酒と涙のクリスマスケーキ。
貧困は、時に子どもの心を傷つける。わたしはそれを子ども時代にうんざりするほど味わって来た。昭和30年代にクリスマスプレゼントの慣習が日本に存在したか知らないし、記憶として残ってもいないが、唯一それらしい出来事を今になって思い出す。
泥酔しきった父が真っ赤な顔をして「とし坊、土産」と差し出した小さな白い箱の中身は、酒臭いイチゴのショートケーキだった。
わたしはそれが嬉しくてたまらず、涙を浮かべながらその甘さを味わった。後にも先にも父からの贈り物はそれだけだったが、酒と自分が流した涙のしょっぱさが入り混じったケーキの味を今でも忘れない。
父は非常に大人しく気の小さい人間だったので、何か行動に移す時は一杯引っ掛けて酒の力を借りないと何も出来なかった。
息子に贈り物をすることすら気恥ずかしい思いを抱いていたのだろう。酔えば必ずといってよいほど乱暴になり、暴力を奮ってわたしを傷つけたが、わたしは一度も父を嫌ったことがない。
但し、一緒に歩きたいとは思わなかった。この人が自分の父親だと思われたくなかったのであるが、わたしが父を愛していた事は、詩集「天国の地図」の中に書いてある作品「父が死んだその日」「わたしが帰った時」「祭りの夜」等を読んで頂ければ、頷けると思う。
今夜はクリスマスイヴ、世界中でその喜びに浸りプレゼントの交換、パーティなどを催し、ご馳走に舌鼓を打つことだろう。
しかし、その隣では明日の糧を求めて餓え続け、サンタクロースの来ない子どもたちが大勢いる事を忘れないで欲しい。
今、あなたがもし幸せだと思ったら、それは「当たり前」ではないことなのだと認識して欲しい。
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