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逃げ場のないブラックホールから情報が漏れている可能性、最新研究がパラドックスに迫る

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巨大なブラックホールから噴出する重力波と呼ばれる時空の波紋を検出する宇宙船のイラスト
image credit:ESA

 ブラックホールはすべてを飲み込むだけではないらしい。飲み込まれた物質の情報が「量子もつれ」を通じて外部に伝わる可能性が、最新の研究で示された。

 この驚きの発見は、1970年代にスティーブン・ホーキング博士が提唱した「ホーキング放射」によって浮かび上がり、長年にわたり多くの物理学者を悩ませてきた「ブラックホール情報パラドックス」を解決に導くカギとなるかもしれない。

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 ブラックホール内部と外部を結ぶ量子の不思議なつながりや、重力波に刻まれる微妙な痕跡が、宇宙最大の謎を解明する新たな道筋を示しつつあるようだ。

ブラックホールは「宇宙の監獄」ではない?

 ブラックホールは、重力が非常に強く、光すら脱出できない領域だ。吸い込まれると逃れることができない、例えるなら「宇宙の監獄」のようなものと考えられていた。

 しかし、1976年にスティーブン・ホーキング博士は、「ブラックホールはただ吸い込むだけの真っ暗な存在ではない」と発表。

 ブラックホールは「ホーキング放射」と呼ばれる微弱な放射を行い、長い時間をかけてエネルギーを失い、最終的には蒸発するという理論を唱えた。

 ホーキング放射は、ブラックホールの境界で生じる量子効果によって発生するという。

 ブラックホール周辺では、粒子が対になって現れることがあるが、このうち一方の粒子がブラックホールの外に出ていき、もう一方が吸い込まれることで、エネルギーが外に放射される。

 この放射により、ブラックホールは徐々にエネルギーを失い、最終的には消えてしまい蒸発するという理論がホーキング放射だ。

 だがこれにより、ブラックホールに関する新たな謎が浮上した。

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Photo by:iStock

ホーキング放射がもたらした「ブラックホール情報パラドックス」

 ブラックホールの「情報」とは、それが吸い込んだ物質やエネルギーに関するすべての特徴のことだ。

 それは吸い込まれた星の大きさ、組成、動きなどで、通常、物理法則では情報が完全に消失することはない。

 しかし、ブラックホールは外部から観測できる特徴が「質量」「スピン(回転)」「電荷」の3つだけに限定されるため、それ以外の情報がどこに行くのか分からない。

 ホーキング放射によってブラックホールが蒸発すると、吸い込まれた物質の情報も完全に失われるはずだ。

 しかし、量子力学の基本原則では「情報は消失しない」とされている。この矛盾は「ブラックホール情報パラドックス」と呼ばれ、長年にわたって科学者たちを悩ませてきた。

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Photo by:iStock

ブラックホールの情報は量子もつれで漏れている可能性

 だが最新の研究では、「ブラックホール内部と外部が量子もつれを通じてつながっている」という仮説が提唱された。

 量子もつれとは、2つの粒子が強くつながっていて、1つの粒子の状態を知ると、もう1つの粒子の状態もすぐに分かる現象のことだ。たとえ2つの粒子が遠く離れていても、この不思議なつながりは続く。

 量子もつれを通じてつながるというこの現象は「Nonviolent Nonlocality(非暴力的非局地性: 衝撃を伴わない遠隔的つながり)」と呼ばれ、情報がエネルギー爆発や劇的な現象を伴わずに外部に漏れ出している可能性を示している。

 この仮説によれば、ブラックホール内部の情報は完全に消えることなく、外部に微妙な痕跡を残しているという。

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Photo by:iStock

重力波に刻まれるブラックホールの痕跡

 さらに注目されているのが、ブラックホールが合体することによって発生する「重力波」だ。

 重力波は宇宙空間に広がる時空のゆがみが波のように伝わる現象で、アインシュタインの一般相対性理論によって予測された。

 重力波には、ブラックホール内部の情報が反映された微妙な変動が含まれている可能性があるという。

 これを検出することで、情報パラドックスを解明する手がかりが得られるかもしれない。

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 現状では、LIGOVirgoなどの重力波観測装置ではこの微細な変動を捉えるには感度が不十分だが、次世代の観測装置では詳細なデータを得られる可能性があるという。

 ブラックホールから情報が漏れている可能性は、量子力学と一般相対性理論という物理学の2つの柱を統合するカギとなるかもしれない。

 この発見は、私たちが宇宙について持つ常識を覆すだけでなく、新たな理論の構築へとつながる可能性がある。

 科学者たちの挑戦はまだ始まったばかりだが、ブラックホールの謎が解き明かされる日はそう遠くないかもしれない。

 この査読前の研究は『arXiv』誌(2024年11月20日付)に掲載された。

References: Black hole paradox that stumped Stephen Hawking may have a solution, new paper claims | Live Science / Signals From Black Holes May Be Non-Random – Information Could Be Getting Out | IFLScience

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この記事へのコメント、8件

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  1. ブラックホールのセキュリティホール

  2. うーん コレ ホーキング放射が実際に有るって証明になるのかな?
    ならホーキング博士が言ってたようにブラックホールが蒸発するって事になるよな。

    ならこの宇宙の最後は熱的死になるのだろーか?
    まあ10のXXX条で無量大数より多い数になりそうだけどw

    1. ある日本の科学者の意見では、最大の超大質量BHが蒸発するのは10の100乗年くらい未来らしい。

  3. この手のブラックホールと情報の話、
    科学動画でちょくちょく触れているが
    まじでよく分からないもののひとつ
    情報をまるで「物質」のように話してるから混乱する
    いやそうなんだろうか

  4. 技術的に可能かは置いといて絵を描いた紙を燃やした灰の中から1つ残らず原子を集めて火から放射される煙と熱の正確な数値を測定したら復元できる。
    BHの性質はBHに落下した物質とは無関係に決まる。すなわちブラックホールに落下した物体の情報は失われるとされる。

    1. 「情報」というワードがオレら素人衆の理解を妨げているというか。
      というか実はここでいう情報ってあるタイミングで消失するんじゃないかと。
      例えばこの例で言うと「絵を描いた紙を燃やしたときの火から放射される煙と熱の正確な数値を測定しとけば、どんな灰からでも燃やす前に復元できる」のほうが、なんか納得しやすいよね。

      1. ここでいう情報は恐らくドジッター宇宙とかいう
        BH境界面に記されるとされてる平面情報と思われる
        そしてそのタイミングとはホーキング放射によるBH縮小で失われるその平面データ
        と考えるべきなのかもしれない
        記憶容量が縮むから書いてあるデータも消えるねって話だと思う

        それとは別に波動関数の重ね合わせの保存が失われるという意味の
        「情報」もあるけど、その場合はベル状態の曖昧さを指すのかな
        でももつれてるものから引き出すって書いてあるからこっちは違うと思う

        ブラックホールが物質を生み出すというのは
        ホーキング放射のこと指してたんだね、すっかり忘れていた

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