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人間の脳はなぜこれほど大きくなったのか?その答えは腸にあるかもしれない

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Photo by:iStock

 人間は体の比率に対して大きな脳を持っており、傑出した知能を獲得した。もしかしたら、その進化の秘密はお腹の中に潜む「腸内細菌」にあるのかもしれない。

 好む好まないにかかわらず、我々は膨大な数の微生物と共生しているが、中でもその数、種類ともに豊富なのが腸内細菌で、ヒトに定着している最近の90%は消化管に生息し、腸内細菌叢と呼ばれている。

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 人間の豊富で豊かな腸内細菌叢が、体内で代謝エネルギーの生産を促進し、脳の燃料源を作っていた可能性があることが、米ノースウェスタン大学の研究者の実験により明らかとなった。

脳に使用される膨大なエネルギー源として腸内細菌叢に着目

 脳は体の中で最大のエネルギー消費器官の1つだ。そのため大きな脳を持つ動物は、その成長や機能を支えるために、その分多くのエネルギーを必要とする。

 では、そのような大きなエネルギーの需要を、脳をどんどん大きく進化させてきた私たちの祖先はどのようにしてまかなったのだろうか? そのためにどのような生物学的な変化が起きていたのだろう?

 そこで、米ノースウェスタン大学の研究チームは、お腹の中に潜む細菌たちに注目した。

 皮膚から体の内部にいたるまで、我々の体には、約100兆個、重さにして1~2kgの細菌が常駐している。中でもその数、種類共に突出しているのがお腹の中、消化器官だ。

 ヒトに定着している細菌の実に90%は消化器官に存在し、「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」と呼ばれている。腸内フローラと呼ばれることもある。

 ヒトの体を形成する細胞は約60兆個なので、それをはるかに上回る自分のものではない細胞が腸内に潜んでいることになる。

 「腸内細菌叢」の細菌は、食べたものを分解し、そこからエネルギーを取り出すプロセスを手助けしている。

 実際、腸内細菌が変化すると、体の代謝も変わり、体重が増えたり、インスリン抵抗性ができたりすることがある。

 これについて、ノースウェスタン大学の人類学者キャサリン・アマト氏は、プレスリリースでこう説明する。

大腸に生息する腸内細菌叢は、人体に影響する化合物を作ることができます。例えば代謝を変化させ、インスリン抵抗性や体重増加を招くこともあります(アマト氏)

 ならば、大昔私たちの祖先の腸内細菌叢に起きた変化が、増加する脳のエネルギー需要を補っていたとは考えられないだろうか?

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Credit: Annelise Capossela

人間の腸内細菌でマウスのエネルギー生成が増加

 それを確かめるために行われた今回の実験では、マウスに人間を含む”サル”の腸内細菌叢を移植し、その体に起きた変化を観察した。

 細菌のドナーとなったのは、大きな脳を持つ「人間」と「リスザル」、脳が小さな「マカク」の3種の霊長類だ。

 細菌の移植後、マウスの体重や脂肪・空腹時の血糖値・肝機能といった生理学的な変化が計測されたほか、腸内細菌叢の種類やそれらが作り出す化合物なども分析された。

 すると面白いことが判明した。脳が大きなサルから腸内細菌を移植されたマウスは、より多くのエネルギーを生成・消費するようになった。

 その反対に、小さな脳のサルから移植されたマウスは、エネルギーを燃焼するよりむしろ脂肪として蓄えるようになったのである。

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マウスに霊長類の腸内細菌を移植したところ、エネルギーの代謝に変化が起きることが突き止められた。この事実が大きな脳の進化に関係している可能性がある Photo by:iStock

腸内細菌叢の変化が脳の進化をうながした可能性

 この実験結果は、異種から腸内細菌を移植された動物に、生物学的な変化が起きることを示した初めてのものだ。

 人間とリスザルは進化的にはそれほど近いわけではない。

 それでもその腸内細菌を移植されたマウスの特徴が似ていたという事実は、大きな脳という”両サル”の共通点は腸内細菌叢が似ているがゆえの特徴であるらしいことをうかがわせる。

この発見は、人間とリスザルがそれぞれ独自に大きな脳を進化させた際、腸内細菌叢を同じように変化させて必要なエネルギーを賄っただろうことを示唆しています(アマト氏)

 すなわち、脳の進化の背後に腸内細菌叢の存在があったとする仮説を裏付けるものと考えられるのだ。

 アマト氏は今後、脳の大きさが違うさまざまなサルたちから腸内細菌を集めて、同じような実験を続けたいとのこと。

 また、そうした腸内細菌が作り出す化合物を分析し、それらが宿主の免疫や行動などにどう影響するのかも究明したいそうだ。

この研究は『Microbial Genomics』(2024年12月2日)に掲載された。

References: How did human brains get so big? The answer c | EurekAlert! / The Hidden Fuel of Human Brains: How Gut Microbes Shaped Intelligence

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この記事へのコメント、11件

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  1.  とても興味深いですね。 で、思いつく疑問はヒト種もそうですけど他の動物の消化管の細菌にはいつ、どうやって感染(消化管に入ってくるという意味で)するのだろう?とシロートながら思うわけです。 少なくとも生まれてくるまではほぼ無菌状態だと思うのですが、そこからして間違ってるかもですけどね。 哺乳類なら乳首についている常在菌が入るのはわかりますが、消化管固有の細菌はどこから?とかね。 ヒト以外は親が胃から戻して食べさせる(鳥類に多いかな?)などがあるからそういう方法かなとか想像します。
     腸内細菌叢が体調にも影響したりという噂を聞くと影響との相関を知りたいな。 ともあれ、面白い記事でした。

  2. ゾウやキリンは草だけで骨格や筋肉をつくり 巨体を維持している 寿命も長い
    それが腸内細菌の働きなら納得

  3. こういう記事を見るとやっぱり腸活は大事よねってことで、腸内フローラ移植を受けてみたくなるなあ。
    自費でお高いから中々決心がつかないけれども……

  4. アマト氏、腸内細菌叢について何も説明してないw

    人に、より脳の大きな動物から細菌を入れたらどうだろう?
    象あるいは海豚とか
    前者は高エネルギーを出すかな?それともオナラが出るか
    後者は脳半球の使い方かたを変えるかも?生魚を好んで食べるようになるか

    細菌の分離培養が進めば何かを得られそうな実験だな

  5. 体毛のない陸上型の哺乳類って多くないしそのくせ冬眠はしないし
    母体がたまに命を落とすほど母親の胎内で育つ生き物も少ないだろうし
    人間てなんかの間違いというかバグみたいなところあるよな

  6. 物理的に長くなって細菌が多くなる草食獣のほうが賢くなりそうだけど、
    特定の種類がエネルギー生産性が高いとか、雑食であるが故の問題なのか、考えることは多そうよね

    1. 二足歩行による手の発達とか火による料理での栄養吸収の効率化とか発酵食品の活用とか、他にもいろいろ要因があるだろね。

      1. 自分も、人類特有の事情ってんなら、
        「火の使用が開始した時期と、人類の脳容積が急増しだした時期は一致している」
        って説のほうが、より納得できた。

        加熱調理によって今まで未消化だった栄養素も吸収できるようになり、
        咀嚼の所要時間も大幅に減って
        (野生の類人猿は1日何時間も植物をクッチャクッチャすることに費やしている)、
        他の活動へ向けられる時間の余裕ができた。
        屈強な顎とそれを支える強靭な筋肉はそこまで必要とされなくなり、
        頭部に占める脳の割合が上がった。

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