心に花束を持って。
2005年10月、綿菓子を溶かしたような白い秋の雨が降りそぼる頃だった。東京都済生会中央病院に、中央聖書教会の牧師「石原先生」が入院しておられたので、早速お見舞いに行った。小雨の中、傘も指さずオーバーヒート気味のわたしの身体には丁度よい冷たさだった。
わたしの場合、多少の雨であれば傘を指さない。雨に濡れるのが好きな少し変わった所がある。雨も天の恵みに変わりなく、わたしにとっては心地良かった。
術後まだ間もない先生は意外と元気であった。先生には一度しかお会いしておらず、しかも非常に短い時間だったので、わたしの事は覚えていなと思っていた。
病室に入りベッドを見ると空だった。「あれ?何処へ行ったのかな」と思いながら病室を出ると、若い看護師がやって来て「石原さんは今お風呂に入ってます」と教えてくれた。
廊下で5分ほど待つと、ふくよかな顔に銀縁眼鏡の良く似合う先生が、わたしの方に片手を挙げて挨拶をしてくれた。
少し肩で息をしている先生はやはり病人であったが順調に回復しており、随分と会話が弾んだ。時計を見るともう17時近く。
病人の先生に長話しをしてしまい申し訳なく思ったが、病気を抱えているわたしがこうして花束を持って見舞いに行くのは初めての事だった。
いま思えば最初にわたしを見舞ってくれたのは小学6年のクラス全員と千羽鶴だった。そして次々と訪れる見舞い客たち。
今まで多くの方々に見舞って頂いたお礼も込めて、先生に花束を送った。わたしに花束は似合わないかもしれないが、病気になって初めて気付く日常がある。健康な人も、そうでない人もみな心に花束を持とうではないか。
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