部屋に入るなり、彼女はうーん…とうなりながら、狭い部屋をパタパタと片付け始めた。
俺の部屋と比べたらかなり片付いている(というよりものが少なすぎる)のだが、彼女は気になるようで、せっせと俺がいられるスペースを作ってくれた。
話に聞いていた以上に壁が薄く、静かにしていれば隣の部屋のテレビの音も聞こえてきた。
当然、彼女もBGMがわりに見もしないテレビをつけて生活音を消していた。
お酒も入っていたので、狭いベッドに抱き合う形で布団に入り、ムラムラする気持ちは抑えてその日は早めに眠ることにした。
147 :
名無しさん@おーぷん :2014/09/18(木)05:05:52 ID:euFz45lFI
慣れない布団で眠ったからか、夜中に目が覚めた。
彼女を起こさないようにベッドから降りて、小さなテーブルの上の飲み物に口をつけた。
ふと、誰かが呟くような声が耳に入ってきた。
彼女の寝言かと思ったが、どうやら違うらしい。
息を殺して耳を澄ませていると、その呟きが何を言っているのかが耳に届いた。
「出て行け…出て行け…」
小さく小さく囁くように、その言葉だけを繰り返していた。
鳥肌が立った。
彼女を起こして、コンビニに行こうと誘った。とにかく一度、この部屋から出たかった。
彼女はめんどくさいと言いながらも付き合ってくれた。
「なあ、隣の部屋の人、ちょっと変だって」
「ん?なんで?」
「ずっと小声で、出て行け、出て行けって囁いてるんだもん」
「あー。あの声か。貴方にも聞こえたんだ」
「どういうこと?」
「あれ、隣の部屋の人じゃないよ」
「え?」
俺自身、そのときまで幽霊やら心霊現象やら全く信じていなかったんだ。
でも、よくわからないんだけど、直感でこれは「そういうもの」だったのかと、ストンと腑に落ちて納得してしまった。
「部屋のものをちょっと動かしたり、たまにピシピシ音を鳴らしたり、視界にチラチラ入るくらいだから気にないのが一番だよ。何か言っててもテレビつければ聞こえないしね」
彼女の神経の太さに驚いた。
そして、自分の肝っ玉の小ささにも。
彼女がいる心強さを頼りに部屋に戻ってみると、声は何にも聞こえなかった。
「ほらね、気にしないのが一番だよ」
彼女はそう言ってベッドに入った。
だが、俺はテーブルの上に置いたはずのペットボトルが倒れているのを見て、もう二度とこの部屋には泊まらないと心に決めた。
怖さでまるで寝られなかったし、やっぱり声は聞こえてきた。
この日以来、変なものが見えたり聞こえたりするようになってしまったことが、一番洒落にならないことだと思っている。
148 :
名無しさん@おーぷん :2014/09/18(木)05:47:30 ID:euFz45lFI
眠れないので続けて。
図太い彼女は子供の頃から、そういうものを見たりしていたらしい。
だが、他人に話しても信じてはもらえないし、基本的には誰にも話さないで過ごしてきたそうな。
でも、共通の体験をしたせいか、俺には色々と教えてくれた。
彼女が教えてくれた話の一つをしてみる。
彼女の祖父が、高校生のときに亡くなった。
一緒に住んでいたので、当然お通夜も葬儀も自宅ですることになった。
親戚が何人も泊りに来て大変だったという。
お通夜の夜は、線香とろうそくの火を絶やさないように、交代で寝ずの番をするというので、彼女も親戚と一緒に起きていたが、どうにも眠くなり、交代してもらった。
二階の自分の部屋に行き、ベッドに入るとすぐにうとうとし始めた。
と、そのとき、窓がコツコツと叩かれる音に気付いた。
コツコツと叩き、またしばらくするとコツコツと叩く。
一緒の部屋に寝ていた従姉妹もその音に気付いたらしく、目を覚まして彼女に話しかけてきた。
「何の音?」
「窓じゃない?」
「おじいちゃんが来たのかな?」
「おじいちゃんなら家の中にいるでしょ。あれは別のもの」
彼女が素っ気なく答えると、従姉妹は真っ青な顔をして、彼女の布団に潜り込んできて震えていたらしい。
彼女は従姉妹を撫でながら、そのまま寝たが、何度か従姉妹から起こされたと笑っていた。
俺は鳥肌が止まらないし怖いし、彼女は笑っているし、なんだかよくわからなくなった。
「火車っていう妖怪。知ってる?」
「かしゃ?」
「生前、悪いことをした魂を地獄に連れて行くっていう妖怪なんだけどね」
「おじいちゃん、なんか悪いことをしたの?」
「そうじゃないよ。でも、あのとき来たのはそれに近いものだと思う。凄く飢えてるような、そんな感じだったから」
「なんか怖いな」
「あと、私は寝てて気付かなかったんだけど、夜中に一回、インターホンが鳴ったんだって」
「誰が来たの?」
「誰も」
「玄関開けたら誰もいなかったとか?」
「ううん。誰も玄関は開けなかったってさ。こんなときに来るようなのは悪いもんだ!って誰も出なかったらしいよ。流石、信心深い田舎の人だよね。あとインターホンの画像にも、何にも映ってなかったしね」
彼女の説明によると、最近のインターホンは押されると防犯のためか、自動的に録画する機能があるらしい。
「てことは?」
「インターホンが押されたのは事実だってこと」
また鳥肌がたった。
152 :
名無しさん@おーぷん :2014/09/27(土)08:34:42 ID:sbIOhK8kT
サバサバ彼女の話をした者です。
暇なので今日も勝手に投稿させてもらいます。
彼女とはバイト先が一緒になり仲良くなったのがきっかけで付き合ったんですが、その仲良くなった経緯が、ちょっと変だったのを思い出しました。
居酒屋でバイトしていたので、バイトが終わると賄い飯が出るのが魅力的でした。
着替えて、賄いのどんぶりを持って休憩室に入ると、先に上がっていた彼女がいました。
「お疲れさまです」
「ああ、お疲れさまー」
無愛想に感じましたが、彼女の前に座って賄いを食べ始めました。
先に食べ終わり、少し彼女を観察していると、彼女が、
「ごめん、ちょっとタバコ吸っても良い?」
「え?うん。べつに良いけど」
タバコに火を付けて灰皿に置きました。
でも吸ったのは最初の一口だけで、あとはそのまま半分くらい灰になるまで置きっぱなし。
「タバコ、いいの?」
「うん。こうしとくと彼が喜ぶから」
素っ気なく答えた彼女に、なんだ、彼氏がいるのか…と、残念に思ったのを覚えています。
その後も、何度か一緒になるうちに、タバコに火を付けて放置、を何回か見ましたが、しばらくして彼女の妙な喫煙はなくなりました。
「タバコやめたの?」
「あー…うん。そんなとこ」
「彼氏と別れたの?」
「別れたってwまぁ、彼がいなくなったのは確かだね」
よし!と思って彼女にアピールして付き合えるようになったのは、これから一年後くらいのこと。
で、付き合って、彼女が見える人だと分かってから教えられたのは、彼女が休憩室でタバコを吸ってたのは、休憩室にいた男の霊がタバコ好きだったから、って話。
俺、幽霊に嫉妬してたらしい。
彼女は勘が良いから俺の気持ちにも気付いていたけど、あえてそういう態度をとっていたらしい。
153 :
名無しさん@おーぷん :2014/09/27(土)09:12:03 ID:sbIOhK8kT
続けて。
彼女は勘が良いというか、人の心が読めるんじゃないかというくらいに、人の気持ちに敏感だった。
そのせいか、あまり人と深く付き合うということはしていなかったし、特定の仲良しグループというものも持ってなかった。
しいて言えば、バイト先は相性が良かったのか、バイト先のメンバーとはよく一緒にいた。
そのバイト先の店長ってのがまた変わってたんだけどね。
ある日、開店前に立て続けに面接が入ってて、店長が仕込みが出来ずに俺が一人でてんやわんやしてた。
面接の終わった店長が、面接にきた人の履歴書を見ながら悩んでた。
俺も見せてもらったが、悩むまでもないんじゃないかな?と思うくらい、申し訳ないんだが、容姿に差があった。
一人はイケメンタイプで、いかにも仕事が出来そうな感じ。もう一人はお世辞にも美人とは言えない、地味なタイプ。
俺は店長がなんで悩んでるのかわからなかった。
そこへ、お店の掃除をしていた彼女がやってきた。
店長「ねーねー彼女ちゃん。さっきの面接に来てた子、採用するならどっちが良いと思う?」
彼女「女の子の方。男の方は、ヤルことしか考えてなさそうで、生理的に無理」
俺「そんな、見た目でそこまで言うなよw」
店長「でも彼女ちゃんがそう言うなら、そうなんだろう。よし、女の子を採用ね♪」
その時は正直ええー?って思ったが、彼女の分析?は正しかったことが後で分かった。
男の方は俺と彼女と同じ大学の先輩で、聞いてみると割と有名な先輩だった。女垂らしで。
後から店長にそのことを話して見たら、
店長「流石、彼女ちゃんだね。あの子は人を見る目があるから。俺君を採用したのも、彼女ちゃんが決めたようなもんだからね」
俺「そんな適当で良かったんですかw」
店長「適当じゃないさ。信頼してるからね」
なんというか、若いのに悟ってるなぁとは思ってた人だったが、信頼って言葉をカッコ良く感じたのはこの時が初めてだった。
それからも、彼女が人のことを言い当てたり、考えてることを先読みして気遣ってるとこを見ているうちに、本当に彼女は人の心が読めるんじゃないか、と思うようになった。
ふと、気になって彼女に聞いてみたことがある。
「彼女はなんでこの店で働こうと思ったの?」
「店長が好きになったからかな」
「ちょwまじで?」
「うん。人の気持ちがわかるっていうか、理解してくれるとことかね」
「ヤキモチ妬いちゃうだろw」
「大丈夫。そのヤキモチは無駄だよ」
「わけわからん」
「ああいう、誰にでも心を開いてる人は珍しいから」
彼女はほんとに、人の心がわかるんだと思った。