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チャイコフスキーの大序曲「1812年」を合唱入りで聞く
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作曲者 : TCHAIKOVSKY, Pyotr Il'yich 1840-1893 露
曲名  : 大序曲「1812年」Op.49 (1880/合唱Ver)
演奏者 : アントニオ・パッパーノ指揮 ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団, 合唱団
CD番号 : EMI/0946 3 70065 2 8

この作品は、不幸な生い立ちを持っている。もともと開かれる予定の産業博覧会のためにニコライ・ルービンシュタインが依頼したもので、最初、出版社経由での依頼だったが、「自分自身が感動しないであろう作品に手を付けることはできない」と断ったものの、ニコライ・ルービンシュタイン自身からの直の手紙での依頼に重い腰をあげて作曲したものだった。
作曲中も「序曲はおそらく騒々しいものになる。私は特に愛情を持って書いたつもりはない」と弟アナトリーへの手紙に書いているほどで、出版社にも「良い作品にはならないだろう」とまで書いている。11月7日に作曲を終えているが、1881年春、その博覧会は開かれず、更に依頼主のニコライ・ルービンシュタインが3月23日に亡くなって、この作品は宙にういてしまう。
結局、初演される前に、スコアなどが出版されるという、珍事まで起きたこの作品は、1882年8月にモスクワで初演された。ただ、初演の批評は散々で、凡作であると片付けられた。その後も何度か演奏されているが、評判はあまりバッとしなかった。その点で、作曲者が出版社に宛てた「良い作品にはならないだろう」という予感は当たった。
しかし、作曲から七年、転機が訪れる。
曲に改訂が加えられ、作曲者自身の指揮によって、サンクトペテルブルクにおける演奏会でこの曲は大成功を収めたのだった。作曲者自身が日記に「満足!」と書いている。
以来、あちこちでこの曲が取り上げられ、名曲の仲間入りを果たしたのだった。
原作には大砲をここで放てという指示があったり(実際に大砲が使われることもある)、任意ではあるがバンダを使うこともある。ただ、合唱を使うという指示は原作にはないのだけれど、冒頭のヴィオラとチェロで演奏されるロシア正教会の聖歌「神よ汝の民を救い」が、合唱に置き換えて演奏されることが時々行われる。
曲はいつものチャイコフスキーのスタイルで、少々分かりにくいが、長い序奏(二部に分かれている)があり、展開部を持たないソナタ形式による主部が続く。その点、同じ頃に作曲された弦楽セレナードの第1楽章に近い構造を持っていると言える。その序奏のメロディーが再び戻ってくる点も同じである。
さて、第2主題の後、ロシア民謡風の小さなエピソードが挿入される(207小節〜)がモスクワの西部、ボロジノの民謡だとかで、その部分も歌われることがある。(これは二度出てくる)
この後、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が崩壊し、ロシア正教会の聖歌が壮大に再現(合唱版はここで大合唱で歌い上げる)することになる。
戦争を描くことに、チャイコフスキーは躊躇したのかも知れない。また、政治に関わることを躊躇したのかもしれないが、結局作曲者の予想を裏切り、この曲はチャイコフスキーの作品の中でも特に人気のある作品となった。
アントニオ・パッパーノはイギリス出身のイタリア系の指揮者。あちらこちらの歌劇場でコレペティトールを務めて、力をつけて指揮者としてデビューした。昨今珍しい影議場のたたき上げ指揮者なのだ。
オーケストラは1908年創設で、1584年創設の音楽院に付属している。多分音楽院としては、世界で最も古い学校だろう。
で、この演奏。ロシアの音楽はロシア人に限るなどという本場主義とでもいうのか、そうしたことがただの幻想に過ぎないと思い知らせてくれる名演である。オケの響きも重心の低い、見事な安定度で、この軽薄になりやすい描写音楽を、しっかりとした音楽作品として再現している。
昔のフリッツ・ライナーなどのような隅々までビシッと決めたような息苦しさとは無縁の、伸び伸びとしたフレージングもまた魅力的だ。収録された他の作品も素晴らしい名演!!一聴をお薦めしたい。

抄録曲は以下の通り。

1. 幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ "Francesca da Rimini"」Op.32 (1876)
2. 幻想序曲「ロミオとジュリエット」TH.42 (1869/70. 80改訂)
3. ワルツ "Valse" (1877-78/歌劇「エフゲニ・オネーギン」Op.24 第2幕 第1場より)
4. ポロネーズ "Polonaise" ((1877-78/歌劇「エフゲニ・オネーギン」Op.24 第3幕)
5. 大序曲「1812年」Op.49 (1880/合唱Ver)



by Schweizer_Musik | 2020-08-10 10:47 | CD試聴記
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