2002年の朝日新聞から
mixi日記2008年11月03日から
懸案事項だった「朝日新聞から」の古い分をピックアップした。
4万字近くあるので、区切りのいいとこで切ったら5回分になる。
順次あげていきます。
●2002年
【3月】
02-3-1
3月21日
同社長によると、移転話は札幌市、札幌ドームからの打診から始まった。(朝刊/21面)
謎が解決できずにいる「から始まる」問題。この用例の場合は、「から」でいい気がする。仮に置きかえるとしたら「に」ではなく「で」、というあたりがポイントになるのでは。
このように、事柄をあげて「〇〇から始まる」とするのが本来の用法なのだろう。「会社の再建が、大規模なリストラから始まる」とか(なんかヘンな文だな)。それが援用されて、日時を入れた「1時から始まる」の誤用が広まったのでは。
この問題に関連する表現で最近目にしたのが、「あしたから禁酒する」。
「禁酒」は「禁酒する」「禁酒した」なら瞬間的で、「禁酒している」なら継続的になる。このように両方の用法があることが特殊かね。たとえば、「発売する」「発売した」なら瞬間的。「発売している」でも継続的にはならない気がする。
まず過去形から考える。
おそらく、「2年前に禁酒した」と「2年前から禁酒している」が正しい用法。
例によって、「に」を使って、時期を近づけてみる。
1)昨年4月に禁酒した
2)先月に禁酒した
3)先週に禁酒した
4)きのうに禁酒した
3)は微妙で、4)はヘン。これが「きのうから禁酒している」なら、問題がない。未来形にしてみる。
1)来年4月に禁酒する
2)来月に禁酒する
3)来週に禁酒する
4)明日に禁酒する
全部ヘン。「から」を使うと問題がなくなるのは、継続的用法に切りかわるからだろうか。やっぱり判らない。
【4月】
02-4-1
4月16日
しかし、振りかわりを「自信がなかった」という王は、20分の推敲(すいこう)の末、敲(たた)くのではなく、推(押)しを選んで黒81。(朝刊/29面)
囲碁の観戦記にあった文。なんと申しましょうか。少し補足すると、黒81では「タタキ」と「押し」の2つの選択肢があった(この「タタキ」は、専門用語なので説明不能。ただし、この場合は「タタキ」ではなく「カカエ」の気もする)。さらに、考慮時間が20分(長考でもないけど少考でもない、中考とでも申しましょうか)であったことを加味して、この文を捻り出したんだろう。「うまい」と座布団の一枚も用意するところかもしれないが、ひとことで言うと凝りすぎ。「推敲」の由来を知らない読者には何がなんだか判らないだろう。
02-4-2
4月18日
朝刊/4面から。
田中真紀子前外相が秘書疑惑の問題で、まず政党の幹部が自ら襟を正すべきだとして「隗より始めよ」と発言した。このシーンが昨晩からテレビのニュースで繰り返し流されている。この諺の本来の意味は「身近なところから始める」で、「率先垂範」の意味で用いるのは誤用のはず。手元の「成語林」では、本来の意味から「転じて」ではあるが「率先垂範」の意味も認めている。「広辞林」もほとんど同じ扱い。困ったもんだ。すでにこんなことになっているのね。しかも、今回の露出の多さを考えると、ほとんどトドメになる気がする。
02-4-3
4月27日
この紙の上には、1という数字がA個、2という数字がB個、3という数字がC個、1から3まで以外の数字がD個書いてある。(夕刊/6面)
妙なクイズが掲載されていた。「自分自身のことを言おうとすると、妙なことが起こります」とのこと。有名な「クレタ人はウソツキだ」に通じるものがある。
この手のものは順番に考えていくしかない。前提条件を整理しておく。
現状で出てくる数字で考えると、A≧2、B≧1、C≧2。ただし、A、C、Dのいずれかが2になった場合、B=2にしたとたんに2の数が3個になってしまうので、B≠2(ここがキモかね)。もうひとつ考えなければならないのは、Dに入る値について。それ以前に1~3以外の数字が1個もないと、D=0になりそうだが、この場合0は1~3以外の数字なので、D=0にはならない(ここもキモかね)。したがって、D≧1(A、B、Cのいずれかが4以上)。
Aに入る数値を考える。
A=2とすると2の個数は2になる。B≠2なので、B≧3にする必要がある。
B=3と仮定すると、CかDのいずれかが2になる必要がある。3はすでに2個あるので、B=3とすると、Cは3以上。このとき、D=2はなり得ない。したがって、Aは2ではない。
A=3と仮定する。BかDのどちらかが1になる。
B=1と仮定すると、C=3になり、D≧1(A、B、Cのいずれかが4以上)の条件に反する。D=1と仮定すると、Bを満たす数値がなくなる。
A=4と仮定する。B=D=1になる。この場合、C=2になり、B=1に反する。
ってことは、「正解なし」が正解なのかね。そんな問題アリかね。
後日考え直してみた。
A=4と仮定する。B=D=1になる。この場合、C=2になりそうだが、Cを3にすると、そのとたん3の個数が3になるので、条件を満たすことになる。これは意外と難問だった。
02-4-4
4月30日
しかし、ヤンキースの守護神、リベラに150キロを超える球で内外角を揺さぶられたイチローは、最後は高め球に振り遅れて空を切った。(朝刊/12面)
細かいインネンをつけるとキリがない。
「内外角を揺さぶられた」はちょっと言葉足らずの観がある。だからと言って、どう書けばいいのかは判らない。「内外角を」は「内外角に」ではないかという気もする。「左右」ならまず間違いなく「に」だろう。
「高め球」は「高めの球」の意味だろうが、ちょっと不安定。「緩め球」とは言えそうにない。「低め球」はまだマシかな。
「空を切った」のは「イチロー」ではなく「バット」のはず。
そういったことは別にして、気になったのは「守護神、リベラ」の部分。原文から「守護神、」(もしくは「、リベラ」)を削除すれば、不自然さはない。この読点は「同格」を示すもので、問題になることが多い。「・(ナカグロ)」にするテもあるけど、あまり一般的ではない。もっとも簡単な解決策は、「、」を「の」か「である」にしてしまうこと。原文の場合は、「の」にして問題がなさそう(「である」はややかたいかな)。ただし、一般には「の」が連続する形になることが多い。そもそも、その「の」の連続を避けるために同格の「、」を使うことが多い気がする。このように、「の」にしても連続が2回にしかならないなら、迷わず「の」にするべき。
次に考えられるのは、「、」を削除してしまうこと。原文は、読点の前が漢字で後ろがカタカナだから、「守護神リベラ」しても問題がない。これが、「新守護神伊良部」だとこのテは使えない。その場合は、「“新守護神”伊良部」とでもするしかないかね。
【5月】
02-5-1
5月5日
朝刊/9面の書評欄で、小谷野敦(東大非常勤講師)が『常識として知っておきたい日本語』(柴田武/幻冬舎)を取り上げている。「穏当な解説にほっこり」と題して穏便な書き方をしているが、相当毒を含んでいる。この文体は参考になるかも。
83歳になる言語学者の著作は、以前刊行されたものを再編集したもので、10刷で60万部を売り上げているとか。傍らに掲載されている紀伊國屋書店梅田本店の週間ベスト10(ノンフィクション、4月22~28日)でも3位にランクインしている。
「言葉の話題はまったく平和な世界を提供する」という指摘に関し、小谷野氏は呉智英や高島俊男の例をあげ、「ちょっと違う気もするが……」とヤンワリと異を唱える。「ジョークのつもりらしい文章も随所に挿入されており、毒がなくて別におもしろくないのだが、そこがいい」って、ケッコーな褒め殺しだよな。解説が不十分な箇所を指摘し、結びもかなりのもの。
まあしかし、女房と女郎を比較するなんて時代錯誤の解説文を読んでいると、肩の力がするする抜けて、まあいいか、と思えてくる。「亀の甲より年の功」とはこのことか。
02-5-2
5月28日
上位との差を縮めて、意気揚々と本拠に戻った近鉄だが、最下位ロッテに足元をすくわれた。(朝刊/17面)
新聞記事の一文としては少し長い。まず細かい部分から。冒頭の「縮めて、」は、「縮め、」か「縮めて」のどちらかにするべきだろう。「本拠」は「本拠地」のほうがスンナリ来る気がする。このあたりまでは趣味の問題。問題は「足元をすくわれた」。語感はこっちのほうがいいけど、「足をすくわれた」が正しく日本語ではないか。この「足元をすくう」の類いは某「ゴング」誌に頻出する表現で、気になってしかたがない。
「足元」は「足のあたり」「足場」「足の運び」ぐらいの意味で、慣用句では「足元を見る」とか「足元がおぼつかない」とかが一般的。「足」のほうの慣用句でニュアンスが似ているのは「(揚げ)足を取る」かな。意味で考えても、「足元」を「すくう」のはむずかしい気がする。
02-5-3
5月31日
かけ率は、日本の公営ギャンブルのように、客の人気で決まるのではなく、会社側がそれぞれ判断して設定する。(夕刊/22面)
典型的な「ように+否定形」。2通りの解釈ができる。
1)かけ率は、日本の公営ギャンブルと違い、客の人気で決まるのではなく会社側がそれぞれ判断して設定する。
2)かけ率は、客の人気で決まるのではなく、日本の公営ギャンブルのように会社側がそれぞれ判断して設定する。
英国のブックメーカー(公認かけ屋)は独自に賭け率を設定する。一方日本の公営ギャンブルのオッズは人気によって決まる。両者の違いについて説明しているのだから、正解は1)。ただし、この原文の場合は、「ように」の直後の読点を削除すれば、マシな気がする。
【6月】
02-6-1
6月1日
前回王者は74年大会から開幕戦に登場するようになった。90年大会では、やはりアフリカ勢のカメルーンがアルゼンチンの足をすくった。(朝刊/1面)
このように「足をすくった」とするほうがスンナリ来る。細かいことを書くと、「アルゼンチン」の前に「(、)前回王者の」ぐらいを入れたいところ。
02-6-2
6月1日
以前にもメモした「パズルワーク」(夕刊/4面)の今回の出題は覆面算。
ウシ
×ウッテ
ウマカウ
時事問題に引っかけたつもりなんだろうが、あんまりよいできではない。
ウ=1はひと目で判る(これをちゃんと説明するのはむずかしい?)。判りにくいので、「ウシ」と「ウッテ」の順を逆にして考える。
1ッテ
× 1シ
1マカ1
最大の手がかりは、答えの1位が「1」になっていること。こうなる組み合わせは、「1と1」を除くと「9と9」と「3×7(7×3)」しかない。「テ」「シ」は別の数字なので「9と9」はナシ。
ひたすら愚鈍に当てはめていく。まずテ=3、シ=7と仮定する。1999/17≦118なので、ッ≦1。「1」はすでに使われているので、「0」しか入らない。107×13=1751で、「7」が重複してしまうので不可。ゆえにテ=7、シ=3が決定する。
1ッ7
× 13
1マカ1
ここでッに入る値を考える。ただし1999/13≦154なので、ッ≦4。さらに、ッ=1も不可。
ッ=0とすると、107×13=1391。3が重複するので不可。
ッ=2とすると、127×13=1651。条件を満たす。
ッ=3とすると、137×13=1781。7が重複するので不可。
ッ=4とすると、147×13=1911。1が重複するので不可。
したがって、もとの数式を満たす数値は、以下の組み合わせに限定される。
127
× 13
1651
02-6-3
6月2日
朝刊/12面から。
日本語熱の高まりに対応して八重洲ブックセンター本店では、1か月ほど前から約30種類の日本語本を並べたコーナーを設けている。ブームの皮切りと見られているのは『声に出して読みたい日本語』(齋藤孝/草思社)。8か月で110万部売れたとか。
種類が豊富なのが、語源を紹介する新刊。『明治生まれの日本語』(飛田良分/淡交社)、『漢語の語源ものがたり』(諏訪原研/平凡社新書)、『ことわざの知恵』(岩波新書辞典編集部編/岩波新書)、『日本語語源の楽しみ』(岩淵悦太郎/グラフ社)など……どれも知りません。ほぼ全国的に書店のベスト5に入っているのが、『常識として知っておきたい日本語』(柴田武/幻冬舎)。担当編集者の「本当は日本語が怪しい若い世代にと思ったのですが、実際は大半の読者は中高年」というコメントが紹介されている。そりゃそうでしょ。日本語が多少怪しくたって日常生活には困らない。若いモンはこんなもの読まないって。このほか、『この国のことば』(半藤一利/平凡社)、『京のことのは』(吉岡幸雄・槇野修構成と文/幻冬舎)などなど。これだけまとまって語源関係の本が売れるのは善いことなのか悪いことなのか。
過去にも売れた日本語本としてあげられている『日本語練習帳』(大野晋/岩波新書)は、180万部のベストセラーなんだそうな。編集長の坂巻克巳さんは「今は状況が違う。パソコンや携帯で絵文字や記号化文字が使われ、激変するコミュニケーションに直面している」と指摘している。これもどうだかなぁ。パソコンや携帯を介したメールの普及によって表現のバリエーションが増えたのは事実だろう。しかし、そういった新しい表現形式を好む層と「文章読本」の読者層はかなりズレているのではないか。
11面には『日本語語源の楽しみ』の広告が載っている。「早くも三刷の第一巻に続き待望の第二巻発売!」なんだそうな。これって、20年も前に毎日新聞社から刊行されたものの焼き直しじゃないの?
02-6-4
6月8日 仕事のゲラから。
=================================
蓋碗を急須代わりにいれたり、磁器の大ぶりの急須で紅茶をいれるのは、いずれも茶器をあらかじめ温めて茶葉の上からお湯を注ぐだけですから、比較的簡単です。
=================================
「片たり」なんだけど、これを修正するのはむずかしい。
それは別として、「いずれも」はヘン。「いずれも」は通常3つ以上に使うはず。2つの場合は「どちらも」。散々悩んで、次のようにした。
蓋碗を急須代わりにいれるのも、磁器の大ぶりの急須で紅茶をいれるのも、茶器をあらかじめ温めて茶葉の上からお湯を注ぐだけですから、比較的簡単です。
=================================
ほかの発酵茶のように、揉捻することにより、発酵を促すことをせず、天日か室内で干して茶葉をしおれさせて作られます。
=================================
典型的な「ように+否定形」。まず「のように」を「と違い」にする。もうひとつ考えなければならないのは、「揉捻することにより」と「発酵を促すことをせず」。この「こと」の連続はけっこう気になる。読点の使い方もかなりイヤ。意味のない受動態もヘン。次のようにしてみる。
ほかの発酵茶と違い、揉捻によって発酵を促すことをせず、天日か室内で干して茶葉をしおれさせて作ります。
02-6-5
6月17日
朝刊/20面から。
サッカーのコラム中で「一丸になって」という表現が使われていた。書き手は前日本監督の岡田武史さんだから、根拠にするのは危険だけど。一般の慣用句は「一丸となる」。字面を眺めていると、「一丸になって」でもいい気がしてくる。
02-6-6
6月20日
朝刊/1面から。
慣用句の理解が低下していることを伝える文化庁の調査。とくに若年層の理解度が低い言葉として10例があげられている。
1)つとに2)けんもほろろ3)よんどころない4)言わずもがな5)ゆゆしき
6)とみに7)水ももらさぬ8)いたたまれない9)心もとない10)おもむろに
素朴な疑問。「とみに」「ゆゆしき」「とみに」あたりは慣用句なんだろうか。
自分でどの程度使うかを考えると、「とみに」「よんどころない」あたりは使うとしたらギャグだろうな。ほかでは「けんもほろろ」「水ももらさぬ」あたりは慣用句として手垢がつきすぎているようでイヤ(この「手垢がつく」も相当陳腐な慣用句やな)。
【9月】
02-9-1
9月16日
朝刊/20面から。
家庭欄に週1回、五木寛之が「みみずくの夜メール」というエッセイを連載している。
以前、小説の中で「老人が、どっこしょ、といってたちあがった」と書いたら、読者から長文の手紙がきた。「どっこいしょ」は座るときの掛け声(?)で、立ち上がるときは古来「よっこらしょ」であるとか。
「重箱の隅(すみ)をつっつくような、と書いて叱(しか)られた」こともあるとか。正しくは「重箱の隅をほじくる」であり云々と、便箋10数枚にわたっていたとか。当然五木氏もそんなことは承知で、「弾力的応用も許されるのではないか」と考えて使った弁明する。氏が子供の頃には「重箱の隅を楊枝(ようじ)の先でほじくるような」と言っていたそうな。こんなことを書くと、それを言うなら「爪楊枝(つまようじ)の先」である、とお叱りを受けるかも……というのがオチだった。
02-9-2
9月16日
宮地は、水着キャンペーンモデル出身なだけに健康的で、ヒロインを明るく演じている。(朝刊/40面)
NHKの新しい連続ドラマの紹介記事中にあった一文。問題は「出身なだけに」。「出身」は名詞だから「な」は不要だろう。「出身だけに」にすれば問題がないかというと、まだ異和感が残る。個人的な語感では、この場合なら「出身だけあって」のほうがマシだが、まだぎこちない。読点の位置は「健康的で」の前のほうがいい気もする。いっそ素直に書きかえてみる。
水着キャンペーンモデル出身の宮地は健康的で、ヒロインを明るく演じている。
【10月】
02-10-1
10月8日
朝刊29面から。
宮崎健二(知りません)氏の「J-culture-NOW!」というコラムが、「少年マガジン」と「少年ジャンプ」の部数が再逆転したことを伝えている。ジャンプが部数を落とし、5年前にトップの座を譲ったのは24年ぶりことだったらしい。「ラブひな」「GTO」が相次いで終わり、代わりの人気作が出なかったことが原因らしい。ただ、ジャンプ側に喜びはない。最近の推定発行部数はジャンプが323万でマガジンが310万。5年前に比べて両誌とも100万部近く落としている。コミック(単行本)のほうは好調で、9月に出た「ONE PEACE」は史上最多の初版254万部だったとか。
結論がすごい。
=================================
それにしても、だ。人気作は出るのに母体の雑誌は細っていくという、この構図、何かに似ていないか。そう、小説と文芸誌の関係だ。文芸誌の発行部数は今や数千からせいぜい数万部。少年マンガ誌にも少子化など逆風が強まっているけれど、まさかねえ。
=================================
書き手も認めているけど、話のスケールがあまりにも違う。最低でも2桁(へたすりゃ3桁)違うんじゃ似ているわけがない。さらに言えば、末尾の「まさかねえ」が何を意味しているのかさっぱり判らない。
【続きは】
●朝日新聞から(2003年1~11月)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=982835352&owner_id=5019671
懸案事項だった「朝日新聞から」の古い分をピックアップした。
4万字近くあるので、区切りのいいとこで切ったら5回分になる。
順次あげていきます。
●2002年
【3月】
02-3-1
3月21日
同社長によると、移転話は札幌市、札幌ドームからの打診から始まった。(朝刊/21面)
謎が解決できずにいる「から始まる」問題。この用例の場合は、「から」でいい気がする。仮に置きかえるとしたら「に」ではなく「で」、というあたりがポイントになるのでは。
このように、事柄をあげて「〇〇から始まる」とするのが本来の用法なのだろう。「会社の再建が、大規模なリストラから始まる」とか(なんかヘンな文だな)。それが援用されて、日時を入れた「1時から始まる」の誤用が広まったのでは。
この問題に関連する表現で最近目にしたのが、「あしたから禁酒する」。
「禁酒」は「禁酒する」「禁酒した」なら瞬間的で、「禁酒している」なら継続的になる。このように両方の用法があることが特殊かね。たとえば、「発売する」「発売した」なら瞬間的。「発売している」でも継続的にはならない気がする。
まず過去形から考える。
おそらく、「2年前に禁酒した」と「2年前から禁酒している」が正しい用法。
例によって、「に」を使って、時期を近づけてみる。
1)昨年4月に禁酒した
2)先月に禁酒した
3)先週に禁酒した
4)きのうに禁酒した
3)は微妙で、4)はヘン。これが「きのうから禁酒している」なら、問題がない。未来形にしてみる。
1)来年4月に禁酒する
2)来月に禁酒する
3)来週に禁酒する
4)明日に禁酒する
全部ヘン。「から」を使うと問題がなくなるのは、継続的用法に切りかわるからだろうか。やっぱり判らない。
【4月】
02-4-1
4月16日
しかし、振りかわりを「自信がなかった」という王は、20分の推敲(すいこう)の末、敲(たた)くのではなく、推(押)しを選んで黒81。(朝刊/29面)
囲碁の観戦記にあった文。なんと申しましょうか。少し補足すると、黒81では「タタキ」と「押し」の2つの選択肢があった(この「タタキ」は、専門用語なので説明不能。ただし、この場合は「タタキ」ではなく「カカエ」の気もする)。さらに、考慮時間が20分(長考でもないけど少考でもない、中考とでも申しましょうか)であったことを加味して、この文を捻り出したんだろう。「うまい」と座布団の一枚も用意するところかもしれないが、ひとことで言うと凝りすぎ。「推敲」の由来を知らない読者には何がなんだか判らないだろう。
02-4-2
4月18日
朝刊/4面から。
田中真紀子前外相が秘書疑惑の問題で、まず政党の幹部が自ら襟を正すべきだとして「隗より始めよ」と発言した。このシーンが昨晩からテレビのニュースで繰り返し流されている。この諺の本来の意味は「身近なところから始める」で、「率先垂範」の意味で用いるのは誤用のはず。手元の「成語林」では、本来の意味から「転じて」ではあるが「率先垂範」の意味も認めている。「広辞林」もほとんど同じ扱い。困ったもんだ。すでにこんなことになっているのね。しかも、今回の露出の多さを考えると、ほとんどトドメになる気がする。
02-4-3
4月27日
この紙の上には、1という数字がA個、2という数字がB個、3という数字がC個、1から3まで以外の数字がD個書いてある。(夕刊/6面)
妙なクイズが掲載されていた。「自分自身のことを言おうとすると、妙なことが起こります」とのこと。有名な「クレタ人はウソツキだ」に通じるものがある。
この手のものは順番に考えていくしかない。前提条件を整理しておく。
現状で出てくる数字で考えると、A≧2、B≧1、C≧2。ただし、A、C、Dのいずれかが2になった場合、B=2にしたとたんに2の数が3個になってしまうので、B≠2(ここがキモかね)。もうひとつ考えなければならないのは、Dに入る値について。それ以前に1~3以外の数字が1個もないと、D=0になりそうだが、この場合0は1~3以外の数字なので、D=0にはならない(ここもキモかね)。したがって、D≧1(A、B、Cのいずれかが4以上)。
Aに入る数値を考える。
A=2とすると2の個数は2になる。B≠2なので、B≧3にする必要がある。
B=3と仮定すると、CかDのいずれかが2になる必要がある。3はすでに2個あるので、B=3とすると、Cは3以上。このとき、D=2はなり得ない。したがって、Aは2ではない。
A=3と仮定する。BかDのどちらかが1になる。
B=1と仮定すると、C=3になり、D≧1(A、B、Cのいずれかが4以上)の条件に反する。D=1と仮定すると、Bを満たす数値がなくなる。
A=4と仮定する。B=D=1になる。この場合、C=2になり、B=1に反する。
ってことは、「正解なし」が正解なのかね。そんな問題アリかね。
後日考え直してみた。
A=4と仮定する。B=D=1になる。この場合、C=2になりそうだが、Cを3にすると、そのとたん3の個数が3になるので、条件を満たすことになる。これは意外と難問だった。
02-4-4
4月30日
しかし、ヤンキースの守護神、リベラに150キロを超える球で内外角を揺さぶられたイチローは、最後は高め球に振り遅れて空を切った。(朝刊/12面)
細かいインネンをつけるとキリがない。
「内外角を揺さぶられた」はちょっと言葉足らずの観がある。だからと言って、どう書けばいいのかは判らない。「内外角を」は「内外角に」ではないかという気もする。「左右」ならまず間違いなく「に」だろう。
「高め球」は「高めの球」の意味だろうが、ちょっと不安定。「緩め球」とは言えそうにない。「低め球」はまだマシかな。
「空を切った」のは「イチロー」ではなく「バット」のはず。
そういったことは別にして、気になったのは「守護神、リベラ」の部分。原文から「守護神、」(もしくは「、リベラ」)を削除すれば、不自然さはない。この読点は「同格」を示すもので、問題になることが多い。「・(ナカグロ)」にするテもあるけど、あまり一般的ではない。もっとも簡単な解決策は、「、」を「の」か「である」にしてしまうこと。原文の場合は、「の」にして問題がなさそう(「である」はややかたいかな)。ただし、一般には「の」が連続する形になることが多い。そもそも、その「の」の連続を避けるために同格の「、」を使うことが多い気がする。このように、「の」にしても連続が2回にしかならないなら、迷わず「の」にするべき。
次に考えられるのは、「、」を削除してしまうこと。原文は、読点の前が漢字で後ろがカタカナだから、「守護神リベラ」しても問題がない。これが、「新守護神伊良部」だとこのテは使えない。その場合は、「“新守護神”伊良部」とでもするしかないかね。
【5月】
02-5-1
5月5日
朝刊/9面の書評欄で、小谷野敦(東大非常勤講師)が『常識として知っておきたい日本語』(柴田武/幻冬舎)を取り上げている。「穏当な解説にほっこり」と題して穏便な書き方をしているが、相当毒を含んでいる。この文体は参考になるかも。
83歳になる言語学者の著作は、以前刊行されたものを再編集したもので、10刷で60万部を売り上げているとか。傍らに掲載されている紀伊國屋書店梅田本店の週間ベスト10(ノンフィクション、4月22~28日)でも3位にランクインしている。
「言葉の話題はまったく平和な世界を提供する」という指摘に関し、小谷野氏は呉智英や高島俊男の例をあげ、「ちょっと違う気もするが……」とヤンワリと異を唱える。「ジョークのつもりらしい文章も随所に挿入されており、毒がなくて別におもしろくないのだが、そこがいい」って、ケッコーな褒め殺しだよな。解説が不十分な箇所を指摘し、結びもかなりのもの。
まあしかし、女房と女郎を比較するなんて時代錯誤の解説文を読んでいると、肩の力がするする抜けて、まあいいか、と思えてくる。「亀の甲より年の功」とはこのことか。
02-5-2
5月28日
上位との差を縮めて、意気揚々と本拠に戻った近鉄だが、最下位ロッテに足元をすくわれた。(朝刊/17面)
新聞記事の一文としては少し長い。まず細かい部分から。冒頭の「縮めて、」は、「縮め、」か「縮めて」のどちらかにするべきだろう。「本拠」は「本拠地」のほうがスンナリ来る気がする。このあたりまでは趣味の問題。問題は「足元をすくわれた」。語感はこっちのほうがいいけど、「足をすくわれた」が正しく日本語ではないか。この「足元をすくう」の類いは某「ゴング」誌に頻出する表現で、気になってしかたがない。
「足元」は「足のあたり」「足場」「足の運び」ぐらいの意味で、慣用句では「足元を見る」とか「足元がおぼつかない」とかが一般的。「足」のほうの慣用句でニュアンスが似ているのは「(揚げ)足を取る」かな。意味で考えても、「足元」を「すくう」のはむずかしい気がする。
02-5-3
5月31日
かけ率は、日本の公営ギャンブルのように、客の人気で決まるのではなく、会社側がそれぞれ判断して設定する。(夕刊/22面)
典型的な「ように+否定形」。2通りの解釈ができる。
1)かけ率は、日本の公営ギャンブルと違い、客の人気で決まるのではなく会社側がそれぞれ判断して設定する。
2)かけ率は、客の人気で決まるのではなく、日本の公営ギャンブルのように会社側がそれぞれ判断して設定する。
英国のブックメーカー(公認かけ屋)は独自に賭け率を設定する。一方日本の公営ギャンブルのオッズは人気によって決まる。両者の違いについて説明しているのだから、正解は1)。ただし、この原文の場合は、「ように」の直後の読点を削除すれば、マシな気がする。
【6月】
02-6-1
6月1日
前回王者は74年大会から開幕戦に登場するようになった。90年大会では、やはりアフリカ勢のカメルーンがアルゼンチンの足をすくった。(朝刊/1面)
このように「足をすくった」とするほうがスンナリ来る。細かいことを書くと、「アルゼンチン」の前に「(、)前回王者の」ぐらいを入れたいところ。
02-6-2
6月1日
以前にもメモした「パズルワーク」(夕刊/4面)の今回の出題は覆面算。
ウシ
×ウッテ
ウマカウ
時事問題に引っかけたつもりなんだろうが、あんまりよいできではない。
ウ=1はひと目で判る(これをちゃんと説明するのはむずかしい?)。判りにくいので、「ウシ」と「ウッテ」の順を逆にして考える。
1ッテ
× 1シ
1マカ1
最大の手がかりは、答えの1位が「1」になっていること。こうなる組み合わせは、「1と1」を除くと「9と9」と「3×7(7×3)」しかない。「テ」「シ」は別の数字なので「9と9」はナシ。
ひたすら愚鈍に当てはめていく。まずテ=3、シ=7と仮定する。1999/17≦118なので、ッ≦1。「1」はすでに使われているので、「0」しか入らない。107×13=1751で、「7」が重複してしまうので不可。ゆえにテ=7、シ=3が決定する。
1ッ7
× 13
1マカ1
ここでッに入る値を考える。ただし1999/13≦154なので、ッ≦4。さらに、ッ=1も不可。
ッ=0とすると、107×13=1391。3が重複するので不可。
ッ=2とすると、127×13=1651。条件を満たす。
ッ=3とすると、137×13=1781。7が重複するので不可。
ッ=4とすると、147×13=1911。1が重複するので不可。
したがって、もとの数式を満たす数値は、以下の組み合わせに限定される。
127
× 13
1651
02-6-3
6月2日
朝刊/12面から。
日本語熱の高まりに対応して八重洲ブックセンター本店では、1か月ほど前から約30種類の日本語本を並べたコーナーを設けている。ブームの皮切りと見られているのは『声に出して読みたい日本語』(齋藤孝/草思社)。8か月で110万部売れたとか。
種類が豊富なのが、語源を紹介する新刊。『明治生まれの日本語』(飛田良分/淡交社)、『漢語の語源ものがたり』(諏訪原研/平凡社新書)、『ことわざの知恵』(岩波新書辞典編集部編/岩波新書)、『日本語語源の楽しみ』(岩淵悦太郎/グラフ社)など……どれも知りません。ほぼ全国的に書店のベスト5に入っているのが、『常識として知っておきたい日本語』(柴田武/幻冬舎)。担当編集者の「本当は日本語が怪しい若い世代にと思ったのですが、実際は大半の読者は中高年」というコメントが紹介されている。そりゃそうでしょ。日本語が多少怪しくたって日常生活には困らない。若いモンはこんなもの読まないって。このほか、『この国のことば』(半藤一利/平凡社)、『京のことのは』(吉岡幸雄・槇野修構成と文/幻冬舎)などなど。これだけまとまって語源関係の本が売れるのは善いことなのか悪いことなのか。
過去にも売れた日本語本としてあげられている『日本語練習帳』(大野晋/岩波新書)は、180万部のベストセラーなんだそうな。編集長の坂巻克巳さんは「今は状況が違う。パソコンや携帯で絵文字や記号化文字が使われ、激変するコミュニケーションに直面している」と指摘している。これもどうだかなぁ。パソコンや携帯を介したメールの普及によって表現のバリエーションが増えたのは事実だろう。しかし、そういった新しい表現形式を好む層と「文章読本」の読者層はかなりズレているのではないか。
11面には『日本語語源の楽しみ』の広告が載っている。「早くも三刷の第一巻に続き待望の第二巻発売!」なんだそうな。これって、20年も前に毎日新聞社から刊行されたものの焼き直しじゃないの?
02-6-4
6月8日 仕事のゲラから。
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蓋碗を急須代わりにいれたり、磁器の大ぶりの急須で紅茶をいれるのは、いずれも茶器をあらかじめ温めて茶葉の上からお湯を注ぐだけですから、比較的簡単です。
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「片たり」なんだけど、これを修正するのはむずかしい。
それは別として、「いずれも」はヘン。「いずれも」は通常3つ以上に使うはず。2つの場合は「どちらも」。散々悩んで、次のようにした。
蓋碗を急須代わりにいれるのも、磁器の大ぶりの急須で紅茶をいれるのも、茶器をあらかじめ温めて茶葉の上からお湯を注ぐだけですから、比較的簡単です。
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ほかの発酵茶のように、揉捻することにより、発酵を促すことをせず、天日か室内で干して茶葉をしおれさせて作られます。
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典型的な「ように+否定形」。まず「のように」を「と違い」にする。もうひとつ考えなければならないのは、「揉捻することにより」と「発酵を促すことをせず」。この「こと」の連続はけっこう気になる。読点の使い方もかなりイヤ。意味のない受動態もヘン。次のようにしてみる。
ほかの発酵茶と違い、揉捻によって発酵を促すことをせず、天日か室内で干して茶葉をしおれさせて作ります。
02-6-5
6月17日
朝刊/20面から。
サッカーのコラム中で「一丸になって」という表現が使われていた。書き手は前日本監督の岡田武史さんだから、根拠にするのは危険だけど。一般の慣用句は「一丸となる」。字面を眺めていると、「一丸になって」でもいい気がしてくる。
02-6-6
6月20日
朝刊/1面から。
慣用句の理解が低下していることを伝える文化庁の調査。とくに若年層の理解度が低い言葉として10例があげられている。
1)つとに2)けんもほろろ3)よんどころない4)言わずもがな5)ゆゆしき
6)とみに7)水ももらさぬ8)いたたまれない9)心もとない10)おもむろに
素朴な疑問。「とみに」「ゆゆしき」「とみに」あたりは慣用句なんだろうか。
自分でどの程度使うかを考えると、「とみに」「よんどころない」あたりは使うとしたらギャグだろうな。ほかでは「けんもほろろ」「水ももらさぬ」あたりは慣用句として手垢がつきすぎているようでイヤ(この「手垢がつく」も相当陳腐な慣用句やな)。
【9月】
02-9-1
9月16日
朝刊/20面から。
家庭欄に週1回、五木寛之が「みみずくの夜メール」というエッセイを連載している。
以前、小説の中で「老人が、どっこしょ、といってたちあがった」と書いたら、読者から長文の手紙がきた。「どっこいしょ」は座るときの掛け声(?)で、立ち上がるときは古来「よっこらしょ」であるとか。
「重箱の隅(すみ)をつっつくような、と書いて叱(しか)られた」こともあるとか。正しくは「重箱の隅をほじくる」であり云々と、便箋10数枚にわたっていたとか。当然五木氏もそんなことは承知で、「弾力的応用も許されるのではないか」と考えて使った弁明する。氏が子供の頃には「重箱の隅を楊枝(ようじ)の先でほじくるような」と言っていたそうな。こんなことを書くと、それを言うなら「爪楊枝(つまようじ)の先」である、とお叱りを受けるかも……というのがオチだった。
02-9-2
9月16日
宮地は、水着キャンペーンモデル出身なだけに健康的で、ヒロインを明るく演じている。(朝刊/40面)
NHKの新しい連続ドラマの紹介記事中にあった一文。問題は「出身なだけに」。「出身」は名詞だから「な」は不要だろう。「出身だけに」にすれば問題がないかというと、まだ異和感が残る。個人的な語感では、この場合なら「出身だけあって」のほうがマシだが、まだぎこちない。読点の位置は「健康的で」の前のほうがいい気もする。いっそ素直に書きかえてみる。
水着キャンペーンモデル出身の宮地は健康的で、ヒロインを明るく演じている。
【10月】
02-10-1
10月8日
朝刊29面から。
宮崎健二(知りません)氏の「J-culture-NOW!」というコラムが、「少年マガジン」と「少年ジャンプ」の部数が再逆転したことを伝えている。ジャンプが部数を落とし、5年前にトップの座を譲ったのは24年ぶりことだったらしい。「ラブひな」「GTO」が相次いで終わり、代わりの人気作が出なかったことが原因らしい。ただ、ジャンプ側に喜びはない。最近の推定発行部数はジャンプが323万でマガジンが310万。5年前に比べて両誌とも100万部近く落としている。コミック(単行本)のほうは好調で、9月に出た「ONE PEACE」は史上最多の初版254万部だったとか。
結論がすごい。
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それにしても、だ。人気作は出るのに母体の雑誌は細っていくという、この構図、何かに似ていないか。そう、小説と文芸誌の関係だ。文芸誌の発行部数は今や数千からせいぜい数万部。少年マンガ誌にも少子化など逆風が強まっているけれど、まさかねえ。
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書き手も認めているけど、話のスケールがあまりにも違う。最低でも2桁(へたすりゃ3桁)違うんじゃ似ているわけがない。さらに言えば、末尾の「まさかねえ」が何を意味しているのかさっぱり判らない。
【続きは】
●朝日新聞から(2003年1~11月)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=982835352&owner_id=5019671