PMBOKにおけるプロジェクトファイナンスの考え方
PMBOKを勉強する時、正味現在価値(NPV:Net Present Value)や内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)という概念が出てくる。
この意味が今までずっと分からなかったけれども、「ざっくり分かるファイナンス」を読んでようやく意味が分かったのでメモしておく。
但し、自分の理解で書いているので、以下のリンクや「ざっくり分かるファイナンス」を参考にすること。
「ざっくり分かるファイナンス」はもっと評価されていい|ぶっちゃけ税理士・岩松正記のブログ
「道具としてのファイナンス」石野雄一/著 | ZUU-ONLINE
ASCII.jp:第3回 キャッシュの時間的価値を反映したプロジェクトの経済的評価方法|公式ガイドブックだけでは不十分!? PMP資格試験対策
【 PMP ・ Project+ 】正味現在価値(NPV)について | イープロジェクトPMP(R)講座のブログ
ASCII.jp:第2回 プロジェクトの経済的な価値を比較する問題を解く|公式ガイドブックだけでは不十分!? PMP資格試験対策
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【1】PMBOKでは最初に、そもそもどの新規案件(プロジェクト)を選択すべきか、という問題が出てくる。
赤字が前提になっているシステム案件は、よほど経営戦略上重要でなければ、取るべきではないのは当たり前。
すると、会社のリソース(エンジニアや営業マンなどの人員、PCなどのハードウェアなど)をどのプロジェクトに投資すれば、売上と利益が得られるのか、という基準が欲しくなる。
この時、以下の概念を使って、初期投資額(人件費だったり、サーバー費用だったり)とプロジェクトから得られる収益を予測して、どれくらいのリスクを見据えれば投資すれば良いか、判断する。
将来価値(FV:Future Value)
現在価値(PV:Present Value)
正味現在価値(NPV:Net Present Value)
内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)
おそらく、部長クラスになれば、毎年の期首になれば、予算計画を立てて、売上と利益を宣言しなければならない。
そして、期末になれば、部の実績を経営者から評価される。
彼らの仕事の殆どは、おそらく上記のような計算をExcelマクロを使って、毎日やっているのだろうと推測する。
【2】上記の概念を「ざっくり分かるファイナンス」に従って説明してみる。
「ざっくり分かるファイナンス」の「第3章 明日の1万円より今日の1万円~お金の時間価値」と「第5章 投資の判断基準」を読めば良い。
PMBOKでもそうだが、基本は「Time is Money」。
その意味は「お金の価値は、お金をいつ受け取るかで変わる」ということ。
つまり、「明日100万円もらうよりも、今日100万円もらう方が価値がある」ということ。
実際、明日になれば、貸し手から本当に100万円戻ってくる保証はないのだから。
お金の時間価値には、将来価値(FV:Future Value)と現在価値(PV:Present Value)の考え方がある。
この2つの概念で重要なのが、複利の考え方。
つまり、定期預金における複利型の金利みたいなもの。
今、元本が100万円で毎年の金利が5%だとしよう。
(現在の日本はデフレなので、銀行の金利は1%もない。
余談だが、金利がゼロ又はマイナスになることは現実にありえるのだろうか?
理屈上は数字がマイナスでもありえるはず。
金融機関の人に聞いてみたいものだ)
すると、1年後には100万円 * (1+5%)=105万円になり、5万円の利益が得られる。
そのまま手付かずで置いておけば、2年目は、100万円 * (1+5%)^2年=110.25万円に増える。
つまり、複利にすれば、指数関数的に増えるから、利息が利息を生む。
この発想を将来価値に当てはめてみる。
将来価値は、今のお金を複利で運用したらどれくらいの価値になるかを表す。
ここで、元金100万円を金利10%で3年間運用すると、将来価値(FV)はいくらになるか?
答えは簡単で、FV=100万円 * (1+10%)^3年=133万円になる。
つまり、FV=元金 * (1+利率)^年数 という公式になる。
この意味は、今の100万円と3年後の133万円の価値が同じ事を言っている。
つまり、3年後の133万円は、現在では100万円の価値しかないので、少なくなっている。
実際、将来は予測不可能でリスクがあるからその分、将来価値は高くなるのだろう。
逆に、現在価値(PV)を考えてみる。
1年後に110万円が得られるようにするなら、10%の複利で割り引けば100万円に戻る。
将来価値から割引率の分だけ割り引けば、現在価値(PV)が得られる。
つまり、PV=元金/(1+割引率)^年数 という公式になる。
「ざっくり分かるファイナンス」で書かれているけれども、割引率はバーゲンの割引とは意味が違うことに注意。
「時間管理術」でも将来の100億円は現在価値で評価すると、複利計算で割り引かれてしまうため、ずっと小さくなってしまう。
これが、財貨の時間価値だと言っている。
この複利の発想がなければ、現在価値、将来価値の意味は分かったことにはならないと思う。
すると、NPV(正味現在価値)法とは、初期投資の時点で、将来得られる収益や費用から現在価値を求める手法である。
NPVの意味は簡単で、NPV>0となるプロジェクトなら黒字なので、そのプロジェクトは実行する価値がある。
逆に、NPV<0のプロジェクトは赤字になるので、そのプロジェクトは実行する価値がない。
また、NPVを会社の各事業部単位に求めることもできる。
その場合、各事業部のNPVはまさに、その部の現在価値そのものになる。
NPV<0なら、その事業部は存在する意義がないと言えるかもしれない。
但し、管理部門のように売上が立たない部門はNPVは必ずマイナスになるので、一概にそうとも言えない。
割引キャッシュフロー法(DCF)は、NPV法を用いて、ある期間のプロジェクトの現在価値を評価する手法であり、ITプロジェクトの財務分析で使われているのだろう。
また、IRR(内部収益率)は、NPV=0となる割引率を指す。
つまり、IRRは、価値と価格がちょうど均衡するような割引率であり、損益分岐点みたいなもの。
「ざっくり分かるファイナンス」では、IRRは銀行預金の金利みたいなものだ、というとても分かりやすい説明が書かれていて納得した。
例えば、IRR=3%のプロジェクトに投資することは、預金金利が3%の銀行に預けるのと同じ事だ、と。
この意味は、IRRが高いプロジェクトはその分リターンも大きいがリスクも高く、逆にIRRが低いプロジェクトはリスクは小さいがリターンも少なく旨みがないことを意味している。
【3】FV、PV、NPV、IRRのような概念は計算も難しそうだけれども、実はExcelの関数で簡単に計算できる。
実際、NPVやIRRの関数はExcelマクロの財務カテゴリに存在している。
以下を参考にすればいい。
正味現在価値の計算方法?NPV関数:Excel エクセルの使い方-関数/計算式-財務
IRR計算の方法?NPVからゴールシーク:Excel エクセルの使い方-関数/計算式-財務
IRR関数とNPV関数の関係:Excel エクセルの使い方-関数/計算式-財務
IRRの計算方法?IRR関数:Excel エクセルの使い方-関数/計算式-財務
Excelマクロを使って、「時間管理術」にあるプロジェクトXの正味現在価値(NPV)の例を計算してみる。
例えば、社運をかけた新製品プロジェクトXのキャッシュフローは以下の通りとする。
初期投資(研究開発費や工場の設備投資など):81億
1~5年目の生産収益:27億
この時、割引率=5%、10%、15%、20%でNPVを計算してみる。
Excel上で以下のセルに値を設定すれば、Excelマクロで簡単にNPVとIRRを計算できる。
C2=割引率
C5=初期投資額=-81億 (←初期投資なのでマイナス値を設定するのがミソ)
C6=1年目の収益=27億
~
C10=5年目の収益=27億
すると、以下のような値が出てくる。
プロジェクトXの正味現在価値=NPV(C2,C6:C10)+C5
内部収益率=IRR(C5:C10)=19.86%
つまり、割引率が約20%を超えると、NPVがマイナスになるので、プロジェクトXは赤字になる。
もちろん、割引率が50%のようにIRRを上回るほど、プロジェクトXの赤字額は指数関数的に増えていく。
また、上記のように、将来の収益が確実に27億円も確定するとは限らない。
最近の日本の家電メーカーがテレビなどに大金を設備投資して大幅赤字に転落したように、収益が減ればその分、IRRもNPVも減り、リターンも少なくなる。
なお、「時間管理術」ではリスクを失敗確率rで表し、割引率から以下の公式で求めている。
失敗確率=割引率/(1+割引率)
すると、プロジェクトXの失敗確率(リスク)は、16.57%になる。
このリスクを高いと見るか、低いと見るか、どう判断するか??
【4】IT部門の部長ならば、以上のような考え方をどのように使うべきか?
彼らは、過去数年の各プロジェクトの初期投資額(費用)や売上高、コストが分かっているので、現在の手持ちのプロジェクトの状況と、現在提案中ないし受注済みの案件に対して、DCF法を使って、プロジェクトのNPVを計算できる。
そうすれば、そのITプロジェクトで、どれだけ投資すれば元が取れるのか、判断できるはず。
でも、ITプロジェクトはそもそもリスクが非常に高い。
WF型開発は失敗案件が多いだろうが、アジャイル開発であっても、そのITプロジェクトの成功率は、他業界に比べれば低いだろう。
初めての技術、集めたメンバーは初めての人ばかりというチームならば、そもそも生産性はいきなり高くならないいはずだ。
逆に、そんなプロジェクトで成功すれば、新しい技術を使った経験が得られるし、専門家集団が一つのチームと化した経験も得られる。
リスクが高いからこそリターンも高いのがITプロジェクトの特徴なのかもしれない。
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