写真:宇都宮市中心市街地のメインストリートオリオン通り@2010年撮影
地域再生の罠 [ 久繁哲之介 ]P20より若者と女性、「まちづくり」に関して色々調べていると良く聞く言葉です。上の引用ではないですが中心市街地活性化や商店街の話を見ると何となく「お店をやっている冴えない無能なおっさんのせいでセンスの良い女性客やをとり逃してまちや商店街が衰退している」と言った論調がありますがそれは正しいのでしょうか?ここでは北関東最大都市の宇都宮を舞台に少し見ていきたいと思います。
このように、地域再生の施策は、「提供者側の中高年男性」だけで策定されることが常態化している。ここに地域衰退の現況がある。都市や施設の「魅力及び問題点」を発見するには「提供者側」の中高年男性だけでなく、「消費者側」即ち市民の、とりわけ若者と女性の行動や会話に五感を傾ける必要がある。
宇都宮市@wikipedeiaより・宇都宮109を撤退に追い込んだのは八百屋なのか
宇都宮市は、栃木県の県庁所在地で、県の中南部、関東平野の中北部に位置する。~中略~現在、市域人口は50万人を超えており、これは栃木県のみならず、北関東3県で最大である。本市を中心市とする宇都宮都市圏(都市雇用圏 - 2005年)の人口は約108万人と、中核市を中心とする都市圏としては日本国内最大規模となっている。[1]市の東部に大規模な内陸型工業団地が開発され、1984年(昭和59年)には関東地方では唯一「テクノポリス」に地域指定されるなど工業都市としての顔を有し、県内では工業製品出荷額が第1位、また年間商品販売額においては県内はもとより北関東第1位であり、北関東で最大、また国内でも有数の地域商工業都市となっている。

写真:兵どもが夢の跡・・・宇都宮109跡地@2010年
109@wikipediaより宇都宮のまちづくりでよく語られるのはやはり2001年に出店した東急系のショッピング施設である109がわずか4年弱で撤退したことでしょうか?90年代末にギャル系ファッションの聖地とも言われた109でもダメだったという点で様々な事が言われています。
109 UTSUNOMIYA[編集]栃木県宇都宮市江野町、オリオン通り内、2001年10月開業、旧山崎百貨店 → 緑屋 → ams西武。21世紀最初に出店した109であったが、周辺の宇都宮パルコや郊外型大型ショッピングセンターとの競合もあって、売上げの不振が続き、2005年(平成17年)7月をもってわずか3年9ヶ月で閉鎖となった。建物は取り壊され、現在跡地はオリオンスクエアとして、ジャズコンサートなどのイベントに利用されている。
宇都宮 | 三浦展@『10+1』よりやはり散々な言われようです。確かに本場渋谷の109の前で大根は売っていなかったと思いますし、女性に限らず若い世代にとって憧れが消費に留まらず様々な事の原動力になっている面は大いにあるので、それを裏切るような店舗が流行らないというのも分からなくはないですが、果たしてそれだけでしょうか?
しかし宇都宮109の人気は私が聞いた限り高くない。その理由は、カリスマ店員がいないことだという。また109の前のオリオン通りでは、野菜を安売りする市がたつなど、周辺の雰囲気も問題らしい。要するに宇都宮109は偽物だというわけだ。
地域再生の罠 [ 久繁哲之介 ]P30より
ハード面(箱物の造り)は本物と同じように真似するのだが、店員とテナントの質や立地設定などのソフト面は本物の足元にもおよばない「まがい物」である。八百屋の目前に109を誘致した愚は、まちの顔の二荒山神社の面前に高層ビルを建設したことに酷似する。宇都宮市が同じ失敗を何度も繰り返す要因の一つは、顧客が発する本音情報の重要性に気がつかない。もしくは、わかっているが収集できないことにある。

表:宇都宮市の若い女性の人口推移(国勢調査より作成)
そもそも論として注目したいのはこの時期の宇都宮で若い女性の市場は成長市場だったのかと言う点です。宇都宮109の開店は2001年、若い世代のボリュームゾーン団塊Jrは1973年を中心とした世代だけに28歳前後、言うなれば宇都宮109開店時には最も人口が多い世代はどんどんそのターゲットからいなくなる時期だった・・・と言えます。開店が計画された時期(ここでは国勢調査のデータを使っているので1995年を基準とします)の15歳から24歳の女性の人口を100とすると開店前の2000年の段階で15.7%減少し、閉店時の2005年には25.5%、実に1/4も減少しています。言うなれば仮に宇都宮の商店街が相当な努力をしたところでこれに抗う事が出来たかと言えばとても難しかったと言うほかありません。
新成人に聞く、交際相手はいますか? (1/2)@ITmedia ビジネスオンラインより
現在、彼氏または彼女がいますか? 2012年1月に成人式を迎える独身男女に聞いたところ、全体の24.7%(男性21.0%、女性28.5%)が「交際相手がいる」と回答。昨年の調査結果と比べ、「彼女がいる」男性は4.7ポイント増加したが、1996年に比べ29.0ポイントも減少していることが、オーネットの調査で分かった。
またもう1つ忘れてはいけないのが若い女性の恋愛離れともいう現象、詳細は引用元のグラフを見てほしいのですがこれも計画時を96~8年とすると20歳の男女の交際率は50%から2001年40.8%、2005年27.1%と激減しています。言うなれば若い世代の恋愛志向が激減している事で短絡的ではありますが、女性のファッションにかける費用も減少していると言えますし、また若い女の子が男性を連れてくる確率も激減しているので商店街としてもやはりかつてに比べて若い女性の波及効果は減っていると言えます。
まとめると宇都宮109の失敗は雰囲気づくりと言うよりも年々減少しかつ単価も下がる若い女性をターゲットにしたことそのものにあったと言えるのではないでしょうか?
そう考えると109誘致にあたって、八百屋の移動など思い切ったことをやらなかったと言うのは、地域の商店街として早い段階でこういった状況を把握し(国勢調査など人口統計などが無くても高校などの定員減少などの情報から判断できる)早い段階から市場としての若い女性の優先度を下げていたと考えればマーケティングとしては非常に正しく適切な判断だったと言わざるを得ません。
・宮コンが示したもの
写真:ここは対象店舗ではありませんが・・・宮カフェ@2010年
宮コンさて109が進出して撤退するわずか4年弱の慌ただしい間に宇都宮市の中心市街地では全国に模倣された取り組みが始まっています。そう街コンです。確かにこの街コンで宇都宮の中心市街地が生まれ変わって大賑わいしたかと言われればYesとは言いづらいですが、ただ2004年のスタートから10年以上継続し、各地で模倣されたのは成功と言ってもよいのではないでしょうか?
街コン@wikipediaより街コンは、街ぐるみで行われる大型の合コンイベントである。一般的な合コンと異なり、参加者は少ない場合でも100名以上、規模の大きいものでは3000名弱にもなる。同性2名以上で1組となり、開催地区の定められた複数の飲食店を廻る。各店舗でリストバンドなどの参加証を呈示することで、制限時間内であれば定額で飲食が可能という内容で開催されるものが多い。
発祥は2004年に開催された栃木県宇都宮市の「宮コン」であり、その後、全国の都市に広がりを見せている[1]。こういった取り組みは全国各地で開催されており、「出会いの場創出」と「地域活性化」が融合したイベントとして注目を浴びている。また最近[いつ?]は1店舗を貸切にした「店コン」、ショッピングモールを使った「モールコン」などさまざまな恋愛系のイベントにも派生を見せている。
男性 | 2000 | 2005 | 2010 | 女性 | 2000 | 2005 | 2010 |
30~34 | 17,765 | 21,009 | 19,710 | 30~34 | 16,460 | 18,925 | 18,029 |
未婚者 | 7,479 | 9,748 | 9,007 | 未婚者 | 3,753 | 5,394 | 5,264 |
未婚率 | 42.1% | 46.4% | 45.7% | 未婚率 | 22.8% | 28.5% | 29.2% |
35~39 | 15,887 | 17,865 | 22,269 | 35~39 | 14,756 | 16,449 | 20,575 |
未婚者 | 4,004 | 5,413 | 7,638 | 未婚者 | 1,608 | 2,550 | 4,053 |
未婚率 | 25.2% | 30.3% | 34.3% | 未婚率 | 10.9% | 15.5% | 19.7% |
未婚者数計 | 11,483 | 15,161 | 16,646 | 未婚者数計 | 5,361 | 7,943 | 9,318 |
指数(合計) | 100.0 | 132.0 | 145.0 | 指数(合計) | 100.0 | 148.2 | 173.8 |
男女合計 | 2000 | 2005 | 2010 | ||||
未婚者数計 | 16,844 | 23,104 | 25,963 | ||||
指数(合計) | 100.0 | 137.2 | 154.1 |
さてこの街コン、何故成功したのでしょうか?109の時と同様国勢調査の数字を見ていきます。街コンが始まった2004年の時期を見ると2000~2005年の5年間で30代の独身男女が男性は32%、女性が48.2%と激増していることがわかります。これは2004年段階で団塊Jrの中核世代である1973年生まれの世代が31歳である事、またこの時期30代の未婚率が上がっていく傾向にあったことからも納得できる数字です。
婚活で…女性が、もがき苦しむ驚きの理由は、これ! @大阪・京都・奈良の婚活【ブレスパーティー】よりまたもう1つ注目したいのは宇都宮市は清原工業団地と言う大規模工業団地を抱え北関東1の工業生産高を誇る都市である事から30代の男性の人口比率が高く、多くの婚活関係者が苦しむ「男性が来なくて困る」と言う問題が起こりづらいと言うのも好材料だったことです。
理由は、ちょ~簡単なことなんです。
それは・・・ 男性の絶対数が明らかに少ない、ということ。たとえば結婚相談所に登録している男女比ってどれくらいか知ってますか?たいていどこの連盟や組織でも、正確な比率を教えていませんね。男女差があるから、教えたくないんです。わたしは、よゆ~で教えちゃいますけどね(笑)
全国どこの連盟でも、だいたい、男40:女60 くらいです。
参加店一覧@宮コンより更にある意味で最も重要な点、それはこの企画に参加する商店主たちに「苦手あるいは無茶な努力をさせなかった」事にあるのではないでしょうか?上の引用は参加店一覧にあった各店舗のURLの一部を抜き出したものです。見てみると半分以上の店舗が独自にHPを持つのではなくぐるナビなどのサイトがリンク先になっているのがわかります。仮に彼らにFacebookやTwitterによる情報発信などで活性化を目指したらここまで参加し継続したでしょうか?難しかったのではないでしょうか?仮にアカウントをとってもすぐに休止状態に陥ったりしていたのではないでしょうか?逆に街コンの様に「街コンの時間帯はお店を貸切状態にして来たお客さんに料理をふるまう」のであれば、普通の飲食店であれば出来なければおかしいといった事ではないのでしょうか?池上町 Nohkin's http://www.2ndline-creations.com/2ndline_nohkins.html カンブリア http://www.hotpepper.jp/strJ000932286/ 麦酒倶楽部49ers http://www.tochinavi.net/spot/home/?id=3036 ライオンズヘッド http://www.tochinavi.net/spot/home/?id=305 Shooting Bar BANG BANG http://www.bar-bangbang.com/index.html
HOT PEPPER グルメ
栃ナビ
食べログ
ぐるなび
そういった意味で宮コンが成功したのは「どんどんお客さんが増えていく成長市場に対し普通のお店が無理なく参加できる仕組みを作った」事によるのではないでしょうか?それは109をまがい物にしたと批判された宇都宮の人達の真っ当なマーケティングセンスのたまものと言っても過言ではないでしょう。
新交通システム(LRT)@宇都宮市
さて現状宇都宮市では宮コンの成功要因として挙げた清原工業団地から宇都宮駅を結ぶLRTを計画中です。中心市街地との関わりの少ない郊外の工場従業者や団地居住者と中心市街地の距離が縮むこのプロジェクトが完成した際に109と宮コン2つの事態に強かに対応した宇都宮中心市街地の人達がどのように対応していくか今から楽しみなのは私だけでしょうか?
商店街を中心としたまちづくりというと今のネガティブ状態に対し生まれ変わるような努力をすることという事を商店主に求める客観的な視点から見れば無茶以外の何物でもないイメージが多いですが宇都宮の宮コンの成功は地域の現状を知るほんの少しの努力と商店主が出来る事をきちんと把握しておくことで出来る事がまだある事を示したのではないでしょうか?
さて2015年も終わろうとしています。皆さんには今年はどんな1年だったでしょうか?私にとってはある意味で区切りになった1年だったのかなと思います。
来年が私にとっても読んでくださる皆さんにとっても良い年であるようにお祈りします。