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イトーヨーカ堂 北海道など17店舗の営業終了し地域から撤退へ@NHK2024/2/9より
大手スーパーのイトーヨーカ堂は、構造改革の一環として、北海道や東北などの17店舗の営業を順次終了し、この地域から撤退する方針を明らかにしました。このうち半数以上の店舗については事業の譲渡などを行うとしています。
イトーヨーカ堂は去年2月までの1年間の決算が3年連続の最終赤字となるなど業績の不振が続き、親会社のセブン&アイ・ホールディングスは再来年(2026年)2月までの3年間で、33店舗の削減を行うなど、構造改革を進める方針を決めています。


さて昨年の西武百貨店の騒動の際にもうすうす感じていたことなのですが、セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨカドーが北海道・東北などの17店舗を閉店し、この地域から撤退するという報道が出てきました。ヨークベニマルなどグループ内外の企業が事業を引き継ぐ方向で考えられているとの事で17もの店舗がまるまるなくなるわけではないですが、それでもイオンと並び称される日本を代表するスーパーが白河の関以東で見れなくなるのはショッキングな事です。



ネットでは当たり前ですが大型店の進出によって地域の商業が激減したうえで閉鎖によって地域の買い場がなくなる事に対する懸念の意見が見られます。

「イトーヨーカドー」北海道・東北から撤退へ 構造改革で全14店閉鎖 - 日本経済新聞

役割を終えたってことかな。北海道東北で14店舗しかない方が個人的には驚いた。北海道東北の広いエリアに店舗が点在していたら効率悪いよね。

2024/02/09 14:56
「イトーヨーカドー」北海道・東北から撤退へ 構造改革で全14店閉鎖 - 日本経済新聞

青森県内のお店だけの印象だけど「セブンプレミアムを除くと品揃えがイオン以下」というあたりでいろいろ察されるのではないでしょうか。マジメにセブンプレミアム以外に買いに行くものがありません

2024/02/09 15:26


とは言え一方でイオンと比較して利便性に欠けるイトーヨカドーに対する厳しい意見も見られたのも確かです。

金融セグメントが示す経済圏作成の明暗
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表:7&iとイオンの部門ごと収益の比較(各社2022年決算より)

さてイトーヨーカドーは何故ここまで苦境に陥ったのでしょうか?もう1つの大規模小売であるイオンと比較しながら見ていきましょう。上は両社の2022年度決算説明資料から部門ごとの数値を抜き出したものです。これを見ると
スーパーだけを見ると利益率(各社右端の列:営業利益/営業収益)は7&iの方がやや良いくらい
セブン&iは収益の8割、利益は100%以上国内外のコンビニによって挙げられている
・イオンは収益の半分がスーパー(GMS/SM)、だが利益のおよそ半分が金融・ディベロッパー事業によって得られている
・セブン&iの金融部門は利益率が2割近い高い収益性を誇るが利益におけるシェアはイオンが30%近いのに対して7.3%と存在感が薄い
・スーパー部門の営業収益はイオンがセブン&iの4倍近くあり、スーパー部門の規模としてはもはや決着がついている
言って見ればセブン&iとイオンではスーパー部門で必ずしも収益性に差がある訳ではないが、コンビニが名実ともにメイン事業となっているセブン&iと金融・ディベロッパー部門が収益の柱となっているイオンと言う差がイトーヨーカド―の大規模な閉店が目立つ現状を生み出しているのではと思います。

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上:セブン&Iホールディングス2022年決算説明資料より、下イオン2022年決算資料より

この状況は両社の決算資料からも見て取れます。もともと東京の下町が発祥だからと言う面もありますが、セブン&iでは収益性の高いと思われる首都圏へのフォーカスを謳っている反面、イオンでは「シナジーに加え、相互補完により全体での成長を図る」と収益性の低い事業を簡単には見捨てない姿勢を見せています。言って見ればディベロッパーと金融が柱であるがゆえに、仮に直接的には収益性の低い店舗であっても決済の段階で金融に家賃によってディベロッパー部門の収益に繋がっている事がこういった言葉を生み出し、また株主の納得に繋がっているのだと思います。

経済圏作成の遅れによってセブン&iが失ったもの
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セブン&Iホールディングス2022年決算説明資料より

そんな中セブン&iの決算資料を見ると「7iDを軸とした小売・金融一体戦略」が大々的に書かれ、イオンに後れを取る金融事業に対し力を入れている事を金融が収益の主力であるイオン以上に株主・投資家にアピールしているのが見て取れます。

7pay大失敗に見る、セブン帝国最大の強み「結束力」に生じた亀裂@Diamond2019/8/20より
「記者会見の動画中継を見ていて、思わずズッコケた」──。セブン&アイ・ホールディングス(HD)が、「セブンペイ」の中止を発表した8月1日のそれだ。たった3カ月でサービス終了という失態に、ある関係者は言葉を失った。
 セブン独自のスマートフォンによるキャッシュレス決済サービスは、7月1日の開始直後にアカウントの乗っ取りによる不正利用が発覚。「2段階認証」がなされていないなど、セキュリティー上の不備が次々と指摘され、9月末での中止を余儀なくされた。


確かに金融に力を入れているのは確かですが、根本的には5年前に騒動になったセブンペイに代表される金融事業の失敗が痛手だったという事なのでしょう。

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上:セブン&i、下:イオンの2015年と2022年のセグメント比較

その痛手の大きさはビジネスセグメントからも見て取れます。2015年と2022年の比較で見ると新たにヘルス&ウェルネス事業を追加したイオンに対し、フードサービス、通信販売を失い、また2023年度には西武百貨店の騒動でもあったように百貨店も失いました。

イトーヨーカ堂が早期退職募集、45歳以上の社員対象…コスト削減のため本社移転も@読売新聞2024/1/31より
セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂が早期退職者の募集を始めたことがわかった。45歳以上の社員を対象に2月末頃まで募集し、応募者には退職金を上乗せするほか再就職の支援を行う。


それだけではなく今回の事で祖業であるスーパーも縮小し、従業員もリストラすると言う厳しい状況に陥りました。そしてもはやコンビニ屋さんが余力の最低限で最小限スーパーをやり、コンビニ内のATMで金融を行っているような状況に陥っています。言って見れば金融を軸にした一種のブロック経済の形成に失敗した事が今回の事の背景にあると言えるのではないでしょうか?

JR東日本銀行参入が示す経済圏の時代の深化
JR 東日本グループによる新たなデジタル金融サービス「JRE BANK」について@JR東日本2022/12/13
JR東日本が銀行業に来春参入、Suica会員1億を擁するラスボスの背後にいる「ジョーカー」とは?@Diamond2023/11/13より  東日本旅客鉄道(JR東日本)が鉄道会社として2024年春に初めて銀行事業に参入する。交通系ICカードSuicaの発行枚数は実に約9956万枚、モバイルSuicaは約2303万枚。日本の人口に匹敵する顧客基盤を持つJR東日本の銀行参入を銀行やクレジットカード業界は警戒している。
 それもそのはず、1日の乗降客数は約1300万人(首都圏全線)、ポイントカードの会員数も1379万人を誇る。銀行事業がスタートする24年春以降は、これまではチャージ上限2万円の電子マネーSuicaとクレジットカードだけだったが、これに即時決済のデビットカード機能も加わるのだ。
 銀行事業開始は、グループの金融子会社ビューカード(東京・品川区)が銀行代理業を手掛けるかたちで「JREBANK」を設立する。ここで口座をつくれば、JR東日本の228駅にあるATMからの現金引き出しが無料になる。首都圏に、通勤・通学で多くの人が毎日使う駅というネットワークを持つ鉄道会社が銀行に参入すれば、その破壊力は計り知れない。実際、国内証券の銀行アナリストは「顧客数の桁が違うので交通系の銀行参入は手ごわい」と語る。


そんな中イオンの様に消費社会で大きな存在感のある企業はより自前の経済圏を拡大しようと動いています。上は既にSuica,JREポイントで経済圏をある程度作っているJR東日本が今年銀行に参入する事を報じられたニュースです。

2023年10月1日(日)から 京王線・井の頭線の鉄道乗車ポイントサービスを開始します@京王電鉄
4月5日から鉄道乗車ポイントサービスを開始します!@京急

またJR東日本まで大きくない私鉄でも乗車ポイントなどで経済圏を強めていこうという動きも目立ちます。昨年は京王電鉄、今年4月からは京急が乗車ポイントサービスを開始し、経済圏を強めていきます。

果たしてこの経済圏の時代にどこがイオンの様に成功し、どこがセブン&iの様に失敗するのか、そしてどの様な利益と問題を社会にもたらすかは今後注目していきたいと思います。