セノフスキーが弾くベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲
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作曲者 : BEETHOVEN, Ludwig van 1770-1827 独
曲名  : ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61 (1806)
演奏者 : バール・セノフスキー(vn), ピエール・モントゥー指揮 ボストン交響楽団
CD番号 : West Hill Radio Archives/WHRA-6034

バール・セノフスキーは、アメリカのヴァイオリニストで、ガラミアン門下。1955年のエリザベト妃コンクールの覇者である。
録音はそう多くなく、今日では知らない人がほとんど。
しかし、なかなかの実力者(まっ、当たり前だけれど…)で、このベートーヴェンの協奏曲は、素晴らしい演奏である。共演がモントゥー指揮BSOというのも珍しいかも。
モントゥーは、ブラームスの協奏曲は正規録音もあり、多分得意にしていたとは思うけれど、ベートーヴェンはこれ1つしか私は知らない。大して知識の無い私であるから、知らないだけかもしれないが…。
このCDは11枚組のボックスで、1958年から1959年にかけてのライブ音源によっているのだけれど、その全てがステレオ録音であるというのも驚異的で、特に1959年の録音は、当時、録音技術が長歩の進歩を遂げていたことがわかるほど素晴らしいもので、マスタリングも大変よろしい。
そして演奏だが、そのいずれもが水準以上の良いモノばかりときているから、買い逃しては悔いが残ることだろう。
セノフスキーの演奏は、やや細身の音だけれど、ノーブルな解釈で曲の素晴らしさを余すことなく表現し尽くしている。ボウイングは実に正確で、音程もこれが本当に実演?と聞きたくなるほど素晴らしい。
モントゥーの指揮するオーケストラもまた素晴らしい。
最近の録音を聞きつけている人には、このモントゥーの演奏は、多分ノンビリしすぎのように感じるのではないか?時間もなにもかも大らかな時代、ピンと張った緊張感を強いる演奏ではなく、この晩年のモントゥーの演奏には、どこにも力が入っていない、無理をしているところが皆無なのだ。だからこそ大らかに音楽が楽しめる。と言って、アンサンブルが緩いのとは全く違う。水も漏らさないアンサンブルでそれが出来ているところに、モントゥーの卓越した芸風があるのだと思うのだが、若い人たちにはどうだろうなぁ〜。
このボックス、曲によってはトラックが切って無くて、少し面倒な点が惜しい。すなわち、ドビュッシーの夜想曲、ヒンデミットの気高き幻想、ダンディのフランス山人の歌による交響曲など、楽章間の間がちゃんとあるのに、トラックが設定されていないため、私のように第3楽章をちょっと聞きたいとかいうわがままな人間にはちょっと使いづらい。一部にある細かくトラックを切りすぎたものも困りものだが…。
しかし、そんなことはどうでみ良くなるほど、演奏が良く、1959年の録音はライブだということを忘れてしまいそうになるほど良い。モントゥーが正規に録音を残さなかったレパートリーも多く収められている。
このベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲もだけれど、ドビュッシーの夜想曲のシレーヌや、ヒンデミットの「気高き幻想」、シュトラウスの「ドン・キホーテ」などは、ここでしか聞けないのでは?
共演者もレオン・フライシャーとのブラームスのピアノ協奏曲第1番など、あのジョージ・セルとの名盤との比較が気になるだろうし、十八番であったブラームスのヴァイオリン協奏曲ではレオニード・コーガンとのものの他、アイザック・スターンとのものも収められている。更にルドルフ・ゼルキンともメンデルスゾーンの協奏作品など、当時の難しい契約のことを考えると、この組み合わせは奇跡のような気さえしてくる。
これはモントゥーが好きという人なら、持っていても良いだろう。
Apple Music、ナクソス、AMAZONでも買うこと無く聞くこともできる。便利な時代だ。

追記
11枚目のベートーヴェンの交響曲第5番と第6番、そしてフィデリオ序曲は、伊MEMORIESから出ているベートーヴェン交響曲全集(MR2215)と同じ録音で、両方ともSTEREOで、同一の原盤からの復刻のようである。

by Schweizer_Musik | 2020-08-04 05:05 | CD試聴記
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