音楽作品分析 -01. ブラームスの2つのラプソディー Op.79 (1879) 第1番
作曲者 : BRAHMS, Johannes 1833-1897 独
曲名  : 2つのラプソディー Op.79 (1879) 第1番 ロ短調

最近、鑑賞ノートみたいなことばかり書いているので、ちょっと本職の方の内容も出してみようかと、かつて勉強した曲をいくつか、分析レポートみたいなことをやってみようと思う。ベートーヴェンのソナタで分析したことなどをちょっと書いたら、KAYOさんが書いてくださったのもあるが、他にも意外と反応があったので、それではと思った次第。
近現代の作品ばかり普段楽譜で相手にしているので、ここでは比較的古典的な作品をとりあげてみようと思う。作曲を学ぶ者は、そうした作品の勉強をおろそかにして、技巧に走ることは厳に戒めるべきことである。モーツァルトを馬鹿にするような者に、音楽を語る資格はないのだ。



作曲の経緯などについてはこちらを参照していただきたい。

この作品はもともとカプリチオとして構想されている。確かに冒頭からの大胆な転調は当時としても極めて大胆で、聞く者を驚かせたに違いないし、それをこれほど自然に聞かせるブラームスの手腕の冴えにただただ脱帽するのみである。
構成はロンド・ソナタ形式で書かれている。主題は3つあり第1主題は以下の通り。
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これがそのままニ短調に移ってくり返され、主題の確保がなされるのだが、その中でイ短調への転調が加えられ、更にへ短調、嬰ヘ短調と移りゆく。それがたった10小節ほどの間(ロ短調の部分を含む!!)で行われるのである。まさに魔法!!
ロ短調の属調にあたる嬰ヘ短調のファンタジックな響きの上に落ち着いた後、ニ長調(ロ短調の並行調)で主題のエコーが響く中、第2主題の提示へと移っていく。
第2主題は並行調の同主調となるニ短調で提示される。
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第1主題のFis - Cis - Hの反行型が第2主題となっていて、全く性格は対照的なのだが、実は同じ素材から作品は作られているのである。第1主題は下降音型が中心で、フォルテでゴツゴツしていて、エネルギッシュ。一方で第2主題は上昇音型を中心になめらかで、囁くように歌う。ドルチェ、感情を込めて歌う。この対比が、背景となる音を同じものから作ることで統一感を生んでいるのである。
ただ、これはここでは全く展開されず、すぐに第1主題の動機が戻ってくる。大きく発展するのは展開部までかくしておくのである。第1主題は変ロ長調にはじまり、変ト長調、変ホ短調、変ロ短調へと次々に転調をくり返し、変ニ長調で一度落ち着くかに見えるとすかさず変ロ短調へと戻り、Ⅴ度上でスケールをかき鳴らし、続いてⅥ度上でかき鳴らす。これがロ短調のⅤ度と読み替えて第1主題へと戻るのだ。
第1主題の再現がロンド・ソナタ形式の特徴で、これの終わりで第2主題のエコーが優しく響くと提示部が終わる。
ロンドにおけるCの部分にあたるのがロンド・ソナタ形式の展開部である。
ここでは、第2主題がロ長調で出現する。
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メロディーに属音の保続音が高音に出現しているが、これは「鐘の音」ではないだろうか?アルペジオのような左手の伴奏部には対旋律が隠され、一聴するとショパン風のノクターンのような部分で、調性も落ち着いた部分(展開部の場所ではあるが、立体的な構造を持っていて、主要動機の発展も実に細かい操作が行われているのである。
それでも、最初の部分などの方がずっと展開部らしく、この部分はその全く逆に聞こえるあたりがユニークだ。ブラームスが一筋縄でいかない所以である。
これが終わると、第1主題と第2主題が型どおり再現され、展開部で高音に鳴り響いた「鐘の音」が低音に鳴り響き(主音)コーダとなる。

写真はリギ登山鉄道の車窓に広がるルツェルン湖の風景。
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by Schweizer_Musik | 2010-10-17 15:10 | 音楽作品分析
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