母と娘、孤立の末に 札幌のアパートに2遺体 82歳と引きこもりの52歳 「8050問題」支援急務@北海道新聞2018/3/5より

 高層マンションの建設ラッシュが続く札幌市中央区の住宅街の一角。築40年の2階建てアパートの1階の部屋で2人の遺体は見つかった。道警の司法解剖の結果、2人の死因はいずれも低栄養状態による低体温症。母親は昨年12月中旬に、娘は年末にそれぞれ飢えと寒さで死亡したとみられる。捜査関係者は「2人は都会の片隅で誰にも気付かれずに亡くなった。何とか救う方法はなかったのか」と漏らした。
 道警によると、1月6日午後、検針に来たガス業者が異変に気付き、別室の住民が室内に入り遺体を発見した。ストーブには灯油が入っていたが、エラーと表示され停止していた。冷蔵庫は空で、床には菓子の空き袋や調味料が散乱していた。室内には現金9万円が残されていた。~中略~

 札幌で痛ましい事件が発生しました。80代高齢の母親と50代引きこもりの娘の孤立死との事です。一見貧困の様に見えて、室内に9万円の現金が残っていたことを考えると社会的に孤立したのが原因と言うのがある意味でより痛ましさを大きくしています。

スーパーが消える ~ 買い物はもはやレジャーではなくなった@YahooNews!個人中村智彦より
地方のショッピングセンターやスーパーのゲームコーナーやフードコートには、ぼんやりとたたずむ高齢男性の姿が目立つ。「地域活動などで地元社会と繋がりを持つ女性に比べて、男性は定年まで会社人間で出かけるところもなく、とりあえず近所のスーパーにでも散歩がてら出かけるか、というのが多いのかも知れない。あまり売り上げに繋がらないのが玉に瑕だ。」とその経営者は笑う。
 一般的に女性は地域活動などを通じて地元社会とのつながりが強いと言われています。確かに娘がひきこもりだったとはいえ何故この母娘は孤立してしまったのでしょうか?

母と娘、孤立の末に 札幌のアパートに2遺体 82歳と引きこもりの52歳 「8050問題」支援急務@北海道新聞2018/3/5より
 近所の住民によると、母親は夫と死別後の1990年ごろに娘とアパートに入居した。当時、収入は年金だけで生活保護や福祉サービスは受けていなかった。娘は高校卒業後、就職したものの、人間関係に悩んで退職し、引きこもり状態になったという。捜査関係者によると、障害や病気があった可能性があるが、障害者手帳や病院の診察券などは見つかっていない。
 一番大きな理由は1990年ごろ母親50代、娘20代のころにこの場所に転居したため、新たな地域との結びつきを作るのが難しかったと言うのがではないかと思います。
 あくまで私見ですが、上の神戸国際大学中村教授の記事の様に女性が地元社会と結びつきやすかったのは批判されがちですが、多くの女性が結婚して子供を持ち子育てを担ったからではと感じます。そうであれば当然保育園や小中学校などのPTAとは関わり合いになりますし、地域のお祭りや習い事、子供の部活動等確かに大変でありいわゆるキャリアの障害とも言われますが、地域とつながる大きな機会とも言える場所に独占的に入り込むことができたわけです。逆にこの母娘は転居段階で娘が20代であり子育てを通じた地域社会とのつながりを造れなかったと言うのが孤立化の小さくない要因ではないかと思います。

未婚
表:未婚化の進行(未婚化の進行@内閣府より)

 そしてこの母娘の様な地域社会との結びつきを作りづらい女性達は年々増加しているように感じます。上は内閣府の資料から引用した女性の未婚率の推移1985年には6.6%だった30代後半女性の未婚率が2015年には23.9%と1/4近い水準に達しています。中村教授の記事での経営者の言葉になぞらえば、今後はショッピングセンターなどでぼんやりとたたずむ高齢女性も増えてくるのではないでしょうか?

 男女計 男性 女性 
2002843126.1 410.2126.0 437127.5
1997716.5107.2 344.7105.9 371.8108.5
1992668.3100.0 325.5100.0 342.8100.0
表:15~34歳の男女別ニート(家事を含む独身かつ非求職あるいは非希望の無業者)推移(H17青少年の就労に関する研究調査@内閣府P7資料より作成、単位千人)

 またこの母娘の娘の様な女性のひきこもりあるいはニートは一見珍しい存在の様に見えますが、ひきこもりはともかくニートまで拡大するとむしろ男性より多く、かつ男性に比べて人数的には速いペースで拡大しているようです。上の表は少々古いですが、内閣府が2005年に行った研究調査の結果から作ったもの、ちなみにこのような古い資料を使ったのは、他に「家事手伝いを含む男女別、世代別のニートの人数」がわかる統計が見当たらなかったからです。2002年で言えば男性41万人に対し、女性43.7万人と2.7万人ほど多いのがわかり、それは1992年から継続的な事がわかります。ちなみに2002年段階での34歳と言うと1968年生まれであり青葉区で性比が100を割り込んだ世代とほぼ同世代です。

2002年男性女性 
ニート人数410.24370
15~1999.599.11
20~2492.9882
25~2969.4543
30~3442.926.64
平均未婚率76.2 66.9 5、1~4の平均
性比補正80.0 66.9 6、男性を1.05倍
人数補正512.9 653.0 7、0を6で割る
割合11.27  
表:ニート男女比の補正(H17青少年の就労に関する研究調査@内閣府、P7資料、-人口統計資料集(2017改訂版)-@国立社会保障・人口問題研究所より作成、単位千人)

 もう1つ重要なのはニートの統計はあくまで未婚者が対象である事です。一般的に女性の方が婚姻率が高く、若い世代の男性は女性より5%ほど多いために、その部分を考慮すると差が大きくなります。上の表は2002年のデータを2000年の婚姻率で補正したものですが、実人数では2.7万人7%ほどの差だったのが補正後は27%女性が多く、ニート問題とは女性の問題だったと言えます。

 何故ニートが女性の問題ではなくむしろ若年男性の問題のように扱われたかと言えば、一言でいえば「いつか結婚するのでそれまで一時的に家事手伝い」と言う考え方によるものです。最初に10年以上前の統計を挙げたのも結局の所「家事手伝い」を含めた統計が殆どないからです。


欧米で急上昇する「婚外子」の割合 出産はもはや「結婚した女性の特権」ではない?@キャリコネニュース
より

厚労省の人口動態調査によると、2013年に日本で生まれた子どものうち、法的に婚姻関係にない「事実婚」や「内縁」の夫婦から生まれた子どもの割合は2.23%だそうです。終戦直後には3.8%あったものの、1980年前後の0.8%と比べると高い水準になっています。

しかしこの数字は世界的に見ると、とても低い割合です。2012年のヨーロッパ諸国の調査によると、アイスランドでは全体の61%が「婚外子」。エストニア58.4%、ブルガリア57.4%、ノルウェー54.9%、スウェーデン54.5%など50%超えも珍しくありません

 そしてその考え方は婚姻率の低下によって大きく揺らいだ・・・というよりも婚姻率の低下により昔なら家事手伝い→結婚と言う形でニートにならなかった女性がニート化したと言うのが女性のニート化の主因の様な気がします。
 これは私見ですが欧米先進国で日本において「女性の社会進出」の様な事象が起こったのは「男性が(工場の関連の様な)安定した職場で働き、その稼ぎで妻や子供を養う」と言う意味での結婚制度が維持できなくなったからと考えています。実際ヨーロッパでは所謂婚外子の割合の増加と言う形でこの事が見て取れます。
 そしてこの事が起こった原因としては
1、安定した雇用にとって大きな役割を果たしてきた工業が日本を含む新興国の台頭で衰退し男性の雇用が不安定化し劣化した
2、日本で言えば電子レンジに代表される家事の自働化により家事に関わる直接的な負担が低下した
3、所謂家父長的な価値観が衰退した

 この3つが挙げられると考えます。1は大きく言われ、確かにきっかけになった事ですが、2があったからこそ男性達は結婚しなくても大きく不便になることなくこの事が定着していったのは大きく、3があるから1の状況でも無理に結婚と言う制度に固執しなくなったと言えるでしょう。

 そしてそれが意味するのは妻、特に賃金労働に従事しない専業主婦が衰退業種となったという事です。
 言うなら本来「女性の社会進出」とは「炭鉱の様に衰退・消滅産業・職種化した専業主婦を何とか別の成長産業に送り込んで失業を回避・低減させるためのもの」だったと言っても良いでしょう。

日本の男女格差114位に下落 「政治」123位に後退@朝日新聞2017/11/2より
男女格差(ジェンダーギャップ)の大きさを国別に順位付けした「世界経済フォーラム」の報告書が2日付で公表され、日本は144カ国中114位と、前年より三つ順位を下げた。主要7カ国(G7)では今年も最下位だった。
経済、政治、教育、健康の4分野14項目で、男女平等の度合いを指数化し、順位を決める。

 日本がひときわ出遅れているのが、政治分野での男女平等だ。123位で、前年の103位から後退した。女性国会議員の割合▽女性閣僚の割合▽過去50年間の女性国家元首の在任年数の3項目で評価する。

 しかしながら現実的には発言力を持つ1部のエリート女性のためのポスト確保や優遇の為の政策が中心となってはいないでしょうか?上はこの手の問題で良く出てくるジェンダーギャップ指数の問題、そしてよく言われるのは「日本は女性の政治家が少ない」、「日本は女性の大手企業管理職・役員が少ない」と言った話題です。

ジェンダー不平等指数@国連開発計画(UNDP)2015


 一方でこちらの指数はほとんどお見かけしませんが同じような比較として上のジェンダー不平等指数と言うものがあります。こちらはリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、エンパワーメント、労働市場への参加の3つの側面における達成度の女性と男性の間の不平等を映し出す指標です。
 こちらでは日本は188国中17位と平等度の高さではトップランクと言ってよい状況が見て取れます。また参画に数もジェンダーギャップが144国に対し、188国と多いのも特徴です。

 ジェンダーギャップ指数2017ジェンダー不平等指数2015
1アイスランドノルウェー
2ノルウェーオーストラリア
3フィンランドスイス
4ルワンダドイツ
5スウェーデンデンマーク
6ニカラグアシンガポール
7スロベニアオランダ
8アイルランドアイルランド
9ニュージーランドアイスランド
10フィリピンカナダ
表:ジェンダーギャップ指数とジェンダー不平等指数の上位10国比較(
ジェンダー不平等指数@国連開発計画(UNDP)2015
、ジェンダーギャップ指数は行政施策トピックス2 @内閣府男女共同参画局

 さてジェンダーギャップ指数の上位10国を見るとルワンダニカラグア等見慣れない国が多いのがわかります。ルワンダは1994年のルワンダ大虐殺が行われたように紛争の多い国として知られています。ニカラグアは中央アメリカの国ですが国民所得や識字率が低い国として知られています。こういった国の順位がどうして高いかと言えば、エリート男性の流出が挙げ強い為、結果的に政治ポストなどが女性にめぐってきやすい環境にあるためと推察されます。そういった意味でジェンダーギャップ指数は非常に癖のある指標なのですが何故かこういった国際的な指標ではジェンダーギャップ指数ばかりが報道され、情報が拡散されます。これはエリート女性たちが同じエリート女性たちの出世を後押しし、自分のポストを確保する為と考えれば…と言う陰謀論を出したくはありませんがそうとられてもおかし無くない状況であることはお分かりいただけるかと思います。

「8050問題」とは?中高年ひきこもり、初調査 40~59歳対象@産経新聞2018/1/1より

 ひきこもりの長期化、高年齢化が深刻となる中、内閣府は平成30年度に、40~59歳を対象にした初の実態調査を行うことを決めた。これまでは若者特有の問題として調査対象を39歳までに限っていたが、中高年層にひきこもり状態の人がどの程度いるかや生活状況、抱えている課題を把握し、支援に役立てる狙い。30年度予算案に調査費2千万円を計上した。

 ひきこもりが長期化すると親も高齢となり、収入が途絶えたり、病気や介護がのしかかったりして、一家が孤立、困窮するケースが顕在化し始めている。こうした例は「80代の親と50代の子」を意味する「8050(はちまるごーまる)問題」と呼ばれ、家族や支援団体から早急に実態を把握するよう求める声が出ていた。
 

 そうこうしているうちに取り残された女性たちのまち で書いたパラサイトシングル第一世代が50代に突入し、その中で特に社会とのつながりが少ないひきこもりの人達とその親が共倒れすると言う札幌の母娘に代表されるような「8050問題」が浮上してきました。もはや本来の「女性の社会進出」とどう付き合うか逃げられない段階に来ているのではないでしょうか?

 1989年に始まった平成の時代、その中で華やかに言われた「女性の社会進出」や「強くなった女性達」とはその頃子供だった私のような人間には眩しく華やかなものでした。しかしその終わりが近づいた今、その幻想が解けて厳しい現実が突きつけられているように感じます。平成が終わる前にこの厳しい現実と上手く付き合う方法が見つかるか否か、それが問われているのです。