第1回で、「プロジェクトとはそもそも難しいものである」ということ、そして「プロジェクトをうまく回すには、プロジェクトの本質を知る必要がある」ということについて解説しました。今回は、プロジェクトの本質と、プロジェクトをうまく回すためのアプローチについて説明します。
プロジェクトの本質とは
プロジェクトとは、「やったことがないことを、何が起こるのか分からないのに計画して、予定通りのモノ(コト)を期限までに作り上げる(終らせる)こと」です。プロジェクトを立ち上げるときには、分かっていることが少ない状況下で、先行して結果を約束しなければなりません。プロジェクトの本質は、このやってみないと分からないという「不確実性」にあります。プロジェクトは終始、不確実性に支配されているのです。
逆に言えば、不確実性のない仕事はプロジェクトではありません。不確実性がなければ、プロジェクトとして立ち上げる価値が生まれないからです。「新しい技術」や「不安定な要求」「スケジュールの制約」などの不確実性の源泉となるものが、プロジェクトの価値を生み出します。そこに市場や顧客はお金を払うのです。
つまり、プロジェクトの成功は「いかに不確実性を乗りこなすか」にかかっていると言えます。プロジェクトマネジャーには、不確実性を嘆くのではなく、それを価値の源泉として捉え直し、前向きに乗りこなす姿勢が求められます。
不確実性という敵を知る
孫子の言葉に「彼れを知り己れを知れば、百戦殆うからず」という有名な言葉がありますが、この言葉には続きがあります。
彼れを知り己れを知らば、百戦殆うからず。 彼れを知らずして己れを知らば、一勝一負す。 彼れを知らず己れを知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。 |
プロジェクトにおける「彼れ」とは、不確実性です。プロジェクトを成功させるためには、不確実性という「彼れ」の姿を知る必要があります。では、プロジェクトにおける不確実性にはどのような特徴があるのでしょうか。その特徴をよく表したものが「不確実性コーン」と呼ばれるグラフです(図1)
不確実性コーンは、プロジェクトが進行するにつれて見積もりのバラツキがどのように推移していくのかを表しています。横軸はマイルストーンを、縦軸はそれぞれの時期に見積もったプロジェクト規模(工数・スケジュール)を示しています。このグラフを基にプロジェクトが持つ不確実性の特徴を見ていきましょう。
まず一つめの特徴となるのが「バラツキの幅」です。プロジェクトの初期には、見積もりは非常に高いバラツキを持っています。例えば「初期コンセプト」の段階では、最も大きい見積もりで4倍、最も少ない見積もりで0.25倍となっています。つまり、16倍もの開きがあることになります。
二つめは「不確実性の減るタイミング」です。グラフを見ると、時間の経過とともに不確実性が自然に減っていくように見えます。しかし、実はそうではなく、不確実性は各フェイズで意思決定が行なわれることにで小さくなります。製品コンセプトや仕様が明らかになるコミットメントを得ることで、不確実性は小さくなるのです。逆にいえば、意思決定をしなければ、大きな不確実性を抱えたまま、プロジェクトが進んでしまうということになります。
三つめは「不確実性の減るペース」です。グラフではマイルストーンが等間隔で配置されているため、プロジェクトの後半(「ユーザーインタフェース設計完了」の段階)になってやっとバラツキが「0.8~1.25倍」へと縮まっているように見えます。しかし、実際のタイムスケール的には初期30パーセントの時点でここに到達します。このことから、プロジェクト初期に不確実性に対処することがいかに重要であるかが分かります。