孤高の俳優、三國連太郎。
つい先日、坂口良子さんの訃報をお伝えしたばかりだと言うのに、またしても訃報について触れなければならなくなった。
若い層からお年寄りまで幅広いファン層を持つ、日本を代表する演技派俳優として知られている三國連太郎さんである。
14日午前9時頃、急性呼吸不全のため都内の病院で90年に及ぶその人生に幕を閉じた。仕事の関係で父親の死に目に会えなかった人気俳優の佐藤浩市さんの言葉は、詰め掛けたマスコミ陣の質問を説き伏せるかのように、涙を見せる事もなく父の死を予感させる内容のものであった。
日本映画界にその人有りと言われるほど、大きな影響力とその鬼気迫る存在感は三國さんをおいて他にはいないのではないだろうか。
飢餓海峡などの社会派ドラマから時代劇、そして『ビッグコミックオリジナル』に連載中の釣り漫画である『釣りバカ日誌』の実写版などコミカルな内容のドラマにまで活躍の場は非常に幅広く多岐に渡っている。
三國さんの私生活については様々な噂や憶測などが昔から飛び交っているが、それもまた人並み外れた余りにも個性的すぎる故のものであろう。
結婚を4回も経験しているその背景には、実生活を犠牲にしてまで俳優の道に我を忘れてその情熱を注いだ結果なのだと思える。
生活や家族を犠牲にすると言うのは決して褒められた事ではないが、三國さんの人生そのものがスクリーンの中でしか生きられない、居場所がそこにしか無いと言う謂わば俳優としての孤独をわたしは感じ取ったのだが…。
三國さんが出演している映画やドラマは余りにも多く、その代表作品をわたしは決めかねているが、どうしてもわすれらない映画が一本だけある。
1979年4月に劇場公開された松竹映画『復讐するは我にあり』である。この作品は実際に起こった『西口彰事件』を題材にした、佐木隆三の長編小説が元になっており、5人を殺害し約2ヶ月半に渡り逃亡し続け、1964年に逃亡先の熊本県で逮捕され、43歳で処刑された犯罪者の犯行の軌跡とその人間像を深く掘り下げた作品となっている。
主演は今は亡き名優の一人である『緒方拳』。その緒方拳扮する犯人役『榎津巌』の父親が三國連太郎さんが扮した『榎津鎮雄』だったと記憶している。
確か犯人の嫁である倍賞美津子さん扮する『榎津加津子』と三國連太郎さんとの強烈な濡れ場シーンも鮮明に覚えているが、妖艶な色気をさり気なく見せる倍賞美津子さんもまた日本を代表する女優の一人である。
実際の殺人現場の一つとなったのは浜松市内のあるアパートであり、この頃わたしも友人のいる浜松へと足をよく運ぶ機会があり、この作品も浜松市内の映画館で友人と二人で見ていることから、この作品により一層没頭する事が出来た。
そして何より鮮明に記憶している場面がラストシーンである。処刑され遺骨となった息子の骨壷を両手で抱え込む父親の榎津鎮雄が骨壷の蓋を開け、息子の骨を一掴みすると口一杯に頬張り「ボリボリ」と音を立てながら食べてしまうのである。
そして山の絶壁から空に向かって骨を放り投げる…。映画はその空間に散らばった榎津巌の骨のシーンで終わりを告げる。
このラストシーンで三國さんの台詞までは思い出せないが、台詞自体があったのかどうか、台詞など要せぬほどに三國さんの鬼気迫る迫真の演技にわたしは圧倒されていた…。
ここに謹んで三國連太郎さんのご冥福をお祈り申し上げます(合掌)。
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