LPでは持っているのだが、CDでは買いそびれたままになっていた武満の弦楽のためのレクイエム、地平線上のドーリア、ピアノと管弦楽のための弧の第1部、第2部が入った一枚をオークションで手に入れた。1600円ほどだったので、まあまあだと思う。
「弧」の第1部だけが岩城宏之の指揮で他は若杉弘の指揮でオケはいずれもが読売日本交響楽団。「弧」のソリストは作曲家の一柳慧氏で切れ味の鋭いピアノを聞かせているが、私は久しぶりにCDで聞く、弦楽のためのレクイエムと地平線上のドーリアをまず聞いた。 若い若杉弘の指揮はもう見事としか言いようがない。地平線上のドーリアなどは一種の室内楽であり、コントロールが効きすぎると面白くなくなる。ここには奏者たちの自発的に室内楽的な反応(感応と言ってもよい)がある。美しいなどというありきたりの表現を拒絶する厳しさと、艶やかさというか色っぽさというか対極に位置する世界が不思議に融合し、聞かせる…。 新しい録音をいくつも聞いた。小澤征爾による見事な録音も聞いたし外山雄三氏の録音、岩城宏之の1984年の武満の個展でのライブなど様々な録音を聞いてきた。しかしこの1966年の作曲直後になされた若杉の録音に聞く世界に達したものはなかった。 学生たちに聞かせるのはこのLPをAAC化したものをコンピューターに入れて持ち歩いていて、それをずっと使っていたのだが、これからはCDで大丈夫ということで、すこしLPのノイズからは解放される。しかし、今回聞き比べてみたのだが、復刻してCD化したものとLPと比べると音の艶やかさにはわずかにLPの方が良いように思った。LPも馬鹿には出来ない。良い状態のプレーヤーであればもっと美しい響きを聞かせていただろうに…。 減衰音の打楽器的な響きと対立する艶やかな弦による歌は、スル・ポンティチェロでも艶やかに聞こえるほどで、第1アンサンブルと第2アンサンブルの空間的な効果もよく出ている。小澤征爾の指揮はそのところが今ひとつなのだ。弦楽奏者の技量も読売日本交響楽団に比べると明らかに劣る。というよりも彼らはこの音楽をまだ消化出来ておらず、小澤征爾の指揮についていっているに過ぎないように思う。だから、若杉の指揮のような自発的で表情豊かな演奏になっていないのだと感じる。厳しさはよく出ているのだが、対極の艶やかさ、歌はここにはない。切れ味の鋭さは全体のテンポにも影響していて若杉が11分あまりで全曲を演奏したのに対して小澤は9分ちょっとで終わってしまう。間が切りつめられているように思うのだ。 弦楽のためのレクイエムもまたそうだ。このコブシの効いた歌い回しは「演歌」そのもののようにも思うが、不謹慎だろうか?そしてこれでないといけない。私はこの曲、この演奏を深く脳みそにすり込んでしまったようで、他のものは受け付けない体質となったようだ。 1966年の録音とあるが、この演奏を越えるものを私はまだ聞いていない。昔は技術が今のように高くなく…などとエラソーに言うのが恥ずかしくなる。この演奏にはそうした人の心の琴線にふれる、あるいは心の奥深くまで迫りくる何かがある。音楽に対する姿勢が、違っているのかもしれない。のんびり暮らしている私はこれを聞きながら反省しきりである。 さぁ、仕事をしよう!
by Schweizer_Musik
| 2006-12-07 07:53
| CD試聴記
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