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2021/11/20

心理的安全性はPM理論のメンテナンスの発展形ではないか

恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」を読んでると、心理的安全性に関する色んな発想が出てきた。
感じたことをメモ。

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【人事の読書記録】「恐れのない組織」エイミー・C・エドモンドソン | 人事担当者の頭の中

【1】「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」を読むまで、心理的安全性を誤解していた。
何でもフラットに言い合える関係、雰囲気を指すだけと思っていた。

心理的安全性の背景には、個人が標準化された作業に従事するブルーカラーから、専門性を持つ複数人が共同作業でチームを形成して成果を出すホワイトカラー集団に変わったことがある。

不安があると人間は能力を発揮できない。
強迫や不安の思い込みがあると、人は意思を削られる。
時間に追い立てられても、速く考えることはできない。

心理的安全性とは、対人関係のリスクを取っても安全と信じられる職場環境であること。
他人に自分の意見を主張しても、人格を攻撃していると思われず、率直な意見同士で対立しても後に残らないこと。

【2】たぶん、日本の組織ではとても難しい。
日本人は、学校に入った後、ずっとその一生では、縦割り集団の意向に沿うようにしつけられる。
ビジネスの世界ならもっとあからさまであり、正規社員と派遣労働者、発注者の大企業と受託の中小企業などでは、脅しが頻繁に見られる。
それはいけないと建前はあっても、所詮ビジネスは請負契約が基本なので、その契約を背景に強者は弱者に押し付けることができる。
ウォルフレンの著作に、日本人には脅しが有効だ、という言葉があって、その言葉に心情的に反発したが、実際の日本の職場ではその言葉は真実だ。
中国人SEなど海外出身の人の方が脅される弱い立場でも堂々と張り合うのに、日本人はいつも黙って従順でいる。

【3】心理的安全性という概念を導き出すきっかけの研究も面白かった。
病院において、チームワークが医療の誤り率に関係するテーマを研究されていた。
チームには専門家が多数いて、医師は人的ミスを判断できる。
こうした専門家は実質的に、従属変数となるもの、チームレベルでの誤り率のデータを集めてくれる。
そして、研究者自身が医療に明るくなかった点も、逆に実験者バイアスという認知バイアスに関わらない利点をもたらした。

実際にデータを統計分析すると、誤り率とチームの有能さの間に有意な相関関係があると分かったのだが、意外なことに、負の相関関係があったのだ。
つまり、優秀なチームほどそうでないチームよりもミスを多くしているようなのだ。
そんな話があるだろうか??
チームワークが優れていればミスが増えるのは道理に適っていない。

この事実から、有能なチームには率直に話す風土があって気軽にミスを報告したり話し合ったりできる、という仮説が導かれた。
これが心理的安全性という概念の発端だった。

そして、いろんな業界のデータを集めるうちに、心理的安全性はグループレベルで存在する、という興味深くシンプルな事実が共通項として生まれた。

さらに、率直に意見を簡単に言い合えるチームもあれば、率直に発言するのは最後の手段というチームもある。
つまり、心理的安全性はまさにグループごとのリーダーによって作られる。

実は心理的安全性の概念は新しいものではない。
エドガーシャインの組織変革の研究でも、組織や個人は学習の不安にぶつかるが、それを克服するには心理的安全性が必要だ、と著書で書かれているらしい。

不安によって能力のある個人の意欲や能力をうまく引き出せない理由は、専門性の高い仕事や多様なメンバーによるチームで共同作業を行う仕事では、心理的安全性が欠けているからだ。

【4】「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」のP.44にある心理的安全性と業績基準の関係のマトリクスがとても分かりやすい。
心理的安全性の高低x業績基準の高低のマトリクスがある。

心理的安全性が低く、業績基準が低い →無気力ゾーン
心理的安全性が低く、業績基準が高い →不安ゾーン
心理的安全性が高く、業績基準が低い →快適ゾーン
心理的安全性が高く、業績基準が高い →学習能力が高くパフォーマンスも高いゾーン

XY理論、マイクロマネジメント主体の管理手法は、作業派を不安ゾーンに陥れて働かせる。
確かに成果は出るが、心理的に安全ではない。
このやり方がつい最近まで主流の管理手法だったので、そのやり方でソフトウェア開発などのナレッジ労働者に適用してもアウトプットが出ない。

と言っても、心理的安全性が高くても業績基準が低ければ、人は快適ゾーンで暮らすことになる。
こういう職場は昨今のグローバル化により、存在し得なくなった。
どこの職場もいつも競争にさらされているからだ。

心理的安全性と業績基準の関係のマトリクスは、PM理論を連想させる。

管理職に求められる能力はPM理論そのものではなかったのか: プログラマの思索

PM理論におけるパフォーマンスとメンテナンス、つまり、仕事の成果と人間関係の2つの軸は、パフォーマンスは業績基準、メンテナンスは心理的安全性に対応付けられるのではないか。
それを言い換えただけかもしれないが、現代ではこちらの概念のほうがFitするのかもしれない。

【5】「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」では、会社や組織が不正を起こした事例を数多く載せている。
フォルクスワーゲン、ファルコ、そして日本の原発事故。
いずれも、組織が成果を従業員に強制し、心理的安全性をないがしろにすると、従業員は不正を働き、その成果をあげようとする行動を誘発する。
成果が悪事よりも重要だ、という雰囲気を生み出してしまうのだ。

こういう集団心理は、インセンティブによる動機づけを連想させる。
昨今の経済学、心理学の傾向では、人や組織を動かすにはインセンティブを故意に作り出し、インセンティブによる行動を誘発して物事を変化させようとする手法に変化している。
マーケット主導という概念も、結局は他人に新たな欲望や感情を働きかけて、市場にその行動を反映させようとするものだと思う。

すると、心理的安全性もインセンティブによる行動の誘発の一手法とみなせるのではないか。
自由に率直に意見を言い合えることで、新たな独創的なアイデアを生み出し、チームの成果を生み出すという好循環な仕組みを、心理的安全性というインセンティブがもたらすわけだから。


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