードである」、「日本は核の傘に守られており、必要以上の兵器級の核燃料を保有している」などと非難している。また中国は、「広島・長崎は歴史上の悲劇である」が、「人道主義を特定の国にだけ適用し、歴史を曖昧にしたり歪曲する道具とすべきではない」と主張している。「南京大虐殺」については議論の余地があるにしても、「広島・長崎」と結びつけるのは暴論である。
一方、北朝鮮も「L.26」に反対しているが、中国とは視点が異なる。そもそも、「L.26」には北朝鮮の核実験やロケット発射を非難する条項がたくさん含まれており、そんな文書を北朝鮮が受け入れるはずがない。日本関連では、中国ほどの暴論は吐いていない。北朝鮮は日本に対し「日本が核兵器の完全な廃絶を語るのは、その偽善と欺瞞のレベルからして信じ難い。日本はことある毎に、惨めな核兵器の犠牲者の役割を演じているが、日本が米国の核の傘の下にあることからすれば、それはパラドックス(一見正しいと思える矛盾)に過ぎない」と発言している。やはり、「米帝の核にやられたくせに、今は追従勢力となり米帝の核に守られている」と言いたいのであろう。
国連の文書、膨大な量なので読むのが大変であるが、よく読むと、色々なことが見えてくる。