相合い傘は恋の花。
日本列島の約半分が梅雨前線に覆われ、本格的な雨のシーズンである。南の海からは台風8号が虎視眈々と日本列島を狙っており、列島各地で記録的な豪雨が降り続いている。
そんな鬱陶しい雨の中で唯一微笑ましいのが、最近ではあまり見かけない相合傘の絵。小・中校時代はかなり流行ったと思う。教室の黒板に誰かが冷やかしで相合傘のカップルを描く。それを見た本人たちは顔を真っ赤にしながら、必死で否定したものである。
そんな経験を持った人も多いのではないだろうか。私も数回描かれたことがあったが、意中の人ではなかったのでかなり憤慨した記憶がある。
小学1年生の時の思い出に、今でも鮮明に記憶している雨の情景がある。私の家には子ども用の傘と長靴がなかった。だから雨の日は大人用の傘を指し、大きな黒い長靴を履いて登校したが、大人用の傘は幼い子どもにとっては重すぎた。
長靴も同じで重く歩きづらかった。学校の下駄箱には赤や黄色など色とりどりの長靴が並んでいる。傘も同じように花壇の花のように見えた。そんな中、私の長靴と傘だけが黒くとても汚れて見えて少し恥ずかしい思いをした。
その日は朝から晴れ間が覗いていた。1年生の授業が終わるのは早い。何の勉強をしたのか理解すらしない内に下校の時間になる。教室の窓から外を見るといつの間にか雨が降っていた。傘が無いとかなり濡れてしまうほどだった。
クラスメートの殆どが雨具を持って来てはいなかったが、外の雨を見ても誰も慌てる様子はない。親が迎えに来てくれることを知っているからだ。私は誰も迎えに来ない事を既に知っていたので、濡れて帰ることを覚悟していた。校門に次々と迎えに来る母親たちの姿が見える。子どもたちは親から傘を受け取り、親と一緒に家路に着く。
「雨めあめ降れ降れ母さんが蛇の目でお迎え嬉しいな…」私はこの歌が大嫌いだった。小雨になるまでもう少し待っていようか、それとも思い切って走って帰ろうかと悩んでいた。そんな時だった。「神戸君、一緒に帰ろう」後ろから声がした。
同じクラスで同じ町内に住む畳屋の浩子ちゃんだった。黄色い傘をすっと差し出し微笑んだ。その横にいた浩子ちゃんの母親を見上げると、ふくよかな顔をさらに丸くして頷いていた。私が初めて経験する相合傘だった。
大きなランドセルが幼い子どもの背中をすっぽりと隠し、赤と黒が隣同士隙間のないほど寄り添って、7月の雨の中に仲良く消えて行った。
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