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ビーチサイドの人魚姫
俊樹

2019年9月Nikon D700で一眼レフデビュー。カメラは独学。2020年4月、Nikon D810へアップグレード。いつか写真展を開く為、日々精進。勿論、詩、小説、エッセイ、作詞は継続中。2021年夏、Nikon Z7Ⅱへと更にアップグレード。2022年10月、3回目の心臓手術に耐え抜き現在に至る。2023年8月ペースメーカー植え込み。

一切れのパンと東京タワー(遥かなる記憶)。

2020年02月21日
エッセイ 15
東京タワー2019
Nikon D700,Mモード,ISO640,SS1/200,WB晴天,f/1.8,単焦点20mm。


 昨年12月、クリスマスのイベントを撮影するため、芝公園東京タワーへ赴いた。芝公園では中世から続いているヨーロッパの伝統的なお祭り『クリスマスマーケット』が開催中で、数多くの人たちで賑わっていた。日中から黄昏時へと時間が進むと色取り取りのイルミネーションが点灯しお祭りを盛り上げ、会場は更に人が増え冬空に熱気が立ち上るようだった。
 気になった物だけカメラに収めると目的地である東京タワーへと急いだ。目近で見る東京タワーは子どもたちと家族4人で訪れた以来だから20年ぶりだろうか。だがそれよりも遥か遠い記憶の果からある風景が脳裏を過る。
 それは私が9歳の時だった。府中刑務所に服役中だった父を伯父に連れられて迎えに行った時のことである。薄暗い雲が広がる梅雨空の合間から僅かに青空が覗き、太陽光が真っ直ぐに差し込み公園に生い茂る木々の緑に反射していた。子どもは刑務所内には入れないため、私は近くの公園で一人待っていた。2時間ほど待っただろうか…。待ちくたびれてベンチに座り門の方を眺めていると重そうな鉄の扉が「ギギー」と鈍い音を立てながら開き、伯父と一緒に父が姿を表した。2年ぶりに見る父は居なくなったあの時と同じ白い開襟シャツと薄い灰色のズボンそして雪駄姿だった。私を見つけると父は照れ笑いを浮かべながら大きく手を振っていた。伯父と父が並んで私の方に近づいて来る。だが決して私の方から父の姿に向かう事はなかった。言葉を交わした記憶も残っていない。
 伯父と父の後ろを歩きながら東京駅へと急いだ。新幹線はまだ開通していない時代だったから、東海道線の各駅停車に乗る。車内はかなり混雑しており座る場所は確保出来ず、乗車口の壁に凭れながら窓の外を眺めていた。午後に入り梅雨の雨脚が強くなり、窓ガラスに幾つもの雨だれが出来ていた。雨で少しぼやけた視界に東京タワーの姿が現れる。分厚い灰色の雲を突き刺すようにそれは真っ直ぐ天に向って伸びている。そんな東京タワーが「僕、またおいで」と語っているように思えた。反対側の乗車口にいた綺麗なお姉さんが「これ、食べる?」と言って私に一切れのパンをくれた。その女性には私が空腹であるように見えたのだろう。父が隣で「お礼を言えよ」と言った。これが私が初めて見た東京タワーの思い出である。
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俊樹
この記事を書いた人: 俊樹
本名/神戸俊樹
静岡県藤枝市出身。
19歳の時に受けた心臓手術を切っ掛けに20歳から詩を書き始める。
2005年3月詩集天国の地図を文芸社より出版、全国デビューを果たす。
うつ病回復をきっかけに詩の創作を再開。
長編小説「届かなかった僕の歌」三部作(幼少編・養護学校編・青春編)父を主人公にした(番外編)を現在執筆中。
詩、小説、エッセイ、作詞など幅広く創作。
2019年9月、一眼レフデビュー。Nikon D700を使用。
2020年4月、Nikon D810にアップグレード。
2021年夏、ミラーレス一眼 Z7Ⅱへと更にアップグレード。
2022年10月3度目となる心臓手術を受け、大成功を収める。
2023年8月徐脈性心房細動で心停止(失神)したため、ペースメーカーを植え込む。

コメント15件

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ネルメル

とても綺麗で華やかな写真と切ないお話が胸にシン・・・ときました。

2020年02月21日 (金) 00:06

よしお

こんにちは

去年のクリスマスですか。
にぎわってそうだねぇ。

2020年02月21日 (金) 14:23

ネリム

こんにちわ
綺麗な写真と印象に残る話だなと思いました。

2020年02月21日 (金) 15:04

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2020年02月21日 (金) 19:36

ぷーにゃん

こんばんは。

東京タワーもライトアップされて綺麗ですね。
クリスマスの頃になると、毎年イルミネーションを見に行きたいと思いつつ、
夕方から出かけるのが億劫で、行きたいなで終わってしまいます。
写真でこれだけきれいなので、実際いったら素敵なのでしょうね(*^▽^*)

2020年02月21日 (金) 20:43

sado jo

高倉健さんの網走番外地の一シーンみたいですね。
昭和の時代の汽車の匂いがする人情劇もまた絵になります。
やさしいお姉さんには、よほど貧しい家の子に見えたんでしょうね。

2020年02月22日 (土) 16:44

koyuri

人情が溢れていた時代でしたね

知らない人でも、独りでバスに載ってたら、お芋を貰ったコトが有ります。

今は、知らない人から貰ったのは、食べてはいけない時代になってしまいましたが‥‥

2020年02月22日 (土) 23:55

荒野鷹虎

俊樹さんへ!!

春の嵐も過ぎ去り、夕ぐれの路地裏でほろ酔い加減で歩いてみたい雰囲気になりますねー。☆☆
コロナウイルスが終息しないので、マスクをして色眼鏡を掛けたら変な目で見られます。汗)

2020年02月24日 (月) 15:15

ももPAPA

子どもだった頃の おぼろげだけどはっきりと覚えている記憶

両親が東京へ、教免をとるため、夏休みの時期自分を田舎の祖父母に預け
て夏季合宿へ参加し、戻ってきたときは 私はすっかり婆ちゃんっ子にな
って、それが誰だかわかるまで 束の間時間がかかったことを憶えています。

俊樹さんのお父さんの記憶、思い切って胸の中に飛びこめなかったけど、
お父さんへの思いを文章から感じ取ることができました。

2020年02月24日 (月) 17:39

雪野繭

東京の夜景では外せない被写体ですね、東京タワーは。
私は高所恐怖症なので、大人になってからは行ってませんが、
小学生のとき、社会見学で無理やり連れて行かれました。

お父さんとの記憶が、いろいろあって、ちょっと羨ましいです。
悪い記憶も時間が経つと、「想い出」になりますから。
私は両親との想い出があまりありません・・・。

2020年02月24日 (月) 19:30

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2020年02月25日 (火) 14:33

みけ

わぁ(〃゚∇゚〃)
綺麗ですね~e-420

クリスマスらしい
キラキラが感じられ
なんだか 華やいだ気分になりました(*^-^*)i-176

2020年02月25日 (火) 14:36

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2020年02月26日 (水) 00:13

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2020年02月26日 (水) 17:44

荒野鷹虎

俊樹さんへ!!

北海道は非常事態選をしましたが、今日もまた一人感染者が増えました。終息は来ないのでしょうか?怖い)街の中は人通りもありません。免疫力を付けて乗り切りましょう。!☆☆

2020年02月29日 (土) 18:37