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北米の古代先住民「ブラックフット族」の起源は1万8000年前の氷河時代まで遡ることが判明

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 北米の先住民族「ブラックフット族」に関する新たなDNA研究によって、彼らの系譜は1万8000年前にさかのぼる最終氷河期に生きていた人々にまでさかのぼることが明らかとなった。

 これは、現在アメリカモンタナ州の大平原とカナダ・アルバータ州南部に住む先住民の起源が、氷河期までさかのぼることを意味する。

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 実際にブラックフット族である3人が率いる研究チームが、自らの部族の遺伝的な歴史を調査した新たな研究論文は、今月始めに『 Science Advances』誌(2024年4月3日付)に掲載された。

先住民族「ブラックフット族」とは?

 ブラックフット族とは北アメリカ大陸の、カイナイ族、シクシカ族、ピーカン族から成る3つの先住民族の総称だ。

 カナダにおいてはイヌイット、メティと並んで先住民としての権利が確認されている主要な先住民族グループの一つである。

 彼らは歴史的にカナダ南部から米国北部にかけてバイソンを狩る遊牧民やマス漁師の集団だった。

 19世紀半ばに米国とカナダの国境が引かれたことで当時の彼らの領土が分断され、両国政府によって居留地への定住を余儀なくされた。

 彼らはこうした同化政策に直面しながらも、両国からの支援をとりつけつつ、伝統的な言語や文化を守ってきた。

 現在はカナダのサスカチュワン州、アルバータ州、米国のモンタナ州がおもな居住地だ。

 居留地定住以来、ブラックフット族は自分たちの土地と水源の権利を自ら主張していかなくてはならなくなった。

 この地域に根ざした彼らの深い歴史を証明する考古学的な証拠や口頭伝承があるにもかかわらず、カナダ・米国に対して条約上の権利を確実にするため、先住民族としての自分たちのゲノム系統を科学的に示す証拠をさらに提供する必要に迫られたのだ。

 そこで、カナダのカイナイ族とモンタナ州のブラックフット族のメンバーが、米国の複数の大学の専門家と協力して、自分たちの遺伝子を自ら調査することになったのが今回の研究の発端だ。

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ポール・ケインがカナダ、サスカチュワン州ノース・サスカチュワン川沿いで描いた6人のブラックフット族の酋長 / image credit:public domain/wikimedia

DNA研究で1万8000年前の先住民と同じ血統であることが明らかに

 まず、ブラックフット族とヨーロッパ系アメリカ人との間で毛皮貿易が盛んだった1805年から1917年の7体の部族の遺骨から全ゲノム配列を決定するサンプルを採取し、炭素年代測定を行った。

 DNAの保存状態は必ずしも良くなかったが、すべての遺骨からミトコンドリアDNA情報、つまり母方から受け継がれた遺伝情報を抽出することができた。

 そして、現代の部族メンバー6人から同じようにサンプルを抽出した。

 これらの遺伝情報から、ブラックフット族の先祖と現代人はゲノムの大半を共有していることがわかり、生物学的な関係があることが明らかになった。

 遺伝子のこうした連続性は予想されていたことだったが、研究チームは、彼らがこれまで報告されている北南米の先住民族とは系統が異なることも発見した。

 統計モデルに基づくと、ブラックフット族が他の集団から枝分かれしたのは、およそ1万8000年前の更新世後期、最終氷河期のことで、単一の起源から複数の集団が広大なアメリカ大陸に広まった時期だと研究チームは考えている。

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1873年のブラックフット族酋長のイラスト photo by iStock

ゲノムの多様性を特定した有意義な研究

 本研究には参加していないテネシー大学ノックスビル校の遺伝人類学者、グラシエラ・カバナ氏によると、これまで未知だったこうしたゲノムの多様性を特定するのに加えて、その枠組みができたという点でもこの研究は重要だと言う。

これが先住民の声からはっきり示されたことは明らかです。実際に先住民メンバー自身が主導する共同研究はとても珍しいことなのですから

 イリノイ大学の遺伝人類学者で本研究の共著者のリパン・マルヒ氏は、ゲノム研究は、先住民族の観点からこうした技術を使いこなすことができる当該民族メンバー自身が行うか、その民族のパートナーが調査の実施と報告の方法を同等に管理できる協力体制を通じて実施されるべきだと語る。

 本研究は、もともとの領土におけるブラックフット族の永続性を記録に残す「ブラックフット族の起源プログラム」から生まれたものだ。

 アリゾナ大学の人類学者で共著者のマリア・ゼデーニョ氏は語る。「ゲノム研究は、このプロジェクトの一部にすぎませんが、部族の長たち自らがその構想と進展のあらゆる段階を見直したのです」

References:Genomic analyses correspond with deep persistence of peoples of Blackfoot Confederacy from glacial times / Ancient Indigenous lineage of Blackfoot Confederacy goes back 18,000 years to last ice age, DNA reveals | Live Science / written by konohazuku / edited by / parumo

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この記事へのコメント、13件

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  1. 彼らも先祖をたどって行けばどこかで我々日本人の先祖ともつながってるはずなんだよな

    1. >>3
      それを言い出すと「人類みな兄弟」にまでたどり着きそうだが…

    2. >>3
      >>5
      4万年ほど遡ればつながりはあるだろうけど、そうなると人類の伝播の話になるな。
      記事内のブラックフット族に見つかった1万8千年前の痕跡もなかなか古いが…

      過去記事ではこれが参考になるかな?
      『人類が2万年以上前に北米に到達していた痕跡を示す足跡を発見。従来の説が覆る可能性』
      https://karapaia.com/archives/52326251.html

    3. >>3

      ざっくりいうとアフリカのほぼ全土がネグロイドの伝統的な土地で、中東地域とウラル山脈より西のヨーロッパがコーカソイドの伝統的な先住の土地なら、モンゴロイドは基本的に南北アメリカ大陸、ユーラシア大陸内では北はウラル山脈の東側、南はインドあたりを境に東側から、北極圏はグリーンランドなどが伝統的な先住地という意味ではそうですね

      人種というものを信じるのなら(人種には様々な解釈はありますが)現在の形の国家が誕生する以前の人類の初期の段階で、モンゴロイドが一番最初に最も広い地域に広がって生活していたのではないでしょうか

      ちなみにユーラシア大陸の中で、モンゴロイドとコーカソイドを分ける地域が、ウラル山脈や世界の屋根と言われるヒマラヤ山脈地帯を中心とする広大な山岳地帯を境にしてるのは偶然ではないでしょうね
      海から渡る方法もありますが、一部はその険しい山々を超えてきたのか我々の祖先の一部だと思うとロマンがあります

  2. 北米の先住民はアジア系と思ってたけど、写真見るとアジアと言っても蒙古~ロシアあたりの人たちに似てるな

  3. 以前は、インディアンの研究者など、研究者が自身のルーツをさかのぼる研究をすると叩かれるものだったが…
    きちんと承認される研究(検査技術の進歩も)であったのだろう
    それでも自画自尊にならないよう本人も周りも気を付けないといけないことではある

    もう一つ
    古代琉球人の遺骨を日本人研究者が盗掘して色々調査をしてきた悪い歴史がある
    (一部、返却したようだが)
    むしろ、いま沖縄の研究者が自身のルーツ(遺伝分布での立ち位置を)調査発表する時期ではないかと思ったのだが…
    ここ10年位DNA分析はまた進んだ、環境DNAとかもそれ
    その技術で見直してもいいのではないか

  4. 日本人のDNAの話題になるとなにかと父方の方の話になりますが、この分析はミトコンドリアでされたんですね

    彼らがイヌイットとも近いならシベリアの北方民族と遺伝子の系統的に似てると思いますが、イヌイットやユーラシア大陸側の北方民族の方のほうが若干目が柔らかい印象で、南北アメリカの先住民は、より奥目で眼光鋭い印象です

    内陸でバイソンを追いかけて狩りをして精力の強い動物の肉を中心に食べてるのと、北の沿岸部でじっくりわなを仕掛けてアザラシや魚介類を食べてるのとで、性格の適性の違いから選択的に残ってくる子孫の性質が違ってくるとか、食べ物で何世代にわたって色々なホルモンの分泌が変わって顔つきもかわってくるとかなのかな(笑)

    1. >>9
      父方となるとインディアン(あえてこの呼び方をします)の中には白人男性と半ば強制的に結婚させられた女性も多くいたので
      その辺りがはっきりしてしまうと同じ民族間の中でも差別に繋がってしまうのではないかなと

      日本人にはわかりにくい感覚かも知れませんが
      侵略者の血が混じっていることが分かって屈辱に感じる人もいるはずです

      1. >>14

        ミトコンドリアのほうが安定した状態で検出したから分析に使ったとあるので、母方の方を調べたのは今回はただそれだけの理由ではないかと思います
        ブラックフット族の研究者が関わってるのでご本人達も父方も知りえるなら知りたいと思うと思いますし、同族間での差別は調査の結果で起こることは無いと思います

        ただ14でお書きになってる事と関連しますが、アメリカの科学雑誌American Journal of Human Geneticsに公表されたアメリカの黒人奴隷の遺伝子の研究結果では、歴史的記録でアフリカからアメリカ大陸に連れてこられた奴隷1070万人のうち60%が男性ですが、米国で奴隷にされた女性は男性奴隷と比べ今日の遺伝子プールに1.5倍多く寄与したとの数字をはじき出した。とあります

        つまりヨーロッパ系入植者による奴隷への性暴力の実態が科学的調査によって改めて明らかになったいう研究結果の帰結です

        先住民に関してはヨーロッパから来た人々が、土地を守ろうとする先住民と戦っていた歴史もあるので、先住民女性に対しても黒人女性にしたような悲惨な事があったということもあると思います(あと、ごめんなさい(汗)間違ってマイナスボタン押してしまいました・・・)

        1. >>16
          ヨーロッパに侵略したフン族とか、ローマに侵入したゲルマン民族の話します?
          中国も殷周革命以後ひたすら北方異民族の侵入との戦いの歴史だし、黒人奴隷とかアメリカ大陸への列強諸国の話だけ見ちゃうのは、歴史をあまりよく知らないのかな?という印象ですね。
          マケドニアを侵略したケルト人は、小アジアをも支配しましたけどゲルマン民族に押されてフランスやスペインに移動し、ローマに征服され、被支配層として俗ラテン語を話すようになり、フランク人に吸収されてフランス人になって行ったんですけどね。
          未だに「ケルト系の俺はゲルマンが許せねえ…」とか言ってたらギャグですわ。

    2. >>9
      イヌイット(呼び方はこれでごめん)には旅人に妻を貸し出す習慣があり
      インディアンは割と簡単に結婚離婚を重ねるし(我々からすれば)
      また孤独に過ごす人がいればイヌイット同様に妻や娘を貸し出しましたよ
      またかなり昔にバイキングが亀の背中に乗ってきた(米大陸に上陸した)時期もありましたよ
      彼らは外から血を入れることに積極的な人たちです

      1. >>15

        シベリアにも同じような習慣の北方民族はいますが、そこにいた少数民族の数に対して、ロシアからの入植人口は膨大な数でしたが、様々なシベリアの北方少数民族の父方の遺伝子調査の結果は公表されてますので、15でお書きになってる夫婦交換の風習があっても、もし自ら妻を交換する程度で、ヨーロッパ人が単に移住してきたというだけであれば(もし一部の荒くれ者が残虐行為をしたとしても)、大半の民族の中の父親の遺伝子の比率はそこまで大きく影響しないということはわかると思います
        実際シベリアの北方民族は純粋なアジアっぽい見た目の人もわりと多いですし、ある一部の少数民族は民族内の遺伝子(大陸アジア系遺伝子)がかなり偏ってると言えるほど濃いです

        でももしも北米などの先住民の父方に白人の割合がかなり多いとなれば、上に14の方の返信にも書きましたが、それはやはり風習などではなく何か大規模に残酷なことが起こったということになるでしょうね・・・

  5. ともあれ、自分たちのルーツを探る旅がこうして学術的な成果に結びつくことは、誰にとっても喜ばれることだと思う
    いろんな圧力もあったと思うけど、真実を求める力がこの偉業を達成するのに役立ったのだと思う

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