12月13日付けの「労働新聞」が張成沢の軍事裁判に関する記事を掲載し、「憲法第60条により死刑に処すという判決が下され」、「判決は即時執行された」と報じた。これまで、北朝鮮要人が粛正される際、軍事裁判の模様を写真付きで公開されてきたのかは分からないが、今回は非常に速い速度で「政治局拡大会議」→「特別軍事裁判」→「死刑判決」→「死刑執行」というプロセスを公表した。司法制度やその運用が民主的か否かという議論はさておき、一応、「特別軍事裁判」という「通常裁判」とは別枠での裁判ではあったものの、一連のプロセスを公開し形式的には「民主的に」行ったということになろう。「特別軍事裁判」という形を取ったのは、張成沢が「国防委員会副委員長」という職責にあったからであろうか。ただし、彼は「軍法」では裁かれておらず、一般の「刑法第60条」に依拠する判決が下されている点も興味深い。北朝鮮の「刑法第60条」は以下の通り。
第3章 反国家および反民族犯罪
第1節 反国家犯罪
第60条(テロ罪)
反国家目的で幹部や人民を殺人、拉致したり、彼らに傷害を加えたテロ行為を行った者は、5年以上の労働教化刑に処す。情状が特に重い場合は、無期労働教化刑あるいは死刑および財産没収刑に処す。
北朝鮮刑法第59条は「国家転覆陰謀罪」で「反国家目的で政変、暴動、示威、襲撃に参加したり、陰謀に荷担した者は」という条項があり、どちらかというと「判決文」で糾弾された彼の罪状はこちらに近いような気がする。しかし、敢えて第60条を適用したのは、「張成沢ごとき」に「国家転覆」などできるはずもなく、せいぜい「テロリスト」程度だということを示したかったのであろうか。しかし、「判決文」で並べ立てられた罪状には「殺人、拉致、傷害」は含まれていなかった。参照している北朝鮮刑法は韓国・北韓情報センターが提供している2005年7月26日に改定されたものであるが、もしかするとこれ以降にさらなる改定が行われ、「国家転覆陰謀罪」が59条から60条に移動したのかもしれない。59条であれ60条であれ、最高刑は死刑である。また、財産も没収されることになっているが、張成沢と金敬姫が同世帯で暮らしていたとすると、その没収される財産の認定がどのように行われるのかも気になる。これについては、北朝鮮民法を確認する必要があろうが、現実的にはそれが厳密に適用されることはないだろうし、それ以上に金敬姫の今後の扱い次第で決まってくることであろう。
判決文は長文であるが、非常に興味深い記述が多く含まれているので、全文訳出しておくことにする。なお、13日の「朝鮮中央TV」放送開始直後、この裁判に関する報道があったが、内容は「労働新聞」の記事と全く同一で、写真は提示されなかった。これまでも重要報道の第一報では写真を提示せず、準備が整った段階で写真を提示することをしてきたので、今日、複数回放送すると予告しているいずれかのタイミングで「労働新聞」に掲載された以外の写真を見せるかもしれない。その場合は、こちらで紹介することにする。
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朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議に関する報道に接し、反党反革命宗派分子共に革命の峻厳な審判を下さなければならないという我々軍隊と人民の憤怒の叫びが国中を震撼させている中、天下の万古逆賊・張成沢に対する朝鮮民主主義人民共和国国家安全保衛部特別軍事裁判が12月12日に行われた。
特別軍事裁判は、現代版宗派の頭目として長期間にわたり不純勢力を糾合して分派を形成し、我々の党と国家の最高権力を簒奪する野望のもと、あらゆる謀略と卑劣な手法で国家転覆陰謀の極悪な犯罪を犯した被告張成沢の犯罪行為に対する審理が行われた。
特別軍事裁判に起訴された張成沢の一切の犯行は、審理過程で100%立証され、被告はこれを全て認めた。
公判では、朝鮮民主主義人民共和国国家安全保衛部特別軍事裁判所判決文が読み上げられた。
判決文の一文一文は、反党反革命宗派分子であり、凶悪な政治的野心家、陰謀家である張成沢の頭の上に下された憎悪と激憤に満ちた我々軍隊と人民の峻厳な鉄槌でもある。
被告張成沢は、我々の党と国家の指導部と社会主義制度を転覆する目的の下、反党反革命宗派行為を行い、祖国に反逆した天下の万古逆賊である。
張成沢は、早い時期から、偉大な首領金日成同志と偉大な領導者金正日同志の高い政治的信任により、党と国家の責任的な職位に登用され、偉大な大元帥様たちの恩恵を誰よりも多く受けていた。
張成沢は、敬愛する金正恩同志から以前よりもさらに高い職務と大きな信任を受けた。
張成沢が白頭山絶世偉人たちから受けた政治的信任と恩恵は、あまりにも過分なものであった。
信用には義理で応じ、恩恵には忠誠で返すのが人間の初歩的な道理だ。
しかし、犬にも満たない醜悪な人間のクズ張成沢は、党と首領から受けた天のような信任と熱い肉親的愛に配信し、天人共に怒る反逆行為を行った。
奴は、久しい前から汚い政治的野心を持っていたが、偉大な首領様と将軍様が生存しておられるときは、頭を上げることもできず、目の色を伺いながら同床異夢、外では指示するふりをしながら内では反対のことを考え、革命の代が変わる歴史的転換の時期に来て、とうとう時が来たと考え、本性を現しだした。
張成沢は、全党、全軍、全民の一致した念願と意思により、敬愛する金正恩同志を偉大な将軍様の唯一の後継者として高く推戴することに関する重大な問題が討議される時期に、内心反対をし、領導の継承問題を陰に陽に妨害するという永遠に許されない大逆罪を行った。
奴は、自分の巧妙な策動が通じなくなると、歴史的な朝鮮労働党第3回代表者会で全党員と人民軍将兵、人民の総意により敬愛する金正恩同志を朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長に高く頂いたという決定が宣布され、場内全体が熱狂的な歓喜で煮えたぎっているとき、嫌々席から立ちあがり、適当に拍手をしながら傲慢不遜に行動し、我が軍隊と人民に激しく憤怒させた。
奴はその時、自分も気づかぬままそのように行動したことが、敬愛する金正恩同志の軍領導地盤と領軍体制が強固になると、その後、奴が党と国家の権力を奪取することにおいて大きな障害となると考えたからだと自ら認めた。
張成沢は、その後、偉大な将軍様があまりにも突然、あまりにも早く、あまりにも悲しく我々の元を去られると、すぐに前から抱いていた政権野望を実現するために本格的に策動し始めた。
張成沢は、敬愛する元帥様の近くでお仕えし、現地指導にもしばしば随行するようになったことを悪用し、奴がいつも元帥様の近くにおり、革命の首脳部と肩を並べているという特別な存在であることを対内外に見せつけ、奴に対する幻想を作ろうと画策した。
張成沢は、奴が党と国家指導部を転覆させることに協力する反動共を糾合するために、偉大な将軍様のお言葉に逆らい、奴に懐柔する追従し、手痛い打撃を受けて職位を失い、解任された者をはじめとした不純異色分子共を巧妙な方法で党中央委員会の部署と傘下機関に引き込んだ。
張成沢は、青年事業部門において、敵に買収され変節した者たち、配信者たちと仲間になり、我が国の青年運動に重大な害毒をもたらしただけではなく、彼らが党の断固たる措置により摘発粛正された以後も、その残党共を継続して引き連れながら党と国家の重要職責に押し込んだ。
奴は、1980年代からゴマスリ軍人李リョンハ(李竜河)野郎を奴が他の職務に移動するたびに引き連れていき、党の唯一領導を拒否するという宗派的行動を行い追い出された者を体系的に党中央委員会第1副部長の席に引き上げ、奴の手下にした。
*李竜河については、「朝鮮日報」の次の記事が参考になる。拙ブログでも紹介した「ハマナス食堂」も事件に関わっている点が興味深い。
『朝鮮日報』、「北序列2位失脚:軍部物資握る「54局」が粛清の導火線?」、http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/12/12/2013121200727.html
張成沢は、党の唯一領導を拒否する重大事件を発生させ追い出された側近共とゴマスリ共を巧妙な方法で数年間に奴がいる部署と傘下単位に引き入れ、前科者、経歴に問題がある者、不平不満を持った者を体系的に自分の周囲に糾合した上で、その上に神聖不可侵な存在として君臨した。
奴は、部署と傘下段位の機構を大々的に利用しながら、国家の全般事業を奪い取り、省、中央機関に深く手を伸ばそうと策動し、奴がいた部署を誰も手を付けることができない「小大国」にした。
奴は、恐れ多くも大同江タイル工場に偉大な大元帥様のモザイク映像作品と現地指導史跡碑を建設する事業を妨害しただけではなく、敬愛する元帥様が朝鮮人民軍内務軍軍部隊に送ってくださった親筆書簡を天然花崗岩に刻み、部隊の指揮部庁舎の前に丁重にお供えしようという招聘の一致した意見を黙殺しただけにとどまらず、日が当たらない片隅に建てさせるという妄動を行った。
張成沢がこれまで、我が党の組織的意思である党の路線と政策に体系的に反対する反動的行為を行ったのは、奴が党で決定した問題も、党の方針もひっくり返すことができる特殊な存在のように見られるようにし、奴に対する極度の幻像と偶像化を作り出そうという故意的で不純な企ての発露であった。
張成沢は、奴に対する幻像を作り出すために、党と首領に対する我々軍隊と人民の清らかな忠誠と熱い至誠が刻み込まれている物資までも、中途で盗み出して手下共に分けてやり、奴の手柄とする恐れ多い悪事も働いた。
張成沢が、奴に対する幻像と偶像化を作り出そうとひたすら策動した結果、奴がいた部署と傘下機関のゴマスリ分子、追従分子共は、張成沢を「1番同志」と持ち上げ、なんとかしてよく見てもらうために党の指示に反することをするにまで至った。
張成沢は、部署と対象機関に党の方針よりも奴の言葉をもっと重視し受け入れるという異質な事業体系を打ち立てることで、手下共と追従者共が朝鮮人民軍最高司令官命令に服従しないという反革命的な行為を躊躇することなく行った。
最高司令官の命令に服従しないのは、それが誰であれ革命の銃隊は絶対に容赦せず、そうした者共は死んでもこの地に埋める場所がない。
張成沢は、党と国家の最高権力を奪い取るための第一段階として、内閣総理の席に座る浅はかな夢を見ながら、奴がいた部署が国家の重要経済部門を全てまとめ上げ、内閣を無力化されることで国家の経済と人民生活を収拾できない破局へと追いやろうと画策した。
奴は、偉大な将軍様が最高人民会議第10期第1回会議で打ち立ててくださった新たな国家機構体系を無視し、内閣所属検閲監督機関を奴に所属させ、委員会、省、中央機関と道、市、郡級機関を組織したりなくしたりする問題、貿易及び外貨獲得単位と在外機構を組織する問題、生活費適用問題をはじめとした内閣が担っていた一切の機構事業と関連した全ての問題を手中に収め、思うままに牛耳ることで内閣が経済司令部としての機能と役割をすることを全然できなくした。
奴は、国家建設監督機構と関連した問題を内閣と該当省と合意もせず、党に嘘の報告をしようとし、当該幹部が偉大な大元帥様が作成してくださった建設法に反するという正当な意見を提起すると、「それなら、建設法を直せばいいではないか」と妄言を吐いた。
張成沢は、職権を悪用し、偉大な大元帥様が打ち立ててくださった首都建設と関連した事業体系をメチャクチャにし、数年間に建設建材基地を廃墟のようにし、狡猾な手段で首都建設単位の技術者、技能工隊列を弱め、重要建設単位を手下共に引き渡し、金儲けができるようにすることで平壌建設を故意的に妨害した。
張成沢は、石炭を初めとした貴重な地下資源を片っ端から売り飛ばさせ、手下共が仲介人に騙されることで多くの借金を作らせ、去る5月、その借金を返すと言いながら羅先経済貿易地帯の土地を50年期限で外国に売り渡すという売国行為も躊躇なく行った。
2009年、万古逆賊朴南基野郎を煽り、数千億ウォンの朝鮮通貨を乱発しながら、とてつもない経済的混乱を引き起こさせ、民心を揺るがそうと背後で操縦した張本人もまさに張成沢である。
*朴南基については、以下が参考になる。『聯合ニュース』、「北・朴南基氏がデノミ失敗問責で銃殺、情報筋伝える」、http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2010/03/18/0300000000AJP20100318001500882.HTML
張成沢は、政治的野望実現に必要な資金を確保するために、各種の名目で金儲けを奨励し、不正腐敗行為を日常的に行いながら、我々の社会を堕落させ、無規律的な毒素をまき散らすことの先頭に立った。
1980年代、光復通り建設の時から貴金属をかき集めてきた張成沢は、手中に秘密機関を作るという、国家の法は眼中にもなく、銀行から高額の資金を引き出し、貴金属を買い集めることで国家の財政管理体系に大きな混乱を引き起こした反国家犯罪行為を行った。
張成沢は、2009年から醜く汚い写真資料を手下共に流布され、資本主義の腐った風が我々内部に入り込むように先導し、行く場所毎に金をばらまきながら堕落した生活を送った。
張成沢が2009年、1年間に奴の秘密資金倉庫から4600万ユーロを引き出し飲み潰した事実と、外国賭博場への出入りまでした事実一つだけとっても、奴がどれほど堕落、変質していたかがよく分かる。
張成沢は、政権欲望に全く節操なく奔走しすぎたので、軍隊を動員して政変を成就させることができるという愚かな考えを持ち、人民軍隊にまで魔手を伸ばそうと執拗に策動した。
張成沢は、審理過程で「私は、軍隊と人民が、現在国の経済実態と人民生活が破局的(状態)になっているのに、現政権が何の対策も立てることができないという不満を抱かせるよう企てた」と述べ、政変の対象がまさに「最高領導者同志だ」と万古逆賊の醜悪な腐心をそのまま吐いた。
奴は、政変の手段と方法について「人脈関係にある郡代幹部を利用したり、側近たちを集めて手中に掌握された武力で行おうとした。最近任命された軍隊幹部たちはよく分からなくても、以前に任命された軍隊幹部たちとは顔見知りだ。そして、これから人民と軍隊の生活がさらに悪化すれば、軍隊も政変に同調するのではないかと考えた。そして、私がいた部署の李リョンハ、張スギル(張秀吉)をはじめとした手下たちは、いくらでも私に従うと考え、人民保安機関を担当した人も私の側近として政変に利用しようとした。その他の何人かも私が利用できると思った」と隠し立てすることなく話した。
張秀吉については、以下。『毎日新聞』、「北朝鮮:張成沢氏、失脚か…金正恩氏の叔父 韓国発表」、http://mainichi.jp/select/news/20131204k0000m030040000c.html
張成沢野郎は、政変を起こす時点と政変以後にはどのようにしようとしたのかについて「政変時期はきっちりと決まったものではない。しかし、一定の時期になり、経済が完全に低迷し、国家が崩壊直前に至れば、私がいた部署と全ての経済機関を内閣に集中させ、私が総理をしようとした。私が総理になった後は、今まで様々な名目で確保した莫大な資金で生活問題をある程度解決してやれば、人民と軍隊は私の万歳を叫び、政変は順調に成就するであろうと計算した」と吐いた。
張成沢は、卑劣な方法で権力を奪取した後、外部世界に「改革家」として認識された奴の醜悪な為体を利用し、短い期間に「新政権」が外国の「認定」を受けることができると愚かに妄想した。
全ての事実は、張成沢が米国と傀儡逆賊一味の「戦略忍耐」政策と「待つ戦略」に便乗し、我が共和国を内部から瓦解崩壊させ、党と軍隊の最高権力を掌握しようとし、以前から最も狡猾で陰湿で凶悪な手段と方法を全て動員し、悪辣に策動してきた天下に二人といない万古逆賊、売国奴ということをはっきりと見せている。
張成沢の反動的、反国家的、反人的な罪悪は、共和国国家安全保衛部特別軍事裁判所の審理過程で、その憎むべきで醜悪な全貌が明らかにされた。
時代と歴史は、党と革命の敵、人民の敵であり極悪な祖国反逆者である張成沢の歯ぎしりをしたくなるような罪状を永遠に記録し、絶対に忘れないであろう。
年月が流れ、時代が何百回変わっても、変わることも変えることもできないのは、白頭の血統である。
我が党と国家、郡代と人民は、ただ金日成、金正日、金正恩同志の他には誰も知らない。
この空の下で、金正恩同志の唯一領導を拒否し、元帥様の絶対的権威に挑戦し、白頭の血統と一個人を対峙させる者は、我が軍隊と人民は絶対に容赦しないし、それが誰であれ、どこに隠れていても、殲滅して歴史の峻厳な審判台の上に立たせて、党と革命、祖国と人民の名で無慈悲に懲罰する。
朝鮮民主主義人民共和国国家安全保衛部特別軍事裁判所は、被告人張成沢が敵と思想的に同調し、我が共和国の人民主権転覆を目的に行った反国家転覆陰謀行為が共和国刑法第60条に該当する犯罪を構成することを確証し、凶悪な政治的野心家、陰謀家であり万古逆賊である張成沢を革命の名で、人民の名で、峻烈に断罪糾弾しつつ、共和国刑法第60条にしたがい、死刑に処すと判決した。
判決は、即時執行された。
特別軍事裁判所における裁判の様子
Source: 『労働新聞』
裁判所に引き出される張成沢。軍人が頭を押さえている。
Source: 『労働新聞』
『労働新聞』、「천만군민의 치솟는 분노의 폭발.만고역적 단호히 처단 천하의 만고역적 장성택에 대한 조선민주주의인민공화국 국가안전보위부 특별군사재판 진행」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-12-13-0002&chAction=T
全訳はかなり時間がかかった。記事ついてもっとコメントを書きたいが、一度ここで投稿しておく。
翻訳しながら横目で「朝鮮中央TV」を見ているのだが、「錦繍山太陽宮殿」を建設した金正恩の功績を賞賛する新たな「記録映画」を流している。金日成・金正日銅像を参拝する場面もあるので、金敬姫が出てくるか確認できるかもしれない。追って、こちらの記事も書こうと思う。